勇者ルカがダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:柔らかいもち
誰か、誰かいないか! 原作死亡キャラを生存させられるくらい強くて、もうこいつなら美少女にいくら犯されてもいいって思えるベル君みたいなショタは――!!!
いたわ。
人は何を求めてダンジョンに潜るのか?
凶悪なモンスターの坩堝。数多の階層に分かれる無限の迷宮。人類が未だに全てを解き明かせない未知の結晶。
命を懸けてまで求めるのは力。大切な人を奪ったモンスターに復讐するための力を手に入れるため。
命を賭してでも手に入れたいのは富。無限の迷宮にある無数のお宝は溢れて止まらない宝箱に等しい。
命を捨てようが届けたいのは名声。力尽きようと残した偉業と名は一族を奮い立たせ、世界を救う英雄を生むかもしれない。
そんな危険な場所に女の子との出会いどころかハーレム求めてのこのこやって来た命知らずの大馬鹿野郎がいるらしい。
誰だろう――そう、僕だ。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「ほぁああああああああああああああっ!?」
現実逃避しそうになる僕の意識を容赦なく現実に引き戻し『そんなに現実から逃げたいならあの世にぶっ飛ばしてやるぞこのやろー』と副音声が聞こえそうな殺意を秘めて吠えながら追いかけているのは筋骨隆々の肉体に牛の頭をくっつけたモンスター『ミノタウロス』。
Lv.2に分類され、同じLv.のベテラン冒険者さえあっさり殺すこともある牛頭人体の怪物相手に駆け出しでぺーぺーのLv.1の僕は逃げることしかできない。気を抜いたら再び逃避しそうになる意識を必死に保ちながらなりふり構わず手足を振ってモンスターから逃げ回る。
しかし、卑猥で浅はかな妄想をこじらせてダンジョンにやって来た軟弱な兎をミノタウロスが見逃してくれるはずもなく。
『ヴゥムゥンッ!!』
「どぅぶぇっ!?」
振り下ろされるミノタウロスの一撃。同じ体格の人間でも出せないようなパワーは土の地面を簡単に砕き、砕かれた足場に巻き込まれた僕はあっさり転んだ。
ダンジョンの床を転がり、尻餅をついた状態で立ち上がることも忘れて後ずさり。そのまま行き止まりの壁に背中をぶつけて涙を流して震える姿は、女の子が見たら百年の恋も冷めそうなくらいみじめでかっこ悪くてみっともなかった。
いっそ来世の方が女の子と出会えるんじゃないかな、なんて性懲りもなく死にそうになっている原因の青臭い理想を考える僕の目に蹄を振りかぶるミノタウロスの姿が映る。
次の瞬間、モンスターに線が走った。
「え?」
「ヴォ?」
人と怪物、間抜けな雄の声を置き去りに走り抜ける一線は止まらない。僕では傷一つ付けられなかった怪物は目の前で物言わぬ肉塊に成り下がった。
断末魔とともに崩れ落ちるミノタウロスの身体。夢じゃないぞと思い知らせるように赤黒い血のシャワーが時を止める僕に降り注ぐ。
「……大丈夫ですか?」
牛の怪物の代わりに現れたのは、物語の妖精の如きエルフだった。
深緑色のロングケープに包まれた細見の身体。手甲すら装備しないスピード重視の軽装、ショートパンツや
背中まで伸びる美しい金髪の隙間から飛び出す長く尖った耳。声が聞こえないことがないようにと配慮したのか外された覆面の下にあったのはエルフの美貌。僕を見下ろすのは澄んだ空色の瞳。
(……あ)
深緑の装備に身を包んだ金髪でエルフの女剣士。
冒険者になって半月しか経たない駆け出しの僕でも、目の前の人物が誰だかわかってしまった。
【アストレア・ファミリア】に所属する第一級冒険者。
