評価や感想等頂けましたら励みになるのでぜひお願い致します。
幼馴染達
夢の内容は大抵覚えていない。
なんとなく良かったような悪かったような朧げな感触を残すのみで、それも朝の気配と入れ替わるように零れ落ちて行ってしまう。
「……て……ちゃ……」
今日も、そんな朝だった。
そこに誰かの囁く声が追い討ちをかけ、夢の残滓がさらさらと掻き消えていく。
「ようちゃ……あさ……よ」
それは女の子の声だ。よく聞き慣れている声。
「陽ちゃん朝だよー起きてー」
(……陽ちゃん……誰だっけ?…………あ、俺だ。
名前を呼ばれてる事に気付くと次第に意識が覚醒してくる。
それを後押しするよう身体を揺さぶられ、お陰で薄くまぶたが開いてきた。
既に窓のカーテンは開け放たれ、部屋には朝日が差し込んでいる。慣れない明るさに滲む視界の先には、朝日を受けながら俺の顔を覗きこむ女の子がいた。
「あ、起きた?」
「……起きた」
寝起き故の掠れた声で答えると、正面の女の子はそれで満足とばかり、ニコリと微笑むのだ。
この女の子は
同い年の十三歳で中学ニ年生。家が隣同士だったので小さい頃からよく遊んでいた、いわゆる幼馴染って奴だ。親同士も仲が良く家族ぐるみで交流がある。
中学生になった今もこうして朝起こしに来てくれる位には仲がいいが、別に恋人と言えるような関係でもない。兄妹のような、そうでもないような、ちょっと一言では表現しにくい間柄だ。
そんな優は俺が目を覚ましたのを確認すると、両腕を乗せていたベッドから離れる。
そのはずみでセミロングの髪の毛からシャンプーと彼女自身の甘い香りが漂ってきて、思わず胸が高鳴ってしまう。
(……それにしても)
最近の優は随分女らしくなってきた。身体のあちこちが丸みを帯びてきて、特におっぱいはクラスで一番の大きさだったりする。そして今みたいにふとした瞬間女の子特有のいい匂いがして、否が応にも異性として意識してしまうのだ。
そんな時俺はつい彼女から目を逸らしてしまう。悪気は無いのだが対応もよそよそしくなりがちだった。
「今日は随分ねぼすけだね。夜更かしした?」
「……優から借りた小説、ずっと読んでた。面白くてさ」
「でしょ~?よかった、楽しんでもらえて。でも夜更かししちゃ駄目だよ?」
寝ぼけた頭に柔らかい声といい匂いが染み渡る。どちらかというと朝が苦手な俺でも、お陰で二度寝の誘惑から逃れる事が出来ているのだ。
さて、目を覚ましたからにはいつまでも布団に包まってはいられない。朝のルーチンワークを始めようと上半身を起こし、念の為にセットしている目覚まし時計に手を伸ばす。
……と、その拍子で掛け布団を押し上げる下腹部の小山が目に入った。
それは他でもない、年頃の男子なら誰しもが経験する生理現象、我ながら立派な朝立ちなのだ。
「ふふ」
(あっ……)
危機感を抱いた時にはもう手遅れで、俺の視線の向かう先に気付いた優が満面の笑顔を見せる。
「今日も元気だね!」
「……」
「じゃあ先に行ってるね」
「………………はぁ~」
軽い足取りで自室を出て行く優の背中を見送ると、自然とため息が漏れる。
今朝は俺の負けだ。朝起ちをバッチリ見られてしまった。羞恥と敗北感が徐々に心中を満たし、顔も赤らんでくるのが分かるのだった。
遺憾ながら、こんなハプニングは度々あったりする。
優は寝巻越しの勃起を目にしても気持ち悪がる事も無く、むしろ興味深そうに観察してくるのだが、思春期の身として男子特有の生理現象を見られるのは当然ながら恥ずかしい。
なので頻繁に朝起ちをするようになって以降、嬉々としてそれを観察し、尚且つわざわざ指摘してくる優に対抗する為、目が覚め次第勃起を隠す体勢になり時間ぎりぎりまで微睡むようにしていた。
普段ならそれで朝起ちの露見は回避できるんだが、しかし誘惑に負け夜更かしすると、こんな醜態を晒してしまう事が多いのだ。
