※この作品はR-18です。

八九式中戦車の記憶   作:イエローケーキ兵器設計局

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 代理人君にチョコレートと恋文を渡した翌日。

以下作者より
擦れたTB-3みたいな人間に八九式中戦車はちょっと解釈が難しいです……。
※クロスオーバー注意


女性代理人向け
1'. 02/15(女性代理人向け?八九式中戦車視点,何でも許せる人向け)


 

「代理人、食べてくれたかな……。」

 勇気を出してチョコレートを渡してよかったと思う。出会って……ひふみぃ……去年の10月からかな、私が整備会に来て主に書記作業に従事し……代理人君に淡い感情を持ったことを自覚するに至ってはや数ヶ月。代理人君の書いた新作を読んで笑ったり泣いたり……たまに本当に理解できなくて虚無を感じたりして……私はどうやら本当に代理人君が好きなんだと気がついた。ただ、同性にこんな感情を抱くのはこのご時世、この学連において普通ではないし(周囲を見ている限り)、それを裏付けるように教科書にしていた恋愛小説では同性愛はタブー視されていたから、どうして良いのかわからなくて代理人の先代の副官であるTB-3姐さんに相談したりもした。

「やらずに後悔するよりやって後悔したら?」

「でも……。」

「大丈夫、何とかなるわ。八九式、頑張りなさい。私は貴女と代理人様の味方だから、ね。」

 

 バレンタインデーの前日、顔を紅く染めたり逆に青くなったりしながら何度もチョコレートと格闘して、告白の練習もして……当日は、練習と違ってうまく出てこなかった言の葉(TB-3姐さんと一緒に考えた)をなんとか重ねて、チョコレートと恋文を渡した。それが昨日。赤い夢は活字の中の世界とは違ってなかなかうまくいかないと思い知ったのも昨日。いかにも慣れてそうな涼しい顔で「ありがとう、貰っておくね。」と言われたのも昨日。

 

「はぁ……。」

「浮かばない顔だね、八九式。」

「そうなの……って、うわぁ……!」

「やっ、驚いた?」

「ちょっと!代理人!居るなら言ってよ!と言うより、どうして居るの!」

「君に用があったから、じゃあ……駄目?」

「駄目、じゃないけど……勝手に入るのは駄目!せめてノックして!」

 

 代理人をドアから外に追いやり、散らかっていた部屋を片付け、赤色十月革命同盟学連の友人(ペンネーム:マキシム・ゴーリキー)の新作をベッドの下にしまう。新作の批評をしあう仲だけどこれは見せられない。

 

 ドアを開けて代理人に入ってもらう。

「お待たせ。」

「全然待ってないけど……入るよ。」

「何もないけれど、どうぞ。」

 慣れた様子で畳に座って私の本棚を真っ先に見る代理人君。見られて困るものは置いてないつもりだけれど……。

「スカイ・クロラ……八九式は本当にいい本読むね。僕もこの本は好きだよ。」

「あ、ありがとう……?」

 今日もウルフカットで凛々しさを感じる。

「それで、昨日の返事をしに来たよ。」

「そ、そう……。」

 ドキン、と私には無いはずの心臓が痛む。心が痛いとは、こういうことなの?

「まず……。」

「い、言わないで!」

「……。」

 空虚な時間が流れる。

「言わない方が良い?」

 すすっ、すーっ、とにじり寄ってくる代理人から正座しながら逃げてしまう。壁際に追い詰められて、腕が伸びてきて、押し倒される。唇がくっつくまでまであと10cm。5cm。彼女は私の口に自分の唇を押し付けた。3秒。少しだけ力が緩んで代理人の顔の全体が私の視野に収まるまで後退して、まるで獲物を捕まえたかのように微笑む。

「言わない方が良いなら言わないけど……僕たち、永遠にこのままだよ?」

 そんな……代理人が狼だったなんて。

 

 ……とは思ったものの、そこから先はなく……顔を赤く染めつつ戻っていく代理人を可愛いと思いながら机を挟んで話す。

「ご、ごめんね……。つい……。」

「つい、ですか……。」

 つい、ということは前例が居たのだろう。

「あ、いや、つい、というわけでもないんだけどね、その……綺麗だなって。」

「代理人は綺麗なものは破壊しても良いと思いである、と。後で書いておきますね。」

「ご、ごめんなさい!」

「はぁ……冗談ですよ。」

「良かったぁ……。」

「でも……次はありませんから、ね。」

 

