~今回のあらすじ~
・起源弾後のケイネス陣営
・バーサーカーのアジトにて、キャスターとライダー&ウェイバーの対峙
・キャスターが準備を始めました
・凛の冒険
・聖杯問答にダニエラ乱入
・キャスター、アイリスフィール確保に向け出発
※シリーズ全体
以下の点にご注意ください。
・バッドエンド確定
・キャラ崩壊、設定ガバガバ
・介錯不一致の可能性
・ハードな展開や胸糞鬱描写あり
・後半までR-18描写無し
崖が崩れて落下した若者を追って、自らの身を顧みず崖から飛び降りる女性。
『今度は離さない……っ!』
女性は若者をしっかりと抱きしめたまま、そのまま下の川へと落ちていく。
誇り高い戦士にして一国の王女。勇敢な女性はその若者……勇者と共に大魔王、そして邪神から世界を救った……。
「見ていたのは、ランサーの記憶か?」
ハッと目を開けたケイネスはそう呟いた後、自らの身体に痛みを感じる。
「ここは……?」
辺りを見回すとソラウの姿があった。
「ソラウ、これはいったい!? 私はなぜここにいる?」
彼の体は拘束され、思うように動かせない。
「何があったか、全く覚えてないの?」
ソラウがタオルを絞りながら尋ねる。
「私は……撃たれた……たしかに、月霊髄液で防御したはずだ……。私の体に何を……」
ソラウはケイネスの体を拭きながら、伝える。
「全身の魔術回路が暴走した形跡があるわ。即死しなかったのは奇跡ね。とりあえず、間に合ったのは臓器の再生だけ……あなたの魔術回路は壊滅よ。もう二度と、魔術の行使はできない」
その言葉を聞いた瞬間、ケイネスの両目から涙が流れ落ちる。
「私は……私は……」
「辛いのはわかるけど……泣いていても始まらないわよ? 私たちはまだ敗北したわけじゃない。聖杯が万能の願望器だというのなら、あなたの体も元に戻せるはずでしょ? ケイネス・エルメロイがこんなところで終わっていいの?」
ソラウは彼に問う。
「私は……まだ……」
「ええ、そうよ。幸いランサーは強力な宝具を所有しているし、宝具に匹敵する技もいくつか使用できる。さらに幸いなことに宝具の魔力コストも低い方……。立ち回り方次第ではまだ勝機はあるわ」
ソラウはケイネスの目をまっすぐに見て、そう伝えるのだった。
「そうか……そうだな。まだ……終わった……わけ……じゃない……くっ……」
彼は衛宮切嗣に撃たれたことを思いだし、唇を噛みながらもそう言葉にするのだった。
「ソラウ様、マスターの容体はいかがですか?」
そこへランサーが姿を見せる。
「ランサー……か……」
ケイネスがランサーの方を向くと、ソラウが彼女に近付いていく。
パシンッという音が響く。ソラウがランサーの頬を叩いたのだ。
「宝具に恵まれているくせに、役立たずのサーヴァントね。バーサーカーを仕留められず、ケイネスも守れず。何だったらできるのかしら?」
ソラウはランサーに鋭い言葉の刃を突き刺した。
ソラウは冷淡な表情で彼女を睨む。
「申し訳ございません、ソラウ様、マスター。必ず聖杯を捧げると誓っておきながら、未だ一騎のサーヴァントを討ち取れないばかりかマスターをお守りできず……。心よりお詫びいたします」
ランサーはソラウとケイネスに跪き、詫びる。
彼女はマスターが横たわっている姿を見て、自分の未熟さを感じていた。
「はぁ……。口ではなんとでも言えるわね」
ソラウはため息を吐きながら、ランサーの前から去る。
「マスター、申し訳……」
「黙れっ!! 私を見るな! ……なんだその目は憐れみか? 侮辱か? 見下すのも大概にしろ!! そもそも……くっ……」
ランサーがケイネスに声をかけると、彼は怒鳴り散らした。
「……出てってくれ! 早く、出ていけ!」
(私を……私を1人にしてくれ!)
