「顔赤くない?」
それは朝食を食べている最中、マキナが俺に言った言葉だった。藪から棒になんだと思っていたらアルラがすぐさま俺の元まで寄ってきて額に手を当てた。
「風邪ですね。まだ微熱ですが」
不安そうに眉間に皺を寄せてアルラが言った。マキナもやっぱりね、と落ち着かない様子で俺を見ていた。
「言われてみれば頭フラフラするかも」
食欲もあるし頭痛や喉の痛みもないがのぼせたように顔が熱く、頭が重い。
「今日は小屋で大人しくしていてください」
「特に症状ないし、薬飲めば作業してても大丈夫だろ」
「ダメです。舐めてかかると痛い目見ますよ」
「は、はい……」
強い口調で言われ渋々頷いた。こんなに語気を強めるアルラは初めてかもしれない。用心しすぎな気もするが、風邪薬を飲んで今日はベッドで安静にしておくことにした。
朝食を済ませてとんぼ返りで小屋に戻り、二人に見守られながら布団を被る。
「気分はどうですか?」
アルラが水やタオルを準備しながら訊ねてきた。
「段々しんどくなってきたかも。頭痛い」
顔が赤いと指摘されてから少ししか経っていないのに、体調が一気に悪くなった気がする。もしそのまま作業場で仕事を始めていたら不意に倒れていたかもしれない。
マキナも同じことを思ったようで、「ほら見なさい。アルラの言う通り安静にしておくのが正解よ」と呆れていた。
「悪い。迷惑かけて」
「迷惑だなんて思ってないわ。私もアルラも風邪が移るとかないし」
「ええ。それに看病するのも私の大事な役割です。頼りにしてください」
自分の不甲斐なさを痛感しつつ、二人の包容力に胸が温かくなる。
ぐっすり寝て早く治さなくては。
目を瞑って瞼の裏を見つめるが、さっき起きたばかりなうえに強さを増す頭痛のせいで眠れる状態ではなかった。おまけに俺にあまり負担をかけないためか、アルラもマキナもじっと黙っていて退屈この上ない。耐えきれず二人に言った。
「なんか喋ってくれ。暇だ」
「そういえば風邪の時ってそんな感じだったわね。私も体調が悪いことより暇なことが辛かったわ」
人間時代を思い出しながらマキナは共感を示した。
「テレビとか見るテンションでもないから、ただただ天井眺めて寝落ちするの待ってたなあ。懐かしい」
「マキナも体調崩すことあったんだな。ウイルスとか寄せ付けないお転婆娘のイメージだった」
「普通の子だったわよ。明るくも暗くもなく、優秀でも落ちこぼれでもなく、インドアでもアウトドアでもないフツーの女子。ちょっと学校はサボりがちだったけどね」
「たまに不良ボイス出るもんな」
「誰がヤンキーじゃコラ」
「そういうとこだぞ」
指摘するとマキナは口元を手で隠し、わざとらしく、ごめんあそばせと笑った。素の口調から察するに男勝りな女の子だったのだろう。
「会ってみたかったな。その頃のマキナにも」
「やめてよ。今と違うからなんか恥ずかしい」
「見た目は変わらないんだろ?」
「そうだけどやっぱ性格はだいぶ違うわ。自分で言うのもあれだけどかなり生意気だったと思う。目上の人に敬語なんて使わないし、先生にも口答えばっかりして、同級生ともよく掴み合いの喧嘩してた」
横で聞いていたアルラが懐疑的な目をマキナに向ける。
「普通の女子?」
「ええ。至って普通の女子」
堂々とした態度でマキナは繰り返す。まあ、本人が言うのだからそういうことにしておこう。
「その頃と比べると随分丸くなったな」
「四百年も経てばねえ……。どんな石ころだってそれだけ時間があれば角は取れるわよ。たとえ波風に揺られなくても『時間』っていう流れはあるもの」
「それでも不意に角が出る時あるけどな。この前のサティの時みたいに」
「あれはいきなりの事だったからつい……」
苦い顔でマキナは頬を掻いて、そんなマキナにアルラはクスリと笑った。
彼女の反応に目を丸くしてしまった。今までも微笑んだり頬が緩むことはあったが、アルラが可笑しむのは珍しい。驚いた顔で固まる俺に気づいたアルラは、「何か?」と首を傾げる。
「アルラも変わったなと思って」
「はあ。よく分かりませんが、私も作られてからそこそこの年数経ちますし、そういうこともあるのかもしれません」
「アルラのは時間が経ったからっていうよりナオの影響でしょ。ナオの隣にいる時とそうじゃない時とじゃ、露骨に表情違うもの」