 代理人が時々、私の顔をちらっと見てはすぐに開いた"機甲部隊運用論3"(単行本版。一巻あたりおよそ300頁+ある)に顔を隠す。モグラ叩きは好きじゃないから辞めてほしい。

「代理人、モグラ叩きは楽しい?」

「うん。」

「集中できないから辞めて。」

「……ごめん。」

 

 モグラ叩きは終わって代わりにじーっ、と見つめるようになった。……飽きるまで放置しよう。私も代理人の顔とか好きだけど、表情とか可愛くて好きだけど……じーっと、見るのは流石に……。

 

 1時間と5分30秒経った。そろそろ辞めてるだ…………えぇ……。

「代理人、楽しい?」

「楽しいか楽しくないかで言えば楽しい。」

「何か別のこと、しない?」

「例えば?」

「そうだねぇ……代理人は何か思いつく?」

「僕の部屋にゲーム機はあるけれど……。遊ぶ?」

「じゃあ、お邪魔しようかな。」

 やった、と喜ぶ代理人の口角が明らかに上がっていたのを私は見逃さなかった。

 

 

 

「お邪魔します。」

「いらっしゃい。」

 代理人の部屋は星屑連邦学連の寮のようにフローリングになっていて清潔感があった。

「粗茶ですがどうぞ。」

 先にお茶を代理人が淹れてくれていた。が、飲む気にはなれない。どうにもさっき口角が上がったのが気になる。

「……緑茶は嫌いかな?八九式。」

「い、いや……別にそんな……!」

「気になるなら交換する?それとも……。」

 私の湯呑みのお茶を一口啜って、自分のお茶も一口啜る代理人。

「ほら、何もない。あっ……ごめんね。」

「いた、頂きます!」

 下げられるよりも前に代理人の手に私の手を重ねて。

「ふふふ、はい、どうぞ。熱いから気をつけて。」

 ふと啜る。甘い。苦みの向こうに甘みがあって美味しい。

 

 2人掛けのソファに座って、代理人がPS3を起動し、ゲームタイトルを選ぶ。まずはこれを見てくれと言われたので素直に見て学ぶことにする。

「対価に値する結果だといいけど。」

 第3大隊の指揮官である代理人の指示を受けて画面の向こうのロシア連邦軍の第3大隊隷下、第1戦車小隊"マルフーシャ隊"が行動を開始する。拠点"アルファ"に配置するらしい。

「平常心、平常心。」

 第2戦車小隊"スネジンカ隊"も移動を開始。

「ぼーとして、ません。」

 第1戦闘ヘリ小隊"エノス隊"が拠点"アルファ"から拠点"ベータ"に移動を開始。

「可愛いすぎてごめんね~。」

 第1自走砲小隊"アリビナ隊"が拠点"アルファ"に移動。

「お願いします……どうか捨てないでください……。」

 指揮車両"ビオン隊"が歩哨を展開。

「こちら歩兵!移動開始!」

 2個歩兵小隊が拠点"アルファ"と拠点"ベータ"に向かっていく。

 

「こちらマルフーシャ、交戦を開始する。」

「灰となれ!」

 敵の戦車とマルフーシャ隊とスネジンカ隊が交戦を開始。

「いてら~♪」

 敵2個歩兵小隊に砲撃を開始するアリビナ隊。

「ポジションは、このまま。命令を、待て。」

 エノス隊は偵察機として待機しているみたい。

「反撃、されないといいですね……。」

 ビオン隊は……後方でUAVを制御している。

 

「致命傷じゃないが……もう一発食らいたくないな。」

「きゃあ!耐えなくちゃ……。」

 マルフーシャとスネジンカの戦車小隊が2両車両を失いながら敵戦車隊を壊滅させた。おー……。

 

 

 時間は進み(約10分)、敵大隊を壊滅させて勝った。

「さて、八九式……これから君に次の戦闘の指揮を頼みたいんだけど……。」

「え?」

「大丈夫、大丈夫。データのバックアップはあるから。」

 