ケイネスはそう叫びながら、目をギュッと瞑り、涙を流した。ランサーは彼の心情を察して、すぐにその場を離れるのだった。
舞弥の治療を終えたアイリスフィール。
「意識を取り戻すには、まだ時間が掛かると思う。しばらく彼女を診ててちょうだい」
彼女はセイバーにそう告げると、部屋を出ようとする。
「切嗣に報告に?」
「彼も心配してるだろうから……」
セイバーは、真面目な顔になる。
「アイリスフィール、お願いがあります。あなたから切嗣に進言してほしい。ただちにバーサーカーの討伐に向かうべきだと」
「セイバー……」
「いくら手負いの状態といえど、このままバーサーカーを野放しにしておけば、犠牲になる人間が増えるだけです……。早急に排除すべきです」
切嗣がいる部屋へとやって来たアイリスフィール。
「切嗣?」
彼は銃の確認をしていた。
「舞弥は、いつから使える?」
「彼女……この一両日は、動けないわ」
「そうか。アイリたちはここに待機していてくれ。僕はケイネスの追撃に出る」
その言葉に戸惑うアイリスフィール。
「え? ちょっと待って切嗣!」
部屋を出ようとする切嗣を引き留めるが。
「セイバーは、バーサーカーを早急に討ち取るべきだとでも言ったか?」
「え?」
「図星か……」
彼の歩みは止まらない。
「セイバーに腹を立てているの? ランサーを阻止しなかったから」
扉の前で立ち止まった切嗣は言う。
「アイリ、今ここで数人、数十人の命を救うことが僕たちの目的じゃない。セイバーは、ランサーが僕を殺さないと信じて疑わなかったのだろうが……もしランサーが裏切っていれば、どうなっていた? その時点で僕らの聖杯戦争は終わっていた。彼女に僕の行く先を告げる必要はない……」
そう言い残して部屋を出る切嗣。アイリスフィールは何も言えずにその背中を見送ることしかできなかった。
翌日。
ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットはライダーの協力の元、水の術式残留物をたどり、バーサーカーの拠点かキャスターの工房らしきものを発見する。
ライダーはウェイバーを伴い、現地調査に乗り出すのだった。
そこはバーサーカーの隠れ家であったが、どうやら彼女もマスターも不在のようだった。
代わりに防衛のためか、バーサーカーの娘たちが召喚する化け物たちが蔓延っていたが、ライダーはチャリオットで蹂躙しながら先に進むのだった。
「うむ、当たりだな坊主。やはりここは、バーサーカーのアジトのようだな! フン、バーサーカーめはあいにく不在のようだな」
開けた場所まで来て、チャリオットを停めるライダー。
「貯水槽か何かか、ここ」
キャスターの居場所の手がかりをつかもうと、周辺を捜索しようとするウェイバーに、ライダーは見ない方がいいと告げる。
それでも魔術の光で周囲を僅かに照らし、奥へと進もうとするウェイバー。
するとピチャッという音と共に、何かが顔にはねた。ウェイバーが指でなぞって見てみると、それは血だった。
僅かな光で見える光景に、ウェイバーは思わず嘔吐してしまう。
そこには誘拐された者たちの惨たらしい姿があった。
その時だった。奥から何やらゴソゴソと物音が聞こえてくる。
「おい、そこにいるのは誰だ?」
ライダーは威圧するような、少しドスの効いた声で奥の暗がりに問いかける。
「うわわあっ! やばっ! 戻って来た?」
可愛らしい女性の声が聞こえ、その影が近づいて来る。
それは赤い服を着た少女だった。
「お、女の子? もしかして連れて来られて生き残ってた人が……」
ウェイバーは僅かな希望を抱いてそう口にしたが、ライダーは首を振る。
「いや、この状況にあって平然としておる時点で、この少女も普通の人間ではあるまい。……サーヴァントだな?」
