薄らと開けた目に見慣れない高い天井が飛び込んで、そういえば人様の家だったなとぼやけた頭で思い出す。
「おはようございます」
自分の家でなくともいつも通りに彼女の声が聞こえてくる。仰向けのまま顔だけ右に傾けると、ベッド脇でアルラが俺を見下ろしていた。普段と変わらない美しい顔。ただその顔以外は見たことないもので――。
「おはよう。……その格好は?」
「メイドの方からお借りしました」
アルラがその場でくるりと回る。俺は横になったままその姿を上から下まで眺めた。
モコモコのピンクの生地。
長いタレ耳付きのフード。
団子のような丸いしっぽ。
それはうさぎの着ぐるみパジャマだった。
「何故そのチョイス?」
「私にもわかりません。マスターが寝静まった後、シャワーを浴びたら脱衣所にこれだけ置かれていました。……どうでしょう?」
「可愛いな。予想外のところからぶん殴られた気分だ」
「良かったです」
「アルラ相手にキュートアグレッション発動するとは思わなかった」
「噛み付くなら、消えないくらい歯形を付けるようお願いします」
アルラは冗談交じりに、冗談かどうか分からないことを言う。そのうち本当にやってあげようと思いつつ、大きくあくびをした。
「く、ぁ…………今、何時?」
「十二時過ぎです」
「もう昼か」
「朝方まで騒いでいたので仕方ないです」
「むしろ寝足りないぐらいだな」
疲れが取れた気がまるでしない。体を起こすのも億劫だ。
他のメンバーはどうかと首を浮かせて見てみると、見事に全員寝息を立てていた。ベッドが大きいからか、散り散りになって遺体のように寝ている。俺も含めて生まれたままの姿を晒しているせいで、本当に事件っぽく見える。
ボタンは端の方で縮こまるようにして俺に背中を向けており、マキナは仰向けで大の字で寝ている。寝姿にも育ちが出るものらしい。
シュリはというと、俺の足元でうつ伏せになり、足をこちらに向けていた。全員がかろうじて枕側に頭を向けているというのに、なぜ一人だけ真反対に頭があるのやら。
「うちの妹はどんな寝相してるんだ」
「この人数で寝ても余白があるからですかね。最初はマスターの隣で寝ていたのに、ずっとゴロゴロ転がってます。そろそろベッドから落ちますよ」
寝相が悪いイメージはなかったが、場所が変わると寝方も変わるのかもしれない。
「にしても、こんなにベッド汚して大丈夫なのか? ボタン邸で家主も加わっていたとはいえ、怒られそうなんだけど」
「先ほどメイドの方が換気に来ましたが、特に気にされていませんでしたよ」
「……この惨状を見られたってこと?」
「ええ。眉一つ動かしませんでした」
実は精巧に作られたアンドロイドだったりするのだろうか。
「そのメイドから聞いておきました。ハボタン様がマスター達にこの家に住んでほしい理由」
「やっぱり俺達に言ってない理由があるんだな」
何となくそんな気はしていた。昨日ボタンが語っていたやり方は、親を説得するにしては回りくどい方法だ。どちらかというと俺達を引っ越しさせることの方が目的のようにも聞こえた。アルラもそれは感じていたようで、彼女はしっかり情報を得ていた。
「メイドの方曰く、単に寂しいのでは、とのことです。これだけ広い空間で自分だけが生活しているというのが耐えきれないのでしょう」
「メイドも居るのに?」
「ハボタン様が言っていたように、彼女達はあくまで従者ですから。どれだけ同じ時間を過ごしてもその間に壁はあるものです」
「そういうもんか」
一般人の俺には分からないが、やはり立場というのはあるらしい。同居人と呼べる間柄になるのは難しいというわけだ。
一応、アルラも俺の従者ポジションにいるわけだが、これだけ親密な関係になれているのは、俺が大した身分じゃないというのが大きいのかもしれない。
「それと、ハボタン様のご両親は別の場所に家を建てる予定だそうです。そうなればこの家は不要ということで潰されてしまうかもしれません」
「それが?」
この家に拘る理由がよく分からず首を捻ると、アルラはため息混じりに答えた。
「以前、私達が泊まった七階の部屋。最近のハボタン様のお気に入りだそうで、夜な夜な妖しい声が聞こえてくるそうです。誰のせいなんでしょうね……」
心当たりしかなくて困る。
「あ、アルラとマキナも共犯だし」
「そろそろ去勢も考えましょうか」
「それやったらアルラも困らない?」
「……困りますね」
諦めてくれたようで、ホッとした……と思いきや。
「ですが、寝起き早々こんな風になってしまうあたり、やっぱり去勢すべきかもしれません」
ジッとアルラが俺の股間を見下ろす。言われて気が付いたが、俺の息子はいつの間にか立ち上がっていた。
