宇宙の情炎 作:プラズマ
ジェリドとライラは、モビルスーツを慎重に操り、30バンチの工業用ハッチからコロニー内部へと侵入した。ハイザックとガルバルディのスラスター音を最小限に抑え、二人は廃墟と化したコロニーの外縁部に機体を着地させる。近くの崩れた構造物の影にモビルスーツを隠すと、コックピットから降り、ライフルを手に内部の調査を始めた。
足元にはひび割れたコンクリートが広がり、風化した看板が無音の中で軋む。コロニー内部は時間が止まったかのような廃墟だった。ミイラ化した死体が壁際に寄りかかり、乾いた草花がそのまま枯れて床に散乱している。埃っぽい空気にかすかな腐臭が混じり、ヘルメットのフィルター越しにも鼻腔を刺す。薄暗い照明が断続的に瞬き、廃墟に不気味な影を投げかけていた。
ジェリドがヘルメットのバイザーを調整しながら呟く。
「こんな場所…生きてる人間がいるなんて想像もつかねえ」
声がヘルメット内で小さく反響し、吐息が曇りを僅かに広げる。
ライラは周囲を見回し、低い声で応えた。
「これならエゥーゴの秘密基地にもってこいだ。誰も近づかない場所…隠れるには最適だ」
彼女の瞳が鋭くなり、遠くの構造物に目を凝らす。「秘密基地を見つけたぞ」と確信が声に滲む。ブーツがコンクリートを軽く叩き、微かな音が廃墟に響いた。
その時、遠くから微かな話し声が聞こえてきた。ジェリドが素早く身を低くし、ライラに手で合図を送る。二人は崩れた壁の陰に身を隠し、声の方向を覗き込んだ。そこにはエゥーゴのクワトロ、エマ、カミーユが立っていた。アーガマのパイロットたちだ。緊張が高まり、ライラの手がライフルを握る力が強まり、指が白くなる。
クワトロたちの会話が、静寂の中で響き始めた。カミーユが憤りを込めて口を開く。
「なんで死体を放っておくんです?」
クワトロが冷静に答えた。
「数が多過ぎる」
カミーユの声が一気に高ぶり、感情が堰を切ったように溢れ出す。
「数が多過ぎるって…それで済ませるんですか!?」
彼は拳を握り潰すように締め、震える手で近くの瓦礫を叩きつけた。コンクリートが砕ける音が廃墟に響き、彼の目は涙と怒りで潤んでいる。
「こんな場所で人が死んでるのに! 家族を、仲間を奪われた人がいるのに! なんで平気でいられるんですか! なぜ、こんな風に人を殺せるんですか!」
クワトロが淡々と、だが重々しく応じる。
「直接刃物を持って殺さないからさ。手に血が付かない人殺しでは、痛みはわからんのだ」
エマが小さく頷き、呟く。
「でしょうね」
クワトロが廃墟を見渡しながら続ける。
「死を考えてる暇もなかったのか。中尉は、ここで反地球連邦のデモを起こしたエゥーゴが悪かったと言うかもしれん」
エマが驚いたように声を上げる。
「え?」
クワトロが説明を重ねた。
「しかし、地球の人々は、地球を復興させることしか考えずに、宇宙に住むスペースノイドのことを一切考えてくれなければ、デモの一つも起こる。人間は、地球の回復力を助ける手助け以外はしてはいけない、そして人はすべてコロニーで生活すべきだというアピールをしただけなのだ」
エマの声に怒りが混じる。
「それなのに、バスクはこんなことをやった…」
クワトロが問いかけた。
「なぜだと思う?」
エマが首を振る。
「わかりません」
エマがさらに続ける。
「でも、納得できません。なぜ、ここまでしたんです?」
クワトロの声が低く響く。
「地球連邦の人々は、宇宙という新しい環境を手に入れて、そこに適応していこうとする人間を恐れたのだ」