エルフで……いや、異種族を含めた女性冒険者の中で最強の一角を担うとされているLv.6。
【疾風】リュー・リオン。
「……あの?」
小さく首を傾げる金髪ロングエルフというベル・クラネルの好みどストライクの女性に命を救われた結果。
僕はあっさりと心を奪われていた。
♦♦♦
「あっはっはっはっは!」
「……何がそんなに面白い、ライラ」
小さな身体を更に小さく折りたたみ、膝をバンバン叩いて笑う
幼く可愛らしい顔に涙を浮かべながらライラは震える口を開く。
「あの一族の勇者様達が取り逃がしたミノタウロスから助けてやったってのに……しかも、男女逆なら一目惚れ間違いの状況で逃げられるって……どんだけ怖がられたんだよ、ぶふっ」
「こ、怖がられてなどいない! きっと彼は、駆け出しにも関わらずミノタウロスに襲われた恐怖で動転していただけだ!」
「『魔石』を斬れば良いのに、全身をバラバラにして血を浴びせてくるエルフ様など恐怖以外の何物でもありませんけどねぇ」
キッとエルフの視線が口を挟んできた人物に向けられる。オラリオでは珍しい極東の衣装である着物を身にまとい、ニコニコと笑顔を絶やさぬ『大和撫子』を体現したようなヒューマンの美少女、ゴジョウノ・輝夜はリューの睨みつけを素知らぬ顔で受け流す。
その態度にリューの眦が吊り上がるよりも先に、少女達の先頭を歩いていた赤毛の髪を結わえた少女、アリーゼが告げる。
「リオン、ライラ、輝夜! もっと声を落としなさい! もう
「お前の声が一番でけぇよ、団長」
辿り着くのはオラリオの北区、その片隅。
リュー達の
「みんな、たっだいまー!」
子供のような大声で響くアリーゼの帰宅の知らせに住人達が玄関に集まってくる。
「お帰り団長ー。ダンジョン帰りなのに元気だな」
「なんかアリーゼちゃんの『ただいま』を聞くとお母さんになったみたい」
「それ、褒めてる? 子供っぽいって馬鹿にしてない?」
ノイン、マリュー、ネーゼ達のリューより先に【アストレア・ファミリア】だった団員達。
「おかえりなさい、先輩! 私の武器はどうだった!?」
「ええ、セシル。これ以上ないほど使いやすい武器だ。貴方に感謝を」
セシルを始めとしたリューの後輩にあたる団員達。
「おかえりなさい、みんな」
主神である女神アストレア。
「んっ!? すっごくいい匂い……今日の料理当番はまさか!」
「アリーゼ!?」
自分の挨拶で集まってくれた仲間達を捨て置き、獣人のように鼻を引く付かせながら駆けだしたアリーゼを思わず追いかけるリュー。図らずとも自分がアリーゼと同じことをしていることに気付かないポンコツエルフに、呆れたように首を振る小人族とヒューマンが背後にいたことにリューは気付かなかった。
辿り着いたのは【ファミリア】の全員が食事をとれる広さを四苦八苦しながら確保した食堂。そこではアリーゼがキッチンに立つ人物の肩から鍋の中身を覗き込んでいた。ぴょんぴょん跳ねる赤い
「玄関から聞こえた挨拶でも思いましたが、アリーゼ様は精神年齢が停滞しているのではないかとリリは訝しんでいます。あ、おかえりなさいませ、リュー様」
「そ、そんなことはないかと……おかえりなさいませ、リュー様」
エプロンドレス姿で給仕をする
「お帰り、リュー」
「ええ……ただいま戻りました」
リューよりも小柄で恐らく【アストレア・ファミリア】の誰よりも幼い顔立ちをしており、唯一の男である少年。彼が派閥内どころか世界最強の一角と謳われていることをリューは知っている。
少年の名はルカ・ハイン。世界の運命を捻じ曲げた存在である。
ベル君のヒロインはリューさんだよ。寝取りとかないから安心してね。
リューをヒロインにしたいからこの小説を書いたと言っても過言ではない。