次の日。兄さんは朝早くに起きて朝食を済ませると早速パソコン修理に取り掛かろうとしていた。
「マキナー。そろそろパソコン見るぞ」
「パス」
「はい?」
食い気味に返ってきたマキナの返答に、兄さんは素っ頓狂な声を出す。リビングで食後の紅茶を楽しみながら優雅な朝を楽しんでるマキナはチラリとも兄さんの顔を見ず、テレビのニュースに目を向けたまま言った。
「手伝わないって言ってるの。最近、私のこと頼り過ぎ。自分の家のパソコンぐらい自分で直しなさい」
「なんだ急に。今までそんなこと言わなかったのに」
「神様がなんでも手伝ってくれると思ったら大間違いよ。べー」
「……なんか企んでる?」
訝しんだ兄さんが目を細めて問う。するとマキナは分かりやすいぐらい動揺してティーカップをカチャカチャと震わせた。
「そ、そんなことねえけど」
「口調変わってるぞ」
「ああもう、うっさいなあ。助手が欲しいならコイツやるからさっさと行った行った」
急に不良みたいな喋り方になったマキナが私の首根っこを掴んで兄さんに押し付けた。いきなり何するの、と吠えそうになったけれど、もしかしてと彼女の顔を見る。
マキナはパチンと私にしか分からないよう控えめにウインクをして、またニュースを見始めた。
どうやらそういうことらしい。昨日の夜言っていたチャンスを作るというのは本当だったんだ。でも先にひとこと言っておいてほしい。いきなりこんなチャンスを寄越されても何の準備もない。
とりあえずテンパった頭で最初に出した言葉は「ちょ、ちょっと歯磨いてくる」だった。さっき磨いたばっかりなのに。
件のパソコンは書斎にある。家族共用ということになってるけれど、私は自分のパソコンを持っているから、今は両親しか使っていない。
見ただけで分かるほど古い物だった。こういうのは何年かに一度、最新モデルに買い換えるものだと思うけれど、うちの家族は皆んな物を大切に使うから簡単には買い換えない。
兄さんがキーボードを叩くと画面に色んな文字列やウインドウが出てきた。それをバーっと見ながら「なるほど」と呟いて、またキーボードを叩く。
私は機械に詳しくないから兄さんの作業を隣で眺めているだけだった。
「直せそう?」
「どうかな。ハードがダメになってそうだから中開くまで分からない。最悪、新しいの買った方が安いうえに手っ取り早いかも」
軽く動作を確認すると、兄さんはディスプレイや本体を床に下ろして、分解し始めた。色んなパーツが取り外れていく。
私も床に座って兄さんの手元を見る――ようなフリをして顔をチラチラと見た。
真剣な顔で手を進めていて、邪魔できない雰囲気。
せっかくマキナが協力してくれたのに何のアクションも起こせそうになかった。なんだか彼女に申し訳ないなと思って、ふと気付く。
なんで私はこんな真剣に兄とのキスを考えるようになってるんだ。
きっとマキナのせい。彼女にまんまと乗せられた。そもそも義理とはいえ兄妹でそういうことをするのはアウトオブアウト。
脳内の邪な野望を頑張って消し去って、もうこういうことは考えないようにした。
「マスター。お飲み物をお持ちしました。シュリ様もどうぞ」
ちょうどそこへ、コーヒーを二つ持ってきたアルラがやって来て、私と兄さんに手渡した。私のはミルク入り、兄さんのはブラック。ちゃんと私達の好みを把握しているあたり、流石だ。
ひと口飲んで息をついていると、アルラが兄さんの側にそっと腰を落として。
「マスター」
自然な動きで兄さんに口付けした。兄さんも少し驚いてアルラを引き離そうとする。
「い、今シュリ居るから……」
「気にしなくていいでしょう。私達の関係はもう知っていますし。……んちゅ……ちゅっ……マスターの舌、美味しい♡」
兄さんにピッタリとくっ付いて、アルラは貪っていた。まだ躊躇っている兄さんの口の中に自分の舌を捩じ込んで口内を蹂躙している。
唾液を吸い上げる音に、兄さんの少し苦しそうな吐息。そしてアルラの興奮して悦に浸ったような顔。全て私の知らないものだった。
ディープキスがこんなに激しくて容赦ないなんて考えもしない。目の前の大人の世界に私は息を殺して見るしか出来ず、危うく手の力を緩めてコーヒーを溢しかけた。