ライダーは少女に問いかけると、少女は目じりを下げやれやれといった感じで返事をする。
赤い服だと思っていたそれは、よく見ると白い服が犠牲者の血で真っ赤に染まったものだった。
「そ、ボクはキャスターだよ~ッ」
その返答にウェイバーは驚きを隠せない。
「キャスター? そんな……。だってキャスターは、死んだはずじゃ?」
「あれはボクが用意した偽物だよ~ッ。あ~あ、ライダーとそのマスターにまで生存がバレちゃった」
キャスターはあっけからんとして答える。
「フン、そうか。ところで、貴様ここで何をしておった? 大方予想はつくがな」
「ここってさ~。バーサーカーが血を吸って殺した死体がたくさんあるでしょ――――ッ。その中から、良さげな死体をもらっちゃおうと思ってさぁ」
キャスターは悪びれることなく答えた。するとライダーの様子が一変する。今まで以上の威圧感を放つと、ウェイバーを守るように立ちはだかった。
「貴様……なんのためにそんなことをした?」
「やっぱスーパーの肉じゃ再現力に限界があってさ。たまに失敗作ができるし。どうしても人間の死体が必要だったんだよね――――ッ」
キャスターの答えにウェイバーの顔から血の気が引く。
「話が見えんが、要するに悲惨な目に遭って死した者たちの肉体を弄ぶ、ということであろう? ならば、その所業は万死に値するぞ」
ライダーは剣を抜き、キャスターに向ける。
「ふぅん。それで? こんな狭いところで、ボクと戦うつもり? しかも未熟で貧弱なマスターを守りながら、さ。この場は見逃してくれるって言うなら、ボクももう手を退くけど?」
キャスターはニヤリと笑う。
たしかにこの狭い場所ではライダーの真価は発揮しきれない上に、暗闇でウェイバーを守りながらの戦いになる。
加えてライダーはキャスターとは初対面であり、情報もほぼ無い状態だ。
「……ふぅ。たしかにこりゃあこっちが圧倒的に不利だわな。ここはお互いに手を退くとしよう。だが、キャスター。次に見えることがあれば、余は容赦はせぬぞ?」
「うわぁ、こっわ。でもまぁ、ボクも用事は済んだからさ、またね~!」
そう言い残して去っていくキャスターに、ウェイバーは呟く。
「この聖杯戦争には……まともなヤツはいないのかよ……」
そんな彼の肩をライダーはポンと叩くのだった。
「坊主、ここを出るぞ。キャスターの気が変わるやもしれんし、バーサーカーが戻ってくるかもしれん」
その言葉にウェイバーは周りを見回す。
「ここは……このまま放っておくのか?」
「調べりゃあ何かわかるかもしれんが、諦めろ。……とりあえずぶち壊せるだけは壊して行くさ。それはそれで、バーサーカーの足を引っ張る戦果にはなる」
ライダーは神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)で、バーサーカーのアジトを破壊し、焼き尽くしながらその場をあとにする。
ウェイバーは犠牲者たちのことを思い、胸を痛めるのだった。
綺礼は、同盟相手であり自らの師でもある遠坂時臣に報告と謝罪を行っていた。
キャスターの生存が、ライダーとそのマスターに露見してしまったことについてである。
「そう気にするな、綺礼。たしかに未だ、ライダーの切り札が掴めていない段階で、キャスターの存在を知られてしまったのは痛いが……。この度の一件で、ライダーの魔術師が三流の魔術師であることがハッキリした」
時臣は落ち着き払った口調で綺礼と連絡を取っていた。
「なればこそ、彼らに露見していなければ……」
「他にも使いようがあったというわけか」
「はい」
綺礼の返事を聞き、時臣は少し間をおいてから言葉を続ける。
「たしかに策も大事だが、"常に余裕を持って優雅たれ"。戦いにも品格が求められるのだ」
時臣のその言葉を聞いた瞬間、綺礼の脳裏にギルガメッシュの姿が浮かぶ。
