以下作者より
擦れたTB-3みたいな人間に八九式中戦車はちょっと解釈が難しいです……。
1. 02/15(男性代理人向け?八九式中戦車視点)
「代理人君、食べてくれたかな……。」
勇気を出してチョコレートを渡してよかったと思う。出会って……ひふみぃ……去年の10月からかな、私が整備会に来て主に書記作業に従事し……代理人君に淡い感情を持ったことを自覚するに至ってはや数ヶ月。代理人君の書いた新作を読んで笑ったり泣いたり……たまに訳がわからなくて虚無を感じたりして……私はどうやら本当に代理人君が好きなんだと気がついた。
バレンタインデーの前日、顔を紅く染めたり逆に青くなったりしながら何度もチョコレートと格闘して、告白の練習もして……当日は、練習と違ってうまく出てこなかった言の葉をなんとか重ねて、チョコレートと恋文を渡した。それが昨日。赤い夢は活字の中の世界とは違ってなかなかうまくいかないと思い知ったのも昨日。慣れてそうな涼しい顔で「ありがとう、貰っておくよ。」と言われたのも昨日……私よりも歳上そうな大人の女性と歩いているのを見たのも……昨日。
「はぁ……。」
「浮かばない顔だね、八九式。」
「そうなの……って、うわぁ……!」
「やっ、驚いた?」
「ちょっと!代理人君!居るなら言ってよ!と言うより、どうして居るの!」
「呼ばれたから、じゃ駄目かな?」
「ノックぐらいしてよ!」
「したよー?返事が無かったから入ってきたんだけどね。」
は、恥ずかしい!
「女の子の部屋に勝手に入るのはマナー違反だよ!一旦出て!」
「うへぇー……。」
代理人君をドアから外に追いやり、散らかっていた部屋を片付け、赤色十月革命同盟学連の友人(赤い国の友人)の新作をベッドの下にしまう。新作の批評をしあう仲だけどこれは見せられない。
ドアを開けて代理人君に入ってもらう。
「お待たせ。」
「全然待ってないよ。では、お邪魔します。」
「何もないけれど、どうぞ。」
慣れた様子で私の本棚を真っ先に見る代理人君。見られて困るものは置いてないつもりだけれど……。
「ドグラ・マグラ……八九式は本当にいい本読むね。僕もこの本は好きだ。」
「あ、ありがとう……。」
「それで、昨日の返事をしに来たよ。」
「そ、そう……。」
ドキン、と私には無いはずの心臓が痛む。心が痛いとは、こういうことなの?
「まず……。」
「い、言わないで!」
「……。」
空虚な時間が流れる。嫌でも思い出してしまう昨日の景色。
「言わないで……今は聞きたくない。」
「言うね。」
「嫌だ!聞きたくないんだ!」
「なんでだい?」
「だって、だって!代理人君が私よりもお似合いの人と歩いているのを見たんだ!」
「あー……。」
「私よりも彼女と付き合った方が良い!私のことなんか忘れてくれ!」
思ってもないことばかりスラスラと口から出てきてしまう。
「TB-3のことかい?」
「彼女、TB-3って言うのね。」
同じDOLLS……悔しい。
「彼女とは付き合わないよ?」
「え?」
「彼女にはホワイトデーの相談に乗ってもらったし、妹さんについての相談に乗ったけど、TB-3と付き合うつもりはないよ。」
「そ、そっかぁ……。」
よかった……。
「話は戻って……まず、チョコレートありがとう。ビターなベースに強すぎない甘さアクセントで……とても好きだ。そうだな……バレンタイン以外でもくれると嬉しい。」
「そ、そう……気に入ったなら何より。」
「そして、恋文の返事なんだけど……。」
ドキリ。バイザー越しに目と目が合う。
「その……よろしくお願いします。」
顔を珍しく真っ赤にしながら代理人君が言う。
「代理人君……私の手を取りながら言わないでくれよ。勘違いしちゃうよ。」
手を震わせながら頑張って書いたんだ。こうならないと困る。
いつも読んでいる小説も、手を繋ぎながら、好きな人の体温を感じながら読むと感じ方が変わる。
「……。」
隣のヒトはそうではないらしい。平然とした顔で架空戦記を読んでいる。これが女の子慣れしている、ということなのだろうか?
