魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
「思い出しました……」
ラーバがそう言うと、彼女の首が真横にぱっくりと裂け、血が流れ出した。
ハイオルムが首に触れると、傷口が塞がっていく。
「話してみろ」
ラーバは悲しげな顔で頷き、語り始める。
「私の両親は冒険者でした。当時12歳だった私は、両親に連れられて、各地を旅していました。
ある日、この宿に泊まったんです。
当時はまだ毎日お客さんが何組かいたようです。
私達が泊まった日、事件が起きました。
食事に毒キノコが混ざっていたらしく、私以外のお客さんが全員倒れたのです。
私はキノコが食べられなかったので、助かりました。
当時夫婦でやっていた宿の主人達もとても驚いていました。
この時はまだ、わざとではなかったようです。
そのまま両親を含めた全員が亡くなりました。
でも、宿の主人達は役所に届けず、彼らを庭に埋めたのです」
「重罪だろう」
「はい。でも、墓を立て、戦いの傷で死んだことにしたようです。その時にはもう、私は地下室に閉じ込められ、客の相手をさせられていたので、聞いた話ですが……」
客の相手とはつまり、強制的に売春をさせられていたということだろう。
「宿の主人達は味をしめたのか、たまに客に毒を盛り、金品をうばっていました。そんな人には当然報いが来ます。
ある日、毒を盛られたことに気付いた傭兵がいました。
その傭兵は自分が死ぬ前に、宿の主人であるお爺さんを殺しました。
次にお婆さんに剣を突き立てようとしたところで、私が盾にされたのです」
ラーバは先ほどハイオルムが治した首のあたりに触れた。
「そこで傭兵に毒がまわりきり、こときれました。
残されたのはお婆さんだけでした。
あれ以来、お婆さんは頭がおかしくなりました。毎晩地下室にため込んだ金品を数えているんです」
ハイオルムが透視の魔術で地下を見ると、ちょうど老婆が硬貨を1枚1枚数えているところだった。
老婆は口元に薄ら笑いを浮かべ、ろうそくの火に硬貨を1枚1枚かざしながら、箱から箱へと移していく。
「恨みはあるか?」
ハイオルムはラーバに問う。
「もちろん」
「殺したいほどに?」
「私は殺されたんですよ? 同じ報いを受けさせたい。でも……」
ラーバは悔しそうに唇を引き結ぶ。
「もう長くない老人が、どれほど自分の行いを悔いるか……」
ハイオルムの経験からすると、ああいった老人ほど生にしがみつくものだ。
「なかなかに良い体を愉しませてくれた褒美をやろう」
ハイオルムはいぶかしげな顔のラーバを連れ、地下室へと向かった。
「なんじゃ!? 鍵はかけておいたはず!」
物理的な鍵など、ハイオルムにとってはないようなものだ。
「世話になった礼に若返らせてやろうと思ってな」
「なぁにを言うとるんじゃ! さっさと出ていかんか!」
ハイオルムは口の中で呪文を唱えると、老婆の額を指でツンとつついた。
すると、老婆の顔からシワが消え、曲がっていた腰はまっすぐになり、肌にはりが出ていく。
「な、なにこれ……」
急速に若返っていく老婆を見て、ラーバが驚く。
「こ、腰が痛くない……これは……若いころのワシ……いや、あたし……」
鏡を見た老婆が、自分の美しさに見とれ、くるりと回ってみせる。
「ゆ、夢か……?」
老婆は自分の頬をつねるという古風な方法で、これが現実化確かめる。
「いたた……夢じゃない?」
「我にかかればこの程度造作もない」
「どなたか知らぬがありがとう! この若さと金があれば、もう一度人生を楽しめる!」
「楽しむ……」
ラーバがギリリと奥歯を噛み締めた。
「喜ぶのはまだ早い。若さを保つには条件がある」
「なに? なんでもするよ?」
すっかり話し方まで若くなっている老婆である。
「他人に奉仕をし続けることだ。財産は全て売り、寄付しろ。仕事で得る賃金は、最低限食っていけるだけにしろ。それを破れば、恐ろしいことがおきる。守れるか?」
「なあに、そんなこと 若さのためなら守るに決まってるじゃない!」
「これが私へのご褒美ですか……?」
ラーバは不満げな顔をハイオルムに向ける。
ハイオルムは魔術を使い、ラーバにだけ聞こえる声で言う。
『老婆にかけたのは、残った命を燃やし、一時的に若返らせる術だ。その代わり、残りの寿命を1000倍の速度で消費する。おそらく、数日のうちにもとの体に戻り、朽ちるだろう』
「なんでそんなまどろっこしいことを……」
『なあに、しばらく見ているがいいさ』
そうして、レックスとパナデリアが宿を後にした。
宿での出来事から3日後の夜。
ハイオルムのもとにラーバがやってきた。
その顔は穏やかながらも満足げだ。
「あの主人は死にました」
「その様子だと、我の言いつけは守らなかったようだな」
「ええ。彼女はすぐ、旅人から奪ったお金で贅沢三昧を始めました。でも、その体が老化を始めると、とたんに懺悔を始めました。心を入れ替えるから助けてくれと。最後は醜く腐っていきました……。あなたはこうなるとわかっていたのですね」
「希望を得てからの滅びは、さぞ苦しかったであろう。溜飲は下がったか?」
ハイオルムは静かに微笑む。
「ありがとう。これで、私も逝ける……」
ラーバは穏やかな微笑みとともに、光となって消えた。
本作は以上で完結になります。
ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました!