※この作品はR-18です。

道具の愛され方   作:ハルバードマカロン

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★メイド服と微調教

 酔いそうなほど人が多い休日のショッピングモール。少し目を離せば同行者を見失いそうだった。隣を見れば、まだ一階ロビーに入ったばかりだというのに人の多さに気が滅入っている様子のシュリがいた。

 

「大丈夫か?」

「騒がしくてびっくりしただけ」

「迷子になるなよ」

「子供じゃないんだから」

 

 シュリは呆れたように小さな笑みを作った。そして小さくあくびをする。やはり寝不足が響いているようでここに来るまでに何度もあくびを溢していた。大丈夫かと聞いても、大丈夫としか答えない。急に体調が悪くなったりしなければいいのだが。

 

 朝に話したとおり、今日は遠出してショッピングに来ていた。前にアルラとマキナを連れて出かけたニュー・セントラルほどではないが、ここも賑やかな都会に堂々と聳える巨大なモール。テナントを見て回るだけでも一日を余裕で潰せる。

 四人で来るつもりだったが、珍しいことにアルラとマキナは家で留守番すると言い出し、ここには居ない。明らかに何か企みがあってのことだが、どうせ訊いたところで適当にはぐらかされるだけ。怪しみながらも特に突っ込むことはせず、シュリと二人で訪れた。

 デカデカとマップが映し出されたパネルを見ながらどこから回るか相談する。

 

「見たい場所あるか?」

「バッグ買いたいかも」

「適当にアパレルショップ回るか。俺も靴欲しいし」

 

 俺がそう言うと、シュリが足元を見た。

 

「スニーカーボロボロ……」

 

 直しながら使ってたいたが、もうガタが来ている。こんな都会に履いてくるような靴じゃないのは明らかだが、服を買いに行く服がない状況じゃ仕方がない。

 二階に上がってアパレルショップの立ち並ぶエリアへ向かう。レディースブランドの店に入るとシュリは早速バッグを手に取った。

 肩掛けのが欲しいようで気になった物を肩から掛けては鏡で自分の姿を確かめる。

 ショップの雰囲気を見ても分かるがシュリはガーリーなデザインは好まない。現に今吟味している商品も黒やグレー、セピア色なんかの落ち着いたカラーだった。

 何個か候補があったようだが、最終的に二つまで絞ったシュリは両手にバッグを持って俺に聞いた。

 

「どっちが良いかな?」

 

 左はブラウンの革製のバッグ。サイズはやや小さめだが厚みがあって容量はそこそこありそう。

 右はシアンの柔らかい生地で出来たバッグ。かなり大きなサイズでトートバッグ並みだ。

 シュリの頭から足元までを見ながらどっちが合うか真面目に考えて結論を出した。

 

「どっちも似合う」

 

 元が良いのだ。印象は違えどどれ持っても様になる。そう思っての意見だったが、シュリは不満そうに頬を膨らませた。

 

「決めてほしくて訊いたの。どっち付かずな意見は困る」

「本当にそう思ったんだから仕方ないって。社交辞令的に言ったわけじゃない」

「それは分かるけど……。私は兄さんに決めてもらいたい」

「じゃあ右で」

「理由は?」

「そっちの方が安い」

「兄さんに聞いた私が馬鹿だった」

「冗談だって。カジュアルでも固めの服が多いシュリにはそっちの方が抜け感あって可愛く見えると思う。最近は大きめのバッグが流行ってるしな」

 

 今日のシュリのファッションも無地の白いシャツに黒のパンツだった。シャツはゆったりとしているが、パンツは細身なせいでオフィスカジュアル感が強い。クールな顔立ちに似合っているものの、もう少し遊びがあっても良いと思う。

 なんてことを勝手に思っていると当の本人は不思議な物を見る目を俺に向けていた。

 

「なんでレディースファッションの流行りとか知ってるの?」

「マキナが言ってた。よく服強請られるから俺も詳しくなってる。一緒にコーデ考えるとはしゃぐんだよな、あいつ」

「……やっぱり兄さんに聞いた私が馬鹿だった」

「なんでだよ」

 

 今の会話のどこに呆れる要素があったのか。

 ムスッとした表情のままシュリは俺が選んだバッグを持ってレジに向かった。

 学校で宣伝を打ってもらったお礼に俺がバッグ代を払って店を出ると、今度はスニーカーショップに入った。さっきのシュリと同じく候補の靴を二足まで絞ると「どっちが良い?」と聞いてみた。

 

「左」

「理由は?」

「安い」

「だよな。迷ったら値段で考えるのが手っ取り早い」

「……意趣返しが効かない」

 

 何やら悔しそうな顔をする妹を放って新しい靴を買った。

 

 ◆

 

 ダラダラとモール内を歩いて買い物を楽しんでいると、気づいた時には時間は十三時を過ぎていた。ランチはまだ済ませてなく、手頃なレストランを探そうと四階を歩く。このフロアは飲食店がメインで人がわんさかいた。

 空いていそうな店がないか見渡すがそんな都合よくあるはずもなく、もう諦めて長蛇の列に並ぼうとシュリと相談していたその時。

 

「そこの初々しいカップルさーん! ランチまだならここで食べてってくださいよぉ」

 

 わざとらしく甘えた猫なで声で話しかけられた。振り返ってみると、そこにはメイド服を着た茶髪のふんわりロングの女性がいた。

 メイド服といってもボタンの豪邸にいたような"本職"の格好ではない。黒の短いスカートにレースのあしらわれた白いエプロン。ファンシーなリボンが袖や胸元に付いていて、どう見てもコスプレの域を出ていないメイドだった。おまけに頭には猫耳も付けている。

 分かりやすいキャッチに俺は戸惑った。こういうのは断りづらくて苦手なのだ。

 隣のシュリも苦々しい顔を浮かべていた。ただシュリは俺と違って、単純に『萌え』文化が受け付けない様子だった。

 

「どうする?」

 

 一応聞いてみると、すぐさま首を横に振られた。

 

「私こういうとこ苦手だから……」

「ツレない彼女さんですねぇ。今なら彼女さんも喜ぶカップルイベントやってますよー」

 

 初対面にも関わらずメイドは馴れ馴れしくシュリに擦り寄る。その態度が余計気に入らないのかシュリは一層深く眉間に皺を寄せた。

 流石のメイドもそんな顔をされては無理だと判断したのか大きく肩を落とす。

 

「うーん。どうしてもって言うなら仕方ないです。彼氏さんだけご帰宅させますねー」

「は?」

 

 シュリが腹から疑問の声を上げるも、知らないふりをしてメイドは俺の腕にしがみついた。

 

「ご主人さま一名、ご帰宅でーす」

「待ってくれ。急に言われても……」

 

 強引すぎるキャッチに俺も当然困惑したが、シュリは俺以上に焦っていた。

 

「ちょっと! 勝手に連れてかないで!」

「あと一人でノルマの人数になるんですー。彼氏さんだけでもお店に入ってもらいますよぉ。あ、多分変なことはしないので彼女さんは安心して帰っていただいて大丈夫です」

「多分って何⁉︎」

「だってぇ、彼氏さん素敵な人じゃないですかー。彼女さんの監視がついてないとイタズラしちゃいたくなるかもー、なんて♡」

「ああ、もう! 私も行く!」

 

 頭を掻きむしって店に入ることを決めたシュリに、メイドはしてやったりと笑顔を浮かべた。

 

「はーい。ご主人さま二名、ご帰宅でーす」

 

 メイドはご機嫌に俺とシュリの腕を取り、店まで引っ張った。

 拉致された店は『ご〜るど・すたぁ⭐︎』というメイドカフェだった。薄いピンクの壁にハートや星が所々描かれていて、ザ・コンカフェみたいな内装がなんか気まずい。間違っても兄妹で入るような店じゃない。

 席に案内され大人しく座り、周りを見ると、意外にもカップル客が多かった。仲睦まじそうに会話する男女もいれば、どこか落ち着かない様子の男女もいる。おそらくみんな俺たちと同じ手口で引き摺り込まれたのだろう。あの猫耳メイドはキャッチが上手いようだ。

 猫耳がお冷を持ってきてテーブルに置くと俺とシュリにメニューを見せた。

 

「はーい、こちらメニューになりまーす。おすすめは、『あなたの子猫の手作りオムライス♡』です」

 

 ニコニコと笑いかけながら勧められる。俺とシュリは不慣れな状況に愛想笑いを浮かべる元気もなく、「じゃあそれで……」と適当に頷いた。

 メイドは了解しましたー、と軽い調子で答え店の奥へと消えていく。

 

「なんか凄いな……世界が違う」

「甘ったるい声で頭痛い」

 

 本人が居ないからとシュリは棘を隠さずに言った。

 

「向こうも仕事だしそんな顔するなよ」

「兄さん、ああいうのに弱すぎ。ちゃんと断らないと。ここはまだしも変なお店に連れてかれたらどうするの」

「キャッチってどう断ればいいんだろうな。話も聞かずに立ち去るっていうのは悪いし」

「向こうも断られる前提で話しかけてくるでしょ。無視すればいい」

「でもなあ……」

「可愛い子だったからつい足止めちゃった?」

「いや、そういうわけじゃ」

「丈短いから太ももまで見えてたもんね。まんまと魅入っちゃうよね」

「なんか怒ってる?」

「別に」

 

 プイッとシュリはそっぽを向く。どう見ても怒っている。

 本当にあのメイドに惹かれたわけでもなんでもなく、キャッチの断り方が分からなかっただけなのだが、説明してもシュリには伝わらなかった。

 居た堪れない空気を味わいながら待っていると、メイドがオムライスを二つ持ってやって来た。

 

「はーい。あなたの子猫の手作りオムライスでーす♡」

 

 絵に描いたような普通のオムライス。手作りと言ってはいるが、十中八九裏でシェフが作った「失礼ですねー。本当に私が作ったんですよ!」

 

「……何も言ってないぞ」

「顔に書いてましたあ」

 

 笑みを崩さずに俺に言うが目が笑っていない。そのプライドを見る限り、どうやら本当に手作りらしい。

 

「……あれ?」

 

 ふと違和感を抱いてまた周りを見渡した。やや小さめの店だが、それでも席はほぼ満席で客は決して少なくない。なのに、メイド――つまり従業員がこの猫耳メイドしか見当たらない。この店に入ってからずっとだ。

 もし本当に食事も彼女が作ってるのだとしたら、このお店はワンオペで回しているということなのだろうか。

 キャッチまでしていたぞ、と思わずメイドの顔を見つめると視線に気づいた彼女はくすぐったそうに笑った。

 

「いやん♡ そんな目でどこ見てるんですかー?」

「兄さん。最近は視線だけでもセクハラ判定くらうこともあるよ」

 

 シュリにため息混じりに注意された。すると猫耳が驚いたように目を丸くする。

 

「『兄さん』? もしかしてご主人さま達、ご兄妹?」

「ああ」

「そうだったんですねえ。お似合いだから早とちりしちゃった」

 

 テヘッ、と側頭部に拳を当て、あざとく反省のポーズを取る猫耳。そして彼女はシュリを見ると「ふむふむ。ふーん……へえ……兄妹ですかー」と独り言を呟きながらニヤニヤと口角を上げる。

 不快に思ったシュリが目を細めて「何?」と聞くと猫耳は「なんでもないですぅ」と誤魔化して、ケチャップを手に取った。

 

 

 

 ハートマークと猫のキャラクターが描かれたオムライスを食べ終わると、今度は猫耳が「カップルイベント始めましょーか。兄妹でも楽しめますよぉ」と言い出した。

 

「そんなこと言ってたな。何やるんだ?」

「それはですねー……と、その前に。妹さん借りますね」

 

 それだけ言うと猫耳はシュリの腕をホールドしてそのままお店の奥まで連れて行こうとする。

 

「な、何するの? ていうかさっきから人のこと無理やり引っ張りすぎ」

「大丈夫だいじょーぶ。ちょーっと過激なことやるだけですよ」

 

 二度目の拉致に嫌悪感むき出しのシュリが必死に抵抗するが、猫耳の力が強いのかシュリが非力すぎるのか、あっさりと連れて行かれてしまった。

 それから一人寂しくお冷を飲んで待っていると。

 

「に、兄さん……」

「おかえ、り……?」

 

 戻ってきたシュリの姿を見て俺は思わず固まった。

 帰ってきたうちの妹はメイド服を着せられていた。

 ピンクのシャツとスカートに白のエプロン。猫耳が着ている物の色違いだ。ひとつ大きな違いがあるとすれば、銀髪の頭には猫耳ではなく白いフリルのカチューシャが乗っている。

 普段のシュリのファッションとあまりに違いすぎて別人かと思った。しかし顔を見るとちゃんと本人らしく、耳まで赤く染めて今にも泣き出しそうな表情をしている。ギュッと丈の短いスカート部分を握り、プルプルと震えている姿によくない感情が湧く。

 

「コスプレイベントです。これのおかげで女性客も増えてるんですよー。こういう場じゃないとメイド服なんて着れないですもんねぇ」

 

 のんびりとした口調で猫耳が言った。

 

「ほら、どうです? お兄さんから見てこの格好は。素材がいいから中々でしょう?」

「あ、ああ。よく似合ってる」

「ですってー。よかったですね、妹さん」

 

 猫耳が話を振るが、シュリは顔を俯いたまま何も言わず、()()()()()

 そんなシュリを壁際に立たせると、猫耳はシュリの正面を手で指して「どうぞ!」と俺に言う。

 

「どうぞ?」

「撮影タイムですよー。可愛い妹さんをホーム画面にしたくないんですかあ?」

「したくないよ」

「ひどい‼︎」

 

 それまで俯いていたシュリが大声を上げた。少し言い方が悪かったかもしれない、が。

 

「冷静に考えて妹のメイド服姿をホーム画面にしてる兄とか嫌じゃない? 俺だって恥ずかしい」

「そうだけど……こっちだってこんな恥ずかしい目に遭ってるんだから、兄さんもそれなりのことはすべき」

 

 パッと後ろを振り返ってみると、他の客も見せ物を見るように堂々とシュリの姿を見ている。確かにこれ以上ないほどの辱めではあった。

 

「……分かった。じゃあ何枚か撮らせてくれ」

 

 そう言ってスマホを構えてみる。しかしシュリはどんなポーズをとればいいのか分からず棒立ちのままだった。流石に見ていられなかったのか、猫耳がシュリに声をかけた。

 

「ちゃんとメイドっぽいポーズしてくださいよ」

「言われても分からない。やったことないんだから」

「まずはこう。胸の前でハートを作って首をちょっと傾ける」

「こ、こう?」

 

 言われたとおりにシュリがハートを作って首を傾けた。指示されたことを忠実にやっているはずなのに、あまりにもぎこちない。でもそれもキュートポイントな気がして、知らぬ間にシャッターを切っていた。

 そんな調子でポーズを変えながら五枚ほど撮って、「そろそろツーショットも撮りますかー」と猫耳が言ったその時だった。

 

「うん……」

 

 シュリがまた目を擦って弱々しく頷いたと思った直後、バタンッと力なくその場に倒れた。

 

「シュリ!」

 

 あまりに急で体を支えることもできず、俺はシュリに駆け寄って取り乱すことしかできなかった。

 

 ◆

 

「ただの立ちくらみだからそんなに心配しないで」

 

