~今回のあらすじ~
・アイリスフィールと言峰綺礼の問答
・遠坂時臣と言峰綺礼の、キャスターの是非を問うやり取り
・サーヴァントの真実を知るアーチャー
・アゾット剣
・愉悦部結成
・言峰綺礼、アイリスフィールについて考える
※シリーズ全体
以下の点にご注意ください。
・バッドエンド確定
・キャラ崩壊、設定ガバガバ
・介錯不一致の可能性
・ハードな展開や胸糞鬱描写あり
・後半までR-18描写無し
その頃、キャスターの工房ではアイリスフィールが目を覚ましたところだった。
「ん……」
「あッ! 気がついたみたいだね♪ よかった~!」
目を覚ましたアイリスフィールに、キャスターが無邪気に声をかける。そこは薄暗い部屋であり、周りには様々な実験器具のようなものが置いてある。
どうやらここは彼女の魔術工房のようだった。
「はっ!? こ、ここは……?」
アイリスフィールは警戒しながら辺りを見回すが、見覚えのない場所だった。
「ボクの工房だよ~ッ! アイリちゃんをここに連れてくるの大変だったんだよ~? 覚えてる~ッ? セイバーちゃんたちが邪魔してくるし……。でもボク強いから、やっつけちゃったけどね~!」
キャスターの言葉に、自分が連れ去られたことを改めて認識するアイリスフィール。
「私を……どうするつもりなの?」
恐る恐る尋ねるアイリスフィールだったが、そんな様子の彼女をキャスターは呆れた顔で見る。
「そんなの決まってるじゃん。たっくさん可愛がってあげるね、アイリちゃん♪」
「……!」
アイリスフィールは自分がキャスターの発言の意味を理解して、驚きのあまり言葉を失う。しかし、それでもなんとか言葉を絞り出した。
「お……お断りするわ……」
震える声で答えるアイリスフィールだったが、そんな彼女に対してキャスターは追い打ちをかける。
「ダメだよ~! もう決まったことなんだも~ん! それが約束だったでしょ――――ッ?」
「い、いやっ!!」
必死に抵抗するが、サーヴァントであるキャスターの力には到底敵うはずもない。
あっという間に組み伏せられてしまうのだった。そこへ言峰綺礼がやって来た気配を感じ、キャスターは一度アイリスフィールから離れる。
「わぁ! キレイキレイ! ついにアイリちゃんを誘拐したよッ! 褒めてほしいな~ッ!」
「ああ、そうだなキャスター。よもやお前があそこまでの戦略を用いるとは、予想できなかったな……。ここは素直に褒めるべきだろう。見事だ、キャスター」
綺礼は労いの言葉をかけると、アイリスフィールの方を向く。
「気分はどうだね? アインツベルンの女よ」
「……言峰……綺礼!」
警戒するアイリスフィールに綺礼は語りかける。
「そう警戒するな。あの森と違ってここならばゆっくり話せる。……衛宮切嗣について聞きたいことがある。知っていることを隠さずに全て話すのだ」
切嗣の名前が出たことで、アイリスフィールの表情が変わる。
「私が聖杯を託すのは、ただ1人。断じてお前などではないわ……代行者! お前の中身は、全て衛宮切嗣に見抜かれているわ。彼はお前を最悪の敵とみなしている。覚悟することね」
彼女は危険な立場に置かれながらも、毅然として綺礼を睨みつける。
「それは私にとって福音だ。衛宮切嗣は、やはり私が考えていたとおりの男だったな」
満足げにそう言うと立ち上がる綺礼。
「片腹痛いわね……。誰よりも彼とは程遠い男のくせに……」
アイリスフィールの言葉に綺礼の足が止まる。
「……なんだと?」
「切嗣にお前が見抜けたとしても、その逆はありえないわ。……あの人の心にあるものを、お前は何一つ持ち合わせてはいない」
その言葉を聞いた綺礼は、アイリスフィールに近寄っていく。
「なぜ貴様が私について語る?」
「うぐっ!?」
そして彼は、アイリスフィールの首を片手で掴み、強く絞める。
「認めよう……。確かに私は空虚な人間だ。だが! 私と奴とがどう違う? 長きに渡り、何の益も無い戦いにばかり身を投じ、ただ殺戮ばかりを繰り返してきた男が! あれほどの無軌道が! 徒労が! 迷い人でなくて何なのだっ!」
