魔力ゼロだからと追放されて死んだら、オレの中の魔王が目覚めて犯りたい放題しやがる(改題) 作:遊野優矢
「貴様……許さぬぞ……!」
パナデリアはハイオルムを殺さんばかりの勢いで睨みつける。
――この野郎!
レックスも体の中で叫ぶ。
ハイオルムの腕の中で、パナデリアはもがく。
「なぜそうも嫌がる? 肉体は同じ。魂も混ざり合っている。表に出ているのがどちらかというだけの話だ」
「何を言っている……?」
パナデリアはもがきながらもハイオルムの言葉に耳を傾ける。
「我はハイオルム。100年前、夜の魔王と呼ばれたヴァンパイアの真祖である」
「そんなわけがあるか! 魔王ハイオルムは勇者に倒されたはず」
「証拠を見せよう」
ハイオルムの体から魔力が溢れる。
「魔術の素養がある者ほど当てられやすい。狂うなよ?」
魔術師は大気の魔力を常に体内へと取り込んでいる。
だからこそ、ハイオルムの放つ魔力を取り入れてしまい、酔うのだ。
「この圧が魔力だというの……?」
パナデリアが顔をしかめ、身震いした。
だが、それだけだった。
魔力の取り込みは魔術の素養のない者であっても、多少は無自覚に行っている。
だからこそ、パナデリアのように魔力を感じることができ、魔術への抵抗力のない者が、なんの反応も示さないはずがなかった。
「貴様……いったい……」
ハイオルムがパナデリアの顎を持ち上げ、その瞳をじっと見る。
顔を背けようとするパナデリアだが、すぐに正面を向かされてしまう。
すると、金色に輝くハイオルムの瞳が碧眼に、長い黒髪が虚空に溶け、銀の短髪へと戻り始めた。
「バカな……まさかこれは……」
驚くハイオルムの体はレックスのものへと変わりゆく。
「パナデリアよ、覚えておけ。貴様がレックスと旅を続けるのなら、日の高いうちに魔術が必要になる時が必ず来る。その時は、レックスに口づけをするのだ」
「何を言って……」
「よいか、ゆめゆめ忘れるな。昼にこの体がもう一度死ねば、2度目の復活はない」
そこまで言って、ハイオルムの意識はレックスと入れ替わった。
「パナデリア……すまない……」
レックスの一言に、パナデリアははっとその瞳を見つめた。
「貴男が悪いわけではありません」
パナデリアはレックスの腕の中からそっと離れ、川でくんでおいた水で乱暴に口をすすぐ。
「ただ、説明をお願いします……」
彼女自身もどうしてよいか分からずにいた。
レックスは昨晩から今にかけて起きたことの説明を始めた。
昨晩、確かにレックスは一度死に、それによって自分の魂に封印されていた「夜の魔王ハイオルム」が復活したこと。
昼はレックスが表に出て、夜はハイオルムが表に出ること。
2つの人格を持つものの、既に2人の魂はまざりあい、切り離せない1人であることをだ。
それに加えて、不確定なことが2つ。
1つは、夜なのにパナデリアのキスをきっかけに人格が入れ替わったように見えたこと。
傷ついているパナデリアを前に訊くことはできないが、もしそうだとしたらなぜなのだろうか。
もう1つは、最後にハイオルムが残した言葉だ。
昼にキスをすると何がおきるというのか。
夜におきたことを考えると、ハイオルムが表に出ると予想されるが、そう名言しなかった理由があるのかもしれない。
「魔王が中に……」
ここで心配げな顔をできるパナデリアだからこそ、レックスは傍にいたいと思うのだ。
「大丈夫だ」
レックスはくしゃりとパナデリアの頭をなでる。
「なぜレックスばかりがこんな目に……」
パナデリアは悲しそうに目を伏せる。
「パナデリアがいてくれるし、そう悪くもないさ」
「レックス……」
頬を染めるパナデリア。
「でも……キスは……しかるべき時にしたいと……あ! いえ! そういう意味では……ないわけでもないのですが……」
パナデリアは顔を真赤にして、口元をもにょもにょさせている。
「交代で眠ろう。オレが先に見張りをしておく」
つられて照れてしまったレックスは、枯れ木を火に放り込んだのだった。
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