 ソファで寝転がったままシュリが力無く笑ってみせた。青白い顔で言われてもこっちは気が気ではなく、なら大丈夫かとは思えない。

 ここはご〜るど・すたぁ⭐︎のバックヤード。従業員の休憩用の小さなスペースらしいが、シュリが横になれるようにと猫耳が貸してくれた。萌え萌えしい表と違って、ここはいかにもスタッフルームっぽい。真ん中に机がひとつあって、壁際には大きめのソファとガラステーブル。あとは事務用品をしまっていそうな棚。それぐらいしかない簡素な部屋だ。

 当然他に人もいなく、状況が状況だからかじめっぽい空気が流れていた。

 

「睡眠不足の影響だよな。ここまで酷いとは思わなかった。何が原因なんだ」

 

 椅子を一つ借りてソファの近くに座ると、気になっていたことをシュリに訊ねた。

 するとシュリは目を泳がせる。

 

「さ、さあ? 私にも分かんないっす……」

「分かりやすく嘘つくなあ。精神的なものか?」

「……まあ、そんな感じ。大したことじゃないからほっといて」

「そうしてあげたいのは山々だけど、流石にここまでくると無理な話だろ」

 

 俺が強く言うとシュリはサッと目を逸らした。

 その反応で怖がらせたかもと、すぐに頭が冷える。

 

「ごめん。言いたくないこと掘り下げるなんて配慮が足りなかった」

「ううん。心配してくれてるのは嬉しいよ。ただ、ちょっと恥ずかしい悩みだから言えなくて……」

「そっか。アルラ達に相談できるなら遠慮せずに頼れよ」

「うん」

 

 手の甲を額の上に乗せて天井灯を遮ったまま、シュリはジッと固まった。眠くなってきたのだろうか。店で寝るのはあまり良くないが、寝付けるならぐっすり眠ってほしい。俺は口を閉ざしたままシュリを見守った。

 しかし沈黙に耐えられなかったのか、シュリが口を開いた。

 

「頭ボーッとする」

「熱はないよな? あったら病院行こう」

「ないと思う」

「俺もこの前風邪ひいたから気をつけろよ」

「そうなんだ。珍しいね。あんまり体調崩さないのに」

「三、四年ぶりだったと思う。一日で治ったけどかなりキツかった」 

「大変だったね」

「でも二人がいたおかげで気持ちは楽だったかな」

「そっか……」

「……眠れないか?」

「眠いよ……けど、兄さんともうちょっと話したい」

「いつでも喋れるんだから今は寝てくれ」

「うん」

 

 コクリと頷くとシュリは大きく長いあくびをした。静かに目を瞑るシュリを見てようやく入眠か、と安堵した矢先。

 

「はあ……セックスしたい」

 

 不意に。なんの前置きもなくそんな言葉が聞こえた。

 聞き間違いかと思ってシュリの顔を見ると、目を瞑ったままダラダラと滝のような汗を流していた。

 

「……ま、待って。聞かなかったことにして」

「ごめん無理。聞き流すにしてははっきりとした発音だった」

「違うの。その、あれなの。頭が回ってなくて浮かんだ言葉が勝手に出ただけで」

「この状況でそんなこと考えてたのか? どういう情緒?」

「あうっ……ち、違うの」

 

 ああ……とシュリは真っ赤に染まった顔を両手で隠した。

 何があったら寝不足で体調不良の時に『セックスしたい』なんて言葉が浮かんでくるのか。我が妹ながらその生態がまるで理解できない。俺がやや、というか普通にドン引きした目でシュリを見つめると、シュリはあうあうと狼狽えた後、覚悟を決めたように重い口を開いた。

 

「さっきの話に戻るけど……最近寝れないのはコレが原因」

「コレって」

「兄さんと……エッチしたい」

 

 それまで青白い頬だったのがいつの間にか上気している。目もどことなく物欲しそうな目に見えてドキッとした。

 