徐々に首を絞める力を強めていた綺礼だったが、そこまで言うとアイリスフィールの首から手を放す。
「くっ!」
自らと切嗣の違いが理解できない、といったように悔しそうに目を見開く綺礼。
「うわぁっ! アイリちゃんの首絞められ顔、えっろ~ッ!」
キャスターはアイリスフィールを見て興奮したように呟く。彼女の場にふさわしくないテンションは、この場においても変わらないようだ。
首を絞められ、むせ込んでいたアイリスフィールを見下ろして綺礼は問う。
「答えろ! 衛宮切嗣は何を望んで聖杯を求める。ヤツが願望器に託す祈りとは、なんだ!?」
苦しそうに呼吸を整えていたアイリスフィールだったが、やがて口を開く。
「……いいわ、教えてあげる。衛宮切嗣の悲願は……人類の救済。あらゆる戦乱と流血の根絶……恒久的世界平和よ」
その答えに彼女の方を見て、押し黙る綺礼。だがすぐに拳を振るわせる。
「……なんだそれは?」
「お前にわかるはずがない。それがお前と彼との差。信念の有無よ!」
彼女の言葉を受け、綺礼は考えるように呟く。
「闘争は人間の本性だ……。それを根絶するというのなら、人間を根絶するも同然だ……。そもそも、理想として成り立っていない。まるで子供の戯言だ……!」
理解できない、といったような彼に、アイリスフィールが続ける。
「だからこそ彼は、とうとう奇跡に縋るしかなくなったのよ……。あの人は、追い求めた理想のために、常に愛する人を切り捨てる決断を迫られてきた……。……そう、切嗣は理想を追うには優しすぎる人……。いずれ喪うとわかっていても、愛さずには……いられない……」
その言葉に、言峰綺礼は何かを理解したようだ。
「わかったよ……。よく、わかった……。それが、衛宮切嗣か……」
それだけ言うと、アイリスフィールに背を向けて歩き出す綺礼。
「あれ? キレイキレイもういいの?」
キャスターがきょとんとした顔で尋ねる。彼女の脇を通り過ぎ、綺礼は告げる。
「もうその女に問うことはない。だがまだ殺すな……。時臣師に報告してからの処遇は……お前の好きにするがいい」
そして彼は工房の外へと出ていったのだった。
(ついに得たぞ……! 戦う意義を……!)
歩きながら口元に笑みを浮かべる綺礼。
(衛宮切嗣、お前の理想……目の前で聖杯もろとも、木っ端微塵に打ち砕いてやろう……!)
「あぁ……キレイキレイ、行っちゃった! ま、別にいいけど~ッ」」
その背を満足そうに見送った後、キャスターはアイリスフィールの方を見る。
「じゃあ、アイリちゃん♪ さぁ、アイリちゃんのお部屋に行こうか? ボクが特別に作ったんだけど、気に入ってくれたら嬉しいな~」
そう言って工房の奥の部屋に案内するキャスター。
彼女が案内した部屋は、殺風景な石造りの他の工房内部とは違って、まるでアイリスフィールが住んでいたアインツベルンの城のような美しく、高貴な内装の部屋だった。
ベッドやテーブル、イスといった家具も高級感のあるデザインに統一されている。さらには、部屋にまで浴室が付いていた。監獄のような部屋に連れていかれることを想像していたアイリスフィールは、呆気にとられていた。
「これは……本当にあなたが?」
「うん、アイリちゃんのために肉団子くんたちに用意させたんだよね~。気に入ってくれた? それとも気に入らなかったぁ?」
キャスターの無邪気な問いに、アイリスフィールは少し考えてから答える。
「いえ……想像していたより、何倍も素敵ね……。てっきり牢屋にでも押し込まれるかと思っていたわ……」
それがアイリスフィールの本心だった。だが同時に、彼女は相手が何を考えているか不安にも思っていたのだった。
「えぇ~ッ? ボクがアイリちゃんにそんなひどいコトするわけないじゃん?」
困ったように笑いながらアイリに近付くキャスター。
目の前まで来ると彼女を押し倒した。
「は、離しなさいっ! 離して!」