「ぢゅっ……んちゅぅ……れぢゅるっ、あぁ♡ マスター、好きです。もっと……じゅるるるっ!」
全然足りないとアルラが兄さんを一方的に食らう。
このままだとこの二人がキスで止まらなくなりそうな気がして、無理矢理引き離した。
「も、もう終わり! 兄さんの邪魔しないで」
糸を引く唇同士に一瞬ドキッとさせられたのを誤魔化しながら、アルラに不機嫌な顔を作って見せた。すると向こうも不服な表情を浮かべる。
「作業の合間の軽いスキンシップです」
「どこが軽いの? 完全に最後までやる気だった」
「これぐらいは日課です。実家と言えどルーティンを守らないと作業効率に影響を及ぼします」
「適当なこと言って言いくるめようとしてるでしょ。変態アンドロイドは家に帰るまで大人しくしてて」
「シュリ様こそ、専用フォルダを作る変態ブラコン――」
「と、とにかく出てって!」
余計なことを言いかけたアルラを部屋から追い出す。
本当に厄介な存在だ。私の秘密を兄さんの前で言おうとするし、これ見よがしに兄さんにキスするし、常識がどこか欠けている。他のアンドロイド達も皆んな、ああなのだろうか。
ドアを閉めて再び兄さんの隣に座る。
「作業進めて」
「あ、ああ。……一応言っておくと今のはアルラが勝手にしてきただけだから」
「分かってる」
「本当に分かってるか? なんか怒ってない?」
「怒ってない」
ぶっきらぼうに答えて目を逸らした。自分でも驚くほど気が立っていた。
どうしてなのかは分かっている。これはきっと単純に、アルラが羨ましいだけだ。
あんなアダルトなのは望まないけど、私も兄さんにくっ付きたい。蓋をしようとした想いがまた溢れてくる。
気まずそうに作業に戻る兄さんの顔をまた盗み見る。
勇気を出せば触れられる距離。マキナが言ったように『ミスったー!』と口に出しながらいけば兄さんもあまり気にせず受け入れてくれるかな。
緊張が高まって、心臓がバクバクする。もう一度コーヒーを飲んで落ち着こうとして、キスするならあまり飲まない方がいいかな、匂いとか気になるし、なんて考えてついに口に出してみた。
「み、ミスっ――」
「ナオー。お母さまがリンゴ切ってくれたー」
兄さんの唇に触れる直前にドアが開いて今度はマキナが入ってきた。咄嗟に身を引いて何もしてないような雰囲気を装う。
幸い、二人とも私の動きに気付いていなかった。マキナがお皿を向けると兄さんは「ありがとう」と爪楊枝でリンゴ一切れを刺して口に入れた。
「シュリちゃんもどうぞ」
「……どうも」
マキナがにこやかに私に爪楊枝を渡す。その人当たりの良い微笑みが今は憎い。
リンゴを咀嚼して、上手くいかなかったと内心落ち込んだ。ようやく勇気を出せたのに。いや、前向きに考えよう。一度勇気を出せたということは、二度目もきっとできる。マキナが去ったらリトライしようと、心に固く決めたのも束の間。
「ナオ。あーん」
マキナがリンゴを口に咥えて兄さんに向けた。
「妹が見てますんで……」
「あーん」
「やらない」
「あーん」
断る兄さんに負けず、マキナは何度も繰り返す。しつこいマキナの圧に押されて兄さんは観念したようにため息を吐いて口移しを受け取った。
シャクシャクと音を立てて噛み締める兄さんにマキナは聞いた。
「どう? 美味しい?」
「うん」
「じゃあ私にも頂戴」
兄さんが答えるより先に、マキナが兄さんの唇を奪った。そして兄さんが咀嚼したリンゴまで奪い去った。
「おまっ……やめろって」
顔を赤くしながら兄さんは後ずさって、私は目の前で行われた行為に唖然としていた。
マキナはよく咀嚼した後、ゴクンと大き過ぎる喉音を鳴らす。
「美味しい。ごちそうさま」
凄まじい変態プレイを見せられた気がする。世の中にはこんなことをする人間がいるのか。人間じゃないけど。
マキナはそれでは飽き足らず、新しいリンゴを口に入れた。
「今度は私のリンゴ食べて」
適度に咀嚼すると、また兄さんに口を近づける。その光景に居ても立っても居られずマキナの腕を掴んで外に引っ張り出した。
「話が違う」
