魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
レックスとパナデリアは今日も並んで街道を歩いていた。
ゴブリンの巣から女達を助けて以来、不運なことに目的地に向かった馬車と出会うことがなかった。
そんなわけで、まもなく日暮れである。
「レックス、また明日……」
パナデリアは名残惜しそうに、隣を歩くレックスの手を握った。
「ああ、また明日」
レックスもそれに微笑みで応える。
二人が見つめ合っていると、太陽が山の向こうへと沈み、夜が訪れると同時にレックスの姿が変わる。
それを見たパナデリアはレックスから手を離した。
銀の短髪は黒の長髪に、碧眼は黄金に。
丸みのあった耳は、エルフのように鋭角に。
固く引き結ばれた口元は、鋭い牙が覗く不遜な笑みに。
そして、大量の魔力が溢れ出す。
「こうしてゆっくりと共に時を過ごすのは久しぶりだな」
ハイオルムはパナデリアの肩を抱こうとするが、彼女無視して先へと歩く。
「やれやれ……」
ハイオルムはさして気にした風でもなく、彼女の横に並んだ。
そうして二人はしばらく黙って歩く。
夜の街道は街灯などあるわけもなく真っ暗だ。
少し先に宿屋が見えていなければ、日が落ちる前に野宿の準備をしていただろう。
ハイオルムは魔法で明かりを出し、行く先を照らす。
夜目の効く彼には必要ないものだ。
「…………ありがとう」
それを理解しているパナデリアは、渋々ながらもぶっきらぼうに礼を言う。
「くっくっく……」
それがハイオルムにはたまらなく愉快だった。
レックスが選んだのは、やはりいい女なんだと。
「なによ」
むっすりとハイオルムを睨むパナデリア。
「わざわざ礼を言うとは、律儀だと思ってな」
「バカにしているの? 取り消しましょうか?」
「くっくっく……」
ハイオルムは楽しそうに笑いを噛み殺した。
二人はすぐ宿屋についた。
「おや、お客さんとは珍しいね。それもこんなに美男美女だなんて。あんたらの方が幽霊みたいだ」
出迎えてくれたのは、腰の曲がった老婆だ。
杖をつき、かなりやつれているが、目の奥がぎらりと光っている。
「めずらしい……?」
パナデリアが首を傾げる。
商隊も通る大きな街道沿いの宿屋だというのに、そんなことがあるだろうか?
よほど悪どいことをしなければ、多少ぼったくったところで客は入るものだ。
そもそも、街から遠い宿屋でやりすぎれば、客に殺されかねない。
見たところ自宅を兼ねた宿屋の内装もぼろく、さほど儲かっているようには見えない。
それともう一つ、気になることを言っていた。
「あの……『あんたらの方が』ということは……」
パナデリアが恐る恐る聞く。
「幽霊が出るって噂が立っちまってねえ。みんなこの宿を避けて行っちまうんだよ」
「そ、そうですが……」
パナデリアの顔が引きつる。
「怖いのか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるハイオルム。
「そ、そんなことないわ! ただ……剣で倒せない相手はちょっと苦手で……」
理由が少々物騒なパナデリアである。
「うぅ……レックスがいてくれれば……」
不安げにぷるぷる震えるパナデリアのとなりで、愉快そうにしていたハイオルムは一瞬だけ寂しそうな顔をした。
日頃からハイオルムから目を逸らしがちなパナデリアはそのことに気づかない。
「一泊おいくらですか?」
提示された金額は、相場と比べても安いものだった。
「怖いのなら添い寝をしてやろうか?」
「バカ言わないで」
パナデリアは意地になって、互いにできるだけ離れた二部屋をとったのだった。
街道沿いにポツンと建つ宿屋に娯楽などあるはずもない。
そもそもこの時代、富豪でもなければ暗くなったら寝て、明るくなりはじめたら起きるのが普通だ。
ハイオルムが寝転んでいたベッドから立ち上がり、近くの街までひとっ飛びして女でも見繕うかと思ったその時――。
ヒヤリとした空気が流れた。
部屋の隅にぼんやりと一糸まとわぬ若い女の姿が浮かび上がった。
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