アイリスフィールは顔を背けながら、必死にキャスターを押し退けようとする。
その様子を見て、嗜虐的な笑みを浮かべるキャスター。そして何かを確信したように満面の笑みを浮かべる。
「……うん、やっぱりそっちの方がおもしろそう! お楽しみはとっておかないとだよね~」
そう独り言をつぶやくと、キャスターは部屋の出口に向かって歩き出す。
「ほんとはもっとアイリちゃんと一緒にいたいんだけどさぁ、ボクこれから行くところあるんだよね~ッ。もしも何か必要な物とかあったらさ、部屋の前に待機させてるボクの疑似サーヴァントメイドちゃんに言いつけてね~ッ!」
そのまま部屋を出て行こうとするキャスターだったが、立ち止まって振り返る。
「……ここから脱走しようだなんて思っちゃダメだよ? ボクの疑似サーヴァント軍団が監視してるし、工房の外にも複数体見張りがいるからね――――ッ! それにさ、逃げだしたらまだ回復しきってないセイバーたちを、バンビちゃんに襲撃させちゃうからね?」
彼女の目はいつものようにふざけたものではなく、釘を刺すような鋭く冷ややかなものだった。
アイリスフィールはその目に気圧され、ただ頷くことしかできなかった。
「じゃッ! 大人しくしててね~、アイリちゃん♪」
いつもの表情に戻ったキャスターは、ひらひらと手を振って部屋をあとにするのであった。
(……切嗣……)
アイリスフィールは切嗣のことが心配でならなかった。だが今の自分にはどうすることもできない……。そんな無力感に苛まれるのだった。
「綺礼、先ほどの緊急報告について詳細を教えてくれ。なんでも聖杯の器の担い手たる、アインツベルンのホムンクルスを誘拐した、と」
遠坂時臣は遠坂邸に綺礼を呼び、直接会って話を聞いていた。
「はい、我が師よ。以前の件同様にキャスターが独断で準備を進め、衛宮切嗣不在のアインツベルン城へと乗り込み、セイバーを戦闘続行不能状態に追い込んだうえで、ホムンクルスの女を誘拐することに成功しました。疑似サーヴァントが記録している映像もあります、これをご覧ください」
綺礼はキャスターとセイバーの戦闘の一部を、時臣に見せた。
「キャスターめ、またしても勝手な真似を……。最も理解しがたいのは敵の口車に乗り、これだけ追い詰めておきながらセイバーに止めを刺さなかったことだ……」
時臣は苛立ったように唇を震わせている。
「……いや、しかし悪いことばかりではない。セイバーに大きなダメージと消耗を与え、衛宮切嗣に対して心理的な負担をかけることができる、聖杯の器をこちら側に確保できたことは大きい。その点においては、キャスターを褒めるべきだろうな」
すぐに冷静さを取り戻した時臣は、キャスターの功績を褒めた。
「あの女は今、キャスターの工房にいます。どういたしましょうか? 聖杯の器の完成を待つ必要があるので、今はまだ生かしておかなければならないかと思いますが」
綺礼の提案を受けた時臣はうなずく。
「無論だ。まだサーヴァントが1騎しか消滅していない現段階では、聖杯は完成しない。……それに、対衛宮切嗣への切り札として生かしておくのが得策だろう。だが、彼女の身柄はキャスターの工房ではなく、この遠坂邸で預かることにしよう」
時臣の最後の提案を聞き、綺礼は率直にその理由を聞く。
「キャスターの工房では不安、ということでしょうか? しかし、あそこの防備は万全。それにあの場所でならキャスターは、土地の霊脈を利用して無類の強さを発揮します」
綺礼の問いに対して時臣は少し考えるような仕草を見せたが、すぐに口を開く。
「……いや、そうではない。そうではないのだが……。綺礼よ、済まないがここらが潮時だ。キャスターを令呪を持って自害させるのだ」
時臣から淡々と告げられるその言葉に、綺礼は意表を突かれたように固まっていた。
「……よろしいのですか? 確かに問題行動が多いサーヴァントですが、あのサーヴァントを失うことは情報収集、他の陣営の監視という点において大きな損失になるかと思いますが……」
そんな綺礼に対して時臣は答える。
