魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
結局、エレナとカイユンはその場にいた使用人達のほとんどを斬り殺した。
5人ほどが生き残った理由は簡単で、エレナ達の剣が折れ、力尽きたのだ。
血の海となった廊下にへたりこんだ二人を置いて、ハイオルムはクリムの部屋へと戻る。
「さて……」
ハイオルムは壁にかけられた鏡の前に立ち、指先で触れる。
すると、鏡の表面に白い靄が立ち込めたかと思うと、瞬時に消えた。
「ほう……なかなかの使い手だな」
「その鏡がどうかしたの?」
珍しく難しい顔をするハイオルムにパナデリアが尋ねる。
「かなり強力な魔術のかけられた鏡だ。かけた者を探知できないようにもしてある」
「あなたでも探知できない?」
「そこが問題だ。これほどとなると限られるが……」
ハイオルムは眷属にしたメイドを手招きする。
メイドは音もなくハイオルムに近づき、頭を垂れる。
「この鏡の入手先はわかるか?」
「国境近くにあるリーモの街で購入したものです」
「パナデリアよ、レックスに伝えておけ」
「言われなくてもそうするわ」
ハイオルムとパナデリアのやりとりに疑問をはさむ者はいない。
「クリムはどうするの?」
「こいつには娼館で働いてもらうとしよう。領主としての仕事は、眷属たちがいれば可能だろう。それに……」
ハイオルムがパチンと指を鳴らすと、廊下で何かが蠢く音がした。
「う……うおぉ……」
エレナ達に殺されたはずの使用人達があげている。
からだあちこちはちぎれたまま、虚ろな目で立ち上がる。
「アンデッド……」
「この者達にはふさわしい末路であろう?」
「そうね……」
先ほどまで使用人達に怒りをにじませていたパナデリアは、物言わなくなった彼ら哀しそうな顔で見つめた。
「クリムは娼館に売れ。決して逃げられぬようにし、売上は貴様たちが管理しろ」
「承知しました」
「そんなぁ! あなたに抱いてほしいのぉ!」
「満足できぬ男たちに毎夜玩具のように抱かれ続けるがいい」
「いや! いやよぉ! いやあああ!」
叫び続けるクリムに同情する者はいない。
「こいつを殺すことは許さん。それが我を謀った罰だ」
ハイオルムの言葉に、エレナとカイユンは無言で頷いた。
この日、領主の屋敷にはクリムの叫び声が朝まで響いたという。
――翌日。
レックスとパナデリアは旅支度を終え、街の入口にいた。
エレナとカイユンが見送りにきてくれている。
「もう少し滞在したら? お礼もお詫びもできないし……」
エレナが申し訳なさそうな顔で、レックスの顔を覗き込む。
「目的もできたことだし、行くよ」
レックスはいつもの優しい笑顔で言った。そこには、有無を言わさぬ迫力もあった。
「世話になった。もしまた近くに来ることがあったら必ず寄ってくれ。その時こそ礼をしたい」
カイユンの差し出した手をレックスが握り返す。
「礼なら、この鎧で十分だ」
レックスはカイユンにもらった鉄製の軽装鎧をコンコンと叩いた。
「それで気がすまないなら、今度この街に来た時にパナデリアにパンを焼かせてやってくれ」
「もちろんだ。一番いい小麦を用意して待ってるよ」
「それって、私だけ労働じゃないですか?」
パナデリアがわざとらしく頬を膨らめせてみせる。
「よしじゃあオレが焼こう」
「うそうそうしですよぉ!」
「オレが焼くと焦がすって?」
「私が焼いたパンを食べてほしいからですって」
「わかってる。また来よう」
「はい!」
「こりゃあ、次に会う時は夫婦かもなあ」
カイユンの軽口に、レックスとパナデリアは頬をかきながら視線を明後日の方向に逸らすのだった。
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