魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
レックスとパナデリアが森を抜けた頃には、既に日が傾き始めていた。
夕日をキラキラと反射する川が街道からよく見える。
昨日は暗殺騒ぎがあったせいで、これが旅立ってから初めてまともに迎える夜になる。
暗くなる前に河原で火をおこし、魚を捕った。
「もう2匹もつれたのですか!?」
驚くパナデリアだが、魚を捕るのはレックスにとって簡単なことだ。
「泳ぐ魚に剣を刺せばいい」
「そんなことを言えるのはレックスだけです」
「パナデリアもできるように……ならんかもな……」
レックスの視線の先には、テーブル代わりにされた大剣がある。
パナデリアのナイフによって、大剣の上で魚から内臓が取り出されていく。
「家宝になんて扱いを……」
「家宝だなんて。地下室に転がされていただけですよ」
串に刺した魚を火にかけると、パナデリアはひょいと大剣を持ち上げ、川で洗い始めた。
レックスも何度か持ち上げてみたが、重すぎてまともな剣術にはならなかった。
振り回してなぎ倒すだけなら使えそうだが。
「なんで私だけ軽く感じるんでしょね。不思議です」
そう言いながら、大剣をブンブン振り回し、水気を飛ばしている。
「町に入る前に、布か何かをまいておかないと目立ってしょうがないな」
「どこかで調達しましょう」
そんな他愛もないやりとりをしながら、丸太に腰掛け、魚にかぶりつく。
ただそれだけのことが、2人にとってはこの上ない幸せだった。
職を失った不安も、一度前世で過労死しているレックスにとっては、開放感の方が大きい。
一方、パナデリアもこうしてレックスと2人でゆっくり話すだけでこれ以上ない幸せだった。
しかし、その幸せな時間を引き裂く声が聞こえる。
――そろそろ交代の時間だ。
レックスは横に置いていた剣をとり周囲を警戒する。
「レックス……?」
パナデリアはきょとんとした顔でレックスを見上げている。
「敵ですか!?」
すぐに大剣を手に立ち上がる。
「何も聞こえなかったのか?」
「え?」
――くっくっく。
人を小馬鹿にしたような含み笑い。
「ほら今の……」
「……?」
パナデリアは耳を澄ましながら、首をかしげるばかりだ。
――聞こえるはずがなかろう。
――我は貴様の魂(なか)にいるのだからな。
「だ、誰だ!?」
――全身が燃え尽きたはずなのに無事だったこと、疑問に思わなかっただろう?
言われてみれば、のんびり旅を続けている場合ではなかったはずだ。
レックスは昨晩、女魔術師により焼き尽くされたはずなのだから。
――我が目覚める時間まで、魔術をかけておいたのだ。
――混乱せぬようにな。
――そうら日が落ちる。術が解けるぞ。
レックスの体がハイオルムのそれへと変わる。
同時に、レックスの中に昨晩の記憶が流れ込んできた。
――オレの魂に魔王が封じられていたというのか。
「そうだ。貴様が一度死んだことで、封印が解けたのだ。昼は貴様が。夜は我が表に出る。今後、再び死ぬまでな」
2人の人格が完全に入替る。
「くっくっく。入れ替わってしばらくは意識があるはずだ。そこで見ているがいい」
「レックス……? その体はいったい……」
「魔力は抑えてある。この男が大切に想うものは我にとってもそうなのだ。魂を同じくする故にな」
ハイオルムは目を細め、薄い笑みを浮かべる。
「レックスではないな! 何者だ!」
距離を取ろうとするパナデリアの腰がハイオルムによって抱き寄せられる。
「いつのまに!? は、離せ! 不埒者!」
暴れようとするパナデリアだが、その手首を捕まれ、剣をとりおとす。
「くっ……!」
――やめろ! そいつに手を出すな!
「この娘を大切に想う気持ちは同じだと言ったぞ。その想いと魂の強さを誇るがいい。貴様の魂に引きずられ、我もまたそう想わざるをえないのだ」
――はなせ!
「はなせ!」
レックスとパナデリアの声が重なる。
「わめくな。処女は貴様にくれてやる。だが、こちらはもらっていくぞ」
ハイオルムはパナデリアにキスをした。
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