サティもそんなことを言っていた。ぶっちゃけ俺には分からないが周囲の人間の目にはそう映るらしい。アルラ自身も自分の表情の違いには鈍感なようで腑に落ちていないようだった。
「無意識にそうなってるなら余程満たされてるのね。羨ましい限りだわ」
「マキナ様こそ、憎たらしいぐらい極楽な表情をする時がありますよね。主にマスターと繋がっているのを私に見せつけてくる際に」
「やっぱあれよね。好きな人を独占してる時に横に悔しそうな女がいると愉快で口角上がっちゃうわ。ちょっと寝取ってる気分になるし。あと単純に夢中でハメ倒しているのを人に見られるとゾクゾクする」
「きっも……」
「あんたやっぱり相当変わったわ。前は絶対そんなこと言わなかった」
平然と毒づくアルラにマキナがため息を吐いた。姉妹のようなやり取りが微笑ましい。
毒にも薬にもならない話をダラダラと続けていると、本当に薬にはならなかったようで体調は悪化する一方だった。
悪寒がして寒い。顔半分隠れるほど布団を被っていても寒さに震える。
「そろそろ昼食の時間です。何か食べたいものはありますか?」
アルラが何か言っている気がする。言ってることは分かるのに脳で理解出来ない。答えが思いつかない。
「マスター。食べたいものはありますか?」
もう一度、アルラが訊ねる。ぼやけた意識の中、なんとか答えた。
「……おっぱい」
「重症ね……」
「風邪が治ってからにしてください」
二人が呆れた顔をしたが、なぜそんな顔をされるのか分からない。自分が何を口にしたのかすら曖昧だった。
昼食は食べやすいトマトスープが出てきた。吐き気は特になかったため頭痛に耐えながら完食すると、空になったお皿を持ってマキナが立ち上がった。
「ご飯も食べたしすぐに良くなるでしょ。私は作業場戻るから、後はアルラに任せるわ」
「……良いのですか?」
「何が?」
「かなり心配そうにしてましたし、マキナ様もマスターのお側にいたいのでは」
「風邪ひいたぐらいで過保護にくっつかれても鬱陶しいでしょ。ナオももう寝たいだろうし。それに……」
チラリとマキナが俺の顔を見た。
「弱ったナオ見てると高まってきちゃう」
「エロ神……。負担のかかる事は間違ってもしないでください」
「わ、分かってるわよ。だから自重するって言ってるの」
そう言い残してマキナは出ていった。
アルラと二人きり。喋る元気もなくなって静かな空間になる。
食事をしたせいか眠気が襲ってきた。眠りに落ちる準備をしながら、前に体調を崩した時のことを思い出す。
実家を出たのが五年ほど前。それから三年はパソコン修理の店を構える老いた男性の元で機械弄りの勉強をしていた。
最初は物作りをするための勉強のつもりで弟子入りしたが、段々作るより直す方にハマった。
誰かが大切にした物を直すのは、決して壊せない緊張感があって楽しかった。全く大切にされていない物を直すのは自分だけがその子に向き合っている特別感を感じられて、もっと楽しかった。
次第に自分で修理屋を構えるのを夢見るようになって、独立を目指し一層仕事に励んだ。
そんな折、今回のように風邪をひいて寝込んだことがある。
一人暮らしだったため、孤独に喉の痛みと闘っていた。親とは喧嘩別れで連絡しようだなんて思わなかったし、シュリにも頼る気になれなかった。弱った時だけ当てにするというのはかっこ悪い。
一晩寝れば元気になる。そう言い聞かせて目を瞑っても、咳と鼻水で一向に寝付けない。目を瞑って無心になろうとしても、逆に普段考えないようなことばかり考えてしまう。貯金あといくらあったっけとか、子供の頃好きだったアニメのあのセリフ、今思うと大した言葉じゃないなとか、学校で一度だけ喋ったクラスメイトのあいつは今何してるんだろうとか、そんなどうでいいことばかり。
そうして無駄に頭を回しているうちに思う。物凄く寂しいと。
死んでも言いたくなかったのに、天井に向かって「母さんがいたらなあ」と呟いたのを今でも覚えている。
恥ずかしくて思い出したくないのに、体調不良の今、タグ付けされたように関連項目として脳裏に浮かんでくる。
ゆっくりと目を開けるとアルラが心配そうに俺を見つめていた。
頭痛でキツいのにこれ以上ない幸福を実感した。
