ガチレ〇プからの調教でズタボロにされた恋人を鍛え上げた絶倫ボディで徹底上書きする話 作:かくろう
どこをどう走ったのか、もう記憶がない。
敷地を出る頃には体力を使い果たし、タクシーを捕まえたのが30分も経った頃だったか。
絶望と焦燥が感情を支配し、まだ信じたくない気持ちがせめぎ合って家路を急いだ。
運転手に一万円を投げつけて、お釣りを受け取る時間も惜しんでタクシーを飛び出した。
「ルナちゃん……ッ。クソッ」
エレベーターを昇っていく駆動音が耳鳴りのように脳をガンガンと揺らしている。
やがて到着した自分の部屋の扉。開くのが怖かった。
だけど向こう側で待っている加奈ちゃんにも、説明せねばならない。
桜子様から説明を受けているのかどうか。
「ただいま……」
「克明君ッ」
「えっ……?」
玄関の扉を開けた瞬間、俺の胸に飛び込んできた女の子。それはよく知っている感触であると共に、失ってしまったと思っていた感触でもあった。
「ル、ルナちゃん? ルナちゃんなのっ⁉」
「うん。まだ、消えてないよ」
「本当に? ルナちゃん、本当に?」
訳が分からないが、まだルナちゃんは消えていなかった。力の限り抱きしめて感触を確かめると、俺の知っているルナちゃんに間違いなかった。
「ルナちゃんッ。良かった。消えてしまったかと思ったッ。良かった。本当に良かった」
「克明君。中に入って。紗綾様が待ってる」
「紗綾様が?」
「うん。説明するから」
安心と怒りが入り交じった複雑な感情が心を支配して涙が止まらなかった。
だけどルナちゃんは俺の手を引っ張って中へと連れて行く。
扉の先に待っていたのは、ソファに座る紗綾様と、その足下でうな垂れている桜子様の姿があった。
一体これはどういう状況なんだ?
「志藤さん。お待ちしておりました。まずは、我が家の者達が働いた無礼をお詫びいたします。大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」
「紗綾様…これは一体…。説明を、お願いできますか?」
「勿論です。桜子、さあ、志藤さんに謝りなさい」
「桜子様…」
「……」
桜子様は床にうな垂れて動かなかった。しかしその姿は愛沢副社長と同じく、悲しみに暮れてさめざめと泣いているではないか。
「桜子ッ」
ビクッ
震える姿は親に叱られた幼い少女のように儚い。愛沢副社長と同じ目的でここに来たとするなら、その心情は何となく想像することはできる。
「謝りません……」
「え……」
「わたくしは謝りませんっ! 隆行さんの命を救う為ですものっ」
「あなたは……」
「ある程度のことは、愛沢副社長から聞いています。桜子様が謝るかどうかは、この際重要じゃありません。紗綾様、ここで起こった事を詳しく話して頂けますか」
「分かりました。桜子には後でよく言い聞かせます」
◇◇◇
「なるほど……ひとまず助かりました」
紗綾様いわく、やはり桜子様がルナちゃんを消しにここへやってきたらしい。
ルナちゃんは説得され、一度は消えることを承諾したという。
しかし、ギリギリのところでやってきた紗綾様によって、それは阻止されたようだ。
「隆行さんは、全ての苦しみを背負って逝くことを決意されました。我ら篠宮、奉龍院の者達は、そのご意志を尊重せねばなりません。それがあの御方に仕える者の勤めです」
紗綾様の手は震えている。きっと辛いのだ。当然だろう。立場が逆なら、俺はきっと桜子様と同じ事をしたのだから。
そう考えれば、彼女達を責めることもできなかった。
気持ちは痛いほど分かるのだから。
互いが互いに大切な人を救いたいという思いでやったこと。
少しだけ自分が恥ずかしくなった。篠宮会長が死んでも、俺には関係ないと思ってしまった自分を恥じるべきだろう。
「どうにか、ならないんでしょうか。俺がルナちゃんを失いたくないように、あなた方も大切な夫である会長を救いたい。お互いに思いは同じ筈です。ルナちゃんの憎しみをゆっくり浄化するのでは間に合わないんですよね」
「はい。本来であれば間に合う筈でした。しかし、先日の加奈子さんの感情の爆発が呼び水になって、その憎しみの許容量は限界を超えてしまったのです」
「先日の……感情の爆発……。それってもしかして」
「報告によれば、元店員の結婚。そして妊娠。そのことに加奈子さんは酷く心を痛めていたと聞いています。そのことです」
そんな事まで把握しているのか。見守られていると思うべきなんだろうけど、下手をすれば監視と変わらないな。
「お心は理解できます。ご不快なのは承知でやっていることですので……本来は気付かれずに完遂することができれば良かったのですが」
「実際、いま伝えていただかなければ気が付いていませんでしたので。この際それは不問としましょう」
俺はルナちゃんの手を握り、その奥で泣いているであろう加奈ちゃんを気遣った。
今の彼女はルナちゃんの状態だ。加奈ちゃんは、まだ寝ているのだろうか。
よほどショックだったのだろう。
「これからの事ですが、俺は篠宮会長が死んでも構わないとは思っていません。いえ、正直申し上げればさっきまでは思っていました。でも……」
「思いはお互い様と言うことです。でも、未来ある若者の為に体を張るのが年長者の務め。夫ならそう言うでしょう」