もちろん、見られるのが嫌ならもっと早い時間に目覚ましをセットすればいいのは解ってる。だがそうする気にもなれないのだ。
何故かと言えば、一時の恥を受ける事になってでも、目覚ましの電子音じゃなく優の柔らかい声で朝を迎えたい。そんな贅沢かつしょーもない理由のためだったりする。
正直な所、中学生にもなって幼馴染に毎朝起こしてもらうなんて、男としてどうなんだと思わないでもない。クラスの連中に知られたら馬鹿にされる事必至だろう。
だけど優は嫌な顔一つしないし、俺も苦手な朝を爽やかに起きられる幸せを手放したくない。なのでずるずる甘えてしまっているのだった。
(でも、このままじゃ駄目だよな……)
溜息一つ吐くと、ベッドに腰掛けたまま朝起ちが収まるのをじっと待つ。
朝っぱらから元気なそこは、俺の身体が成長するにつれ言う事を聞かなくなっている。
今朝も人前に出られるほどに落ち着くまで、多少の時間を要するのだった。
身支度を整えリビングに向かうと、セーラー服にエプロン姿の優がキッチンで朝ご飯の用意をしていた。
「陽ちゃん、今日はシャケと味付け海苔でいいよね?」
「そうだな。じゃあ俺は味噌汁作っとく」
朝立ちを見られた事への羞恥と悔しさはとっくに霧散している。所詮はもう何年も繰り返してる朝の一幕でしかない。
冷蔵庫の中を覗き込む優に返事して、俺もエプロンを身に纏ってから水を張った鍋を火にかける。具材を適当に入れて、沸騰したら味噌と出汁を投入する。合間にテーブルを拭いて食器も用意した。
フンフン鼻歌歌いつつ網の上のシャケをひっくり返す優を眺めていると、ドアを開く音に続いて母さんが新聞片手にリビングへと入ってきた。
「おはよう優菜ちゃん。陽一もおはよう」
「叔母さんおはよー」
「おはよう母さん」
どっかりと椅子に腰を下ろすと食卓で新聞を広げる母さんに挨拶を返し、丁度出来上がったおかずと味噌汁を並べていく。
三人分のご飯を盛ってくれた優がエプロンを外して食卓に着くと、俺が座るのを待ってから手を合わせて言った。
「それではいただきましょう」
「「いただきます」」
この中里家は現在、母さんと俺のニ人暮らしだ。父さんは四年前に事故で亡くなった。
一方隣でおかずをつつく優の親は健在だ。だけど両親共に仕事の都合で家を空ける事が多く、尚且つ俺と同じ一人っ子なのでどうしても一人で食事をする日が出来てしまう。それならうちで一緒に食べさせようと両家が話し合い、以降優の両親が不在の日は一緒に食卓を囲んでいるのだ。俺達が赤ん坊の頃からそんな環境だったので、物心つくまで彼女とは半ば兄妹のような感覚で過ごしてきた。
俺の家も両親共働きだったが、父さんが亡くなって以降母さんの勤務時間も延びがちだ。そんな母さんを少しでも助ける為に食事はなるべく俺と優で作るようにしていた。
優は叔母さんと母さんから料理をバッチリ仕込まれている。その優から教えてもらい、今じゃ俺もある程度の物は作れるようになっていた。
「「「ごちそうさまでした」」」
優の作る料理は美味い。そんな彼女に習ったおかげで俺の料理も中々の物になってると思う。
料理に限らず、昔から優には何かと助けられている。さっきみたいに朝起こしてくれるし、俺の部屋の掃除まで嬉々としてやってくれるのだ。
小さい頃は気付かなかったが、物心ついた今はそれがどれだけ有難い事か理解している。
そんな諸々への感謝を込め、改めてちゃんとお礼を言うべきだと思うのだが、なかなか切欠が掴めない。何より面と向かって言うのが今更の気がして恥ずかしいのだ。
素直になれない自分へのモヤモヤは日増しに募ってきている。それを自覚しながらも行動に移せない自分に更にモヤモヤするのだ。
せめて心の中では、と最大限の感謝を告げる。面倒見のいい幼馴染に深々と頭を下げるイメージを作りながら食事の片付けと身支度を始めた。
「優菜ちゃんいつもありがとう。それじゃあいってくるね」
「はーい、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
家を出る時間が少し早い母さんを見送る。
俺も大人になれば母さんのように自然に感謝を伝えられるようになるのだろうか。
女手一つで俺を育ててくれているその背中が、やけに大きく見えるのだった。
「わたし達も挨拶しよっか」
「ああ」
身支度を終えてから二人で居間に向かう。
そして壁際に安置された仏壇の中、父さんの遺影の前でニ人並んで手を合わせる。それは平日朝の習慣だった。
「それじゃあ行ってきまーす」
「行ってきます」
戸締りをし、ニ人そろって家を出る。
今日は週の始まり月曜日。今週と来週を乗り切ればいよいよゴールデンウィークだ。
まだ四月なのに日差しが強い。朝から照りつける太陽にうんざりしながらも、優と並んで通学路を歩き出していた。
俺と優はどちらかが学校を休まない限り、徒歩十五分のバス停まではニ人で一緒に通学する。
小学校を卒業すると共に集団登校という制度も無くなったが、優も俺も別々に登校しようとは言い出さなかったし、しようとも思わなかった。
中学校への入学間もない頃、そんな状況をクラスメイトにバカ正直に言ってしまい、当然のようにカップルだなんだと冷やかされた。
当時の俺は男女一緒にいる事が同年代からどれだけ奇異に見え、嫉妬されるかを理解していなかった。片田舎の小学校では何の問題も無かった間柄が、町中の中学校では悪目立ちするとそこで初めて思い知らされたのだ。
幸い、とある事がきっかけで俺達への冷やかしはその時だけで収まった。
以降は面と向かってからかってくるクラスメイトはいない。
「あ、佳奈ちゃんとかっちゃんもう来てるね。お~い!」
田畑の間をほとんど真っ直ぐに突っ切る田舎道は、途中で緩やかなカーブを描きながら雑木林の中へと続いていく。
木立を両断するように通る道の傍にはバス停があり、そこには俺達と同じ制服を来た男女ニ人組がいた。
このニ人も優と同じ幼少からの幼馴染で、家族ぐるみの付き合いがある。
「お~っす」
気だるげに手を挙げる勝也。
坊主頭かつ夏でもないのにほんのり日焼けして、見るからに野球少年といった風貌だ。
見た目通りの快活な性格で、クラスでもムードメーカーとして話題の中心になる事が多い。
どちらかというとインドア派な俺と違い、身体を動かすのが大好きなスポーツマンだ。俺達四人は全員水泳部に所属しているが、記録を伸ばすのに一番熱心なのが勝也なのだった。
「おはよう優菜、陽一」
佳奈子はポニーテールが良く似合う強気そうな面持ちの女の子だ。
その凛とした佇まいと整った容姿から一見キツそうに見えるが、真面目ではあるものの堅物と言う程でもなく融通は効く方だ。冗談を言っておどける勝也に対し突っ込み役を担う場合が多い。
中学に入るまで習っていた新体操の影響か姿勢が良く、背も高めですらっとした体型だ。細い手足の割に胸がそれなりにある為、どちらかというと肉付きの良い優がスタイルの良さをよく羨ましがっている。
そんな勝也と佳奈子とも赤ん坊の頃からの付き合いだ。ニ人もまた俺達と似たような間柄で、家が隣同士で生来の幼馴染である。
俺の家からニ人の家まで徒歩だとやや遠いが、田舎の広大な学区の中で他の同級生の家は更に遠い。なので自然とこの四人でよく遊ぶようになったのだ。
ちなみに、入学当初の俺と優への冷やかしが長続きしなかったのはこのニ人のおかげだ。
『俺と佳奈子も一緒に登校してるぜ!』
『家も近所なんだし普通でしょ?』
からかってくるクラスメイトを前にそう言ってくれたニ人には今でも感謝している。
クラスの中でニ人だけでは浮いてしまうが、四人ともなれば一つの派閥だ。陽属性な勝也と佳奈子が引っ張ってくれたおかげで、そう時間もかからず俺達は「そういうもの」として受け入れられた。
もしもニ人があの場にいなかったら、恥ずかし紛れで優を突き放すような事を言っていたかもしれない。その言動が彼女を傷つけ、疎遠になるという最悪な世界も十分あり得た。
だからこの先ニ人がトラブルに巻き込まれた時は俺が体を張って助けたい。
そう思える位には勝也と佳奈子に対して恩と友情を抱いている。恥ずかしいから絶対口には出さないんだが。
そんなあれこれをぼんやり思い返しながら田舎道をバスに揺られる。徒歩十五分、バス三十分の通学時間は短くないが、この四人だと退屈はしない。
「なあ、この前言った伊多海の旅館のバイト、お前ら大丈夫そうか?」
隣の席の勝也が身を乗り出して聞いてくる。
「あぁ、楽しんでこいだってさ」
「わたしも大丈夫だよー」
「私も」
「よっしゃ!じゃあ叔父さんに言っとくぜ。みんなオッケーだってな!」
それは数日前に勝也が嬉々として持ち込んできた話だ。
こいつの親戚は本土から離れた南海の離島で温泉旅館を営んでいて、毎年長期の休みになると四家族こぞって泊りに行っていた。
その旅館が迫る掻き入れ時のゴールデンウィークに従業員が何人か休みになってしまうらしい。
当然現場が回らないので、経営者である叔父さんは方々に手を尽くした。結果、臨時の応援は手配できたが、それでもなお数日間穴が開いてしまう。
そこで最後の手段として、親戚の勝也とその幼馴染達に白羽の矢が立った訳だ。
応援が来るまでの最初の三日間手伝いさえすれば、ゴールデンウィーク中は無料で宿泊させてくれるらしい。ささやかながらバイト代も出るという太っ腹っぷりだ。
はたして中学生にどれ程の事が出来るか判らないが、俺達全員がそれに食いついた形だ。
日程的には休みを全て使う事になる。それ自体は問題ないが、親が同伴しない四人だけでの泊りがけの旅行は初めてだ。
その点も含め母さんに相談した所、勝也の親戚の所だし、社会勉強も兼ねて行ってこいと許可してくれた。他の三人の親も問題視はしてないようだ。
「優菜、今度水着買いに行きましょ」
「お、いいねぇ!ニ人ともビキニで頼むぜ!」
「嫌よエロ勝也!そんなハデなの着ないわよ」
「あはは。じゃあ今度の日曜にデパート行こっか」
旅館がある島は南国なので五月にはもう海水浴が出来る。
俺と勝也は学校指定の海パンで十分だが、女子ニ人は新しい水着を用意するらしい。
(優と佳奈子のビキニかぁ……ここ最近胸もお尻も大きくなってきたし、見たかったなぁ……)
「あ~陽ちゃんエッチな顔してる~……んふふ、そんなにビキニ見たかった?」
「え!?あ、や、別に?」
不意を突かれてちょっと慌ててしまう。
「おいおい陽一ぃ~素直になろーぜ?」
「陽一もスケベね」
「……はいはいスケベでございますよ~」
勝手知ったる幼馴染だ。弄られ役になるのも慣れた物、なのだ。
適当に受け流した後も楽しく会話を続けていると、学校が近づくにつれ段々とバス内の人口密度が上がってくる。
そうなると四人でお喋りする余裕も無くなり、みんな黙ってバスに揺られる事になるのだった。
『成沢学園前、成沢学園前です。お降りの方は押しボタンを…』
車内が寿司詰めになった暫く後にようやくバスは学校前へと到着する。
「はぁ~ついたついた」
「毎朝の事ながら、この混みっぷりは嫌になるわね」
「座れるだけマシだな」
大半の乗客を吐き出したバスを見送りつつ教室へと向かう。
俺達の通う中学校では部活の朝練が無いので、生徒は大体同じ時間に学校に着く事になる。結果、バスは寿司詰めになりやすいのだ。