「したくてしたくてたまらないのに、会えないのがもどかしくて毎日悶々としちゃう。自分で、その…………お、オナ……とかするの上手くできないから、より溜まってきちゃってずっとモヤモヤしてる。……ねえ、兄さん」

「だ、ダメだって。ここお店だし」

 

 開き直って色香を漂わせ始めたシュリになんとか理性で対抗する。ただかなりグラついてきているのは確かで、シュリはジェンガの重心を抜き取るように着実に俺の理性を崩しにかかった。

 

「分かってる。でもちょっとイチャつくぐらいなら……ダメ?」

「体調悪いんだから大人しくしてなきゃ」

「私にとっての薬は兄さんだよ」

 

 シュリは身体を起こして座るとただでさえ丈の短いスカートを少しだけ持ち上げて、下着が見えないギリギリのラインまで見せた。

 

「オナニー。手伝ってほしい」

 

 ◆

 

「じゅっ、ぷ……ん…………じゅるっ! んちゅっ♡」

「音立てすぎ……」

「ご、ごめん。久しぶり咥えるから我慢できなくて」

 

 俺の息子を舌で舐め回しながらシュリははにかんだ。以前は男性器に触れるのに抵抗感を見せていたのに、高まりきった様子の今、なんの躊躇もなく我慢汁を啜り上げている。

 そんなシュリをズボンのチャックからモノだけ外に出した状態で俺は見下ろしていた。

 変わらずシュリがメイド服に身を包んでいるからか支配感が強烈だった。時折、顔を見上げてくるシュリと目が合ってその度に息子がビクビクと脈打つ。

 

「じゅるるっ、ん……ぁ…………ぢゅうぅ♡ ちゅっ。んちゅるるるっ! ……はあ♡ カウパーいっぱい出てくる♡」

「臭いとか言ってなかったっけ」

「くさいよ♡ でも兄さんの……ご主人さまのだから大好き♡」

 

 熱に冒された目でそんなことを言われたらこっちのタガも外れてきてしまう。

 可愛らしいカチューシャを乗せた頭を持って、腰を軽く前後に動かした。

 

「じゅっ♡ んっく、ぢゅるっ♡ んぐっ! んん♡ ぐぉ……♡」

 

 えづくような声が聞こえるが気にせず喉の奥深くを目指して竿を挿れ込む。ギュッと閉まる口内を行ったり来たりして、とことん犯す。

 メイドカフェのバックヤード。メイド服姿の妹。背徳感がたまらなかった。それは当然俺だけでなく、クチュッという粘性のある水っぽい音に視線を落とせばシュリがスカートの裾をたくし上げ、白いショーツの中に手を突っ込んでいた。

 

「ぢゅっ! んちゅるるるるっ! ……あっ♡ やばい……フェラしながらオナるの気持ちいい♡」

 

 上手くできないと言っていた自慰も自然と行えているようだ。自分の快楽に夢中になっている。

 俺もどんどん気を良くして傅くメイドに命令した。

 

「胸、出して」

「む、胸は……。大きくないし、綺麗じゃないから見せたくない……」

「早く」

「は、はい」

 

 語気を強めると肩を跳ねさせてシュリは頷いた。ゆっくりとボタンを外すとシャツをはだけさせて白のブラを俺に見せる。そしてそのままブラのカップを捲り上げると乳房が露わになった。

 確かにアルラやマキナに比べると控えめだった。だが綺麗に桃色に色付いた頂点はピンと勃っていて、なにより周りの輪がそれまで見てきた他の女性のものより大きく、俺の興奮を強く煽った。

 

「乳輪大きいな」

「うぐっ……言わないで。気にしてるから」

「気にしなくていい。綺麗で可愛いし、エロい」

「そ、そっか」

 

 安心したように呟くとシュリはまた咥えなおして俺のを搾り取ってきた。

 より激しさを増す口撃に一気に込み上げてくる。シュリも自分の胸と股間を触りながら俺に合わせるように限界まで高めていく。

 

