アルラがうちに来て三日経った日の朝。小屋で起きて、作業場に入ると定位置になりつつある収納棚の上から上半身だけのアルラが「おはようございます」と声を掛けた。
「おはよう」
「今日も一日、ここに篭って修理作業ですか?」
「その予定。……ああ、そういやそろそろ届くかも」
俺が思い出したように言うとアルラはキョトンと首を傾げた。ちょうどそのタイミングで俺の携帯端末がピコンと鳴った。頼んでいた物が届いたらしい。
作業場のドアを開けると、木箱がポツンと外に置かれていた。周りには誰もいない。空を見上げると黒いドローンが遠ざかっていくのが見える。
「どうも」
聞こえてるはずもないが無愛想な配達員に礼を言って木箱を中へ運ぶ。
箱を開けると中には女性のものと思われる脚と腰があった。これからアルラの身体になるパーツ達だ。ネットで探すとすぐにアルラのモデルのパーツは見つかった。型落ちしたモデルだからか想像より安い値段で売られていて、俺でもすぐに買えた。
早速アルラに合わせようと、彼女をスタンドから外して持ってくる。抱きかかえると子供みたいで少し可愛く見えた。
その辺に転がっていた椅子に彼女を寝かして、パーツを当てがう。
「こっちが腰部」
最初に接続するのは腰部、と呼ばれるパーツだが……ほぼお尻と言っていい。女性の丸みがあって柔らかさも実際の人間と変わらないが、女性のそれと明確に違う点があって、性器がない。つるんとした股になっていて、マネキンみたいだった。そのせいか、はたまたお尻のパーツ単体だからか、すごく不気味なものに見える。
パーツを分けているということは、本来繋げた場合、分割線ができるものだが、腰部を繋ぐとその分割線が自然と肌で覆われて滑らかな腰回りに変わった。
「接続しました。問題ありません」
「じゃあ、あとは脚だけだな」
次に右脚を手に取って、やたら肉付きのいい太ももを鼠径部の穴に嵌める。ガコッとハマる感触がして、こちらも腰と同様に肌が分割線を消した。
「…………」
Tシャツ一枚姿で右脚だけがスラリと伸びている。相変わらず白い肌で、でも人間のような血の気を感じさせる肌色。
かなり扇情的だった。女性の脚なんて今まで気にしたことはないが、思わず見入ってしまう。
「マスター?」
「あ、ああ。左も繋げるぞ」
「はい」
なんでもなかったかのように言って、左脚も繋げた。特に問題もなく接続できたようでアルラは自分の足で立ち上がった。
「どう? 具合は」
「異常はないです」
歪みのない立ち姿でアルラは言った。俺は箱をもう一度漁って、紙袋を彼女に渡す。
「あとこれ。アルラの服」
「態々買って下さったのですか? ありがとうございます」
「ずっと俺のシャツ着せてるわけにもいかないしな。あんまり女の子の服とか分からないから適当に選んだけど、多分アルラなら何でも似合うだろ」
「では、早速……」
そう言ってアルラがTシャツの裾に手を掛けてその場で脱ごうとする。胸の下あたりまで脱ぎ掛けたところで俺は彼女の腕を掴んで止めた。
「あの……アルラさん」
「何か?」
「そっちは気にしないだろうけど、着替えるなら見えないところで頼む」
「はあ。マスターがそうおっしゃるなら」
不思議そうに目を細めると、アルラは紙袋を抱えて奥の倉庫に向かった。
やっぱり完成した体で動き出すと薄着なのも相まって、心臓に悪い。
◆
壊れたレンジの基板を直していると、横からマグカップを差し出された。白いカップには黒い液体が注がれている。湯気と共に上がるコーヒーの香りに顔を上げると、アルラがカップから手を離す最中だった。
「どうぞ」
音も立てずにやって来てカップを置くその所作は、洗練された使用人の様だった。軽く礼を言ってコーヒーをひと口飲むと、程よい苦味が喉を通っていった。
香りを楽しみながら、あらためて傍らに佇むアルラの全身を眺めた。深いブルーのワンピース。柔らかい素材で着やすそう……という安直な考えで選んだが、見事に似合っている。裾にレースの装飾がされてるのもあって、ネグリジェっぽくも見えた。ネグリジェがなんなのかイマイチ分からないけど。
「そういえば俺がコーヒー、ブラック派だって言ったっけ」
「マスターの生活はその棚の上でずっと見ていたので分かります。コーヒーはブラック。朝食はシリアル。作業に没頭しすぎて食事を忘れがち。甘いものが苦手。片手間に食べられるジャンクフードが好き。運動しなきゃと言いつつ行動しない。首を鳴らすのが癖」
淡々と数日間観察された俺の情報が羅列される。一気に言われると恥ずかしい。特に後半は耳が痛くて情けない。
「Tシャツ一枚姿にドキッとする。お尻に興味はないが、太ももに見入るなどなど。しっかり観察して分析していました」
「ん?」
「趣味嗜好はともかく、生活習慣に問題があります。これから私が正しますので、そのつもりで」
俺が突っ込む間もなくアルラは作業場の整理を始めた。散らばった工具やケーブルを片付ける後ろ姿に、俺はマグカップを持ったまま固まるしかなかった。
サラッと本当に恥ずかしいことを言われた気がする。男性の視線に女性は敏感だってよく聞くけど、アンドロイドもそうなのか?