『だがあそこまで退屈な男とは思わなんだ』
だが、時臣の声で我に返る綺礼。
「ライダーの切り札を掴む好機は、必ずや訪れる。キャスターの疑似サーヴァントには細心の注意を払って、ライダーの監視を続けさせよう。……だが以前も話したように、もしもあのキャスターが我々を窮地に陥れるようなことがあれば、令呪を用いて自害させるのだ」
時臣の言葉に、今度は自分のサーヴァントであるキャスターの姿が脳裏に浮かぶ。
『ボクとしてはさ、キレイキレイとは仲良くしておきたいんだよね~。だってキミって面白いもん!』
「了解しました、我が師よ」
「完成完成ッと! これでアイリちゃんがああなった時に、こうなってああなって、ああなって……」
自らが作製した工房で、キャスターが何やら満足げにしている。
「そしたら、あれだけああなって……。残ったアイリちゃんはボクのモノになるんだよね~ッ!」
彼女はそう言うと工房の床に寝転がり、自らが作製した疑似サーヴァントが録画した映像を確認する。
そこには綺礼がアイリスフィールの首を絞め、持ち上げている映像、そしてその後に綺礼がアイリスフィールの腹部に黒鍵を突き刺す映像が映っている。
アイリスフィールの苦痛に歪む表情と悲鳴を聞き、キャスターは興奮に目を見開き、口元を歪める。
「うへ、うへへ、。いいなぁ! たまんないなぁ~ッ! アイリちゃん、ボクのモノになったら……どんな風に鳴かせようかな――――ッ!」
キャスターは自らの体を抱きしめると、さらに妄想を加速させる。
「う~ん……でもやっぱり……。アイリちゃんの最高に絶望した顔を見るならぁ~。相手はボクじゃない方がいいよねぇ~……」
彼女はそう呟いて、その可愛らしい顔を歪ませながら笑うのだった。
当のアイリスフィールはセイバーから、昨日の戦闘によってバーサーカーによって目の前でキャスターが消滅させられたと報告を受けていたため、すでに自らに彼女の脅威が迫っていることなど知る由も無いのであった。
しばらくアイリスフィールの笑顔やら悲鳴やらを堪能していたキャスターだったが、バーサーカーのアジトから運んできた数体の人間の死体が目に留まり、ハァとため息をつき立ち上がった。
「せっかくバーサーカーのところから運んで来たんだし、いい加減に作業に取り掛からないと鮮度が落ちちゃうしなぁ。疲れるけど、作業しないとね~」
そう言うと、キャスターは工房の台座に自らの血で描いた術式を描き、その上に疑似サーヴァント数体、そして運んできた人間の死体全て、魔力が秘められた宝石数個、さらにその上から、再び自らの血を垂らし"E"の文字を描くキャスター。
「キレイキレイには悪いけどさー、せめてこの子だけは召喚しておきたいんだよね~ッ!」
そう言って、台座に向かって手を翳し動かすキャスター。疑似サーヴァントと人間の死体が分解され、混ざり合う。素材となったものがすべて無くなり、代わりに台座の上には1人の少女が横たわっている。キャスターは、満足そうに笑うとその少女に自分と同じデザインの服を着せてやる。
「うん、完成! キャスターとして召喚されたおかげで、また一緒に戦えるよ? 嬉しいでしょ~?」
キャスターは目を閉じて横たわる少女を見て、そう言うのだった。
[newpage]
遠坂凛はまだ幼い身でありながら、行方不明になった友達のコトネを探して、聖杯戦争中の夜の冬木市に足を踏み入れた。
そこら中に魔力の痕跡があり、昼とは違うその異様さに怯えながらも、自らを奮い立たせてコトネを探す凛。
結局彼女は、勇敢にも連続誘拐犯である雨生龍之介に挑み、一瞬の隙を突いて彼に誘拐されていたコトネを始めとした大勢の子供を助けることができた。
魔術の才能と、彼女自身の強い心が打ち勝ったのである。