だが噂に聞く都会の通勤ラッシュはこんなもんじゃないという。大人になるのがちょっと怖いと思う俺なのだった。
つつがなく授業が終わり、部活の時間になった。
その舞台である学校自慢の室内プールでは、今現在その大きさに見合わない少人数の生徒しか利用していなかった。
俺達幼馴染四人の他には、三年生が四人、ニ年生が三人、一年生が一人の合計十二人しかいない。
今年はそれなりの人数の新入生が入部するものと期待していたんだが、新入部員はたった一人だった。
正確に言うと、入学時の仮入部では結構な人数が来たんだが、なぜか定着したのは一人だけだったのだ。
水泳部は厳しくもないし、室内プールなので一年通して快適だし、女子の水着姿も見られるし、いい事ばかりなのに不思議なものだ。
もっとも、うちの学校は中途での部活の入退部が結構多い。実際水泳部でもニ年生で一人、三年生でニ人が中途入部だ。そんな訳で、これからも少しずつ部員が増える事に期待している。
そんな諸々を考えながらゆっくり泳いでいると、ホイッスルの音と共に顧問の教師からの号令がかかる。
「はい休憩!みんなプールから上がってー!」
近くの淵に手を掛けてプールから上がる。その場で座り込みゴーグルとキャップを外した。
女子は一塊になり顧問の女教師とキャッキャと楽しげに話している。男子はそれぞれプールから上がったその場に座ったり寝そべったりだ。
そうしてしばらくボーっと女子の集団を眺めていると、勝也がこちらに近づいて来るのに気が付いた。
「ちょっといいか」
「どしたん?」
俺の近くに腰を下ろし、心なしか声のトーンを落として話し始める。
「……旅行、楽しみだな」
「そうだな」
「その旅行の間にさ、おれら四人も関係を進めるべきだと思うんだが、どうよ?」
「関係って…………もしかして、そういう事?」
「そーいう事だ。おれは佳奈子と、お前は優菜とさ、そろそろ次のステップに進むべきだと思わねーか?」
「ん……まぁ、な」
隣に来るなり唐突に始められた話の内容にちょっと驚く。
自分達の恋愛の話を面と向かってするのは初めてじゃないだろうか?人一倍仲がいい俺達幼馴染だが、今までそっち関連の話題はなんとなく避けてきたのだ。いつもと違う勝也の雰囲気にあてられ、少し緊張してしまう。
(優と恋人かぁ。ぼんやりと考えてはいるんだけど……)
勝也と佳奈子がくっつくのは納得できる。
勝也がおちゃらけて佳奈子が突っ込むというニ人の夫婦漫才は小さい頃から飽きるほど見てきたが、言葉はきつめな佳奈子もよく見ると楽しそうなのは付き合いが長いと分ってくる。ケンカするほど仲がいい、という奴なんだろう。
それに佳奈子は普段も何気なく勝也を目で追ってたりするし、優以外の女子と親しげに話してると機嫌が悪くなる事もあった。
最近は勝也も好意を隠さなくなってきた事から、このニ人の関係が近い内に変わる気配を漠然と感じていたのだ。
そして俺自身だが、当然優の事は意識している。
幼い頃からずっと一緒に過ごして半ば兄妹のような関係だと思っていたが、父さんが亡くなった時、一番傍にいて心の支えになってくれたのは優だった。あの時優が傍にいてくれなかったら俺はどうなっていたか解らない。
それはそれとして、かなり可愛くなってきたしおっぱいも大きくなったし、そのくせスキンシップが多いし、実際の話、そんな女の子を好きにならない訳が無いのだ。だが……。
「なぁ、優は俺の事……男として見てると思うか?」
彼女を異性として意識して以来、向こうは俺を仲のいい幼馴染としか見ていないんじゃないか?という不安が常にあった。
仮に告白したとして、断られてしまったら気まずいなんてもんじゃない。今後どう接すればいいか分らない。
ありていに言って今の関係が崩れるのが怖いのだ。優とぎくしゃくする位なら、しばらくはぬるま湯の関係のままでもいいと思っていたのだ。