私の部屋でマキナとアルラを正座させて私は怒った。
マキナは苦笑いを浮かべて、アルラは無表情で私を見上げている。
「二人とも好き勝手しすぎ。私の邪魔しかしてない」
「ごめんごめん。つい」
「そもそも私はシュリ様に協力するという話を聞いていません」
てっきりアルラにはマキナから話が行っていると思っていたけど、何も聞いていないらしい。それでも私は腹の虫が治らない。
「アルラだって私が兄さんとキスしたいのは知ってるんだから、気を遣うとかないの?」
「気を遣ってハードなキスは控えました」
「十分ハードに入る部類だったと思うけど⁉︎ 舌まで絡んでた!」
「男性経験がないからそう思うのでは? 世間一般ではおはようのハグの少し上ぐらいのカップルコミュニケーションです」
至って真面目な顔でアルラが言う。私は思わずマキナに聞いた。
「そ、そうなの?」
「違うと思う」
「違うじゃん!」
アルラはスッと目を逸らした。この女、私が生娘だからってある事ない事言って黙らせようとしてる。
「まあまあ」
マキナに宥められて私は怒りを鎮めた。アルラと違ってマキナは本当に反省しているようで、アルラに協力するよう説得してくれた。それでもアルラは渋々といった顔だったけど。
でもこれで誰にも邪魔されずに兄さんと二人きりになれる。このビッグチャンスを逃す訳にはいかない。
「ダメでした」
「「ええ……」」
撃沈する私にマキナとアルラは声を合わせてガッカリと肩を落とした。せっかく協力してやったのに、という顔で見下ろされる。
結局、二人に邪魔をされずとも、私は勇気を出せなくて、兄さんの作業を眺める置き物になってしまった。気付いた時には夕飯前で、無事に修理が終わり、兄さんは自室に戻った。
再び私の部屋に女子三人集まって反省会の真っ最中だ。
「なんでダメだったんですか」
「だって兄さんずっと真剣に修理してたもん。キスどころか話し掛けるのも躊躇した」
「休憩を取るタイミングもあったと思いますが」
「休憩中にキスして動揺させたら作業に支障をきたすかなって」
「じゃあこの作戦最初から上手く行きようがないじゃないですか」
「あう……」
アルラの真っ当な意見に心を刺される。
「あのね、シュリちゃん。相手の邪魔をしないと自分の欲しいものは手に入らないのよ。ただ相手を気遣うことだけを優先してたら人は話すことも、触れることもしなくなる。完全な他人のままでいることが何よりも平和なの。でもそれじゃあ人と人の心は繋がらない」
諭すようにマキナが言った。
確かにそうだ。兄さんが出ていった時だって私は声を掛けようとして何も出来なかった。あれは兄さんを傷付けたくない一心で動けなかった結果だけど、本当はもっと兄さんとも母さんとも話して二人が仲違いしないように出来たはずなんだ。
もし嫌われるのも覚悟で私が動いていたら、二人はもう少し違う距離感になっていたかもしれない。
「迷惑の掛け合いというのが愛情の本質だと思います。それを躊躇っていては本当に他人になってしまいますよ。それにマスターも急に家を出てシュリ様を悲しませたんです。シュリ様も我儘に動くべきかと」
珍しくアルラが人間みたいに優しく微笑んでくれた。私に姉がいたらこんな感じったのかな。
二人に背中を押されて私はもう一度、チャンスを作ってもらうことにした。
◆
「に、兄さん。今日は兄さんの部屋で寝かせてほしい」
二十二時頃。早めに寝るのが癖付いている兄さんが二階へ上がっていったのを見計らって、私は部屋に入る直前の兄さんの袖を引っ張った。
急な申し出に兄さんは訝しんだ様子を隠さなかった。
「なんで?」
「えっと、その。アルラがマキナと寝たいみたいで、兄さんの部屋で寝ろって」
「アルラ睡眠取らないのに?」
「アンドロイドだって、眠いって思う日もあるよ」
「自分で言ってて無理あると思わないか」
「もう! いいからさっさと部屋入れて」
無理矢理兄さんにドアを開けさせて私も部屋に入った。普段は誰も使っていないから部屋にはほとんど私物がない。収納棚と机、あとはベッドぐらい。兄さんが出ていく前にチラッと見た時は、もっと物で溢れかえっていた。
