★それはきっと、ピンクより鮮やかなーー。
よく晴れた日曜のこと。俺はマキナと都心のショッピングエリアまで来ていた。アパレルブランドを中心に、コスメやジュエリー、グルメの店舗が乱立し、人の波が忙しなく動いている。そんな中、俺は両手にショッパーを抱えて、ご機嫌に前を歩くマキナに言った。
「お嬢さんや。まだ買うのか?」
「もちろん。まだパンプスとか見てないし、帽子も欲しいのよ」
くるりと振り返ってにんまり笑うマキナに、こっちは苦笑いを浮かべた。楽しげなのは喜ばしいことだが、いくらなんでも買いすぎている。荷物が増えても帰るのは一瞬とはいえ、爆買いも程々にして欲しいところだ。
珍しく、この場にアルラはおらず、俺とマキナの二人しかいなかった。
というのも、今日のアルラはメイド達と協力して、ボタン邸の大掃除に励んでいる。俺も手伝おうかと思ったが、きびきび動く彼女達に混ざると邪魔にしかならないため、大人しく外へ出た。
学生組はというと、テストが近いとかで三人で部屋に篭って勉強中だ。シュリとボタンは普段から成績が良く、わざわざテスト勉強をするまでもないのだが、サティを勉強机に固定させるために、二人が付きっきりで面倒を見ている。普段から真面目に授業を受けていれば、サティもこんな目に合わなかっただろうに。
そういうわけで、何の予定もなく暇していた俺は、マキナに誘われデートという名の荷物持ちをさせられている。
少し前と違い、金の心配が要らなくなったからか、マキナの物欲は彼女をあちこちへと歩かせた。
今も彼女は軽い足取りで先へ先へと進み、置いていかれないよう俺は早足で付いていく。
今日の彼女はリボン付きのブラウスに、下はチェックのミニスカート、そして黒いニーハイとかなりガーリーなコーデだ。似合っているし好みのビジュアルではあるものの、スカートの裾とニーハイの間の太ももがちょっと心配になる。すれ違う男性陣が皆、彼女の膝上に視線を吸い込まれているような気がして落ち着かない。
俺はショッパーを落とさないよう気をつけながら、マキナの手首を掴んだ。
「あんま先行くなよ」
「ああ、ごめんごめん。迷子になんないでよね」
マキナは優しく目を細め、俺の腕に自分の腕を絡ませた。
それからおやつ時まで買い物を続けた後、俺たちは通り沿いに建つ、テイクアウト専門のクレープ屋を見つけた。小さな木造のクレープ屋は『
「寄る?」
「寄る!」
目を輝かせて即答するマキナと共にお店へ近づくと、ブースからひょこっと店員らしき女性が顔を出し、俺と目が合った。
ホワイトカラーの、ふんわりとウェーブした髪を後ろで括ってポニーテールにしたその店員は、俺を見るなりニヤリと笑い「そこのラブラブっぽいカップルさん! 良かったら食べてってくださーい。今ならカップル限定、『ハニー・スウィート・ゴールデン⭐︎パフェクレープ』もありますよお♡」と、甘いボイスを発した。
わざとらしい猫撫でボイスに、パチンと記憶の火花が散った。
「あれ? あんたメイド喫茶にいた……」
俺がそう口にすると、店員は一瞬目を丸くした後、すぐに営業スマイルに戻る。
「えー、やだぁ♡ お兄さん、ナンパですかあ? 彼女さんの前で大胆ですう」
「いや、そういうのじゃなくて」
真っ先に否定するも、店員はクネクネと身を捩って悶えたようなフリをし、マキナが笑いを堪えておちょくってくる。
「これはアルラに報告した方がいいのかしら」
「……ハニー・スウィート・ゴールデン⭐︎パフェクレープひとつ」
俺が注文すると、店員は「かしこまりました〜」と奥に引っ込んでクレープを作り始めた。
テイクアウト専門店ではあるものの、店の前には二つほどベンチが置いてあって、俺とマキナはそこでクレープを食べていた。
長ったらしい名前からも分かる通り、クレープはかなりのビッグサイズで、というかもうただのパフェだった。店員の声を反映したかのような人工的な甘さに、俺は早々に胸焼けしてしまったが、マキナは足をバタつかせながら美味しそうに頬張った。