アルラは食事も用意してくれた。冷蔵庫にまともな食材がほとんど無かったのにどういう手品か、夕食には彩りのいい料理が並んでいた。普段の俺の食生活に余程危機感を抱いたのか、やけに野菜が多かったけど。
気づけば作業場もすっかり整理整頓されている。壁のラックにはよく使う工具が等間隔に並んで、絡まりがちなコード類は綺麗に束ねられて箱にまとめてあった。想像以上の働きっぷりだ。
夕食後も作業をしていた。浮浪者から預かったものは全部直し終えていて、今は完全に趣味の時間。散歩中に拾った犬のロボットに左足を装着する。誰かに踏まれたのか、俺が拾った時には足が三本しかなかった。電源を入れて足の動きを確認していると「マスター」アルラが背後から俺を呼んだ。
「あい」
「寝室の準備ができました。今日はもう休みましょう」
「……まだ、十時だぞ」
「もう二十二時です。放っておくと日付を超えても仕事をしていそうなので、ここで中断させてもらいます。睡眠不足は明日の活動にも響きます」
「十二時前にはちゃんと終わるから」
「ダメです。もう布団に入ってください」
それからアルラは口を閉ざして俺をジッと見つめる。ピクリとも笑わない彼女の圧に気圧されて俺は渋々従うことにした。
「わ、分かった」
◆
小屋は作業場とドアひとつで繋がっている。広々とした作業場と違い、ワンルームの狭い空間だ。部屋の奥に一人分のベッドがポツンと置かれていて、それ以外にはクローゼットと冷蔵庫ぐらいしか家具はなかった。睡眠と風呂の時以外は作業場にいるから最低限の物だけで十分だった。
言われた通り大人しくベッドに入ると、アルラが脇に立って俺を見下ろしていた。
「何してんの?」
「マスターがお休みになるまでここにいます」
「気になって寝れない」
「子守唄でも歌いましょうか?」
「やめてくれよ。子供じゃないんだから……」
早寝させたり、野菜を食べさせてきたりと母親じみた行動が多くて若干屈辱的だ。そんなに俺は子供っぽいのだろうか。確かに生活習慣は悪いかもしれないが、これでも自立した大人なのだ。そのことをきちんと理解して仕えてほしい。
「……つまりは大人の寝かせ方をしろと?」
「そんな方法があるなら、そっちの方がいい」
果たしてそんなものがあるのか分からないが、頷いて答える。するとアルラは目を瞑って何かを考えて、掛け布団の下側から中に潜り込んできた。
「な、何?」
「下、失礼します」
問いにも答えず、彼女は俺の短パンに手を掛けてずり下ろそうした。
「待て待て待て! なんで⁉︎」
急な出来事に困惑しながら俺は足元でモゾモゾと動くアルラを必死に止める。
アルラは短パンに手を掛けたまま、俺の目を見て言った。
「大人の寝かせ方をご所望なので、抜いて差し上げようかと。射精には体力を使いますから入眠しやすくなります」
「いやいやいや、別にそういうの求めてないし!」
「マスター、私が来てから自慰行為してませんよね?」
「じっ――」
平然と出てきた単語に言葉が詰まる。
自慰行為。日常会話じゃまず聞かないし口にしない言葉を、容姿端麗でスタイルのアンドロイドの唇から発せられた。その事実に心臓がドクンと跳ねた。
「顔色を見れば分かるので隠さなくて結構です。最後にしたのはいつですか? 健康な生活のためには適度に発散させることも重要です。私がシゴきますので、出してください」
「本当にそういうのいいって! 別にそういうつもりでアルラ直したわけじゃないし」
ボディや顔の美しさに見惚れたのは事実だが、決してアルラに情欲をぶつけたくて直したわけじゃない。ただ機械弄りが好きなだけ。アンドロイドに興味があっただけだ。だから娼婦のような真似はしないでほしい。
そんな俺の想いをアルラは汲み取ったようで、手を離した。だが、どこか腑に落ちないような表情を浮かべて滔々と語りだす。
「マスター。アンドロイドには役割が必要です。私はマスターの従者として再びこの体に『生』を受けました。この与えられた役割を全うすることが道具としての喜びなのです。どうか、きちんと道具として使っていただけませんか?」
「掃除も料理もしてくれた。もう十分だ」
「いいえ。まだまだです。家事をこなす程度では全うしたとはいえません。時に暴力を。時に罵声を。時に情欲を受け止めてこそ、道具として適切に扱われたと思えるのです」