エマが呟く。
「ニュータイプになるから?」
クワトロが頷く。
「そうだ。ニュータイプをエスパーのように考えているから、いつかそのニュータイプに主権を侵害されるのを恐れているのさ」
エマが信じられないように問い返す。
「それだけのために人を殺せるのですか?」
クワトロが冷たく答えた。
「殺せるさ。ちょっとした借金のために人を殺すより、よっぽど理性的な行為と言える」
その言葉に、ライラが耐えきれず身を乗り出し、叫んだ。
「嘘だ!」
クワトロが鋭い視線を彼女に向ける。
「お前は」
エマが驚き、声を上げる。
「ライラ大尉!」
ライラが一歩踏み出し、感情を抑えきれずに反論する。
「嘘を言うな。それだけのために、バスクはこれほどの人を殺したりはしない」
声が震え、ライフルを握る手が汗で濡れる。
クワトロが静かに、だが冷たく返す。
「見てもわからんのか」
ライラがさらに声を荒げる。
「かつてジオンを好きにしたザビ家の理屈に騙されているんだ」
クワトロの目が細まり、言葉に力がこもる。
「地球連邦が第二のザビ家になろうとしているのが、わからないのか。地球を私のものにしようと…」
その時、ジェリドも我慢できず、壁の陰から飛び出した。ライフルを構え、怒りを込めて叫ぶ。
「黙れ! コロニー落としのような蛮行をやったジオンを生んだ反連邦活動を、制限する必要があったんだ。ティターンズはそのために戦ってる!」
クワトロがジェリドを見て、静かに首を振る。
「お前には見えていない。連邦が同じ過ちを繰り返している現実が」
ジェリドの拳が震え、反論しようとしたその瞬間、ライラが彼の腕を掴んだ。
「ジェリド、行くぞ! エゥーゴを見つけたんだ。ここにいることは伝えたら十分だ」
ジェリドは歯を食いしばり、カミーユを一瞥する。少年の瞳に宿る怒りと涙が、彼の胸を締め付けた。だが、ライラに促され、二人は踵を返してモビルスーツの隠し場所へと急ぐ。背後でクワトロの声が遠ざかり、廃墟の静寂が再びコロニーを包んだ。
ハイザックとガルバルディに乗り込むと、ジェリドがコックピットで呟く。
「ティターンズが…虐殺だって?」
声には動揺と反発が混じり、汗が額を伝う。ライラが通信越しに低く応えた。
「わからない…だが、今はボスニアに戻る。ジャマイカンに報告だ」
二人のモビルスーツが静かに起動し、ハイザックとガルバルディのスラスターが低く唸り、コロニーの暗闇を切り裂くように進む。ジェリドのコックピットでは、パイロットスーツが体に張り付いて不快感を増し、先ほどのクワトロたちの会話が頭を支配する。ティターンズへの疑念が彼の心をざわつかせる。
「ライラ、急げ! ボスニアに帰還するぞ!」
ジェリドの声が通信越しに響き、焦りと決意が混じる。ライラの返答がすぐに返ってきた。
「わかってる。だが…お前、大丈夫か? さっきの話、気にしてるだろ」
彼女の声には心配が滲み、ジェリドの胸が一瞬締め付けられた。
「気にしてるさ。だが、今はお前と生きて帰ることが先だ」
ライラが小さく笑うのが通信越しに聞こえた。
「なら、私をしっかり守ってくれよ。期待してるんだから。私を守るのは大変かもしれないけどな」
その軽い口調に、ジェリドの唇が緩む。
「構わないさ。お前がいてくれれば、それでいい」
ライラが一瞬沈黙し、やがて小さく呟いた。
「…お前、やっぱり面白い男だよ」
その言葉に、ジェリドの胸が熱くなる。彼女の存在が、この混乱の中で唯一の支えだった。