桜子様の方を見る。支配者然としていた威厳を保っていた彼女も、最愛の人が死の淵に立たされている今の状態では見る影もない。
その姿を見て、会長が死んだってルナちゃんが助かるのなら、とは到底思えなくなっていた。
「なんとか両方を救う手立てはないものでしょうか」
「それがあれば、私達は迷いなく選ぶでしょう。しかし、隆行さんがあの選択をした以上、それ以上の答えは存在しないのです」
「……」
「どうか気にしないでください。我が夫、篠宮隆行は最後まで高潔なる人類の救い手でした。そして最後に、恩義ある加奈子さんの為に命を張ることに、何の躊躇いもないと言い残しています。あと数日で意識が戻るでしょう。その時はお呼びいたします。他の女性達が余計な事をしないように私が目を光らせておきますので、どうか安心してお過ごしください」
しかし、俺達の気持ちは晴れないままだった。結局会長を犠牲にすることで生き延びることになってしまったルナちゃんの心は、犠牲を決意していただけに複雑だった。
「ルナちゃん……」
「サヨナラするつもりだった。覚悟はできてた筈なんだけど……、今凄く安心してる。克明君に会えなくなるのが、凄く寂しくて、悲しかった」
「……」
「私、やっぱり消えなくちゃいけない存在なのかもしれない。誰かの犠牲の上に生き残っても、未来で、きっと笑えない」
「そんなことっ」
「誰も死ななくて済むなら、それが最高。だけど、篠宮会長は多くの人にとって必要な存在なのは間違いないよ」
「でも俺にとっては、ルナちゃんを失うことと天秤に掛けることなんてできないよ。加奈ちゃんだってきっと望まない」
「ううん。加奈子はきっと私に賛成する。だって加奈子は私だから……。誰かの犠牲の上に立って、それで生き延びても、きっと笑えない……。本当の意味で、幸せにはなれない」
「会長がルナちゃんの苦しみを受け止めるのをやめてくれれば解決するのに。彼はそれを選ばない」
「私達が憎しみを克服しないと、会長は助からないんだよね。どうすればいいんだろう……」
「数年間の苦しみを、たった数ヶ月で克服しようって方が無茶なのに……。いや待て……そうか。紗綾様」
「どうしました?」
「会長が引き受けている加奈ちゃんの苦しみを、俺が肩代わりすることはできませんか? 会長が意識を失っているなら、その隙に」
「なるほど。しかし、普通の人間においそれとできる事ではありません。覚悟はおありですか? 自分が苦しむのとは意味合いがまるで違いますよ?」
「そんなもの、とっくの昔にできています。加奈ちゃんの苦しみを肩代わりできるなら、こんなに嬉しいことはない。俺は常に考えていた。ずっと彼女の苦しみを変わってあげられたら、どれだけ良いだろうって」
「克明君ッ」
「俺は、どんな苦しみにも耐えます。いえ、例え発狂してでも、ルナちゃんと加奈ちゃんの苦しみが少しでも減るなら、それが一番いい」
「分かりました。確かにそのアイデアは、隆行さんは賛成なさらなかったでしょう。それをする必要もなかった。しかし、この極致に立ってそれを選択できることに、私自身昂揚しています。とても有り難い……。実は、その選択は隆行さんから固く禁じられていたのです」
「そうでしたか。どこまでも、他者の為に体を張ることにためらわないのですね、あの方は」
「そうです。人としてとても尊敬できます。ですが、妻として、彼のパートナーとしては、とてももどかしかった。だから深雪さんや桜子のやったことを、私は強く責める事はできません。やりましょう」
「はい。今すぐにでも」
「しかし、正直どのような弊害があるか、私には想像も付きません。ミルフィ以外で加奈子さんの気持ちを本当の意味で理解することが出来るものはいないので、どれほどの苦しみなのか……」
「それは俺も同じです。だけど、もう加奈ちゃんとルナちゃんだけが苦しんでいる現状が嫌なんです」
「克明君……」
俺の手を握るルナちゃんに身を寄せる。どうやら加奈ちゃんも覚醒し始めたらしい。
いつの間にか2人の割合が半々になっていた。
「正直言えば、俺は嬉しいです。やっと加奈ちゃんの苦しみを体で理解してあげられる。ずっともどかしかったから……」
「分かりました。では、今すぐにでも始めますか?」
「はい。お願いします」
「待ってくださいッ」
覚悟を決めて臨もうとした矢先、加奈ちゃんからストップが掛かる。
「ルナちゃん?」
「今日だけ、いえ、あと数時間だけでいいです。時間をくださいませんか?」
「どうしてですか?」
「口では、上手く説明できません。ただ、今は克明君との時間が欲しいんです」
「いいでしょう。しかし、明日にも隆行さんが目を覚ますかもしれません。準備ができたらすぐに呼び出してください。私達は隣のミルフィの部屋で待機しておきます」
「分かりました。お心遣いに感謝いたします」
「いいえ、私達も、主人の意に反しての行動をするのです。できる事は全てやりたい。全ての可能性を高めて臨みたいのです。どうか、よろしくお願いします……」
そう言って紗綾様は、桜子様を引き連れて帰っていった。
残された俺と加奈ちゃんは、強く握りあっていた手を離し、体が砕けるほど力を込めて抱き締め合っていた。