渋々といった顔で兄さんが部屋の電気を消して、ベッドに入る。少し壁際に寄ったのを見て、私もその隣に寝そべった。
一昨日、兄さんの家で寝た時より少し間を詰めた。そんな私を兄さんはより怪しむ。
「朝から何企んでるんだ? マキナもお前も様子がおかしい」
「別に何も……」
左から視線を感じて、目を合わせないように天井を眺めた。私が何も吐かないのを感じ取って、兄さんはそれ以上は追及しなかった。お互い、仰向けになって無言になる。
肩が軽く触れていて、体温を感じた。ちょっと身じろぎするだけで身体の色んなところが触れる距離。頭がパンクしそうになる。
ここからどうすれば良いのか分からなくなって、とりあえずあの二人がどんな風にしてたか思い出してみる。
アルラもマキナも、ムードとか関係なしにいきなりキスをしていた。参考になるかと思ったけれど、全くならない。むしろムードや流れを考える私の方がおかしい……? 同級生とも色恋沙汰の話をしたことがないせいで何も分からない。
「嘘つき」
今朝のキスシーンを振り返って飛び出たのは、兄さんへの悪態だった。
「急になんだ」
「私の前ではああいう事しないって言ってたのに、結局嘘だった」
「今朝のはあの二人が悪い」
「一昨日は私が寝てる隣でマキナと変なことしてた」
「お、起きてたんですか……」
「ジュポジュポ言ってて眠れなかった」
「ごめん」
「じゅるるる……って音してた」
「悪かった。本当に反省してる」
「『フェラ顔好き?』って聞こえた」
「具体的に言うなって! なんでそんな鮮明に記憶してんだよ」
焦って私の口を止めようとする兄さんが視界の端に映った。思わずクスッと笑うと、少しだけ緊張が抜ける。
自分でも気付かないうちに布団の中で兄さんの手を取った。
「シュリ?」
驚いた様子で名前を呼ばれたけれど、無視してギュッと手を繋ぐ。指を絡めて勝手に恋人繋ぎにした。左肩を下にして兄さんの方を向くと、ぐっと距離を縮めて引っ付いた。
「近いって」
「兄妹だしこれぐらいスキンシップの範疇だよ」
「絶対違う」
「兄さんもこっち向いて」
「……何する気だ」
「なんだと思う?」
「…………」
「今、エッチなこと考えた」
「考えてない」
「じゃあ顔向けられるでしょ」
兄さんが苦虫を噛み潰したような顔をした。少し迷うと、ゆっくりとこっちを向いて私と顔を突き合わせる。
お互いの吐息が掛かる。ほんの数センチでキスできる。今すぐにでもがっつきたい。でもまだこの距離感に浸っていたい。そんな時間が楽しくて仕方なかった。
「……チューしていい?」
「い、や……ダメだ」
「なんで?」
「なんでも何も兄妹だろ。そういうのは普通にアウトだし、そもそも俺とキスしてどうするんだ」
「どうもこうもない。もっとくっ付きたい」
「もう十分だろう? これだけ密着してる」
「全然足りない。ちょっと触れるだけじゃ満足できない。もっと兄さんとドロドロにならなきゃ寂しい」
足を兄さんの身体に巻き付けて、腕も兄さんの背中に回した。お腹までピッタリ密着すると、兄さんがこれ以上くっ付かないよう力を入れてるのが分かった。
「もっかい聞くね。キスしていい?」
「ダメだ」
「じゃあ私の横でマキナにフェラしてもらってたこと母さん達に言う」
「か、勘弁してくれ……」
「ラストチャンスだよ。キスしても、いい?」
兄さんの目がゆらゆら揺れる。多分頭の中で色んな選択肢を想定してる。でも、もう逃げられないことを悟ったのか諦めたように目を瞑って静かに頷いた。
「……好きだよ」
意外とすんなり出た言葉と共に兄さんの唇にそっと触れた。
何の味もしない。何の香りもしない。かろうじて兄さんの唇の感触が感じられる程度の軽いキス。なのに、頭がぼーっとする。
自白剤のように私の心を曝け出させて、私を一気に暴走させる。
バッと兄さんの肩を掴んで仰向けにさせて、その上から覆い被さった。そして上から口を塞ぐように唇を合わせて貪った。
「ちゅっ……んっ、ちゅ…………っん、はぁ……ちゅっ。兄さん……ちゅっ、ぷ……」
「しゅ、シュリ落ち着けっ……」