「構わないよ。これまでキャスターの疑似サーヴァントが集めてくれた情報を元に、本格的な戦いに打って出る。まだ手にしたい情報は山ほどある……が、それを差し引いてもキャスターの身勝手な行動は目に余る……。これ以上は、こちらに悪影響が出るだろう」
しばらく黙り、考え込む綺礼。迷っている様子の綺礼に、時臣が続ける。
「彼女には最初からこちらに協力しようという意思が感じられない。……そして何よりも、聖杯を本気で手に入れようという意思を感じられない。まぁ、そのおかげで英雄王とも対立せずに済んでいたのだが……。綺礼、本当に君に従うサーヴァントなら、なぜ君に事前報告をしない? なぜここではなく、自らの工房にあのホムンクルスを連れて行ったのだ? 彼女は聖杯戦争を遊びとしか捉えていない」
そこで一度区切ってから、さらに続ける時臣。
「そして何より、彼女は今後の大きな脅威となり兼ねない……。疑似サーヴァントを多数従えるだけでなく、どうやったのかバーサーカーまで自らの手駒として戦わせた。さらには、サーヴァントに匹敵する疑似サーヴァントすら作り出してしまった……。それに加えて疑似サーヴァントも、キャスター自身も高い再生力を持っている。戦闘における生存性は極めて高い……」
そこまで黙っていた綺礼が、その言葉を受けて口を開いた。
「……お言葉ですが我が師よ。これだけ優秀なスキルや宝具を有するキャスターならば、やはりまだ生かしておいた方がよいのでは? 令呪を用いればいつでも即座に自害させられるのですから」
時臣はそんな綺礼に対して首を振る。
「いや、今の彼女は危険だ……。確かにキャスターは優秀だ。だが、その性質と奔放さが問題なのだ……」
「……と、おっしゃいますと?」
時臣は続ける。
「先ほどの映像を見てわかったが、彼女が最後に呼び出した少女の疑似サーヴァントは、自身の爆破能力による絨毯爆撃を行い、アインツベルンの森を更地に変えてしまった。これは神秘の秘匿に反する行為であり、断じて容認することはできない。……そして何よりも許しがたいのは、彼女が魔術師の使い魔たるサーヴァントでありながら、聖杯のためでなく己の欲求のままに行動しているという点だ。……綺礼、わかってくれ。我々の勝利のためなのだ」
綺礼は少し考えたが、結局承諾した。
「……わかりました。すぐにキャスターに自害を命じましょう」
時臣はそれを聞いて満足そうにうなずく。
「……ありがとう、綺礼。ここから先は第二局面だ。マスターとしての務め、ご苦労だった……」
「いえ、我が師に勝利を……では、早速キャスターの工房へと向かいます」
綺礼は時臣に一礼をして部屋を後にしたのだった。
「……ふぅ。これでようやく1つ肩の荷が下りたな……」
時臣は安堵の息を漏らすと、窓から外を眺める。
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一方、遠坂邸を出た綺礼はキャスターの工房に迎う前に、教会へと足を運んでいた。
『キレイキレイはさぁ、聖杯に何を求めるの? 何を願うの?』
『ボクとしてはさ、キレイキレイとは仲良くしておきたいんだよね~。だってキミって面白いもん!』
『……私はお前のような存在を嫌悪する』
『ほぇ? なんで~?』
『自分の欲望に忠実で、それでいてそれを隠そうともしない……。見ていて反吐が出る……』
『あははっ! そっかぁ~。でも、別にそれはキミも同じじゃないかな~?』
『……なに?』
キャスターは綺礼にさらに近づくと、彼の頬に手を添える。
『キレイキレイだって同じでしょ?』
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キャスターとの会話を思い返しながら歩いていた綺礼は、気が付くと教会にたどり着いていたようだった。
(キャスターを自害させる……か。なぜだ? あれほどキャスターを嫌悪していたというのに、私は……)
綺礼は教会に入ると、礼拝堂の奥にある自分に与えられた部屋に向かう。
