~今回のあらすじ~
ケイネスたちの宿泊ホテル爆破~アインツベルンの森での戦闘手前まで。
原作のシーン多めで、基本的にはその部分はそのシーンのままです。
※シリーズ全体
以下の点にご注意ください。
・バッドエンド確定
・キャラ崩壊、設定ガバガバ
・介錯不一致の可能性
・ハードな展開や胸糞鬱描写あり
・後半までR-18描写無し
その頃、衛宮切嗣と久宇舞弥はとある場所へと向かっていた。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと協力者のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ、そしてランサーが拠点として構えた高層ビルである。
「舞弥、予定通り作戦を決行する。疲弊している今のうちに、ランサーを潰しておきたい」
切嗣が舞弥に指示を飛ばす。
「わかりました。では、ポイントに移動します」
舞弥はケイネスたちのいるビルから少し離れた位置に移動すると、切嗣に連絡を取るのだった。
「ふぅん。ランサー、よもやセイバーとの戦いを楽しんでいた……などということはあるまいな?」
ケイネスは、椅子に腰を掛けてワインを呷る。
「はい。たしかに武闘家としての血が騒いだことまでは否定しませんが、あくまでもこれは聖杯戦争で私はマスターのサーヴァントです。勝利こそが至上と考えます」
「そうか……わかっているなら良いが。この聖杯戦争は私の魔術師としての箔をつけるための戦いだ。このケイネス・エルメロイの名前に傷をつけるような真似だけはしてくれるなよ?」
ケイネスの言葉に膝を着いて頭を下げるランサー。
「……それで、ランサー。セイバーは強かったか?」
「はい。かの騎士王、剣技はもちろんのこと、動きが洗練されていました。そして、彼女の宝具はやはりあの聖剣エクスカリバーで間違いないでしょう。ひとたび私に向かって放たれた場合、防ぐことは不可能かと」
ランサーの言葉を聞き、ケイネスは思案するような顔を浮かべる。
「ですがご安心を。私の宝具があれば、一度命を落としても傷を完治し、魔力も最大値まで回復した状態で復活できます。セイバーとて、そう何度も宝具を放つことはできないでしょう。その隙に討ち取ります」
「……そうか。期待しているぞ、ランサー」
「はっ!この身に代えましても……」
セイバーとの再戦に意気込むランサーに、ケイネスはそう言葉をかけるのだった。
「ハァ……ケイネス……。無駄な消耗だけで、成果は1つも無し? せっかく私とのマスター2人態勢で戦っているのだから、もう少し頑張ってもらいたいものだわ」
ソラウは少し苛立った様子でケイネスに話しかける。
「ソラウ……。い、いや……序盤の夜は様子見も兼ねて……」
そこでケイネスは黙ってしまう。婚約者であり、惚れているソラウに対して強く出ることができないのだ。
「あなたもよ、ランサー。あなたは宝具に依存せずとも、様々な技を扱うことができるでしょ? サーヴァントの1人や2人、早急に討ち取ってもらいたいものね」
跪くランサーの肩に手を置き、ソラウは冷たくそう告げる。
「……申し訳ございません、ソラウ様」
ソラウは冷たい眼差しで、窓の外を見つめるのだった。
(どうせケイネスの勝ちが決まっているのなら、早く終わらせて欲しいものね。まったく、この聖杯戦争はとんだ茶番だわ……)
彼女は心の中で毒づくのだった。
と、その時だった。突如警報が鳴り響き、その直後に部屋に電話がかかって来る。
周囲を警戒するソラウに対して、ケイネスは落ち着いていた。
「ああ、わかった」
電話を取ったケイネスは、落ち着き払って言う。
「下の階で火事だ。まぁ、間違いなく放火だろうな」
「放火? よりによって今夜?」
ケイネスの言葉にソラウは眉をひそめる。
「人払いの計らいだよ」
「じゃあ……襲撃?」