「……何言ってんだよベタ惚れだろ」
くだらねー事考えてんなコイツとばかりの呆れ顔でばっさり切られ、ちょっと戸惑う。
「そ、そうか?幼馴染としか見てないんじゃないか?」
「アホか、いくら幼馴染だからってあんな普段からべたべたしねーだろ。それにお前がいない時はお前の話ばっかしてるぞあいつ……どんだけだよホント……あと佳奈子にもそれとなく聞いた事あるけどさ、やっぱ同じ見解だぜ?っていうか佳奈子は優菜の健気さを見習えってんだよなー」
晴天の霹靂、は大げさにしても割と衝撃だった。他人の視点からじゃないと分からない事もあるようだ。
次第に期待と不安でそわそわしてくる。
「おれはもちろん自信あるぜ?そもそもその気がなかったら保護者無しの泊りの旅行について来ねーだろ。お前も振られる事なんて絶対ねーから安心してコクっとけって!」
気合とばかりに背中をバシンと叩かれる。
「…………分かった。考えてみる」
イマイチ煮え切らない返事になったが、前向きになったのは確かだ。家に帰ったら早速告白の日時状況セリフについて検討しようと心に決めた。
「良し良し。でだ、話はそれだけじゃねーんだ。陽一お前さ、ゴム持ってるか?」
「ゴム?輪ゴムとか?」
「ちげーよ!コンドームだよコンドーム!」
「は!?いや持ってねーよ!ってかお前旅行先でそこまでやるつもりか!?」
いくらなんでも時期尚早だと思った。仮に恋人になれたとして、告白早々そこまで行くのか?行けるのか?と不安が大きくなる。
対して勝也だが、不安なそぶりは一切見せずに言うのだ。
「あったりめーだって!いーか、おれたちゃ普通のカップルが付き合い始めてから時間をかけて育む絆をだな、ガキの頃からもう十分に育てきったんだっての!雰囲気さえあればいけるって!バカンスは女を大胆にするって言うしな!全ては雰囲気だ雰囲気!」
(……こいつ漫画か何かに書いてある事鵜呑みにしてんじゃないだろな?)
なんだか解ったような事を捲し立てる勝也に不安が更に増してきた。
だが、その言い分を否定する材料もないので曖昧に頷いておく。なにせ経験が無いのだ。
「流石に生でやるのは怖ぇからな。備えあれば憂い無しだ。つー訳で、コンドーム買いに行こーぜ?」
「買いに行くのはいいけど……どこでだ?富田薬局か?あそこの爺さん顔見知りなんだけど」
知り合いの店でコンドームなんて買ったら一瞬で噂が町内を駆け巡るだろう。それは勘弁願いたい。
「いや、ちょっと前に駅の近くにドラッグストアできたろ?その店の外に自販機があんだよ。店で買うよりゃいいだろ?」
「自販機なんてあるのか。じゃあそれで。いつにする?」
「今度の土曜、部活終わったらでどーだ?ついでにお前んちに泊まりに行きたいんだけどさ、大丈夫か?」
勝也も含め、仲のいい友達が週末に俺の家に泊まりに来る事は多い。
というのも、俺の部屋にはテレビとビデオデッキがあるからだ。中学に入学した際、一定の成績をキープする事を条件に買ってもらったのだ。ゲームソフトを持ち寄って夜通し遊んだり映画のビデオを借りてきて鑑賞したりと、チャンネル争いやゲームの時間制限無しで遊べる俺の家は同年代の男子にとって羨ましい環境らしい。ゲームは一日一時間など無理なのだ。
「大丈夫だよ。じゃあ勝也の分も飯作るか」
「サンキュー!あ、お土産持ってくから期待しとけよ」
「お土産?食い物か?」
「いや違う。まぁ楽しみにしとけ」
(なんだか知らんがそう言うなら楽しみにしておこう)
そうこうしてる内に部活の時間も終了だ。朝は大抵四人一緒だが、帰りは割とばらばらだ。別の友人と寄り道しながら帰ったりもするし、さっさと一人で帰ることもある。
今日の俺は後者だ。考えるべき事が沢山出来た。とりあえずは優の前で態度に出さないようにしようと決意し、帰途につくのだった。