まだアルラと出会って三日しか経っていない。彼女が普段どんなことを考えて、どんな顔をするのかその全部を俺は知らない。
それなのにその時のアルラの目には悲しみの色が見えて、彼女らしくないように感じた。
「遠慮なく、出してください」
懇願するような声に、俺は拒否できなかった。
◆
「どうですか? 痛くないですか?」
「だ、いじょうぶ……」
細く長い指で、竿を刺激される。段々と大きくなるそれをアルラの白い指が下から上へ優しく撫で上げていた。
掛け布団に潜り込んだまま、アルラは寝そべった俺の短パンとパンツを脱ぎ取ってシゴいていた。布団の中を覗くと、アルラがクールな表情でジッと俺の息子を見ながら単純作業であるかのように刺激していた。
つい先日まで一人暮らしをしていた俺からすると非現実的な光景で、思わず目を逸らしてしまう。
「何故、目を逸らすのでしょう?」
「は、恥ずかしい、というか」
「アンドロイド相手にそんな感情を抱く必要はないかと。……硬くなってきましたね。ここ、気持ちいいですか?」
赤黒い先端の首の部分をグルグル撫で回されて、膝がピクピクと反応してしまった。その反応を無言の肯定と受け取ったアルラは容赦なく弱い部分を弄る。
「先っぽ、濡れてきましたね。喜んでもらえているようで何よりです。……マスター、こっちを見てください」
「なんで――」
「視覚から得られる刺激もあるでしょう。効率よく射精に至るために見ていただきたいのです」
そう言われてもう一度、布団の中を見ると、アルラの人差し指が息子の先端を突いていて、粘性の液体が一瞬糸を引いていた。
確かに視覚情報が強烈で、息子はさらに硬度を増していく。
「一気に硬くなりました。やはり見てもらった方が興奮するようですね。……れろっ」
「ちょ、アルラっ」
濡れた先端をアルラが舐め上げた。指で触られるのとは全く違う感覚に体が震えた。
「口淫で搾り出します。どうぞ見ていてください」
「口淫って」
「フェラ、と呼んだ方が好みですか?」
「……っ」
「マスターは分かりやすいですね。……んちゅむっ、れろれろ……んちゅ、ちゅっ」
何度も角度を変えて色んな方向から色んな場所にキスをされた。
「ぢゅっ、る……ん、んぢゅぅ……。カウパー、凄い量出ますね……ぢゅうううううう……っぱ!」
わざとらしい音を立てながら吸い付かれてアルラに汁を吸われる。聴覚にまで淫靡情報を叩き込まれていた。
アルラは根元まで一気に咥えて、さらには玉まで揉んでくる。
「アルラ、それやばいっ」
「じゅっ、ぷ……ん、くっ……じゅっ! んちゅるる、ぢゅっ、じゅっ、んぷっ……もう出そうですよね。じゅるるるっ! んぐっ、ぽっ……ぢゅるっ、んじゅっ、ぢゅううぅ……顔と口、どっちがいいですか?」
「顔っ」
込み上げてくるものに頭が回らず、適当に前者を選んだ。
俺の答えを聞いてアルラのペースが上がる。
「じゅっ、じゅっ、んっ! ぢゅっるるる……ぐっ、ん、んっ! ぐっ、ぷっ! だひて、ください……ん、んぢゅるる……ますたーの、せいえき……んぢゅっ! ぢゅっ! ぢゅるるるるるるっ……んっ」
限界まで口で竿をシゴいて、アルラはパッと口を離した。布団を汚さないよう自分に先端を向けさせると、その美術品のような顔で俺の全てを受け止めた。
ドロっとした白濁液が二、三回に分けて発射される。アルラは顔色ひとつ変えず、俺の射精が止まるまで待っていた。
「相当溜め込んでましたね。ドロドロです。……ぢゅるるるるるっ……!」
「も、もういいって」
「まだ奥に残ってます。ぢゅうううぅ……」
汚された顔のまま、またアルラは咥えて奥に残ったのを搾り取る。そしてゴクンと残滓を飲み込むと、ようやく俺から口を離した。
「ん、っぷ。これでスッキリしましたか? ……眠そうですね」
「なんか疲れたし、緊張感抜けたというか」
「私が下着を履かせておきます。眠っていただいて結構ですよ。お疲れ様でした」
そう言ってアルラは布団から出て俺の瞼を閉じさせた。驚くほど強烈な眠気が襲ってきて、瞼を開ける力もなく意識が遠のいていく。
「明日からも溜まっていそうな時は私が処理します。もちろん、マスターが私を襲いたい時はご自由にしてください。まあ、私に性器は無いので襲い甲斐はないでしょうけど。……それでは、おやすみなさい」
最後にそんなセリフが聞こえてきて、俺は夢の中に落ちていった。