無事にコトネを助け出した凛は、家に帰ろうとするが……そこに骸骨のような化け物が剣を持って現れる。絶体絶命の凛だったが、彼女のすぐ横を大量の蟲が通り過ぎる。彼女は恐怖のあまり、そこで気を失ってしまった。
凛が帰って来ないことを心配し、冬木市に向かったのではないかと車を走らせるのは遠坂葵。
凛の母親で、遠坂時臣の妻である。冬木市にたどりついた葵は、ベンチに横たわっている凛を見つける。
葵は、何度も彼女の名を呼びかける。
「凛ちゃんは大丈夫。寝てるだけだ」
葵に声をかけたのは、フードを被った男性だった。
「雁夜……くん?」
葵は状況が飲み込めないでいる。
「なに……どういうことなの? どうしてあなたがここに?」
フードを脱いだ雁夜の顔を見た葵は小さく悲鳴を上げる。
「その顔……」
「これが……間桐の魔術だよ……肉を捧げ、命を蝕まれ、それを対価にして至る魔道だ」
葵は言葉を失ったまま、雁夜から視線を逸らせないでいる。
「でも桜ちゃんは大丈夫。こんなことになる前に、俺がきっと救い出す。臓硯が欲しいのは聖杯だけだ。俺がそれを獲得すれば、桜ちゃんを解放すると、アイツはそう約束した……!」
その言葉に葵は大きく目を見開く。
「聖杯、ですって……!」
「ああ、心配ないよ。俺のサーヴァントは最強なんだ! 誰にも負けるはずはない!」
そう力強く宣言して、雁夜は葵に令呪を見せる。
「今の桜ちゃんにとってはね、希望を抱くことさえ、辛い責め苦にしかならない。だから……あの子の代わりに、葵さん、貴女が信じて、祈ってくれ。俺の勝利を、桜ちゃんの未来を」
雁夜は背中を向けて歩き出す。その背中に思わず声を掛ける葵。
「雁夜くん! あなたは!」
その声に振り返って雁夜は少し微笑む。
「いつかきっと、この公園で、また昔みたいに皆で遊べる日が来るから。凛ちゃんも、桜ちゃんも、もとの姉妹に戻って……。だから、葵さん。貴女はもう泣かなくていい」
そう言い残して、雁夜は去って行った。
残された葵は凛を抱きしめる。
「雁夜くん……あなたは、死ぬ気なの? 時臣を殺して……」
その瞳から涙が零れ堕ちる。と、その時凛が目を覚ます。
「ん……お母様……?」
「凛……! もう、心配したんだから……!」
葵は目に涙を浮かべながらも、優しく微笑み凛を抱きしめる。
凛は安心からか何度も謝りながら涙を流すのだった。
「綺礼様。遠坂葵様、凛様はこのままで大丈夫でしょうか?」
間桐雁夜の状況を観察していた疑似サーヴァントが、教会にいる綺礼に尋ねる。
「構わない……。引き続きアサシンのマスターを、監視するように」
「かしこまりました」
「アサシン。この戦い絶対に勝ち抜いて、聖杯を持ち帰るぞ。あの人たちに、もうあんな顔はさせたくない……!」
雁夜は凛を救い、葵と再会したことで決意を新たにしていた。
「はい、もちろん。そのために私は召喚されたのですから」
霊体化したまま柔らかい口調で返すアサシン。
「ところで、あの方が雁夜さんの想い人なのですか? 清楚で美しい方ですね」
「……昔のことだ。今の俺は桜ちゃんをあの人に返してあげたいだけだ……。あの人がもう、泣かなくていい世界を……!」
その言葉を聞いた彼女は、ふふっと笑う。
「なんだ、まだお好きなんですね」
「茶化すなよ……」
そんな会話をしながら、間桐雁夜と彼のサーヴァントであるアサシンは夜の闇を歩いていく。
(雁夜さん、あなたは優しい人ですね。でも気付いていますか? あの女性……あなたの最愛の女性は、あなたが憎み、殺そうとしている遠坂時臣の妻です。あなたが聖杯戦争に勝利するということは、遠坂時臣は生きていないということ……。雁夜さん、あなたが言う"昔みたいに皆で遊べる日"、"あの人がもう、泣かなくていい世界"がその先にあると、本気で思っていますか? 愛する夫、遠坂時臣を殺されたあの女性は、笑っていると……そう思いますか?)
