魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
街に入った2人は、中心部にある広場を目指していた。
やたらとじろじろ見られるのは、パナデリアがでかい剣を担いでいるせいだと思っていた。
布を巻いてはいるものの、その大きさだけで目立つものは目立つ。
だが、どうやらそれだけではないようだった。
道行く人のほとんどが、警戒の目で見てくる。
街全体がぴりぴりしている。
「なんだか様子がおかしいですね……」
パナデリアもそう感じたようだ。
「食料が豊富で平和な街だと聞いていたんだがな」
道行く人はちゃんと服を着ているし、栄養状態も悪くなさそうだ。
しかし、人の雰囲気はスラムのそれに近い。
「だからこそやりがいがあるとも言える」
広場についたレックスはにやりと笑う。
「剣の布をとってくれ」
「ここでですか?」
パナデリアは周囲をきょろきょろと見回した。
直径10メートルほどの円形広場には、20人程度の人々が行き来していた。
ちょうど昼時だけあって、老若男女様々な人がいる。
パナデリアが剣に巻いた布を取ると、それを見たスキンヘッドの屈強そうな男が目を丸くした。
しかしすぐに鼻で笑う。
ハリボテだとでも思ったのだろう。
広場の隅には木で組まれた小さなステージがある。
街の有力者が演説したり、連絡係が内容を読み上げたりする場所だ。
さすがにあそこを使うわけにはいかないので、広場の中心に並んでいる石のベンチを使うことにする。
「こほんっ……」
ベンチの上に立ったレックスは咳払いを一つ。
さすがにちょっと恥ずかしい。
「さあさあみなさん、お立ち会い!」
レックスの大きな声が広場の先の路地まで響く。
すぐそばでひかえていたパナデリアは驚いた顔でレックス見る。
「種も仕掛けもないこの大剣! 美人女騎士が軽々と扱って、最高の剣技をお見せしましょう! すごいと思ったらお代をおいてってくれよ! 銅貨がなけりゃパンでもいいからな!」
「び、びじん……」
照れるパナデリア。
「どうせハリボテだろー!」
さきほどのスキンヘッドがニヤニヤとヤジを飛ばす。
「やあやあそこの旦那! そう思うなら持ってみるかい?」
レックスがパナデリアに目配せする。
彼女は大剣の柄を男に向けた。
男が柄を手に取り、パナデリアが手を離すと……。
ズシン!
派手な音を立てて、男の手から大剣が滑り落ちた。
音に引かれて、なんだなんだと人々が注目する。
「は? く……なんだこれ……重てえ……」
男は大剣を持ち上げようとするが、地面から浮かすのが精一杯だ。
「おわかりいただけましたかな?」
レックスがパナデリアに視線を送ると、彼女はひょいと大剣を持ち上げた。
レックスの視線から察したのだろう。
彼女はちょっと恥ずかしそうにしながら、大剣を高速でぶんぶん振り回し始めた。
広場からどよめきがおきる。
「う、うそだろ……」
スキンヘッドの男は額の汗を拭きながら驚いている。
「それじゃあここでちょいと芸をひとつ」
レックスは近くに落ちていた拳よりも少し小さな石を拾う。
拾った石を近くの人たちにしっかり見せ、自分の剣の柄でコンコンと叩く。
「(こいつを投げるから剣の刃で打ち上げてくれ)」
小声の指示にパナデリアは頷く。
軽く放り投げられた石は、パナデリアの切り上げにより、天高く舞い上がった。
鉄と石だ。
本来なら石のほうがたまらず砕けるほどの速度である。
よほどの腕がなければできない芸当だ。
今度はレックスの番だ。
鞘から抜いた剣を天高く突き上げる。
落ちてきた石は少し傾けられた剣の切っ先から刃を伝って滑り落ちる。
石が地面に落ちる前に剣を水平に構え、刃の上で石を静止させる。
「「「おおおおぉ……」」」
集まった人だかりからどよめきがあがる。
その人だかりをみて、また人が集まってくる。
レックスは刃の上で石を転がし、十分に人が集まってきたのを確認すると、手首のスナップだけで剣から石をひょいとパナデリアのもとへと飛ばした。
大剣によって、石は再び空高く舞い上がる。
レックスは腰だめに剣を構え、目の高さまで落ちてきた石の前で何度か剣を振り抜いた。
常人には何度切ったかも見えないほどの高速剣技である。
「おっと」
地面すれすれでレックスが石をキャッチする。
高く掲げられた石は、きれいな正八面体になっていた。
「「「おおおぉ……」」」
ちょっとした歓声が上がる中、腕に覚えのある者達ほどその驚きを隠せないでいた。
「す、すげえ……どんな達人でも真っ二つにするのがせいぜいだろ……。普通にやったら石が剣に弾かれて終わりだぜ……」
スキンヘッドの男が羨望の眼差しでレックスを見つめている。
「銀貨一枚でどうだ?」
レックスは男に、正八面体になった石を差し出した。
「か、買う!」
「まいどあり!」
思ったよりあっさり売れた。
2人なら、1泊の宿と2日分の食事代くらいにはなる金額だ。
「見応えがあったと思ったら、ちょっとでいいからお代をおいてってくれよ!」
レックス達の前に数枚の銅貨が投げられる。
「レックス……なんだか慣れてません……?」
前世の新人社員研修で無理やりやらされた行商人のマネごとのおかげだとは、口が避けても言いたくないレックスだった。
「何をしている!」
怒鳴り声をあげて広場にやってきたのは街の衛兵だ。
「逃げるぞ!」
レックスは銅貨を拾いパナデリアの手を引く。
「え? あ、はい!」
レックスとパナデリアは、散り散りになる人々に紛れ、広場から逃げ出した。
広場から十分に離れた路地で、二人は一息つく。
「王国騎士団団長が衛兵から逃げることになるなんて……」
しゅんとするパナデリア。
「でもちょっと楽しかっただろ」
あっけらかんというレックスに、パナデリアはくすりと笑う。
「はい。とりあえず宿代は稼げましたね」
「目的も果たせたはずだ」
「目的?」
首をかしげるパナデリアに、レックスはただ「あとのお楽しみだ」とだけ答えるのだった。
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