「そうそうそう。八九式、砲兵は射程を活かしてこそ生きるからね。あっ、戦闘ヘリは主に偵察だけどここは……よしよしよーし!」

 代理人が面白い。いつの間にか私を膝に乗せて抱き締めながら見守っていたし、一喜一憂が私以上に激しい。

「……代理人、私に胸を押し当ててるのは何かのアピールかい?」

「えっ、いや、違うよ!」

 比較的豊満な胸を無意識で押し当てていた事に気付いて慌てる代理人を放っておいて敵を追い込んでいく。ある程度押し込んだとき、画面上に警告が出た。

「え?だぶりゅーえむでぃー……?」

「あっ。八九式、部隊を散開させて!急いで!」

「……!」

 部隊を急いで散開させるとさっきまでビオン隊がいた場所にとても太い光線が……。

「ひいいい!れ、レーザーが!!」

「EUの連中、軌道レーザーを使ってきたか……。八九式、このゲームは劣勢に追い込まれると報復兵器を使えるんだよ。さっきの戦闘は使わせる暇もなく追い込んだから何も起きなかったけれど。」

「それを先に言ってよ!」

「ごめんごめん。奴らが撃ってきたということは……こっちもそろそろ撃てる筈。エノス隊とビオン隊で偵察しよう。」

「撃たないと駄目?」

「撃たないとこっちの部隊がさらに撃たれる。かの大戦での特殊爆弾みたいなものだよ。」

 ……むべなるかな。

 

 さーもばりっく弾なるものを残敵に撃ち込んで戦闘終了。システム上の戦死者は出ず(歩兵とか1/4くらいにまで減少していたと思うけど)、みんな生還出来たので昇格するらしい。私たちで言うところの(DOLLS本体の)レベルアップみたいなものだろうか。

 

 

 

 夕飯をご馳走して頂けるというので調理のお手伝いを。あっ、月下美人の花。

「親子丼と……月下美人が気になるのかい?」

「綺麗だなって。」

「友人に焼酎漬けの花を貰ってね。」

 なるほど……アルコールに漬けると保存できるのか……。ん?

「代理人、その腕の傷……。」

 代理人の左腕に銃創や刀傷があることに気がついた。いつもは制服で隠れていたけれど今、代理人は袖を捲っていた。

「ん?あー……気にしなくて良いよ。かなり前のものだし。」

 ハハハ、と笑う代理人。その笑顔には少し影が差しているようにも見えた。

「改めて……親子丼で良いかい?コメは炊いたんだけどね、材料が無くてね。」

 

 私が鶏もも肉を切る間、代理人は玉ねぎを切っていた。

「……っ。」

「代理人、私が切ろうか?」

「いや、大丈夫だよ。」

 大丈夫と言いながら、代理人は泣いていた。

 

 お肉に火を通しながら代理人に聞きたいことをぶつける。

「代理人、聞いても良いかい?」

「どうぞ。」

「代理人って……赤色十月の人間だったり……するの?」

 僅かな沈黙。

「……かつては、ね。TB-3から聞いたの?」

 代理人の顔が少し険しくなってしまった。

「勘、かな。」

「女の勘、かぁ。ちょっとびっくりしちゃったよ。」

「もしかして……親子丼って……。」

「私は領空侵犯してないよ。防空軍出身ではあったけどね。さあ、焦げちゃうから次の行程に入ろう。」

 

 鶏肉と玉ねぎを割り下で煮込んで卵を溶きほぐす。

「八九式、私の分と自分の分のご飯をよそってくれ。」

 

 無事に完成した親子丼を代理人と向き合って食べる。

「美味しい。代理人に意外な長所があったなんて。」

「さらっと失礼なことを言うね八九式。」

「それにしてもなぜ、親子丼を?」

「……たまたまそう言う日だった、それだけだよ八九式。」

「もしかして昔好きだった人とか……。」

 言い終わるか終わり前か辺りで代理人が吹き出してしまった。

「だ、大丈夫?」

「だいじょ……ゲホッゲホッ!」

 背中を叩きながら数分ほど待った。

「ありがとう。はぁ……そうだよ。昔、好きな人がいたんだ。これはTB-3には内緒ね。誰にも話してないから。」

「うん。」

「それはそう……このCityに来る前、私がソビエト連邦……ここの今で言うところの赤色十月に相当するところか、の防空軍に居た時の話なんだけどね。」

 