「どうしたアサシン、ずっとこっちを見て。体の調子なら、今は大丈夫だ。お前の作る薬のおかげでな……」
雁夜の言葉を聞いたアサシンは、いつものように微笑む。
「そうですか、それはよかったです。辛くなったら言ってくださいね? マスターが力尽きてひっそりと退場だなんて、私嫌ですから」
「当たり前だ。俺たちは最後まで戦い抜く……!」
(そう……最後まで一緒に戦います。マスター、それがあなたに召喚されたサーヴァントである私の使命です。この聖杯戦争に無理をして参加した時点で、勝っても負けてもあなたは……。だからこそ、私はあなたの味方です。あなたのサーヴァントとして、最後まで……)
アサシンは心の中で誓い、雁夜の隣を歩き続けるのだった。
その日の夜、衛宮切嗣不在のアインツベルン城にライダーがやって来る。
彼はセイバー、アーチャーと王による聖杯問答を行うためにやって来たのだという。
王たちがそれぞれの王道について語るなか、それを邪魔する影があった。
バーサーカーの娘、最後の生き残りであるダニエラである。
『ダニエラ、集まっているサーヴァントを皆殺しにしなさい! ここには冷気を扱うランサーも、腹立たしい薬を使う憎きアサシンもいない! あなたを止められる者はいないわ!』
「はい、お母様! お姉様たちの仇、必ずやこの私が!」
彼女はこれまでよりも時間をかけて、準備していた化け物を総動員してやって来る。
「素敵な王様たちの語らい……私も混ぜてくれない?」
「うぅむ……。混ざるのは構わんが、その人ならざる者たちはご遠慮願おう」
ダニエラの提案にライダーは答える。
「まぁ酷い。……私の可愛いペットちゃんたち! あそこにいる悪い王様たちを殺しちゃって!」
ダニエラがそう言うと、彼女の背後から大量の化け物たちがさらに押し寄せるのだった。
最終的に300体ほどの化け物が押し寄せたが、ライダーは宝具「王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)」を開帳し、それを迎え撃つ。
固有結界を展開し、かつての盟友たちが集うなか、ライダーはライダーの軍勢に指示を飛ばしながら自らも宝具を展開させる。
展開されるのは、晴れ渡る蒼穹に熱風吹き抜ける広大な荒野と大砂漠。障害となるものが何もない地形に敵を引きずりこみ、彼が生前率いた近衛兵団を独立サーヴァントとして連続召喚して、数万の軍勢で蹂躙する。
ダニエラが呼び出した化け物は300体、対してライダーの元に集いし数万の軍勢。結果は火をみるよりも明らかであった。
あっという間に数を減らされていくダニエラ側。ダニエラ自身に攻撃は通らないかと思われたが、やはりこれだけの軍勢、中に冷気や氷の伝承を持つ英霊も含まれていた。
その冷気によって、ダニエラの体は徐々に凍りつき、その動きを止めていく。
「そんな……どうしてこんな……」
ダニエラの体も砕き割られ、ライダーが剣を突き上げると勝利の歓声が上がるのだった。
聖杯問答は終わり、ライダー、アーチャーと去って行く。この件はセイバーの心に、のちのちまで続く強い葛藤を刻み込むこととなるのだった。
「おのれ! あぁ、ダニエラ……私が迂闊だったわ! 自らの身体に回る毒の苦しさに、あなたに無茶をさせてしまった!」
バーサーカーは、自身の毒に蝕まれながらも、娘ダニエラを失った悲しみに打ちひしがれる。それと共に復讐心が沸き上がる。
「絶対に許さないわ、ライダー……ッ! 私の娘をよくも! 必ず復讐してやるわ……! そして聖杯を手に入れて……!」
バーサーカーは怒りに燃えて、立ち上がる。その目は狂気に満ちていた。
「行くわよ! 龍之介! 今すぐにでも、決着をつけてやる‼」