兄さんが何か言っていたけれど、聞こえなかった。そのまま何度もキスを繰り返す。舌で兄さんの唇をなぞってくすぐって、潤ったのを何度も食む。やればやるほど物足りなくなった。
舌を捩じ込んで口内を犯した。兄さんの舌をクルクルと舐め回し、唾液を吸い、私の唾液を飲ませる。
「ぢゅるっ、んっ……ぢゅるるるっ、ん、じゅっ、はあ♡ んぢゅ、じゅるるっ、ぢゅううぅ……♡ んぷっ、はあ……♡」
部屋の外まで声が聞こえるんじゃないかと思うほど、リップ音が響く。兄さんの息苦しそうな声に愉悦が止まらない。
数分間、一方的に味わっているとお腹に熱いものを感じた。苦しそうにモゾモゾと動くソレに私はようやく正気を取り戻した。
「ちんちん擦り付けないで……」
「わ、悪い。つい」
「ムズムズするの?」
「うん」
「……手でするだけなら近親相姦にならないよね」
訂正。全く正気じゃなかった。
でももうどうでもいい。このまま勢いに任せよう。
私は兄さんの股間に手をやった。熱くて膨らんだソレをズボン越しに撫でる。想像していたよりもずっと熱い。直で触ったら火傷するんじゃないかと思った。
ズボンをずり下げようとしたら掛け布団が邪魔で、その辺に投げ捨てた。
ソワソワしている兄さんの顔を見ながらズボンを脱がす。トランクスが持ち上がっていて窮屈そう。
私はゴクリと喉を鳴らして、トランクスを軽く下げた。露わになった兄さんのモノに目が釘付けになる。
「こ、これが男の人の……」
最初に湧き上がった感想は『グロっ』だった。二番目に『エロっ』とくるあたり、本能的にオスらしい部分に興奮するように私は造られているらしい。
恐る恐る握ってみるとその硬さに驚かされる。骨を握ってるみたいだ。でも軽く擦ってみるとビクビクと震えていて、肉で出来てることがよく分かる。
ゆっくりと手を上下させると、兄さんの足が震えていた。
「気持ちいい?」
「あ、ああ」
上手く出来ているみたいでホッとした。気持ち良くなってる兄さんの顔とちんちん、どっちも見たくてウズウズする。
残念ながら私の顔は一つしかないので兄さんの顔を見ることにした。
我慢して息を殺して私から目を逸らしている兄さんに悪戯心が湧く。手でシゴきながら兄さんと唇を合わせた。
「じゅっ、んちゅむ……ぢゅうううう♡ ちゅるるるっ、んぷ、はあっ。……ちんちん、気持ちいいんだ? 情けない顔になってるよ。……ぢゅるるるっ、んぢゅ……♡」
下から上へ、上から下へとゆっくり手を動かす。知識なんてないから手探りで気持ちいいところを探す。
真っ赤に腫れてる先端を人差し指でなぞると、一層強く身体を震わせた。
「そこやばいって……!」
「先っぽクリクリもっとしてほしい?」
「う、ん」
「じゃあ舌出して。私に恋人ベロチューしてくれたらクリクリしてあげる」
意地悪にそう言うと、兄さんは屈辱に顔が歪んで恥ずかしそうに舌を差し出した。
私は心が満たされるのを感じながら、兄さんの舌に齧り付いて吸い上げる。
兄さんも快楽欲しさに私に一生懸命、舌を絡ませてきて従順な下僕みたいだった。
「じゅるるっ、んっ、ふ……じゅるっ、れろぉ、ぢゅっ、ぢゅぷっ、ぢゅるるるるっ…………はあ♡ やっぱり、兄さんは受けだよ。女の子にキスされて蕩けてるのが一番可愛い」
私の目に狂いはなかった。脳が焼かれ始めている兄さんを見て、確信した。
先っぽの、多分おしっこが出るところを撫でていると何か液体が出てきた。粘性のある分泌液。詳しくは知らないけれど、きっと気持ち良くなると出てくるものだ。
段々オスの匂いも強烈になってきた気がするし、そろそろ限界も近いのかな。
シコシコを早くして、兄さんの耳元で囁いた。
「ごめん、兄さん。昔っからこんなことしてみたかった。兄さんとキスして、ガクガク震えさせて、おちんちんピュッピュさせて……そんな想像ばっかりしてた。私たち、変態兄妹だね」
「シュリ、マジで限界っ。もうイっ……」
「出して。手、汚していいから兄さんのカッコいいところ見せて」
ペースを一切緩めず、グチュグチュと音を立てて擦り上げる。
兄さんが耐えるように私にしがみつくと、私は息子に手のひらで蓋をしてその瞬間を見た。