寝落ちする寸前に布団から手を出してアルラの手に触れると、彼女は優しく握ってくれた。
「ずっと一緒です」
その言葉に安心感を覚え、フッと意識が途絶えた。
◆
翌日。小鳥が囀る早朝に目を覚ますと早々にアルラによる体調チェックが始まった。額に手を当てられ、症状がないか細かく聞かれる。
やたらと目覚めが良い頭で自分の状態を確かめながら質問に答えると、アルラは安心したように頷いた。
「無事に治ったようですね。良かったです」
「ああ。今日から通常運転だな」
ぐっと背伸びをする。丸一日動かず寝ていたせいで身体が固い。散歩でもしてから仕事を始めるかなと考えた矢先、なんの前置きもなしにアルラがベッドに身を乗り出して俺の唇を奪った。
彼女は驚くリアクションを取る間も与えず、今度は俺の手を取って自分の胸を鷲掴みさせた。
「朝からどうした」
「昨日言ったこと覚えてませんか?」
「なんか言ったっけ」
「幼児退行した口で私の胸をご所望でしたよ」
「またまたご冗談を」
「……そう思うならそれでいいですけど」
肩を落としてため息を吐かれた。
アルラの反応的に冗談ではないらしい。本当に身に覚えがない。本当にそんなことを口走ったのなら穴があったら入りたいぐらいだ。
しかし俺が穴に隠れるより先に彼女は二手目を打ってくる。
「世迷い言の真偽はさておき、どうします? 夜まで我慢しますか?」
紺のルームウェアの上着、その裾を捲りあげて胸を見せつけてくる。グレーのブラは一見色気なんて感じさせないのに元々持っている肉体美を際立たせるのに一役買っていて、何十回と見たはずの谷間に視線が吸い込まれる。
病み上がりにいきなりお世話になるのはいかがなものかと理性は言うが、本能には抗えなかった。
下半身を曝け出すとベッドの上でアルラの膝に頭を乗せた。豊満な乳房越しにアルラと目を合わせると彼女は目を細めて口角を上げる。
「そんなに期待した目で見られると、母性とやらが湧きますね。今出しますからね」
アルラはゆっくりと焦らし気味にブラを捲り上げ、ツンと尖った蕾を出した。ぷくりと膨らんだ輪も含めて咥えやすい形を成している。
包容力満点の色香にまんまと誘われ、勢いよく食いつき舐め回した。
「朝から元気で良いですね。恥ずかしがらずママに甘えてください」
頭を優しく撫でられ羞恥心も溶けていく。最も女性らしい部分に顔を埋めて赤ん坊のように味わった。
アルラは恍惚の表情を浮かべたまま俺の股間にも手を伸ばす。
「こっちも元気元気です。昨日はお風呂に入ってないからかちょっと汚れてますね。あとで私が綺麗にしますから、今は何も考えず気持ち良くなってください。ほら。マスターの大好きなカリ首クリクリ攻撃ですよー。クリクリ〜……♡」
「うっ、ぐっ……」
人差し指でくすぐられて乳房から口を離してしまうほど悶えた。それでもアルラは手を止めずにひたすら弄り倒す。
「どうしたんですか? まだお腹いっぱいじゃないですよね? おっぱい沢山飲まなきゃ大きくなれないですよ。飲める時に飲まないと……。次もおっぱいあげるかは私の気分次第です」
「本当に性格悪くなったな……っ」
「でもこういうのが良いんですよね? 甘々シコシコされて意地悪されるのが幸せなんですよね? いくらでもマスターの嗜好に付き合ってあげますから、私に全部ぶっかけてください。ママにマスターのカッコいいお射精見せてください♡」
先端から溢れてきた先走りを潤滑剤に、アルラの手淫が速くなる。
みっともなく腰を跳ねさせながらアルラの胸にしがみついて込み上がってくるものを最大限まで溜め込んだ。
「ママの乳首吸いながら上手に出来るかな? パクパクしてる尿道さんから一日ぶりのピュッピュッちゃんと出来るかな? しっかり確認しますから頑張って♡」
「で、るっ」
「はい、びゅーっ♡♡ びゅるるるるっ♡♡」
全身でアルラのママ言葉を浴び、盛大に発射した。噴水のように飛び出す白液にアルラは笑みを深めて俺を偉い偉いと褒めた。
「もう少しおっばい堪能します?」
アルラの問いに乳首を咥えながら頷くと、彼女は自分の手に掛かった液をペロリと舐めた。
「私もおちんぽミルク楽しませてもらいます。……ああ、苦い♡」
火照った顔でアルラは吐息を溢す。
目を覚まし、様子を見にきたマキナに呆れた目を向けられるまで、俺たちは互いを味見し合った。