「ああ、行こう夫人。夫人の怒りが世界を焼き尽くすんだ!」
こうしてバーサーカーとマスターの龍之介は、最終決戦へと乗り出すのだった。
先ほどの戦いを実は近くで監視していた、疑似サーヴァントから映像を得たキャスターはライダーの宝具に舌を巻く。
「うわ~、やっぱり強いな~! ボクでもあそこまでの数はどうこうできないよ! あの時、戦いを避けたのは正解だったかもね~ッ!」
満面の笑みではしゃぐキャスター。
「まぁいっか! どうせライダーとは戦うつもりは無いし! ボクの狙いは、セイバーだし~!」
そう言うとキャスターは、不気味に微笑むのだった。
「……やはり私との約束を破っていたか、キャスター。その疑似サーヴァントは他と製法が違うな?」
彼女の背後から声をかけたのは、マスターである言峰綺礼だった。
「あ、キレイキレイ! な、なんのことかな~ッ?」
綺礼が鋭い視線で見つめていたのは、台座の上に眠る少女だった。キャスターは視線を逸らして、頬を掻く。
「とぼけるのはよせ、キャスター。その疑似サーヴァントには、人間の体が使われている……少なくとも5人程度のな……。これは明らかに私、いや……我が師である遠坂時臣氏との約束を破っている。何か申し開きはあるかね?」
キャスターがふざけるのを許さず、綺礼は彼女を睨みつける。
「……はぁ……わかったよ~。……ボクはたしかにその疑似サーヴァントを作るために、バーサーカーの拠点に放置されていた女性や子供の死体を使った……。……ねぇキレイキレイ、ボクを始末するの?」
観念したようにキャスターは全てを白状した。そしていつもは見せない、少し寂しそうな顔で綺礼に尋ねた。
彼の表情は変わらない。
「時臣師は、お前の行動によって彼とアーチャーに危険が招かれると判断した場合は、令呪を用いて始末しろと私に命じた」
そこで一度区切る綺礼だったが、少しの間をおいて言葉を続けた。
「……が、各々のサーヴァントの能力が次第に明らかになり、先刻のライダーのような規格外の宝具を持つサーヴァントも脅威として存在している以上、私はお前の行為には目を瞑ろう」
綺礼はこれまで禁じてきたキャスターが人間の肉体を用いて、疑似サーヴァントを作ることを認めたのだ。
(私は……何を言っているのだ……? 私は、あの清廉潔白な言峰璃正の息子なのだぞ? それが聖杯戦争の勝利のためとはいえ、何たる冒涜的な手段を赦してしまったのか……)
その自分の変化に、彼自身驚きを隠せない。
「許してくれてありがとう、キレイキレイ! 必ず役に立つからね! さて、ちょっと本気出しちゃおうかな――――ッ!」
キャスターはそんな綺礼の変化を嬉しそうに見つめるのだった。
そして、ついにこの冬木市の一番の霊脈である柳洞寺の裏手に作られたキャスターの工房において、彼女の本領が発揮される。
「……本気、だと? さほど興味は無いが、見せてみろ……」
綺礼が言うと、キャスターは楽しそうに敬礼する。
「りょーか~い! "聖隷(スクラヴェライ)"!」
キャスターがそう叫ぶと、目に見える形で彼女の元に魔力が吸収されていく。柳洞寺は冬木最高の霊地であり、そこから溢れ出る魔力を隷属として吸収し自身に取り込むキャスター。
「この地にいる以上、ボクの魔力は尽きないんだよね――――ッ! さぁてどんどん作っちゃおうッと!」
綺礼は大したことのないサーヴァントだと思っていた自分のサーヴァントの秘技に、少なからず感心する。
「なるほど、これがお前の本気か……」
(……キャスターがいれば、時臣師は聖杯戦争において大きなアドバンテージを得るだろう。だが……私は本当にこれでいいのだろうか……?)