ソラウがそう言うと、ケイネスはフッと笑う。
「セイバーのマスターは、我々の陣営が一番消耗していると思っているだろうからな。ランサー! 下の階に降りて迎え撃て! 無下に追い払ったりはするなよ?」
「はい、承知いたしました」
ケイネスが指示を出すと、ランサーは頭を下げる。
「ご客人にはケイネス・エルメロイの魔術工房をとっくり堪能してもらおうではないか!」
ケイネスは自信たっぷりにそう言うと、椅子に座って余裕そうにワインを口に含むのだった。
衛宮切嗣の作戦が決行されたのは、そのすぐあとだった。
火事の騒ぎを起こし、ホテルの宿泊客および従業員が全員避難したのを確認すると、仕掛けていた爆弾を作動させて建物ごとケイネスの抹殺を図るのだった。
凄まじい轟音と共に、辺りに火が広がっていく。
「最後まで標的に動きはありませんでした。ホテルの外には脱出していません」
久宇舞弥は、爆破後にケイネスたちに動きがなかったことを切嗣に報告する。
「150mの高みからの自由落下……。どんな魔術結界で防備を固めていても、助かる術はない……舞弥、撤退を……ハッ!?」
その瞬間、切嗣は舞弥が危険な状態にあることをすぐに察した。
「それにしても、建物もろとも爆破するとは……魔術師とは到底思えんな。……いや、魔術師の裏をかくことに長けているということか」
燃え盛る炎を見る1人の男。
「言峰……綺礼……」
物陰に身を隠しながら、久宇舞弥は銃を手につぶやく。
「ほう……。君とは初対面のはずだが? それとも私を知るだけの理由が、あったのかな? ならば君の素性にも予想はつくが……」
綺礼の言葉に舌打ちをする舞弥。
「私にばかり喋らせるな女。返答は1つだけでいい。お前の代わりにここへ来るはずだった男は、どこにいるっ!」
その言葉と共に、教会に放たれていた使い魔を放り投げる綺礼。と、同時に舞弥は物陰から飛び出し、綺礼に向かって発砲する舞弥。しかし、それら全てを躱され、銃を弾き飛ばされ、逆に左手を負傷させられてしまう。なんとか反対側の物陰に身を隠した舞弥に近付く綺礼。
「なかなか悪くない動きだ。相当に仕込まれているようだ」
黒鍵を取り出し、さらに近付いていく。
その時だった。
突如として投げ込まれたスモークグレネード。視界が遮られているうちに舞弥は逃走する。
あと少しで黒鍵の刃が届くというところで、綺礼は取り逃してしまった。
落ちているスモークグレネードを拾い、
「あの女が投げた物ではないか……。まぁいい。あの女を助ける存在がいるというだけで、今夜のところは収穫だ……」
不敵な笑みを浮かべる綺礼。
そこへキャスターが作った偵察任務にあたっている疑似サーヴァントが姿を現す。
「綺礼様……」
「表ではみだりに姿を晒すなと言っておいたはずだが……?」
「すみません……。ですが、こちらで本物のバーサーカーの姿を捕捉いたしました。キャスター様にも報告済みです……」
疑似サーヴァントの報告に、綺礼は振り返るのだった。
一方その頃。疑似サーヴァントの目を通して、先ほどの様子を見ていたキャスターは。
「へぇ、キレイキレイもいい顔するじゃ~ん。とってもいい顔をしてるよ――――ッ」
愉快そうに笑うキャスターは、傍に置かれたグラスに口をつける。
「……キャスターよ、やはり貴様のマスターはつくづく面白い。ヤツがいればこの聖杯戦争、退屈せんだろうよ」
「うん、ボクもそう思うんだよね~。キレイキレイはボクのこと嫌いって言ってたけど~ッ」
そう言ってお酒を一口飲むキャスター。
ソファに寝そべりながら、酒杯を揺らしながら天井を見つめるアーチャーはふぅんとため息をつく。
「その点、時臣はつまらん男よ。臣下の礼を取るからには、それに応えるのが王たる我の務めだが……。ここまで退屈では、な」
アーチャーもまた、そう言って酒を一口飲む。
「それよりもキャスターよ、我が帰った後に姿を見せたアサシンとはどんなヤツであった?」