そこにはいつも通り、アーチャーとキャスターがおり、2人でグラスを傾けていた。
「遅かったな、綺礼よ。時臣のヤツと随分と話し込んでいたようだな。まぁ、座って飲め」
「お酒いただいちゃってるよ――――ッ!」
アーチャーはグラスに酒を注ぎ、綺礼に手渡す。
彼は酒を一気に飲み干す。
「それで、時臣の用事は何だったのだ? いや、別に話したくないのならいいのだがな」
そんなアーチャーの問いに、綺礼は答える。
「キャスターを自害させろ、とのことだ」
綺礼の言葉に、キャスターは両手を挙げて驚いたような動きをする。
「うわわぁっ! ついにトッキー怒っちゃった?」
「くっ、フハハハハハ! 時臣め、キャスターは用済みというわけか! いや、なかなかに面白いではないか!」
アーチャーは愉快そうに笑う。
「えぇ~! そんなぁ……。ボクまだ死にたくないよ~ッ!」
特徴的なアホ毛を両手で握りしめ、目をウルウルさせながら叫ぶキャスター。
「力を示し過ぎたようだな、キャスターよ。こうもあっさりと切り捨てられるとは、なんとも哀れだな……。まぁ、だが妥当な判断であろうよ。なに、最後は盛大に送り出してやる。笑って逝くがよい」
「やだよ! ボクが何をしたって言うのぉ~! あんなに頑張ったのにぃ~!!」
キャスターは地団太を踏んで悔しがる。
「お前もキャスターを笑っていられる状況ではないぞ、アーチャーよ……」
綺礼は他人事のように酒を呷るアーチャーに告げる。
「……なに?」
アーチャーは酒を飲む手を止め、鋭い視線を綺礼に向ける。キャスターも動きを止めて彼を見る。
「ギルガメッシュ、まだお前が知らぬ聖杯戦争の真実を教えてやろう」
そう言いながら椅子に腰かける綺礼。
「なんだと?」
「そもそもこの冬木の儀式はな、7体の英霊の魂を束ねて生贄とすることで、根源へと至る穴を開けようとする試みだ。7人のサーヴァントを全て殺しつくすことで、大聖杯を起動させる。……7人全てだ」
綺礼の言葉を無言で聞くアーチャー。
「わかるな? 我が師があれだけ令呪の消費を渋っていた理由がそれだ。全ての戦いが終わった後で、自らのサーヴァントを自決させるために必要だったからだ……」
それを聞いたアーチャーはフッと笑う。
「時臣が我に示した忠義は、全て嘘偽りだったというのか」
「結局のところ、我が師は骨の髄まで魔術師だったという、だけのことだ。英霊は崇拝しても、その偶像には幻想を抱かない……」
「時臣め……最後にようやく見どころを示したな。あの退屈な男も、これでやっと我を愉しませることができそうだ」
顔を上げたアーチャーは、どこか愉し気だ。
「さて、どうする英雄王。それでもなお、お前は我が師に忠義建てして、この私の翻意を咎めるか?」
「さぁどうしたものかな。いかに不忠者とはいえ、時臣は今なお我に魔力を貢いでいる。完全にマスターを見限ったのでは、現界に支障を来すしな……」
アーチャーがそう言うと、綺礼は立ち上がって右腕の裾をまくってみせた。そこには無数の令呪が刻まれていた。
「それは?」
「うわぁ、何それ?」
アーチャーとキャスターが問う。
「父からの贈り物だ」
余剰令呪を見せた綺礼は、続ける。
「キャスター、お前は"
「うん、特に工房にいる間は、魔力を集めたい放題なんだよねぇ~ッ!」
キャスターの答えを受けて、綺礼はフッと笑みを零す。
「つまりキャスターが現界する分の魔力供給に関しての心配は、あまりする必要がないということだ。……それにしても、この余剰令呪は1人のサーヴァントに対して数が多すぎるな……」
綺礼の言わんとしていることがわかり、アーチャーはニヤリと笑う。
「ふぅん。令呪と魔力があり余ったマスターか……」
「……だが、果たしてその男。マスターとして英雄王の眼鏡にかなうのかどうか……」
不敵な笑みを浮かべる綺礼に、アーチャーも同じような笑みを浮かべて返す。