「お姉さん、美味しそうに食べますねえ。作った甲斐がありました」
店のブースから顔を出して店員が言うと、マキナが「まあね」と胸を張った。
「私、食事を楽しめなかった時期が長かったから、その分、今は食べれるだけ食べるようにしてるの。特にこの人と一緒にいる時のご飯は格別だから」
「あちゃ〜。熱烈なのを見せつけられてますぅ♡ ……じゅるり。いいですねえ、仲が良くて」
店員は恥ずかしさで顔を隠す演技をしながら、マキナの幸せそうな表情を優しい顔で見つめていた。……一瞬、謎に唾液を溢していたが、呂律が回らなかったとかそういう理由だろうか? なんにせよ汚い。
「ちょっとお兄さーん。失礼ですよ、汚いなんて」
「何も言ってない」
「顔に書いてましたよー。分かりやすいですねえ、全くもう」
頬を膨らませる店員から咄嗟に目を逸らす。そんなに分かりやすいのか、俺の顔。
微塵もペースを落とさずに、マキナがパフェを食べ終えたところで、俺はベンチから立ちあがろうとした。が、マキナに袖を掴まれる。
「んで。そろそろあなたの事が聞きたいわね」
マキナが座ったまま店員の目を射抜く。その真剣な眼差しに俺は何事かと戸惑いながら、店員の顔を見た。
「ありゃりゃ。やっぱり気づいてましたー?」
「そりゃあね。他の人とは全然空気が違うし、何よりあなたを見てると
「なるほどー。私もお姉さんのことも気になります。いいですよ、少し話しましょうか」
店員はエプロンを外すと、そのまま店じまいを始めてしまう。
二人だけで話が進んでいて、俺はおいてけぼりだった。
「どういうことだ?」
たまらずマキナに聞くと、彼女はハンカチで口を拭きながら答えた。
「この子。多分、私と同類だと思う」
「同類って」
「神様ってこと」
驚いてもう一度店員の顔を見ると、彼女はくすぐったそうに自分の体を抱きしめた。
「やーん♡ そんなに見つめないでくださーい」
……なんだろう。マキナといい、この店員といい、神というのはこうも威厳を感じない存在なのか。
店員が店を畳むと、俺たちは近くの広場まで移動した。
中央に噴水のある大きな広場は、多くの人で賑わっている。噴水の前では男の子がドローンを飛ばして遊んでいて、その隣では母親らしき女性が微笑ましく見守っていた。
たまたま空いたベンチに座ると、マキナと店員が俺を挟むように座った。両手に花ではあるものの、俺は店員の正体の方が気になって喜んでる余裕はなかった。
「とりま自己紹介から。私の名前はビーナス。愛と肉欲の神でーす」
座ったままダブルピースを構えて、店員は自らをビーナスと名乗った。
どうやら本当に神様らしい。というか愛はともかく、肉欲って……。
「『淫乱なの?』みたいな目やめてくださいよー」
「そこまで直接的には思ってない」
「でもえっちなのかな、ぐらいは思ったでしょう? 失礼な人ですねえ。あくまで司っているだけで私自身は至って清楚系です!」
俺に身を乗り出しながら主張するビーナス。俺はその顔を手で押し返した。
「その喋り方と距離感で清楚系は無理がある」
お淑やかさがあまりに足りていない。ボタンを見習って欲しい。今や清楚系かと言うと首を捻るけど。
俺の返しが気に入らないのか、ビーナスはやや不満そうな顔を見せた後、「……まあいいです」と呟き、マキナへ視線を向けた。
「そっちのお姉さんも神っぽい匂いがしますけど、何者ですかあ?」
「マキナよ。一応機械の神だけど、あなたとは少し違うかも」
「というと?」
「元々は人間だったのよ。長い間封印されてて、その間に信仰を受けたから後天的に神様になっちゃった」
「それはそれは……かなりのレアケースです」
ビーナスは純粋な神のようで、そんな彼女から見ても、マキナは特殊だと言う。
しかし、そんなマキナの出自よりもビーナスの興味は俺たちの関係性に向いていた。
「お二人はどうして一緒に?」
「ナオが封印されていた私を助けてくれたの。そのお礼に仕事手伝いながら一緒に暮らしてる」
「手伝ってるのはお仕事だけですかあ?」
うずうずと期待した目をビーナスが向けてくる。
「もちろん下の世話も!」
「言わんでいい」
「いでっ!」
包み隠さないマキナの額を指で弾いた。
ビーナスは白々しく「きゃっ♡」なんて乙女な反応をして、俺を肘でぐりぐりとつつく。
「アンドロイドのお姉さんともイチャラブしてるっぽいですし、スケベめー。うらやまし〜♡」
「アンドロイド? もしかしてアルラとも知り合いなのか?」
「前にアクセサリーショップやってた時にお店に来てくれたんですよお」
「あ。これ、ビーナスの店で作ったのか」
今まさに人差し指にはまっている指輪をビーナスに見せると、彼女は顔を綻ばせた。
「ですですー。大事にしてもらってるようで良かったあ」
アルラは店の名前や店員の顔を忘れていたが、不思議な縁で俺たちは繋がっていたらしい。アンドロイドの彼女が記憶を忘れていたのも、ビーナスが神であることと関係があったりするのだろうか。
そんなことを考えた時だった。
広場でドローンを飛ばしていた子供が大きな泣き声をあげた。地面に力無く伏しているドローンを見るに、何かが動かなくなったのだろう。わんわんと泣く子供に、母親が頭を撫でて慰めるも、一向に泣き止む気配はない。
「ちょっと見てくる」
「行ってらー」
俺が立ち上がると、マキナが手を振った。
◆
お兄さんが優しく子供に話しかけるのをぼんやりと眺めて、私はマキナさんに訊ねた。
「マキナさんは行かなくていいんですかー? 機械の神なんでしょう?」
「あれぐらいならナオがパパッと直すわ。それに機械の神と言っても、元人間だからか大したことはできないのよ。もしかしてそっちは恋愛がらみなら、なんでも神様パワーで解決できちゃう感じ?」
「まっさかー。私も人と人との繋がりが見えたり、愛情を味覚で感じ取れるぐらいです。神様って意外と大したことできないんですよね。昔はもうちょい色々できましたけど」
「今はできない?」
「ええ。信仰がなくなったからですかねえ。力が弱くなっていくばかりです。人間と深く交流していた時期もあったんですけど……」
「今も人間社会に溶け込んでるじゃない」
気軽にそう言うマキナさんに、首を横に振った。
「ただ世界の一部として人々を眺めているだけです。マキナさんは特殊だからあまり知らないでしょうけど、神様って人間とか他の生物と違って存在が希薄なんですよー。だから曖昧な事象を起こせたり、生死の概念もあやふやなんです。その分、世界の記憶にも影響を及ぼしにくくて、『なーんかこの人見たことある気がするけど、どこで見たっけ』とか、『どこどこで女の人が助けてくれた! でも顔と名前が思い出せないや』みたいなことになりがちなんです」
言いながらこんなこと言わなければよかったと、少し後悔する。今まで自分の中だけで解決させようとしていたのに、なぜかマキナさんに打ち明けてしまった。久しぶりに会えた同族に、何かを求めていたのかもしれない。
蓋をしようにも私の口は勝手にべらべらと喋りだして止まらなくなった。
「毎日会っていても、ある日突然『誰だっけ?』なんて言われたりして……信仰が薄れて力が弱くなると一層、そんな状態が増えてしまいました。そのうち、誰かと一緒にいるのが辛くなった」
フラッシュバックする記憶の数々に涙があふれかけて、咄嗟に下を向く。
「だから、マキナさんが羨ましい。純粋な神じゃないからこそ、人々に覚えてもらえる。自分の生きた証を世界に残せる。私もそうでありたかったなあ……」
自分の気持ちを吐露するのが、恥ずかしいやらみっともないやらで、最後の方は声が震えてしまった。マキナさんはそんな私を笑いもせず、慰めもせず、何かを考えこむように腕を組んだ。
その視線は、壊れたドローンの応急処置を試みるお兄さんへ向いている。
「あの……」
せめてひと言ぐらい何かないものかと、声をかけた。するとマキナさんはパッと私に向き直る。
「今日、最後にホテル行くんだけど、一緒に来る?」
「急ですね……。流石にそこまでは邪魔できませんよ。お二人で楽しんでください」
「愛情を味覚で感じられるんでしょう? 間近でドロッドロの味わいたくない?」
「やっぱり行きます行かせてください!」
色々と二人の絡みを想像して我慢できず、漏れ出た唾液をぬぐいながら立ち上がった。
今日は自作のパフェより甘ったるいのが食べられそうです。
◆
「ここがいい!」とマキナが選んだホテルはファンタジックな城がコンセプトのようで、俺たちが入った部屋はまさにお姫様の寝室といった内装だった。
壁からソファ、天蓋付きのベッドやテーブルまでインテリアのほとんどは淡いピンクでデザインされている。
一周回って世界観に飲まれてヤる気がなくなるのでは、と危惧したものの、いざ部屋に踏み入ると結構テンションが上がる。
とはいえ……。
「なんで、あんたまで付いてくる」
「いいじゃないですかー。目の前でカップルのイチャイチャ見れる機会なんてそうそうないですし、観覧させてください。それにー、神様に自分の癖見せつけるなんて気持ちよさそうじゃないですか?」
当然のように付いてきたビーナスがニタニタと笑みを深めた。……正直に言うなら彼女の言う通り楽しみが勝つものの、それでもやはり、さっき会ったばかりの女性がいるという事実は俺を緊張させた。
「そうそう。ナオ、視姦プレイとか好きでしょ? マンネリ解消のためにも新しい風を入れなきゃ」
マキナはそう言いながら部屋の隅にバッグを下ろした。こっちは特に緊張とかしていなさそうで、完全にビーナスありきで楽しむ気でいた。
「ちゅむ…………んぅ……ぢゅ…………」
早速、マキナに優しく口付けされながら、ベッドに押し倒される。
両手がすぐさま恋人繋ぎにされて身動きがとれなくなる。焦らしながらもねちっこい舌使いに、思わず吐息が溢れた。
「くふっ。……んぅ…………ぢゅる……んぁむ……ちゅう♡ 今日はゆっくり可愛がってあげる」
どうやら今日の俺は受けに徹しないといけないらしい。マキナをひん剥きたい気持ちもあるが、たまにはいいかと俺は大人しく手を握り返した。
たっぷり隅々まで味わうような舌の絡み合い。唾液の音が生々しく広がるやり取りを、すぐ隣でホワイトポニテが息を荒立てて鑑賞していた。
「はあ、はあ……ふー♡ あ……んう♡ ハチミツみたいな愛の味……こんなに美味しいの堪んないですう♡」
ただ見ているだけのはずなのに、ビーナスは唾液を口から垂らしながら頬を上気させていた。
俺は奇妙なシチュエーションに、まだ冷静さを手放せないでいた。しかし、マキナの方は徐々に温度を上げていって。
「ぢゅるる、んぢゅ……むぅ、ちゅ……んあ…………むう♡ 私のこと見てる?」
「ちょっとお隣さんが気になって……」
「もう。すぐ目移りする。仕方ないわね……ほら」
キス程度では俺のスイッチが入りきらないのを理解したマキナは、俺の腰の上に跨るとスカートの裾を少しだけ持ち上げた。
ギリギリ下着を見せずに、ニーハイとの間の太ももを強調してくる。
フェティシズムを感じる光景にまんまと見入ってしまい、クスリと笑われた。
「朝からチラチラ見てたでしょ」
「無防備だから心配してただけだ」
「嘘つき」
マキナが膝立ちのまま、ズルズルと俺の顔まで登ってきて、俺にスカートの中を覗かせるような体勢をとった。
「キスマーク付けて」
期待に満ちた目で見下ろされ、俺はがっつくようにマキナの股間に顔を埋めた。太ももの内側に強く吸い付き、ショーツ越しに割れ目を舐め上げる。
「はっ! ふっ……あっ♡ くすぐった……っんん! うぅ……もっと…………♡」
ボルテージが上がっていくマキナに合わせて、こっちもより直接な口撃を増やしていく。
ショーツのクロッチ部分をずらして、蒸れた香りを放つ花に、満遍なく俺の唾液を塗った。小さな突起を舌先で突くと、マキナは雷に打たれたかのような反応を示す。
「い゙っ! あっ、あっ、んぅ♡ やぁ……クリ、ダメ…………♡ ひぅ……♡」
果てさせない程度に虐めて遊んでいると、やられてばかりが気に入らなくなったのか、マキナがくるりと体の向きを変え、俺のベルトをあっという間に抜き取った。
ズボンとパンツも半脱ぎの状態にされ、膨らんだ息子が外気に晒されるのを感じた次の瞬間には、生温い感触に包まれる。
「れろお……じゅぷっ! んくっ、ぢゅるる、ぢゅっ…………舐め合い勝負ね」
「乗った」
俺がそう言うと、マキナは早速、喉奥まで咥え込んで啜った。最初から本気でバキュームしてくる彼女に腰が浮いてしまうが、俺も負けじとマキナの腰を抱え、彼女の性器を口に押し付ける。
「じゅるるるっ! ん、ぢゅ、ん、んぅ♡ ぢゅっぷ! んんんぅ……れろれろれろれろ…………あっ! 啜りすぎ……♡」
「あ……くっ♡ お二人、エロすぎ……シックスナイン見れるとか最高かもぉ♡ あんっ♡」
聞き慣れない喘ぎ声が聞こえたと思ったら、いつの間にかビーナスも自分のジーンズを脱いでピンクのショーツの中に手を突っ込んでいた。完全に快楽に酔った顔でこちらを見ている彼女のせいもあって、俺のボルテージは着実に上がっていった。
「ま、マキナ、一旦ストップ……」
「ん、ん、んぢゅ、ぢゅるっ、んんん……ぷはっ! 何? 降参? でもダメー。ちゃんとイくまでタンマはなし。……あーんむぅ、ちゅうぅ♡」
無慈悲にもマキナは口を止めてはくれなかった。俺はもう彼女への口撃を諦めて我慢に徹したが、マキナの激しい吸い込みにいつまでも耐えられるはずがなく。
「イくっ!」
「ぢゅっ! んぢゅるっ! ぢゅるるるるるるるっ…………んんぅ⁉︎ ……あはっ。いっぱい出た♡」
溢れ出た俺の体液はマキナの口に収まりきらず、彼女の顔にも飛び散った。マキナはゆっくり俺から降りると、自分の頬についた白濁液を指で掬って舐める。
その光景を見て、ビーナスはもう我慢の限界に達していた。
「はっ、はっ……うぅ……甘くて、臭くて……クセになる愛の味ぃ♡ マキナしゃん……」
「ビーナスも味見したいの?」
「ひゃい……。せーえき、私も……」
指を咥えて今にも泣き出しそうな顔をするビーナスに、マキナはわざとらしく迷ったそぶりを見せる。
「でもなあ。私のナオだもんなあ」
「そう言わず! お願いします! 人間の精液なんて数十年飲んでないんですっ。一滴だけでもいいですから!」
「……どうする? ナオ」
イタズラな笑みでマキナが問いかけてくる。
ビーナスも不安と期待が入り混じった目を向けてきて、そんな彼女の表情に不覚にもドキッとさせられた。
「……勃たせてくれたら」
「じゃあ脱ぎます!」
即答だった。ビーナスはすぐさま立ち上がると、その場でゆっくりと見せつけるようにストリップを始める。
白いシャツのボタンをひとつ、またひとつと外し、徐々にピンクのブラが見え始める。着痩せするタイプなのか、素肌の露出が増えるたびに抜群のプロポーションを垣間見せる。
ボタンを全て外し、パサッとシャツを床に落とすと、女神の下着姿が露わになった。
マキナ以上、アルラ未満の大きな胸。キュッと引き締まったくびれに、桃のようなお尻。
思わずごくりと喉を鳴らしかけたが、ここからが本番と言わんばかりに、ビーナスはショーツ、ブラの順で脱いでその肉体を見せつけた。
張りのある乳房にプクリと膨らんだ蕾。
毛も生えていないつるんとした割れ目。
一切、無駄がなく、彫刻のような造りの彼女に釘付けになっていると、ビーナスは床に正座した。
俺の顔を見上げながら、「お兄さん」と呼ぶ。
「お兄さんのいっちばん濃いの。私の口にください♡」
口を開け、舌を出し、みっともない姿を平然と見せた。
全裸の女神が懇願する姿に強烈な背徳感を覚え、俺はすっかり元気になった。
ベッドから降りてビーナスの前に仁王立ちすると、そのまま彼女の口に突っ込もうとして。
「だめだめ。普通にフェラさせるだけじゃ、肉欲の女神が満足するようなのは出ないでしょ」
マキナに背後から抱きつかれ、止められてしまった。
彼女は俺の竿をそっと握ると、優しくシゴき始め、耳元で囁いた。
「口に突っ込むより、こっちの方がアブノーマルな感じで興奮するでしょ。普通にトイレするみたいにびゅーって飛ばしちゃえ」
「はう……♡ ホントにお兄さんの便器にされちゃうんですかあ……♡」
食い入るように息子を見つめながら、ビーナスはポタポタと唾液を溢し、荒い呼吸を重ねた。
そんな彼女に狙いを定め、マキナは両手で竿を刺激する。強弱をつけながら根本から先端へと擦り、敏感なくびれや裏筋は丹念に撫でる。
背中に登ってくるムズムズとした気持ちよさに足腰を震えさせると、マキナは俺の耳を甘噛みした。
「むぅ……んぁ、ちゅむ…………れちゅう……あむっ♡ んふっ。神様のお口におちんちん構えて発射準備してるの、バカみたいに気持ち良さそう。私も男だったらやってみたかったなあ。ちゅるちゅる……れむっ、ぢゅぅ…………んちゅっ♡」
そんなひとり言に意識を持っていかれている間に、ビーナスは自分で胸と股を弄っていた。
ぐちゅぐちゅと聞こえる女性の粘膜の音。
ピンと勃った胸の先端からはマキナと同様に、白い分泌液が吹き出していた。
「すんすん……はあっ……はあっ……あ♡ 透明な汁いっぱい……! イカ臭くて一番好きな匂い……。もうちょっと……もうちょっとで……」
「ビーナス、口……!」
「はい♡ お兄さんのザーメン、いつでも出していいですよ♡ 検尿カップだと思って全部出して……っ♡」
顎が外れそうなほどの大口に向かって、解き放つ。
マキナがきちんと方向を合わせてくれたものの、息子が勝手に暴れてビーナスの顔や髪にも飛んでしまった。しかし彼女は全く気にせず、口に飛び込んできた熱いデザートを噛み締めるように味わい、飲み込む。
「……ごくっ、ごくんっ♡♡♡ う、美味あ♡ 甘い愛と苦いミルク……マキナさん、いつもこんなの貪ってるんですかぁ? ずるいー」
「いいでしょー。私のだかんね。でも、神のよしみでもうちょい食べさせてあげてもいいけど?」
「女神! マキナさん大好き!」
俺の意思を差し置いて、ビーナスにおかわりを提供させるのが確定する。
今度は遠慮なしにビーナスが俺の息子に食い付いた。
「ずぢゅ、んくっ、んくっ、ぢゅるるるっ、んむぅ…………お兄さん。もっと飲ませて♡」
明日には干からびてるかも。
◆
鳥の鳴き声で目が覚めた。
もそりと体を起こすと、隣にはお兄さんと、お兄さんに抱きつくマキナさんが仲良く寝息を立てていた。
離れないようにギュッと身を寄せ合う二人に、ふふっと声が漏れて、私は寝ているお兄さんの頭を撫でた。
「んふっ♡」
昨日のことを思い出して、思わず笑みが溢れる。
あんなに楽しかった夜はいつぶりだろう。まだ余韻の残る昨晩の甘美な出来事に、胸が高鳴ったままだった。それと同時に酷い後悔も襲ってくる。
「ああ……やっちゃったあ。最悪。もうこういうのナシにしようって決めてたのにぃ……」
頭を抱えてバカバカバカビーナス!と、心の中で自分を責め立てた。
『――あんた、誰?』
その昔、恋人と呼べる人とそういうことになった時、不意に言われたことがあった。ついさっきまでお兄さんとマキナさんぐらいイチャついてたのに、いきなりそう言われた。
恋人だけじゃない。
人間の学校に通っていた時、初めてできた友人。
普通の会社でOLの真似事をしていた時、可愛がっていた後輩ちゃん。
引っ越しの挨拶をした時から色々気にかけてくれた、ご近所さん。
人間が大好きで色んな人と関わった。浅い付き合いも、深い付き合いも繰り返して、その度に私は忘れ去られていく。
私の力が弱まったのは単に信仰がなくなったからだけじゃない。
私が直接的に人と関わらなくなったからだ。顔や名前を忘れられてしまうことを恐れて、愛や友情を育むのを諦めた。そこからは自分の存在が薄まっていく一方。
そのせいか、昔は明るいピンクだった髪はどんどん色を失って、今は白。このままいけば透明になって消えてしまうかもしれない。
でも、もうそれでいい。
淡い期待を持って裏切られるより、最初から何の期待も持たずに生きるほうがずっと楽。
世界に溶け込んで、人間達を見守って、そのまま消えていくことを私は望んでいる。
なのに昨日は久しぶりに同族と会えたこともあって、ノリでお兄さんと一夜を過ごしてしまった。ホントにバカやった。
「よし。もう終わり。いつもの生活に戻ろう」
私は静かにそう言って、自分の頬をぺちんと叩く。
人間とはもう深く関わらない。友達も恋人も作らない。それがマイライフ。
床に散らばった下着と服を拾い上げ、音も立てずに着替えた。そして、
「――楽しかったです。さようなら」
眠る二人に背を向けた。
「おはよう。ビーナス」
急に声をかけられ、私は勢いよく振り返った。
私が別れを告げたタイミングで起きたのか、お兄さんはあくびをしながら気だるげに体を起こす。
目覚めの挨拶なんて、久しく聞いていなかった。そのせいで私はなんて言葉を返せばいいのか分からなくて、その場に立ちすくんでしまった。
「今、何時?」
「あ……じゅ、十一時です」
「もうそんな時間か。帰ったら皆にどやされそうだな」
苦い顔を浮かべるお兄さん。
私の脳は困惑しながら、大きな違和感を感じていた。
「どうして、私の名前を……」
少し前までなら関わって一日、二日で忘れ去られることはなかった。でも今の私は以前よりずっと希薄。出会って次の日に忘れられる、なんてことも増えてきている。
なのにお兄さんは覚えている。私の顔も、名前も。きっと昨日の情事も鮮明に。
肉体的に関わったから? 仮にそうだとしても、きっと明日、明後日には他の人達と同様に忘れてしまうはず。やっぱりこれ以上、この人とは関わらない方がいい。万一、好きになったりしたら、私はもう立ち直れないだろうし……。
そこまで考えて、私は思い出した。
『あれ? あんたメイド喫茶にいた……』
クレープ屋で会った時のあのセリフ。最初は記憶の断片をたまたま口にしただけだと思っていたけれど。
もしかすると、それは――。
私は期待なんて持たないように、ただの事実確認のために恐る恐る、口を開いた。
「お、お兄さん。私と最初に会ったのどこか覚えてますか?」
お兄さんはきょとんとした顔で、さらりと答えた。
「メイド喫茶だろう? 『ご〜るど・すたぁ⭐︎』って名前の。あの時は茶髪だったけど、顔と喋り方ですぐ分かった。次行った時にはお店消えてたな。潰れた?」
頭を殴られたような気分だった。強烈な眩暈がする。でもそれは決して悪いものではなくて、世界の彩度を上げてくれる神の救いのようなもの。
そして、そのカラクリを瞬時に理解した。
「ああ……そういうことですか。マキナさんは全部知ってて……してやられました。あー、もうっ。悔しいなあ!」
「な、何? なんの話?」
「マキナさんと何度も繋がってるから、
マキナさんは教えたかったんだ。私を覚えてくれる人がいると。わざわざ私をここまで連れてきたのもそのため。
「あははははっ! すっごい敗北感。でも素敵です!」
見事に手の平で転がされていたようで、お腹を抱えて笑った。
スヤスヤと眠るマキナさんの顔がしたり顔に見えて、やってくれたなと叩き起こしたくなった。
でもその前に。
「決めた。私、髪染めようと思います」
「ふーん? 何色にするんだ?」
「さあ? 何色でしょうねえ」
口角を上げてそう答えると、お兄さんは更に眉間に深い皺を作った。会話のラリーを重ねるたび、戸惑いの色を濃くしていくお兄さんが可愛く見えて、私のモノにしてやろうと押し倒した。
私はビーナス。
愛と肉欲の神。
――清楚系は今日でおしまい。