「ん~、えーっとね~。ボクもその場にいたわけじゃないんだけど、映像で見た感じ、小柄で可愛い女だったよ? でもなんかバーサーカーのこと挑発してたし、毒舌なのかもね~」
キャスターの報告を聞き、アーチャーはほくそ笑む。
「毒舌のアサシンか……。フッ、なるほどな。まぁ、所詮は有象無象に過ぎまいよ。何か貴様との語らいの他に、無聊を慰めるものがあればよいのだが……」
「だよねだよね~。ボクもさ、早くアイリちゃんを捕まえに行きたいんだけど、キレイキレイの許可が無いとまた怒られちゃうからさぁ~」
残念そうに言うキャスターを見て、フッと笑うアーチャー。
「すでにこの聖杯戦争において、自らの愉しみを見つけている貴様は随分と楽しそうだな」
「うん! アイリちゃんについていろいろと想像するだけで楽しいんだよね――――ッ!」
2人が話していると、部屋の扉が開き綺礼が入ってきた。
「アーチャー、キャスター?」
「お邪魔してるよ~、キレイキレイ♪」
彼は2人がいることに驚いている様子だったが、すぐにいつもの調子に戻る。
「数こそ少ないが、時臣の部屋よりも逸品が揃っている。けしからん弟子もいたものだ」
ソファに寝そべったまま、酒を片手に話すアーチャー。
「いったい何の用だ?」
いつもの口調でアーチャーに問う綺礼。
「退屈を持て余している者が、我の他にもいる様子だったのでな」
その言葉に足を止め、彼の方を見る綺礼。
「でなければ教会の保護を受けている身分で、勝手に出歩いたりするまい」
「……なんのことだ?」
綺礼がそう言うと、残っていた酒を飲み干したキャスターが立ち上がる。
「キレイキレイさぁ。強いんだね~。さっきのキレイキレイの楽しそうな顔……ボク、嬉しかったなぁ――――ッ」
綺礼の顔を覗き込むように、キャスターは彼を見つめる。
彼女が創造主であるため、疑似サーヴァントの目を通して、先ほどの戦いを見られていたとしても不思議ではないのだが、それ以上の何かを、このサーヴァントに見透かされているような気がして、一瞬動揺する綺礼。
だが、すぐに平静を装って答える。
「……だからなんのことだ? こんなところで王の酒盛りに付き合っている暇があるのなら、工房に戻って自分の仕事に取り掛かるのだな。また、時臣師にどやされたくはあるまい?」
冷たく言い放つ綺礼だったが、キャスターは意に介する様子もなく、満足そうに返す。
「はいは~い♪ ご命令通りに工房に戻るから、あとはゆっくり語らってね~。王サマと」
そう言って部屋の扉の前まで行き、アーチャーに声をかける。
「ギルくん、美味しいお酒と楽しいお話、ありがとね――――ッ!」
「よい。また明日の夜も、ここで待つがいい」
「うん、またね~!」
そう言ってキャスターは部屋を出て行った。
少しの沈黙あと、ため息をつく綺礼。
「……はぁ、キャスターめ……ここの酒は私のもので、この部屋は私の部屋なのだがな……」
「ふっ、今更だぞ? 綺礼」
呆れたように呟く綺礼に、アーチャーは笑いながら言う。
「アーチャー……。あのサーヴァントはなんだ。私には英霊などとは程遠い、己が欲望を優先する異常者にしか思えないが……」
綺礼がそう問いかけると、アーチャーはグラスを揺らしながら答える。
「……フン、ヤツには聖杯戦争における勝敗など関係無いのだろうよ」
「なに……?」
訝しげに聞き返す綺礼に、アーチャーは続ける。
「ヤツはただ単に、この退屈な戦いにヤツなりの愉しみを見つけたのだ。時臣のような男よりは、ずっと見応えがあると思うのだがな」
散らかったボトルを並べながら、綺礼は尋ねる。
「……今さら契約が不服になったのか? ギルガメッシュ」
「時臣が我を招き、この身を現世に保っている。そして何よりも臣下の礼をとる者に、応えてやらんわけにもいくまい。……だがあそこまで退屈な男とは思わなんだ」