「問題あるまい。堅物すぎるのが玉に瑕だが、前途はそれなりに有望だ。ゆくゆくは我を存分に愉しませてくれるかもしれん……。それに、このキャスターがいれば此度の聖杯戦争においては、退屈はしまいよ」
その答えを聞き、綺礼は目を閉じて小さく笑うのだった。
キャスターは綺礼が企んでいることを理解し、彼女もまた口元を歪める。
「あぁ、そういうこと~……。面白いこと考えるじゃ~ん。……キレイキレイ、今いい顔してるよ――――ッ!」
綺礼がアーチャー、そしてキャスターのグラスに酒を注ぐ。
「キレイキレイ、それからギルくん、よろしくね――――ッ!」
「おい、なぜ王たるこの我を差し置いてお前が仕切るのだキャスター……フ、まぁよいか」
「これは私たちの新たな契約だ」
3人はグラスを掲げ、一気に飲み干すのだった。
それから少しあとのことであった。
「我が師よ、キャスターを自害させました」
綺礼からの報告を受けた時臣は、安心したように頷いた。
「うむ、ご苦労だった綺礼。これで不安要素が1つ減ったな。そうだ、日ごろの君への感謝として、これを贈りたい」
「これは?」
時臣から綺礼に手渡された箱に入っていたのは、美しい短剣であった。
「アゾット剣だ。君が遠坂の魔道を納め、見習の過程を終えたことを証明する品だ」
「至らぬこの身にこのような貴重な品、感謝いたします」
「さて、今日はもう遅い。気を付けて帰るといい」
時臣が部屋の扉を開けようと、綺礼に背を向けた時であった。
「ありがとうございます。……我が師よ……」
綺礼の口元はこれまでにない程、歪んでいた。そして……。
「あなたこそ……お気を付けて……」
先ほどもらったアゾット剣で、時臣を背中から一突きする綺礼。
大きく目を見開き、信じられないといった表情を浮かべたまま、時臣は倒れ息を引き取るのだった。
「……師よ、あなたも我が父と同じ……。最後の最後まで、私という人間を理解できなかったのですよ……」
口元に笑みを浮かべて綺礼は時臣を見下ろす。
「フン、興ざめな幕切れだ。見よ、この間抜けた死に顔を」
アーチャーが実体化し、時臣の死体の頭を足で小突いて言う。
「すぐそばに霊体化したサーヴァントを侍らせていたのだ。油断したのも無理はあるまい」
そう言って尚も口元に笑みを浮かべる綺礼。
「早くも諧謔を身につけたか。その進歩ぶりは、褒めておこう。どうだ綺礼。父親を殺められなかった悔しさが少しは晴れたか?」
「本当に依存は無いのだな? 英雄王ギルガメッシュ」
「お前が我を飽きさせぬ限りにおいてはな」
アーチャーは足元に転がる時臣を見る。
「さもなくば綺礼。覚悟を問われるべきは、むしろお前だぞ?」
その言葉を聞いた綺礼は、手を前に差し出す。
「汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に! 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば」
「誓おう。汝の供物を我が血肉と成す。言峰綺礼、新たなるマスターよ……」
こうして綺礼はアーチャーと再契約を交わした。
「ほぇ~! 本当に2体のサーヴァントと契約ってできるんだね~ッ!」
本来のサーヴァントであるキャスターとも契約関係を結んだまま。
「見よキャスター。時臣のこの死に顔を! お前を自害させようとした男の、なんという無様な死に顔か! フハハハハハ!」
キャスターは、アーチャーが指差す方向に転がっている時臣の死体を見て同じように嘲る。
「うっわ、ほんとだ~ッ! だっさ! 常に余裕を持ってる人の死に方じゃないよね――――ッ!」
ここに恐るべき1人のマスターと2騎のサーヴァントの契約が誕生したのであった。
「ねぇキレイキレイ。アイリちゃんのことだけどさ~」
3人で酒を飲みながら、キャスターは綺礼に尋ねる。
「うん? あの女がどうかしたのか?」
「キレイキレイから見て、アイリちゃんってどう? キレイキレイはアイリちゃんのこと、どう思ってるの~?」