「代理人君、何を読んでいるの?」
「これかい?」
なんで私の口調をそこだけ真似するかなぁ……。
「そうだな……八九式、君は戦艦がもし空母としての機能を持てたら……強いと思うかい?」
「えっ…………いや、そうはあまり思わない。」
「理由を聞いてもいいかい?」
「まず、戦艦の主砲は射程が航空機よりも短い。空母は上部に格納庫があるから重心が上がってトップヘビーになりやすい。戦艦のような装甲を持たせるのは難しい筈。」
「つまり、器用貧乏である、と。なるほど。」
「代理人君……ロマンの欠片も無い返答でごめん。」
「いや、間違ってないと思うし、実は……。」
代理人君とまた目が合った。今度はバイザーを外している。青い瞳……綺麗。
「僕もそう思っていた。」
自然と少しずつ近づいていく代理人君の顔。私も自然と目を閉じて……。
「(ドアをノックする音)」
「誰か来たみたいだね。」
離れていく代理人君の顔……。
「私の意気地無し……。」
入ってきたのは……昨日代理人の隣にいた女性。
「失礼するわ。」
「TB-3、どうかしたのかい?」
「近所に用があったから、ここに居ると聞いて。こんにちは、八九式中戦車さん。妹がお世話になっているわ。」
「妹さん?」
「ANT-20、またの名をマキシム・ゴーリキー……こっちは聞いたことがあるでしょう?」
「え、ええ。」
まさかメンバーの素性を一人垣間見ることになるとは。
TB-3先生は追いかけてきた自身の生徒に連れられて帰っていった。教官機は忙しいらしい。ドアを閉めて施錠する。
「八九式。」
「えっ?」
振り向く。唇に柔らかい感触。自然と目が閉じる。まるでそう設計されていたかのように。
「んっ……。」
唇が離れた。名残惜しいけれど求めるのは恥ずかしい。
「よく、ファーストキスはレモンの味とか言うけれど、誰が言い出したんだろうね。」
「そ、それはだね代理人君……。」
「知っているの……う。」
勢いで畳に押し倒してしまった。
「大丈夫かい!?」
「あたた……大丈夫だよ。」
代理人君の目、綺麗だなぁ……緊張してる?ちょっと震えているように見える。落ち着いて、私も初めてだから。
押し倒したものの、そこから先をしなかった私たちは代理人君の提案でお口直しにゲームを始めた。
「PS3、君も持ってるんだね。」
「なんだい、文学少女が持ってちゃ駄目かい?」
「いや、新鮮だなって。」
「塊〇しかないけど、やるかな?」
「これまた渋いな……。」
〇魂TR00UTE。友人から譲り受けた人気作のシリーズ最新作でものを巻き込んで星を作るゲームなの……だが。
「代理人君、流石に私が言えたことじゃあないが……近くないかい?」
「減るものでもないだろう?」
後ろからピトッとくっつく代理人君の静かな鼻息が首筋に当たってこそばゆい。
「もーう……。」
腕を私のお腹に回して体重をかけてくる。代理人君、あったかいなぁ……。いけないいけない、私もロートルとは言え中戦車型DOLLSだ。代理人君がのしかかってきたところで倒れはしない。しな……い……こそばゆい!
「代理人君!そこはだ……めぇ……あはは!やめてぇ!」
「ほら、チュートリアルが始まるよ。」
スティックを前に倒して王子を動かし……ふと脇腹を擽る手が止まる。もう飽きた?
「右だよ。」
「わ、分かってるってぇ!」
飽きてなかった。左スティックを上に、右スティックを下に……。
「そうそうそう……。」
コントローラーが震える。いや、コントローラーを持つ私の手が震えているんだ。この引っ付き虫のせいで。
「無駄な肉がない。」
「代理人君、彼女とはいえ、人の二の腕を揉むなんてかなり失礼な事をしている自覚はある?」
「綺麗だって言いたかっ……あいたた!」
ふんす。
「代わって。代理人君、攻守交代だよ。」
「さーて、お仕置きの時間。」
コントローラーを握って指揮する時のように集中する代理人君の背中はいつもより大きく感じた。
「あれ……効かない?」
脇腹を擽ってみるもうんともすんとも言わない。自分一人だけ笑ってしまって恥ずかしくなってきた……。
「八九式、その程度では笑わせられないよ。」
「なっ……。」
「なら、これはどうかな?代理人君。」
思い切って胸を押し当ててみる。
「ちょ、ちょ、ちょっと、それは反則だろ!」
「反則も何も、代理人君のせいだよ。女の子に失礼な指揮官だもん。」
ちょっとどころかかなり恥ずかしいのだけれど……自分に心臓がなくて良かった。心音を聞かれなくて済む。
家の中から始まるステージ。白黒の世界だ。
「八九式、真面目にサポートするね。」
「お願いするよ、代理人君。」
「語らい、重なり、カタマリ、絡まり。」
「一緒に、いること、絶対、必然。」
私が塊をゴロゴロと動かして、代理人君が次に巻き込むべきものを教えてくれる。
小一時間、攻守交代を繰り返しながら私たちはこのゲームを遊んだ。結局、チュートリアルから1ステージ進んだだけ。でもこの一歩は大きな一歩なのかもしれない。2人の共同作業として。
赤色十月革命同盟学連の友人の新作
:ペンネーム"マキシム・ゴーリキー"氏の書いたSF作品。現地の地方新聞に掲載されているものの、「ネタバレに配慮する為」限られた人しか先読みできない。(作者の過去作とは関係が恐らくない)
TB-3
:マキシム・ゴーリキーの姉。重爆撃機型DOLLS。過去作に出てくる同型機とはおそらく関係がない。(同型機が複数出てくる作品シリーズの為)
TB-3を見て歳上そう、と八九式中戦車は判断しているが……TB-3の方が実は年下だったりして……(中戦車として分類されたのはTB-3の初飛行よりも後ではあるけれど)。