魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
朝食は昨日のパンの残りと、野菜と豆のスープだ。
肉こそないが、具がごろごろ入ったスープを毎食出せるあたり、さすが農耕で有名な街だけはある。
「よく眠れましたか?」
エレナが眠たげながらもつやつやした顔でパナデリアに訊く。
「信じられないほどぐっすりと。このあたりの夜は静かなんですね」
「なぜです?」
「私、小さな物音で目が覚めるのですが、久しぶりに朝までぐっすりでした」
「そ、そうなんですね……」
エレナは少し気まずそうにはにかんだ。
「あらレックスさん、口もとにスープが」
エレナはテーブルから身を乗り出すと、レックスの口元を指で拭き、その指をぺろりと舐めた。
「む……?」
距離感の変わりように、レックスはとまどう。
「え? え?」
それ以上にとまどっているのがパナデリアだ。
彼女はエレナの胸元にキスマークができているのを見つけた。
実家のお客さんに「あざができてますよ」と何気なく言ってしまった時のことを思い出す。
思わずレックスを睨んでしまうが、すぐにハイオルムの仕業だと思い至った。
「うぅ……」
パナデリアは文句を言うこともできず、目をぐるぐるさせながら、スプーンをスープにつけたり出したりと所在ない動きをしている。
そんなパナデリアを見たエレナは、こっそり口元だけで勝ち誇った笑みを浮かべた。
「パナデリアさんが眠った後、レックスさんにお話ししたのですが……」
「な、なんでしょう……」
戦々恐々とするパナデリアを見て、エレナはくすりと笑う。
「わたし、この街の自警団に入っているんです」
「どうりで……」
「え?」
「少し訓練された歩き方をしていたので」
「わかるものなんですね」
エレナの顔がわずかに曇った。
その表情にパナデリアは首をかしげたが、エレナは続ける。
「お二人の腕を見込んでお願いがあります。少しの間でいいんです。自警団を助けてもらえませんか?」
パナデリアとレックスは顔を見合わせた。
「お二人の腕前は、助けていただいた時と、広間で見ました。これからこの街でよくないことが起きるという情報があるんです。どうかお願いします……」
エレナの真剣な表情に、レックスとパナデリアは目を合わせる。
「少し二人で相談させてほしい」
「もちろんです」
レックスの申し出に、エレナは頷いたのだった。
パナデリアの泊まった部屋で二人は相談をしていた。
「オレは受けてもいいと思う」
「それはエレナさんがかわいらしいから?」
つい口にだしてしまってから、パナデリアはしゅんとした。
「ごめんなさい。いじわるを言いました」
「人の助けになって路銀が稼げるんだ。いいことだろ?」
レックスはパナデリアの頭を撫でながら優しく言った。
一緒に旅をする男が、夜は「あんな」なのだ。
別人格だとしても、心穏やかではないだろう。
キッチンで心は決まっていたレックスだが、パナデリアのケアをするため、こうして二人で話すことにしたのだ。
「貴族に使われるより、ずっといいことです」
パナデリアは自分の髪に触れるレックスの手をにぎりながら微笑んだ。
「そうと決まれば武具をそろえ……るのにもお金がいりますね……」
軽装鎧を身に着けたパナデリアはともかく、レックスの方は普段着である。
彼ほどの腕があれば、鎧などなくても問題ないのだが、暗器系の飛び道具などに対応するためにはやはり防具は身につけておくにこしたことはない。
「まあ、おいおいそろえていけばいいさ。危険な仕事を受ける前にな」
「そういうのも楽しみの一つ、ですね?」
「わかってきたじゃないか」
こうして笑い会える時間を何より大切にしたいと思うレックスだった。
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