「口に出すから、全部飲んでくれ」

「んくっ、おっ、じゅっ! んぢゅるるるっ、んぢゅ……うん♡ 全部ちょうだい……じゅるるるっ、じゅぷ、ん、じゅうううううぅ、ん、んっ、ぅ…………んぐっ、ぉ♡♡♡」

 

 喉奥まで強く挿しんで解き放つ。同時にシュリも膝をガクガクと震えさせて達した。

 竿を口から抜き、ゴクンと一滴残らず精液を飲み込むとシュリは大きく口を開けた。

 

「あー……全部飲みました」

「頑張ったな」

「うん……でも、まだ足りないよ」

 

 お互い大きな快感に打ち震え、多幸感を共有したというのに俺もシュリも満足していなかった。

 理由は明白。となればやることはひとつだけ。

 俺はソファに座ると「下、脱いで」とだけ言った。

 たったそれだけでシュリは嬉しそうに微笑んではい、と目の前でショーツを脱ぎ、スカートをたくし上げて下腹部から下を堂々と見せた。

 細い腰。つるんとした鼠蹊部周り。そして軽く毛の生えた割れ目。それを見るだけでまた下半身の血の巡りが良くなる。

 シュリは前抱っこされるように俺の正面で膝立ちすると、ゆっくりと竿目掛けて腰を下ろす。

 

「私の処女。貰ってください」

 

 シュリの中に息子が侵入していった。

 締まりのキツい壺はひとたび先端を飲み込めば、あとはすんなりと奥まで受け入れる。

 

「あ……う……♡ おちんちん、入ったあ♡」

 

 完全に奥まで飲み込むとシュリは俺に抱きついてキスをせがむ。

 俺は深いキスで応えながらシュリの小ぶりな尻を鷲掴んで腰を動かした。

 

「んっ♡ ん、ふぅ……ちゅぅ♡ あっ、う、ぅ、んぅ♡ おちんぽ動いてる……♡」

「そっちも腰動かして」

「ふぁ、ふぁい……♡」

 

 シュリは中で動かれる感触に細かく吐息をこぼし、ぎこちなく腰を動かした。前後にスライドして俺を気持ち良くさせようと健気なシュリに、腕の力が増した。

 グッと体の密着度が増し、互いの心音まで感じられる。

 

「んぢゅ、んっ、ん、はぁ……♡ 兄さん……好き♡ あっ♡ も、もう♡ そんなにお尻ぎゅってしたら痛い……ん゙あ゙っ⁉︎」

 

 尻を引っ叩くと乾いた音が部屋に響いた。膣の締まりが良くなって悲鳴と嬌声が混じったような声が聞こえた。

 

「初えっちは甘々なのが良かったのに……これじゃあ調教セックスだよ」

「ちゃんとキスもしてる」

「そうだけど……」

「嫌なら止めるけどどうする?」

「イジワル……調教セックスでいいからいっぱいチューしてください♡ ……んむぅ……ん、はぁ……ぢゅうぅ♡」

 

 好きにして、との意思表示に俺は腰の動きを早めた。限界まで硬くなった男根で蜜壺を抉る。そこから更に勃ち上がった胸の頂点を指で摘んで転がした。

 今日イチの快感にシュリは「あ゙ぅ!」と大きくよがった。

 

「だ、ダメ! いま乳首はぁ……♡ うぐっ、んっ、んっ、ああ゙っ! 来ちゃうぅ……ホントに来ちゃうからぁ!」

「声、抑えないと表まで聞こえるって」

「むりぃ……こんなの、ダメっ♡ んっ、あっ、あ、ぅ、ん、くぅ……! ひとりでイッちゃう……!」

「俺ももう限界だ。一緒にイこう」

「うんっ♡ 兄さんと……一緒に♡ ……んむっ! ちゅっ、はっ、んんむぅ……ちゅぅ♡」

 

 二人とも動きが激しくなって汗をかきながら腰をぶつけ合う。シュリの長い髪も乱れていた。俺を求める本能だけがそこにあった。

 何度も抜き挿しを繰り返し、子宮の入り口をノックすると、先端に吸い付いてくる感触にオスとして応えたくなった。

 