アーチャーはソファに寝そべり、グラスを揺らしながら答える。
遠坂時臣の聖杯にかける望みである根源への到達……その願いについてアーチャーはつまらんと切り捨てる。
そして綺礼に尋ねる。
「聖杯に何を望む?」
「私は……私には……別段望むところなどない」
聖杯戦争でマスターに選ばれるということは、何かしらの願いを持っているはず。そういう者に聖杯は令呪を授ける。だが、綺礼は言う。
自分でもそれがわからない。理想も悲願もない、自分がなぜ聖杯戦争の参加者に選ばれたのかわからない、と。
「理想もなく悲願もない、ならば愉悦を望めばいいだけではないか」
「馬鹿な! 愉悦などっ!そんな罪深い堕落に手を染めろと言うのか」
2人の語らいは続く。
「綺礼、お前は他の5人のマスターに間諜を放つのが役目であろう?」
「そうだが?」
「連中の意図や戦略だけでなく、その動機についても調べ上げるのだ。そして我に語り聞かせろ」
少し考えて綺礼は返す。
「キャスターの疑似サーヴァントたちに言い含めておけば可能ではある。だがアーチャー。そんなことを聞いてどうするというのだ?」
「言ったであろう? 我は人の業を愛でる。中に面白みのある奴が1人か2人混じっているだろうさ。少なくも時臣に比べればな」
そう言って、酒を飲み干すアーチャー。
「……いいだろうアーチャー。請け負った。ただし、それなりに時間は掛かる」
「かまわん。気長に待つとする。ここの酒の面倒でも見ながらな」
そう言い残すとグラスを置いて、アーチャーは霊体化しその場から姿を眩ませた。
ふぅと一息つく綺礼。
「断じて……愉悦などではない」
目を閉じて考える綺礼。
(だが、あの男を知ることができれば……私の求める形もまた、知ることができるだろうか……? 衛宮……切嗣)
教会から全マスターに対して、バーサーカー討伐の緊急招集がかけられる。
各マスターが放った使い魔たちが、教会に集まり、監督役の言峰璃正から詳しい説明を受ける。
バーサーカーのマスターは連続誘拐事件の犯人であること、全てのマスターは直ちに互いの戦闘行動を中止し、バーサーカー殲滅に尽力すること。バーサーカーとそのマスターを討ち取った者に、追加の令呪を寄贈すること。バーサーカーの消滅が確認でき次第、聖杯戦争を再開することなどが伝えられた。
「アサシン……バーサーカーを、やれるか?」
隠れ家にしている拠点で間桐雁夜は、アサシンに尋ねる。
「どうでしょう? 昨夜のバーサーカーもどきであれば問題ないのですが。他のサーヴァントと戦闘してくれれば、能力や体の構造を分析できるんですけどね。本物のバーサーカーの姿は、まだ誰も目撃していないでしょうから」
アサシンは、雁夜の肉体の痛みを緩和する薬を調合しながら答える。
「あっ、でもマスターの方は恐らく簡単に始末できるでしょう。……まぁこちらも顔が割れていないので、探すところからになりますが……」
アサシンはそう続けた。
「……俺の体は……まだ持つのか……。もってあと数日ってとこか……それまでに必ず……」
「大丈夫ですよ。あなたは聖杯戦争を戦い抜けます。なんと言ってもこの私がついているんですから」
彼女の言葉を受けて、少し笑顔になる雁夜。
「……ああ。ありがとうアサシン」
「いえいえ。さて……。あなたが眠ったら私は少し、調査に出ます。危なくなったら令呪を使って、私を呼び戻してくださいね?」
月明かりに照らされ美しく微笑むアサシンに、大人になってから感じたことのない安らぎを、雁夜は感じていた。
「ああ、わかった」
そう言って雁夜が眠りにつくと、彼女は静かに拠点を後にしたのだった。
「バーサーカーの殲滅が最優先事項になったとはいえ、未だにその拠点も動向も把握しきれていない。……令呪1画のために、時間を無駄にするわけにはいかない」
衛宮切嗣はアイリスフィール、久宇舞弥、そしてセイバーを集めて作戦会議を行っていた。