ドロリとしたものが私の手にぶち撒けられる。二回、三回と兄さんの身体が震えて、その度に液体も溢れ出てきた。兄さんの身体が落ち着いた後も、まだ出てきて射精ってこんなに長いんだと、目を丸くした。
ようやく止まったのを確認して手を離すと、手のひらは容赦なく汚されていた。
「匂い凄い……本当にイカみたい。こんなの女の子に飲ませてるんだ」
「はい……」
正直言ってかなりキツい。想像するだけでうぇ……ってなりそう。けれど飲んでくれた方が兄さんは喜ぶのかなと思って、勇気を出して手のひらを舐めた。
味は特にしなかったけれど、やっぱり匂いが凶悪だ。こんなの口にするべきじゃない。
それでも。
「せーえき。舐めたよ」
「無理にしなくていいって」
「味見してほしそうだったから。……ほら。妹が精液ペロペロするところ、ちゃんと見て」
「……いつからそんな変態になったんだ」
私が手のひらを舐めるたび、嬉しさが隠しきれない顔をする兄さんを見ると、なるほど。これはゴックンしたくなる。そう思わずにはいられなかった。
◆
次の日。兄さん達は十時前には帰る準備をしていた。
父さんは仕事があってもう家を出てしまったから、私と母さんの二人で兄さん達を見送る。私も今日は学校があるけれど、成績が良いから少しくらいサボっても何も言われない。優等生万歳。
玄関先でアルラとマキナが恭しく頭を下げた。
「お邪魔しました。マスターのご家族にご挨拶できて良かったです」
「機会があればまた食事でもしましょう。シュリちゃんも。またね」
マキナが含みのある笑みで私に手を振る。私は苦笑いを返しながら手を振り返した。
マキナとアルラには昨夜のことは詳しく話していない。なのにあの二人は朝起きて私の顔を見るなり、全てを見てきたかのように「よかったわね」「味を知った顔ですね」とか言ってきた。もしかしたら盗聴とかされていたのかもしれない。ゾッとする。
兄さんと不意に目が合って、一瞬どんな顔をしたらいいのかお互い迷ったけれど「またな」と笑顔を向けられて、私も自然と笑って頷いた。
なんだか、世界が素敵になった気がする。朝から肩が軽かった。
最後に母さんが兄さんにそっと声を掛けた。
「出ていった時はどうなるかと思ったけど、元気そうで良かったわ。たまには帰ってきなさい」
「……ああ」
ややぶっきらぼうに兄さんは答える。なんだかんだで母さんは兄さんが心配だし、兄さんもそれは分かっているみたい。どっちも素直になれないところがそっくりだ。
微笑ましいな、なんて思っていたら母さんが唐突に爆弾を落とした。
「マキナちゃんの顔も見たいしね。孫ももうすぐかしら」
「「「「……はい?」」」」
私、マキナ、アルラ、そして兄さんの声が重なった。
何言ってるの? という四つの視線に気付かずに母さんは続ける。
「マキナちゃん。家事全般ダメだし、道具弄りぐらいしか取り柄のない息子だけどよろしくね」
……これもしかして兄さんとマキナが付き合ってるって勘違いされてる?
冷静に考えてみれば実家の帰省にアンドロイドでもない女の子を連れて来てる時点で勘違いされるのも無理ない気がした。いや、無理ないっていうかどう考えてもそうじゃん。
「あ、あのー。母上。マキナは別に俺の恋人とかじゃ」
兄さんが早いうちに訂正しようとするものの、割って入るようにマキナが声を上げた。
「はい! お任せくださいお母さま! 家事でもなんでも卒なくこなして優しく温かな家庭を築きますことを誓います! 今後とも末永くよろしくお願いします!」
「悪ノリするな。本当に面倒なことになる」
「まあ、なんて良い子。女の子の一人も連れて来なかったナオがこんなに立派な子を……長生きしてみるものね」
話がかなり面倒なことになってる。どっちも兄さんを無視して結婚する前提みたいな空気で会話が進んでいる。
「帰るぞ」
兄さんは無理矢理マキナの首根っこ掴んで逃げるようにビークルに詰め込んだ。ニコニコと笑みを浮かべて後部座席に仕舞われるマキナに、私とアルラは不快感を隠さず睨んだ。
マキナには感謝しているけれど、それとこれとは話が別。
やっぱり帰省なんてさせるんじゃなかった。