そんな迷いを抱きながら、彼はキャスターの溢れ出る魔力を見つめるのだった。
その夜、冬木教会を訪れたのは雨生龍之介だった。
「……こんな夜更けに、何の用かね? 今日はもう祈りの時間はとっくに終わったのだが」
この教会の神父であり、今回の聖杯戦争の監督役である言峰璃正が教会の扉を少し開け、彼に声を掛ける。
「いや俺は別に用事は無いんだけどさぁ。夫人がどうしてもここに用事があるって言うからさ……」
「夫人……?」
龍之介の言葉に不審そうに首を傾げる璃正。と、龍之介の後ろから大柄の女……そう、バーサーカーが姿を現す。
「ごきげんよう、神父様」
そのまま右手で璃正の首を掴み、持ち上げるバーサーカー。
「バ、バーサーカー……は、離せ! 私は、この……聖杯戦争の……監督……」
「そこにいる私のマスターに令呪を渡しなさい! 早く!」
バーサーカーは鋭く長い爪を伸ばし、璃正を脅し、令呪を要求する。
「……こ、断る! 私は、聖杯戦争を最後まで、公正に監督する……。それは……私の……」
「そう……。もういいわ……死になさい!」
バーサーカーは璃正の首を絞め上げて、骨を圧し折るのだった。
絶命した璃正の口から流れてくる彼の血は、バーサーカーの腕を伝い、下がって来る。バーサーカーはその血を舐め取ると、妖しく微笑んだ。
教会という神聖な場において、神の使いである神父を殺害し、その神聖なる者の血を味わうバーサーカーの姿が、龍之介の目にはまるで邪悪な女神に映るのだった。
「……う~ん! 最高に画になる! やっぱ夫人すげぇよ! うん、俺ぁ決めた! 地球丸ごと血を絞り出す夫人が見たい! そのためならどんなことだってするぜ!」
龍之介が興奮気味にそう言うと、バーサーカーは不敵な笑みを返すのだった。
「あ、でもいいの? この令呪ってやつ? これ、もらう前に殺しちゃって……」
「さっき見た通りよ。あの男は令呪を譲る気は無かった……だから殺したのよ。他のマスターに令呪が渡らなければ、それはそれでいいわ」
バーサーカーは龍之介の問いに答えると、彼と共に教会をあとにするのだった。
キャスターの工房がある柳洞寺から戻った綺礼は、父である言峰璃正の変わり果てた姿を目にする。
明らかな他殺であった。その時、綺礼の胸に封印していたある思いが甦るのだった。
翌朝、綺礼は遠坂時臣にそのことを伝える。
「殺された……!? まさか! そんな! なぜ、神父までもが! あってはならない……! あってはならないことだっ!」
時臣は、監督役である璃正の死を前に動揺を隠せない。
聖杯戦争を「成功が約束された儀式」と思い込み勝利を確信していた彼だが、この件で暗雲を感じ始めるのだった。
報告を終え、時臣の部屋を出た綺礼にアーチャーが声を掛ける。
「なぜ時臣に言わなかった?」
彼の言葉を受け、彼に背を向けたまま足を止める綺礼。
「……なんのことだ?」
「憐れな父親だ……。息子を聖人と信じて疑わずに逝ったのだからな。いや……むしろそれが救いか? 父親の死に何の感情も抱かぬのか? 殺されたのだぞ? 少しは悲しそうな顔くらい浮かべたらどうだ?」
アーチャーの含みのある言い方を背に受けながらも、綺礼は再び歩き出す。
「ああ、悔しくてならない」
あまり感情が感じられない口調の綺礼。
「悔しい、か……。それは、自分の手で殺められなかったからか?」
アーチャーのその言葉に思わず振り返った綺礼。アーチャーはすでに霊体化して、その場を去っていた。
その日の夜、出掛けようとするキャスターにアーチャーが声を掛ける。
「キャスターよ、今日はえらく機嫌がよいではないか」
キャスターは笑いながら答える。
「ん~? さっすがギルくん、やっぱりわかるんだ~? ボクね、今からセイバーと戦ってくるんだよね~ッ」
その答えにアーチャーは思わず吹き出してしまう。
「フ、フハハハハ! あのセイバーに単独で挑むつもりか? やめておけ。お前が前回善戦できたのは、セイバーのヤツが消耗していたこと、そしてお前の戦法を知らなかったが故のことだ。ヤツのステータス、そしてあの聖剣には、手の内の知れたお前では敵わんだろうよ」
「いや~、ボクには秘策があるからね――――ッ! 」
キャスターは自信に満ちた表情でそう答えた。
「ほう……、それは?」
興味深そうに尋ねるアーチャーに、彼女は自信満々で答える。
「えっへへッ! それはね~、見てからのお楽しみ!」
そんなキャスターの態度に呆れながらも、アーチャーはどこか楽しげな様子だった。
「まぁよい。我もあの騎士王とやらに興味が出て来たところだったのでな。お前もヤツに負けぬよう、せいぜい励めよ? 我を興じさせてみるのだな。生きて帰ったら、極上の酒を用意してやる」
「いいね~! 張り切ってセイバーちゃんを泣かせちゃうよ~! 今行くから待っててね、アイリちゃん♪」
そんなやり取りをした後、キャスターは軽い足取りで夜の森へと出かけるのだった。