「マスター、奴の悪行は容認しがたい。これ以上被害が広がる前に、こちらから打って出るべきです」
セイバーが切嗣の言葉に反応して、そう伝えるが彼は答えない。
「アイリ、この森の結界の術式はもう把握できたかい? 」
「ええ、大丈夫。でも、この場所に誰かが攻めてくるの? バーサーカー以外とは休戦のはずよね……」
「今回の監督役はどうにも信用ならない。なにせ素知らぬ顔で、キャスターのマスターをかくまうようなヤツだ。遠坂ともグルかもしれない、疑ってかかったほうがいいだろう」
これ以上の被害が出る前に、バーサーカーを討伐したいセイバーと、バーサーカーを狙っている他のマスターを排除しようと考える切嗣とで意見が合わない。
切嗣はセイバーとは言葉を交わさない。
「アサシンでも餌にできれば、バーサーカーも釣られて出てくるだろうに……。先の戦闘のバーサーカーもどきは、母親のためにサーヴァントの数を減らすと言っていた。恐らくバーサーカーはアサシンに対して強い憎悪を抱いているはずだからな」
切嗣がアイリスフィールの目を見ながらそう話した時だった。
「それなんですけど、私もいいなと思っていたんですよ~」
あまりにも自然に会話に入ってきたため、その場にいた誰もが一瞬理解が遅れた。少し離れた窓の近くに立っていたのはアサシンだった。
セイバーやアイリスフィールですら気付けず、結界も難なくすり抜けてきた、ということになる。
「アサシン……だと!」
切嗣は距離を取って銃を向ける。舞弥もそれに続いた。セイバーはアイリスフィールを庇うように立ち塞がる。
「アサシン、何の用だ! セイバーとの戦闘が望みか!?」
切嗣は銃の狙いをアサシンから外さない。
「待ってくださいよ~、私は別に戦いに来たわけじゃありませんよ~」
「なら何故ここに来た? 戦うつもりがないのなら、すぐに立ち去るがいい」
セイバーがそう言うと、アサシンは素直に答えた。
「共闘、しませんか? バーサーカーを倒すために」
切嗣はその言葉を聞くと、セイバーに目で合図を送る。アイリスフィールには舞弥が寄り添っていた。そしてアサシンに向けて言う。
「ほう、では聞かせてもらおうじゃないか。お前がバーサーカーを狙う理由はなんだ?」
「昨夜の戦いを見ていたならわかると思いますが、私は相手のサーヴァントを観察、調査することで、そのサーヴァントに対する特効薬を作ることができるんですよ。まぁ、主に毒なんですけどね。……ただ、私の筋力は真正面からの戦闘に向いていません。ただでさえ狂化していてステータスが高いであろうバーサーカー相手に、戦いながら観察を行うのは難しいのですよ」
アサシンは笑顔で人差し指を立てながら説明する。
「フッ、だから共闘……というわけか。セイバーにバーサーカーと戦わせるつもりだな。そしてその戦いを見て、お前がバーサーカーに対する特効薬を調合する、と。こちらのメリットはなんだ? バーサーカーなら放っておいても誰かが倒すはずだ。セイバーの魔力を消費してまで、バーサーカーの相手をするメリットが聞きたい」
「報酬の令呪1画を譲ります。それだけでは不足でしょうから、私の真名と宝具を教えましょう。そうすれば、あなたたちは私に対して有利な戦略を立てやすくなるはずです」
切嗣は考え込んでいるようだ。
「マスター、私は賛成です。これ以上無関係な人たちに被害が出る前に、アサシンの案に乗って早急にバーサーカーを討つべきです!」
セイバーが進言するも、切嗣は彼女の言葉には反応しない。
「そうそう。うまくいけば、ランサーも協力してくれるかもしれませんね。一応誘いをかけてみたんですよ。ランサーのマスターはあなたに対して酷くお怒りのようでしたけどね……」
アサシンが切嗣を見ながら付け加えた。
「やはりランサーは健在みたいね」
アイリスフィールは呟く。彼らは、昨夜の爆発の中を生き延びたのだ。
「……最後に聞かせろ。なぜ、他の陣営ではなく我々に?」
「先ほどお伝えしたようにランサーには声をかけましたが、他には声をかけていません。ライダーとそのマスターは神出鬼没ですし、キャスターは表向きは敗退したことになっていて、工房に籠っているのか出てきませんし、アーチャーのマスターとの協力は私のマスターが絶対に容認しないでしょうから」
切嗣はその言葉を聞いて、返事をする。
「……いいだろう。だがバーサーカーが消滅した時点で、協力関係は終了だ。ここに誘き出して戦うことになった場合、敵地の真ん中にお前1人という状況になるが構わないか? その瞬間、次のターゲットはお前になる」
アサシンはニコリと笑う。
「問題ありません。では、協力体制をとらせていただけるということで?」
「ああ。……ところで、お前のマスターはどうした?」
「連れて来てませんよ? だって連れてきてたら、あなたかそこの女性が殺しちゃうじゃないですか? 私だってマスターには死んで欲しくないんですよ」
アサシンは笑っているが、この期に及んで自分が優位に立とうとする切嗣を牽制するような口ぶりだ。
「フン、よくわかっているじゃないか……」
切嗣も負けずにアサシンに言い返す。
「さて、それでどうやって誘き出すつもりだ?」
切嗣が言うと、アサシンは窓の外を指差した。そこには縄で縛られた女性の姿があった。昨夜のバーサーカーもどきにそっくりの容姿をしている。
「……あれは?」
「あれは昨夜のバーサーカーもどきの妹と名乗っています。姉の仇を討ちに来たと言っていたので、昨夜同様に対処して捕獲しておきました。私が彼女を苦しめている姿を見せれば、きっと罠だとわかっていても、バーサーカーは来るはずです」
切嗣はそこまで聞いて、アサシンの提案を受け入れることにした。
「……いいだろう。バーサーカーの討伐を最優先事項に定める」
「ありがとうございます!では早速……」
そう言うとアサシンは窓から飛び出していった。そしてすぐに縄で縛られた女性を木に括り付けた。
「さて、じゃあお母様とやらに助けを呼んでください」
アサシンの言葉を受け、女性は怒り混じりに叫ぶ。
「ハッ! お母様が来たら、アンタなんかすぐに殺されちゃうんだから!」
「そうですか、じゃあ早く呼んでください」
興味無さそうに言うと、アサシンは女性の腹部に剣を突き立てる。
「毒で死にたくなかったら、大きな声で叫んでくださいね?」
バーサーカーもどきの女性は、森中に轟く悲鳴を上げるのだった。
それから少し後。
「アサシン、あなたに1つ問いたい。令呪1画の報酬をなぜ、切嗣に譲る。あなたのマスターはそれで納得しているのか?」
セイバーは、窓から外を見ていたアサシンに尋ねる。
「そうですね~。令呪はあった方がいいと思いますが……。それくらいのことをしないとあのマスターは話も聞いてくれなさそうじゃないですか? もちろん私のマスターも了承済みです」
アサシンはニコリと笑って、セイバーの方を見る。本来は敵同士であるというのに、毒気を感じさせないアサシンの笑顔にセイバーは面食らってしまう。
「……おおよそ、アサシンとは思えない笑顔だ。そうやって油断させるのも作戦のうちか?」
セイバーの問いに対して、アサシンは困ったような顔をする。
「そんなつもりは無いんですけどね? 私は暗殺者ではありませんから。まぁ、暗殺向きの能力と身体ではありますが。生前は鬼退治を専門に行っていたんですよ? 私は」
「鬼退治だと?」
セイバーは訝しげにアサシンを見る。
「ええ。人を喰らう鬼をたくさんたくさん退治しました。傷付いた味方の治療なんかもしていたんです」
「なるほど。アサシンというだけで、あなたを卑怯な暗殺者だと思いこんでいた。その無礼を詫びたい。あなたの話が本当だとすると、あなたは紛れもない英雄だ」
セイバーはアサシンに頭を下げた。
