魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
女魔術師の炎で、レックスの体は焼けていく。
全身が灰になるのを見届けた女魔術師は、いまだ燃え盛る炎に背を向ける。
「こっちは依頼外だけど、目撃者は消さなきゃね」
追加料金でも請求してやろうかと考えながら、パナデリアに杖を向けたその時、背後に強大な魔力が出現した。
慌てて振り返るも、そこには燃え盛る炎の柱があるだけ。
いや……炎の中に人影が見える。
女魔術師の放った「火葬円陣(クリメイションサークル)」は文字通り、火葬用の魔術である。
高い火力を持つ代わりに、限られた効果範囲と遅い弾速を特徴としている。
動く相手に当たるものではないが、一度その炎に飲み込まれれば、骨まで焼き尽くされる。
何より彼女は、レックスの体が灰になったのを見ているのだ。
「ふははははははははははははは!」
炎の中から男の笑い声が響く。
動揺しつつも大きく飛び退いて呪文を唱え始めたのは、彼女の実戦経験のなせる技だ。
炎がかき消え、中から裸の男が現れた。
体格こそレックスと同じ。
しかし、銀だった短髪は黒の長髪に、碧眼は黄金に。
丸みのあった耳は、エルフのように鋭角に。
固く引き結ばれた口元は、鋭い牙が覗く不遜な笑みに。
そして何より、大量の魔力が溢れ出している。
「空刃槍(ホロウランス)!」
女魔術師は男に迷わず魔術を放った。
岩すら貫く真空の槍だ。
むろん、人の体などひとたまりもない。
不可視のそれを男は手をかざしただけで霧散させた。
「無詠唱で防御魔術を!? 無詠唱なんて理論だけの夢だったはず!」
「防御魔術など使っておらん」
男は小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、気絶したパナデリアにちらりと送った視線を、すぐに女へ戻した。
「ただ魔力をこめて手を動かしたにすぎんよ。このようにな」
男が手のひらを水平に少し振る。
それだけで黒い布ごと女の頬が裂け、髪が一房落ちた。
「な、何かのトリックよ! ナイフでも投げたんでしょ!」
そう言う女自身、わかっていた。
これほど強大な魔力を垂れ流す相手が、ちゃちなトリックなぞ使うわけがないと。
「大岩を動かすのに、人は道具か魔術を使うだろう? しかし、トロルならば素手で持ち上げる。我にとってこの程度の魔術は、トロルにとっての大岩と変わらぬということだ」
男はこともなげに言う。
それがどれほど常軌を逸したことなのか、魔術を学んだ女にとってはよくわかる。
決して起こり得ないことが、眼の前で現実に起きたということも。
「あなたいったい――」
女が問いかけようとしたその時、ずずず……と背後で雪崩のような音がした。
振り返ると、100本を超える木々が、倒れていくところだった。
男のあれだけの動作で、一流の魔術師が放つような威力が発動したのだ。
木々が倒れる地響きと、動物達の鳴き声を聞きながら、女はただ体を震わせることしかできなかった。
「人間とは愚かなものだ。わざわざこのハイオルムの封印を解いたのだからな」
「ハイオルム……夜の……魔王……?」
――100年前。
世界を荒らしまわり、勇者と相打ちになったという魔王ハイオルム。
転生魔術を発動するも、勇者が最後の力を振り絞ってそれを防いだと伝承にはある。
転生を完全に防ぎきれていなかったとしたら?
魔王の魂は転生し、勇者の妨害の影響で、人間の魂に封印されていたとしたら?
その魔王がもし、眼の前にいる男だったら……!
女の体は恐怖に……いや、快楽に震えていた。
ハイオルムの魔力に当てられ、体の奥がうずいてしかたない。
この男の正体などもはや関係がなかった。
眼の前にいる男への欲情が止まらない。
女は股の間からだらだらと愛液を垂れ流しながら、震える手で杖を構えた。
「ほう……抗うか……」
ハイオルムがにやりと笑みを浮かべる。
「仲間を全員殺された上に仕事に失敗したなんて、商売あがったりなのよ!」
強がる女だったが、全身の力は抜け、立っているのもやっとだ。
「目覚めて最初の食事には悪くない生きの良さだ」
ゆったりと一歩のはずが、一瞬にしてハイオルムは女の眼前に立っていた。
「え!?」
ハイオルムは驚く女の覆面を剥ぎ取り、少し厚めの唇に吸い付いた。
「あ……ん……」
たったそれだけで、女の体から完全に力が抜け、くたりとハイオルムの胸にもたれかかる。
「貴様は殺さず、下僕にしてやろう」
ハイオルムの牙が、ゆっくりと女の首筋に立てられた。
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