だが、その瞬間、レーダーに赤い点が複数映り、警告音がコックピットをけたたましく満たす。アーガマからの追撃だ。ジェリドが目を凝らすと、コロニーの外縁部で敵モビルスーツが展開しているのが見えた。ガンダムと二機のリック・ディアスが、まるで獲物を仕留める猟犬のように静かに距離を詰めてくる。ガンダムの動きにカミーユの影を感じ、ジェリドの拳が震えた。
「敵だ! 迎撃態勢を取る!」
ジェリドが叫び、ハイザックを旋回させる。ライラのガルバルディも即座に動き、ボスニアからライラの部下であるランディが操るガルバルディが援護に出撃してきた。通信でランディの声が響く。
「大尉、ジェリド! 敵を確認した! 迎え撃つぞ!」
戦闘が始まった瞬間、ランディのガルバルディが悲鳴を上げた。ガンダムのビームライフルが正確にコックピットを貫き、機体が爆発。炎と破片がコロニーの宙域に散乱し、衝撃波がジェリドのハイザックを大きく揺らす。ライラが通信越しに叫んだ。
「ランディ! くそっ…ランディ!」
その声には深い悲しみと怒りが混じり、彼女の瞳に涙が滲む。ジェリドも歯を食いしばり、通信で叫び返す。
「ランディ…やられた! くそっ、早すぎる!」
援護が一瞬で失われた現実に、二人の胸が締め付けられた。
ライラの動きが一瞬鈍る。先ほどの会話とランディの死が、彼女の判断を遅らせていた。ガンダムが無言で接近し、ビームサーベルを振りかざす。その光がまるで死神の刃のようにジェリドの視界を切り裂き、ライラのガルバルディに迫る。リック・ディアスが廃墟の陰から弾幕を展開し、二人の逃げ場を塞ぐように動く。
ジェリドの脳裏に、ライラの機体が爆炎に包まれる幻視がフラッシュバックし、心臓が跳ね上がった。
「ライラ!」
ジェリドは叫び、ハイザックを急加速させる。ガンダムのサーベルが振り下ろされる瞬間、彼は機体を突進させ、ハイザックの盾でライラを庇った。サーベルが盾を直撃し、装甲が赤熱して溶け、スパークがコックピットの視界を埋める。衝撃で機体が大きく揺れ、警告音が耳を劈くように響き、ジェリドの体がシートに叩きつけられた。
「俺は…お前を守る!」
ジェリドの声に強い決意が宿る。通信越しに、ライラの掠れた声が届く。
「ジェリド…お前、馬鹿か…」
その声には動揺と、隠しきれない感情が混じっていた。
「馬鹿でもいい。お前が生きてなきゃ意味がないんだ!」
ジェリドが叫び返すと、ライラが一瞬沈黙した後、低く呟いた。
「…お前、やっぱり良い男だよ」
彼女の言葉に目を覚ましたライラが動きを取り戻し、ガルバルディがビームライフルを構える。通信越しに彼女の声が力強く響く。
「ジェリド、私も戦う。お前が守ってくれたんだ。私だって、お前を失望させない! ランディの分まで…!」
二人は連携し、少しだけ動きが鈍いリック・ディアスに狙いを定める。ジェリドのハイザックがマシンガンで弾幕を張り、敵の動きを封じる。コロニーの廃墟を背景に、銃口から吐き出される火線がリック・ディアスの機動を一瞬鈍らせた。ライラのガルバルディがビームライフルを構え、静かに照準を定める。二人の息は合っていたが、敵の動きは予想以上にしぶとく、リック・ディアスがコロニーの残骸の陰を巧みに使って反撃の隙を伺う。
「ライラ、右だ! 奴が回り込む!」
ジェリドが叫び、ハイザックを素早く旋回させ、マシンガンの弾幕を右側に集中させる。デブリが砕け、舞う中、リック・ディアスが一瞬姿を現した。ライラが通信越しに短く応じる。
「見えた。ジェリド、私に合わせろ!」
彼女の声に力強い決意が宿り、ガルバルディがスラスターを微調整して位置を修正。ジェリドはライラの意図を即座に理解し、ハイザックを前進させつつ、マシンガンの射撃をリック・ディアスに集中させた。
敵機がバランスを崩し、動きが一瞬止まる。その隙を見逃さず、ライラがビームライフルを発射。鋭い光が宙を切り、リック・ディアスの胸部装甲を貫く。だが、敵機はまだ倒れず、コックピットを守るように腕を上げてよろめいた。
「しぶとい奴だ!」
ジェリドが歯を食いしばり、ハイザックのスラスターを全開にして突進。マシンガンを捨て、盾を構えてリック・ディアスに体当たりを仕掛ける。衝撃で敵機が後退し、廃墟の壁に背をぶつけた瞬間、ライラが再びビームを放つ。今度は正確にコックピットを撃ち抜き、リック・ディアスが爆発。炎と破片がコロニーの宙域に散乱し、衝撃波がジェリドのハイザックを軽く揺らした。
「やったぞ、ライラ!」
ジェリドの声に興奮が混じる。コックピットで拳を握り締め、視界の端でライラのガルバルディが静かに着地するのを見た。通信越しに、彼女の力強い声が返ってきた。
「当たり前だ。私とお前なら、これくらい朝メシ前だろ?」
ジェリドの唇が緩み、ライラの言葉に小さく笑う。だが、戦局は依然として不利だった。ガンダムと残るリック・ディアスが執拗に攻撃を続け、ハイザックの盾は限界に近く、溶けた装甲が剥がれ落ちていた。ライラのガルバルディもスラスターから煙が漏れ、機動力が落ち始めている。ガンダムが再び接近し、ビームサーベルを振り上げる。その瞬間、遠くから砲撃が届き、レーダーに味方の影が映った。
「アレキサンドリアからの増援だ!」
ジェリドが叫び、疲弊した体に力が戻る。アレキサンドリアのモビルスーツ隊が戦場に到着し、数機のハイザックが展開。増援がアーガマ隊に圧力をかけ始め、ガンダムとリック・ディアスが撤退を決断した兆候を見せ、敵機がコロニーの影に消えていく。
戦闘が終わり、ジェリドは息を吐き、コックピットで肩を落とした。
「生き残った…か」
ライラの声が通信から届く。疲れと安堵が混じりつつ、掠れた響きがあった。
「ジェリド、お前のおかげだ。アレキサンドリアが来るまで持たなかったかもしれない。本当に…ありがとう」
ジェリドは小さく笑い、掠れた声で応えた。
「当たり前だ。お前を落とさせるわけにはいかない。お前が…俺には大事だから」
ライラが一瞬沈黙し、やがて静かに呟く。
「ジェリド…お前、私のこと大事だって言ったよな。今、はっきり聞いたぞ」
彼女の声には照れと喜びが混じり、ジェリドの顔が熱くなる。
「ああ、言ったさ。お前がいてくれれば、それでいい」
ライラが小さく笑い、通信越しにその響きが柔らかく届いた。
「お前…その言葉、忘れるなよ」
通信が静かに途切れ、沈黙が訪れた。彼は目の前のガルバルディを見つめる。ライラの機体は傷だらけで、スラスターからかすかに煙が漂っている。彼女のコックピットでは、ライラが小さく微笑み、ジェリドの言葉を胸に刻みながら、ランディの死を静かに悼んでいた。ボスニアとアレキサンドリアの艦影が近づき、二人は帰還の準備を始めた。ハイザックとガルバルディが並んで廃墟を後にし、戦場の破片と炎が背後に遠ざかっていった。星々の冷たい光が、二人の絆と新たな決意を見守っていた
熱血系主人公と化したジェリド
これくらいしないとカミーユを退かせることは難しい、ついでにライラが議論戦闘するフラグは、30バンチ内で消化とする。
やったら死ぬ展開しか書けない・…