「いや、これは興奮したとかじゃなく寝起きだからであって」
「じゃあ処理する必要はないですね」
「…………」
「ふふっ。拗ねないでください」
笑みを抑えきれず、アルラは口元に手を当てる。あまり表情や言動に出ていないが、アルラもボタン邸に来てからはしゃいでいるようで、雰囲気が柔らかい。
俺の反応を楽しむアルラに不満の目を向けつつ、皆を起こさないようそっと身体を起こし、ベッドの縁に座った。
するとアルラがしゃがんで膝の間に入った。
「トイレ行きたいんだけど」
「すぐに落ち着かせますから我慢してください」
アルラはクンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「昨日だけでひと月分ぐらい出しましたよ。おかげで酷い匂いです。汚れもこんなに溜まって……れろっ♡」
俺の両膝に手を置いた彼女に、舌で優しく味見された。一番敏感なくびれ周りがくすぐられて、一気に目が覚める。可愛らしい衣装に新鮮さを感じるからか、俺の昂まりっぷりも、いつも以上だった。
ドクドクと脈打ち、更に硬度を増すとアルラは目を蕩けさせた。
すぐに落ち着かせると言ったのに、アルラは焦らしモードに入って、優しく舐めるだけだった。俺も我慢しながらアルラのうさぎ姿を上から堪能したくて、着ぐるみのフードを彼女の頭に被せた。
タレ耳で少し気弱そうなうさぎ。キュートな見た目ではしたない行為に夢中になっている様が、いつまでも見ていられる。
「れろっ……ん…………ぢゅっぷっ♡ れろれろぉ……ちゅっ、ぷ…………カウパー……れろぉ♡」
先端から雫が出てくると、アルラは舌先で丁寧に掬い上げて味わっていた。
彼女の顔をもっと見たくて、頬に手を当て撫でた。アルラは一瞬、嬉しそうに口角を上げた後、何かを思い出したかのように目を逸らした。
「昨日の水着、どうでしたか?」
「よく似合ってた……って、あれ? もしかして昨日言わなかった?」
「言ってません。そのうち褒めてくれるかと思ったらシュリ様に夢中になってました」
「ご、ごめん! 凄く似合ってた! アルラは黒が一番似合うイメージあったけど、白でもあんなセクシーになるんだって感心した」
「そうですか」
そっけない反応をしてアルラはまた舐め始める。こっちの想いがいまいち伝わっていない気がして、今度は彼女の頬に両手を添える。
俺を見上げるよう顔を少し傾けさせて、目を合わせた。
「本当に、綺麗だった」
「……分かってます。チラチラ谷間を覗いてくる時点で、嫌というほどあなたの気持ちは感じてました」
「その察され方はやや複雑だ」
「今度はちゃんと着ている時に褒めてほしいです」
「うん。気をつける」
頷いて見せると、彼女は安心したように目尻を下げた。
憂いがなくなったのか、アルラはグッと根元まで咥える。
「じゅっぷ、ぐっぷ……! んぢゅるるっ、ぢゅ、ん、んぐっ! ぢゅるるるるっ♡ 朝イチの……濃くて、臭いの……うさぎのお口にください♡ ぢゅっぱ、んぷっ! ぢゅるるるるるる……っ」
焦らされていた先程から一転、強烈な圧迫感と吸い込みで追い詰められた。
生々しい音が部屋に響くたび、背徳感が駆け巡った。
奥からせり上がってくる快感を変に耐えようとせず、そのままうさぎの口に放つ。
「んうっ……ん、ぢゅるるっ。ん…………ごくんっ♡」
咥えたままで最後の一滴まで飲み干すアルラ。しかし彼女は俺のを咥えたまま、微動だにしなかった。
「どうした?」
「……最後まで出さなくて、大丈夫ですか?」
「え」
期待が隠しきれない目でアルラは口走る。
そのセリフを理解したと同時、ドクンと心臓が跳ねた。
数瞬の間、俺の脳は固まった。
そんなこと、していいのか。
流石に一線を超えているような気がして、理性が止めにかかった。しかし最終的に性への興味が勝り、俺は身体の力を緩めた。
躊躇いがちに、彼女の口の中で用を足した。恥ずかしくてアルラの目は見れない。しかしアルラからは熱烈な視線を感じて心臓の音が大きくなるばかり。
そのうち喉を鳴らす音が聞こえてきて、行き着くところまで来たをことを実感する。
「んくっ……ごくっ……ごくっ…………ん…………ぷはっ♡」
俺が出し切ったところで口を離すと、恍惚の笑みでアルラは笑いかける。
「これはちょっと……ハマっちゃったかもしれません」
アブノーマルで満たされたうさぎの顔。その顔が俺の頭のフォルダに強く刻み込まれて、また新しい世界が広がった感覚がした。
本当にハマったのはアルラじゃなくて俺の方かもしれない。
ベッドから落ちて「ぴぎゃっ!」と悲鳴を上げるシュリを横目にそんなことを思った。