魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
ロウソクの明かりに照らされた食卓には、たっぷり野菜のスープとパナデリアの焼いたパン、そして水で薄められたワインが並んでいる。
「こんなものしか出せませんが……」
恐縮するエレナに、パナデリアは首を横に振る。
「屋根の下で温かい食事がとれるだけで十分です」
「ああ、美味いな」
パンを一口かじったレックスを、パナデリアがはっとした顔で見る。
レックスはすでにハイオルムへと変わっていた。
見た目がレックスのままなのは、魔術によって姿を変えているからだ。
パナデリアはたった一言で、それに気づいたのだ。
夜になっても姿が変わらないからおかしいと思っていたパナデリアである。
レックスの中に魔王がいることは、できるだけ知られない方が面倒が少ない。
彼女もハイオルムに合わせることにした。
レックスに食べて欲しくて焼いたパンが、無駄になってしまったのは悲しかったが。
「2人は付き合ってどれくらいなんですか? 結婚の約束はした?」
エレナがにやにやとパナデリアを見ている。
「つ、つきあってなんてません」
パナデリアはちょっと照れながら、パンを口いっぱいに頬張った。
「えー? でも二人で旅をしてるんでしょう? 家族や親戚でもないのに」
「ほ、ほれはほうなんれふが……ごくん。これには事情が……」
「事情って?」
エレナは興味津々。すっかり打ち解けている女子二人である。
「私が彼の旅に無理やりついてきたといいますか……」
「ちょっとレックスさん! こんなのもう、求婚されてるのと同じじゃないですか!」
「うむ。愛されておるな」
鷹揚に頷くハイオルム。
「あ、あれ? なんだかさっきまでとキャラが違いません?」
「ワインに酔ったのよ! ねえレックス」
「このような薄いワインで酔ったりはせぬ」
「う、薄くてごめんなさい……」
「だ、大丈夫! 美味しかったわよ! ちょっとハ……レックス!」
「うむ、パナデリアと飲むワインはどんな美酒にも勝る」
「ふぇ……ち、ちがう……こいつはレックスじゃない……」
中身がハイオルムだとわかっていても、レックスの顔でそんなことを言われては、真っ赤になってしまうパナデリアである。
「何をぶつぶつ言ってるんです?」
「ふっ……」
小さく鼻で笑うハイオルムを見たパナデリアは、眦を釣り上げる。
「あんた……わかってて……」
「パナデリアさんまで様子がおかしく……」
「な、なんでもありません! ワイン! 美味しいですね!」
パナデリアはワインをぐびぐびと飲み干す。
「あっ! いくら薄いと言っても、そんなに一気にのんだら……」
「あれぇ……わたし……お酒は強いはずなのに……」
パナデリアの目がとろんとし、ふにゃふにゃと背もたれによりかかる。
そのまま、小さな寝息をたてて眠り始めた。
「疲れが出たのかもしれませんね。お二人のお部屋は別にしてありますから、どうぞこちらへ」
「うむ」
ハイオルムはパナデリアを背負い、案内されたベッドへと寝かせた。
客間なのか、兄の部屋なのかはわからないが、しばらく使われた形跡のない部屋だ。
「レックスさんの部屋はあちらです。もうお休みください。わたしは食器を片付けちゃいますね」
廊下の突き当りのドアを指さしたエレナはそそくさとキッチンへと戻って行った。
ハイオルムが案内された部屋は、パナデリアのそれよりも生活感のあるものだった。
とはいえ、裕福なわけではなく家具は最低限だが。
キッチンからの音が聞こえなくなったのを確認すると、ハイオルムは夜の街に出るべく、ベッドから立ち上がった。
――コンコン。
その時、ドアがノックされた。
「エレナです。起きていますか?」
「ああ」
ゆっくりドアが開き、遠慮がちにエレナが入ってくる。
風呂代わりに体を拭いた後なのだろう。
少し日焼けした肌が、ろうそくの炎に健康的な艶を出している。
夕食時とは違い、薄布を一枚身につけただけの彼女は、素肌が透けて見える。
「ここ、わたしの部屋なんです」
「我は隣の部屋であったか」
「いいえ、あっています」
そう言って、エレナはハイオルムの胸に飛び込んだ。
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