 代理人は語る。ある作戦で撃墜されて緊急脱出した敵地で隊長と敵の後方基地を破壊して帰還したことがあったという。そしてその撤退戦中に代理人が腕を撃たれて動けなくなり、隊長が銃火の中を駆けつけて治療、引き摺り出してくれたという。ここまでは……ベターかなぁ。

 問題はその隊長……既婚の女性将校なのだけれど、よく代理人"が"セクハラしていたのだという。はぁー……優秀な指揮官には問題が付き物とは思っているけれど上官にセクハラするのはちょっと……。代理人が親子丼を好きなのは隊長の得意料理だったから。なるほど、なるほど。

 

「つまるところ……好きだった人のことを未だに忘れられない、と。」

「うぐっ……。」

「……今も好き?」

「八九式、流石にこれ以上はあまり……。」

「好きなんだね。」

「……。」

「別に構わないけどね、私は。名将は時に好色家だったりするし。」

「八九式……。」

「代理人、私を愛してくれますか?」

「ああ。」

「誓える?」

「僕の名前に誓うよ。僕の名前は……マリーナ。」

 

 

 夜、屋上で代理人と空を見ていると橘花のようなジェット機の轟音が遠くから聞こえだした。編隊灯が見える。爆撃機のようなサイズだけどかなり速い。

「おや、この音は……。」

「代理人、行っても良いよ。」

「いや、良いんだ。僕は。」

「おーい!」

「は、八九式……!まあ、いっか。おーい!ライカ隊長ー!」

 心做しか、その大きな大きな機体が私たちの頭上を通過するとき、翼を振ったように見えた。

「雪?」

 銀糸のような、アルミホイルのような膜の細切れが降ってくる。

「八九式。これはチャフと言って、レーダー……あー、電探から雲隠れするのに使うんだよ。」

 なるほど。ようやくDOLLSの追跡機が通過していく。

「流石に零戦も震電も、橘花でも追いつけない。」

「その程度で追いつかれるほど遅くはないからね。航続距離も長いし。」

 ほんのちょっとだけ嫉妬してしまったかもしれない。




 スカイ・クロラでは『さもないと、永遠に私たち、このままだよ』(原作262ページから引用)というセリフが存在しますし、主人公が口付けされるシーン(同上)もあるのですが趣旨が違います。ごめんなさい。

機甲部隊運用論3
:作者の別作品である"2人のライカ"にて登場する雑誌(の体を成した小説)。主人公であるライカ中佐の弟が好きな小説であり、核戦争後の世界で生き残る元兵士達と、どさくさ紛れに地球侵略を目論む地球外生命との戦いを描いたものだとか。なぜこの世界にあるのか、それは……2人のライカの今後の展開によっては明かされるかもしれません。
(登場話:13. 母船来襲(1)…2025年3月15日時点)

代理人の髪型
ウルフカットは当時のライカ少佐の髪型を真似してのもの。今はライカ中佐(作中で階級が上がった)は長髪なので相違があるが……もし出会ったら髪を伸ばすのだろうか?

親子丼とMiG-25(もしかして……デマ?)
:ヴィクトル・ベレンコ中尉の亡命事件が起きた後、アメリカに亡命するまでの4日間の間に日本の親子丼を気に入ったとか気に入ってないとかいう真偽不明の噂。かの大戦のあと、亡命する為に領空侵犯をした戦闘機乗りが居たという逸話がなぜかこのCityにも伝わっている。

最後に通過した機体は?
:Tu-128M2 "Fiddler C"。ライカ隊長ことライカ中佐の愛機であり、全長30mという巨体でありながら区分は戦闘機である。高度100〜200m付近を反転しながら通過するという危険そのものな飛行をしているが……追跡するDOLLSを追い払おうとしていた?そもそもなぜライカ中佐の機体がここに?
 チャフを撒くシーンはとある飛空士への追憶を参考にしました。(ネタバレになるのであまり語れない)

入れるか未定だったもの
「やるからには、完璧にこなしてみせます。」
 戦車小隊"ライカ隊"も指示を受けた拠点"アルファ"へ移動を開始。

作者より
ウルフカットボクっ娘、良いよね。
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