「どう……とは? あの女は、私が打ち倒すべき相手である衛宮切嗣の妻であり、聖杯の器の担い手であるアインツベルンのホムンクルス。この聖杯戦争における私の敵の1人だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ふ~ん……そっかぁ~」
キャスターは意味深な笑みを浮かべるのであった。
「ねぇ、キレイキレイ。アイリちゃんの血が赤いのを見て、どう思った?」
「……森でのことか。別にどうも思わん。ホムンクルスの血も、人同様に赤いのか、よく作られていると思っただけだ」
淡々とそう言い、グラスに口を付ける綺礼。キャスターは重ねて質問する。
「ほんとにそれだけ~? じゃあアイリちゃんが悲鳴を上げた時は? アイリちゃんの柔らかい肌に触れた時は? キレイキレイは、本当に何も思わなかったのかな~?」
「キャスター、さっきからお前は何が言いたいのだ?」
綺礼がそう問うと、キャスターはグラスの酒を一気に飲み干し、そして……。
「ボクが捕まえて来たアイリちゃんだけどさぁ~。キレイキレイにあげるよ」
「何?」
キャスターは、綺礼のグラスに酒を注ぎながら続ける。
「だから、アイリちゃんのことキレイキレイが好きにしちゃっていいよ」
「つまりどういう意味だ? それは……」
発言の意味が理解できない、と言ったように綺礼は眉をひそめる。
2人のやり取りを、アーチャーは興味深そうに見ている。
「煮るなり焼くなり、好きにしちゃっていいよってことだよ。血は赤かったけど、他はどうなのかなぁ? せっかくアイリちゃんを捕まえたんだし、隅々まで調べてみたらいいんじゃな~い?」
「くだらん。あの女に興味など無い。所詮は聖杯の器でしかないのだからな」
綺礼は興味なさげにそう言い、目を閉じる。
(聞きたいことは聞いた。もうあの女に用はない……)
「ふぅん……。アイリちゃんが衛宮切嗣の大切な大切な奥さんだとしても? キレイキレイには関係ない?」
その問いに閉じていた目を、パッと見開く綺礼。
「キャスター、勿体ぶった言い方をするな。お前は……私に何をしろと言うのだ?」
すると、それまで黙って聞いていたアーチャーが堪えきれないと言ったように笑いだす。
「フハハハハハ! 綺礼よ、それはお前自身で考えるがいい。……いや、すでにお前は……」
アーチャーの言葉の真意が分からず、綺礼は首を傾げるが、キャスターは彼に同意したようにうなずく。
そして綺礼の耳元で囁く。
「ほんとはキレイキレイだってわかってるんでしょ~?」
「……さてな」
キャスターの言葉に、綺礼は虚空を見つめたまま酒を飲む。
(衛宮切嗣の妻だからなんだと言うのだ。あの女にもはや価値は無い。衛宮切嗣の性質を考えれば、人質としても機能しないだろう。生かしておく意味など……)
彼女との戦闘や問答を思い返しながら、そう考える綺礼。その時、脳裏にアイリスフィールが苦痛に目を見開き、口から血を吐き出した光景を思い出す。
温かい鮮血、柔らかな肌、清らかな髪の匂い。女の肉体……。
……ドクンッと、自らの心臓が大きく高鳴るのを綺礼は感じる。
「ッ!?」
驚いた彼は思わず目をむく。
(馬鹿な……私が、あの女に欲情したとでもいうのか!? いや、そんなはずは……。……しかし……あの女を奪い、屈服させることができれば、衛宮切嗣はどうなる? 最愛の妻が他の男、しかもこの私に汚されるのを見て、奴は平然としていられるのだろうか?)
「まさか……これは……」
自らの欲望に戸惑う綺礼。
思わず口元を押さえた綺礼を見て、キャスターはニヤリと笑うのだった……。
「フハハ……。やはりお前はすでに……」
アーチャーのその言葉が、さらに綺礼の心を掻き乱すのだった。
(私は一体、何を考えているのだ? ……いや、もう迷いはしまい。衛宮切嗣……お前の愛する妻、アイリスフィールを味わわせてもらうぞ……!)
綺礼はグラスに残った酒を一気に飲み干し、口元を拭った。
「アーチャー、キャスターよ、私は決めたぞ」
その口元は、これまで以上に歪んでいるのだった。