「ぢゅるっ、ぢゅむ、はっ、はっ、んぅ! せーし、ちょうだい♡ 兄さんの子供、欲しい♡ ……んっ! あっ、あ、イクッ……いくいくイクっ…………イ、ぐっ! 〜〜〜っ♡♡♡」

 

 本気で搾り取ってくるシュリに全てを注ぎ込んだ。勢いよく発射されたのを受け止めると、シュリは全身を痙攣させて悦んだ。

 長い絶頂に俺もシュリも動けないまま抱きしめ合って息を整えた。

 

「はあ……はあ……ふー♡ 中出しされちゃった。本当に子供できちゃうかも」

「完全に一線超えたな」

「……賢者タイム? 後悔してる?」

 

 シュリが俺の背中に腕を回したまま訊いた。シュリの方は何も後悔していないようで、むしろ満足しきった清々しい顔をしていた。

 

「いや……」

 

 俺はシュリを抱きかかえて降ろすと、ソファに仰向けで寝かせた。そしてまだ萎えていない息子をもう一度挿し込む。

 

「お゙っ、ぅ⁉︎」

「まだ足りない。確実に孕むまでヤる」

「ま、待って! まだイッたばっか……ひぎっ⁉︎ いっ、あ……れ、レイプ魔……お兄ちゃんの鬼畜ぅ…………ん゙、おっ♡♡♡」

 

 目を白黒させるシュリに覆い被さって勝手に二回戦目を始めた。

 そこから先は夢中になりすぎて、疲れたシュリが寝落ちするところ以外、何も覚えていない。

 

 ◆

 

 後日、俺はアルラ達を連れて再びデパートに訪れていた。

 この前は留守番していたが、やはり二人も買い物がしたいだろうと連れて来たのだ。

 ついでにあの猫耳にもシュリを店で休ませてくれたお礼がしたかった。勝手にバックヤードをホテル代わりに使った後ろめたさも多少はあるし、微々たるものだが売り上げに貢献したい。

 その思いでお昼時に四階まで来たのだが。

 

「……店は?」

 

 先日はあったはずのメイドカフェ『ご〜るど・すたぁ⭐︎』が丸ごと消えていた。テナントが撤去されたかのようにただの白い壁になっている。

 まさかここ数日で潰れた?

 ポカンと口を開けて立ち尽くしていると、マキナがスマホを取り出して調べ始めた。

 

「んー? 調べてもそんなお店ないし、今までもなかったみたいよ」

「んな馬鹿な。シュリと確かに来たし、他の客だっていた」

 

 キャッチにあったことも、オムライスを食べたことも、シュリがメイド服を着せられたことも、バックヤードでじゃれついていたことも全て鮮明に覚えている。夢や幻だったなんて到底思えない。

 その証拠に俺もスマホを取り出して電源をつけると、ホーム画面には固い笑顔でハートマークを作るメイド服のシュリがいた。やはり現実にあったことだ。

 しかしマキナの言うことを信じるならここにそんな店は存在しなかったことになる。

 

「狐にでも化かされました?」

 

 アルラが冷静に訊ねてきた。

 

「猫耳だったぞ」

「猫も化かしますよ」

「でも……ええ? そんなことある?」

 

 狐だか猫だ分からないが、つままれた気分のまま仕方なく他の店に入ってランチをとった。

 帰宅後、SNSで調べてみると同じように化かされたカップルの報告が複数確認できた。『あのお店のおかげで恋人と上手くいった』というエピソード付きで。

 

「機械の神がいるぐらいだし、恋愛の神がいてもおかしくないか」

 

 スッキリしないがファンタジーがこの世界にあることは十分理解している。今回もそういうものとして受け止めておこう。

 

「機会の神、なんてね」

 

 得意げに言ったマキナにアルラが「面白くないです」と返した。

 判定が厳しい。

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