「あ、いえいえ! そんなつもりで言ったわけじゃありませんから! 気にしないでください」
慌てて手を振るアサシン。その表情は嬉しそうにも見えた。
「まぁ、それはいいとして……。あなたは誰がどう見ても優れたサーヴァントです。でも、なんだかマスターとうまくいってないみたいでしたね。無視されてましたし」
「うっ……」
痛いところを突かれ、苦い顔をするセイバー。
「ごめんなさい、ついからかってしまって」
「いえ……。切嗣は……彼は私を信用していない」
そう呟くセイバーは悔しそうに歯を食いしばるのだった。
1人屋敷の外で佇む切嗣。
「切嗣……」
心配そうな表情で近づくアイリスフィール。
「もし……もし僕が……僕が今ここで、何もかも放り投げて逃げ出すと決めたら……アイリ、君は一緒に来てくれるか?」
彼は自らの腕握る力を強める。
「……イリヤは? 城にいるあの子はどうするの?」
悲しそうな顔でアイリスフィールがそう、吐露する。
「戻って連れ出す。邪魔する奴は殺す。それから先は——! 僕は僕の全てを君とイリヤのためだけに費やす!」
切嗣の目は揺らいでいる。胸元に手を当ててアイリスフィールは言う。
「にげられるの? 私たち……」
「逃げられるッ! 今ならばまだッ!! くっ——!」
叫んだ切嗣は歯を食いしばって口元を震わせている。
「うそ……。……それはうそよ」
瞳に涙を浮かべながら、切嗣を後ろから優しく抱きしめるアイリスフィール。
「あなたは決して逃げられない……。聖杯を捨てた自分も、世界を救えなかった自分を、あなたは決して許せない……。きっとあなた自身が、最初で最後の断罪者として……衛宮切嗣を殺してしまう……」
少し間があって切嗣が口を開いた。
「怖いんだ。……奴が。言峰綺礼が僕を狙っている。舞弥に聞いた。奴は僕を釣る餌としてケイネスを張っていた。行動を読まれていた。君を犠牲にして戦うのに……! イリヤを遺したままなのに……! 一番危険な奴がもう僕に狙いを定めている! 決して会いたくなかったアイツがッ!」
切嗣は叫んでいた。
「あなた1人を戦わせはしない……。私が守る。セイバーが守る。それに、舞弥さんもいる……」
その時だった。アイリスフィールはサーヴァントの気配を感じ取った。近くにセイバーとアサシン以外のサーヴァントが迫っているということだ。
「切嗣」
「敵襲か? 舞弥が立つ前で幸いだった。今なら総出で迎撃できる。相手がバーサーカーであれば、アサシンの協力も得られる。……アイリ、遠見の水晶玉を用意してくれ」
振り返った切嗣の顔は、いつもの冷静な戦士のものに戻っていた。
一方その頃。
「それじゃあギルくん、行ってくるね――――ッ!」
「ではなキャスター。戻ってきたら土産話の一つでも聞かせるがよい」
アーチャーの部屋、ではなく彼らが入り浸っている綺礼の部屋を出たキャスターは、アインツベルンの森へと向かっていた。
疑似サーヴァントから、綺礼が今夜アインツベルンの森に侵入しようとしているらしい、と報告を受けた。
自分のマスターであるというのに、自分には何も言ってくれないことを少し不満に思いながらも、つまりそれは自分に指摘されたくないことを秘密裏に行おうとしている、ということの裏返しでもあると感じたキャスターは嬉しく思うのだった。
(キレイキレイ、そんなに衛宮切嗣に会いたいんだね――――ッ! そうならそうと言ってくれればいいのに! ボクだってアイリちゃんに会いたいんだからさぁ)
疑似サーヴァントに残っている映像。アイリスフィールがセイバーに向かって微笑む映像を見て、身もだえするキャスター。
「アイリちゃん可愛い~!」
鏡の前に立ち、全身をチェックする。腰まで伸びた美しい髪、アクセントのように乗せられた小さな帽子。特徴的なアホ毛。大きな瞳。
「うん、身だしなみよし! 髪もよし! アイリちゃ~ん、今、会いに行くからね――――ッ!」
彼女の瞳は妖しく光っていた。