口づけは夜明けの前に~首筋で、吸血鬼はくすりと笑う~ 作:路亜
あれから数日、あなたは再びあの路地裏に足を向かわせていた。
あの日以来いつも通りの日常へと戻り、特に問題が起きるといった事もなく、退屈で変化の無い日々が続いていた。
ただ……首筋の傷跡。
それは、まるで夢であったかのように痕すら残さず消えてしまっているのに、優しく、甘く……熱く蕩けるように吸われたあの箇所は疼き続けていて、小さな棘の様にあなたの心を苛んでいるのであった。
(もう会わない方がいいと言われたし、会えるかどうかすら分からないけれど)
そんな自分でも言葉に出来ないような思いに突き動かされ……あなたは、流れるような金の髪と優しく穏やかな緋色の瞳をした少女と出会ったあの路地裏の前にやってきた。
そこはあの日と変わらず、薄暗く配管やなどが散らされており、違いといえばあの時響いていた諍いの声もなく、がらんとした妙に近寄りがたく寒々しい空間がただそこにあるだけのように見えた。
「やっぱり、もういない……よね」
所詮は偶然の出会い、もうここには何もないだろうという落胆があなたの中に湧いてきた。
まぁ、それでも……せめて彼女と出会った場所までは行ってみようかと一歩、足を踏み出した瞬間。
……強烈と言える程の、激しい違和感があなたを襲った。
目の前に広がる空間には何もない……あの日見たままの路地裏である。
けれど、踏み出した足先からじわりと……形のないのモノを確かに踏みしめているといった具合に、何も無いものを踏んでいるという不気味としか言えないは感触が足先から全身を駆け巡った。
ごくり、と我知れず喉が鳴る。
何も知らない状況ならば、この気持ちの悪い違和感を避けるべく、後ろを向き足を去ってしまった方がいいと、そう本能が告げていた。
けれど非日常の存在……あの愛らしい金色の吸血鬼の事を知ってしまっているあなたにとっては、この異変はむしろ……奇妙な胸騒ぎを掻き立てるのである。
震える足で一歩を踏み出した、確かめるように一歩、更にもう一歩……徐々に足先から広がる違和感を意識しないようにしながら、必死に足を進ませ続けていると……じわじわと違和感が足先から上りはじめ、頭の上まで届いたと思った瞬間……、視界が一変した。
すでに視界に、路地裏を映ってはいない。
土くれと枯れ木が何処までも広がるような不毛の大地が広がり、その向こうから少女のものと思わしき険しい声が聞こえてくる。
「フィーユ・リュビエ・バートリー。……貴女は、忌々しい吸血鬼連中の中でもまだ人の道理が通じる存在だと思っていたのだけれど……過大評価だったみたい。所詮は血吸いのケダモノ……何処までも人以下の、害獣……」
「あー、待て待て! 何のことを言ってるか分からないし、誤解だと言ってるじゃないか! ボクは今更、君等と矛を構えるつもりないとアレほど言っただろうに!」
「しらばっくれる気、吸血鬼……! あなたが魅了の魔眼を使って人を操り、更に吸血行為まで行った事実を我々ヴァンパイアハンターが気付かないとでも……?」
「だから、それはこの間の路地裏の一件の事だろう?その事はちゃんと報告したじゃないか。ボクの大事な血液をダメにされたから、その分をオシオキ代わりに身をもって反省して貰っただけだろう?」
近づいてみてみれば、灰色のローブを纏い、十字を模った剣を持った少女が、金髪の少女……フィーに食ってかかっている所であった。
「それだけなら確かにそう……でも、あなたの言う彼らはその後ミイラ化した変死体として見つかったわ。……首元に吸血痕があり、死体が見つかったのは貴女から報告のあった日の翌日……これでも、まだ知らないと?」
「なに?……ちょっと待ってくれ、ボクはそんな事知らないぞ? 彼らには、腹いせ交じりに社会的に死んで貰うおうと警察署前で全裸踊りをさせる予定はあったけど。ボクは実際の命には手を出しちゃいないぞ!」
「……白々しい、犠牲者を出しておいてその言い草。やはり、吸血鬼は信用出来ない……」
物陰に隠れ、あなたが話を聞いていると、どうやら……何かの事件が起きたらしい。
フィーはその犯人と思われているようであった。
「待て待て待て、早合点で武器を構えるんじゃない! 本当にボクは知らないんだ! 他に関わりがあったのは、そのときの被害者だった人間くんくらいのもので……。まさか……こんな周りが海だらけの
困ったようにハンターと呼ばれていた少女の相手をしていたフィーの顔が一変。
危機感を露わに警告を発する……が、それは一瞬遅く。
「がっ!? うそ……結界を敷いていたはず……何が……っ!?」
「はっはぁーん?あんなヘナチョコな結界で吸血鬼を阻めるとでも思ってたのぉー? ふふ、あまあまぁーざっこざっこぉ♥ やっぱりヴァンパイアハンターって昔より弱くなってなぁ~い? あはっ、あはははつ♥」
あなたが少女達を遠くから見ていると、ばさりっと翼をはためかせて、血のように赤い髪、赤い瞳、赤い翼をまとったナニかが荒野を覆う闇色の空から舞い降りた。
同時にソレは、赤い髪をなびかせ空中で体を一つ捻ると、蠢く血の色の槍のようなモノが銀髪のハンターめがけて撃ち放ち彼女を地面に吹き飛ばす。
「ふふーん?同属の気配がすると思って様子見させて貰ってたけど、何か面白い状況じゃなぁーい? ふふ、でもまさかぁ……誇り高い吸血鬼に、ヴァンパイアハンターへ尻尾を振る負け犬がいるなんて思わなかったけどぉー?」
「ハンター!! ……ちっ、気を失ってるか……えぇい、ボクを気にして油断してっ! ……いや、ボクも人のことは言えないか。まさか日本なんて狭い国で、同属がいるとは思ってなかったな……ボクも随分平和ボケしてたってことか」
「……それにしても、随分な言い草じゃないかな?数少ない同族に対して、もう少しは礼節っていうのものがあってもいいんじゃないかい?」
「あっはっ♥ ナイスジョーク♥ そうよね、数少ないオ・ナ・カ・マだもん、大事にしなきゃねぇ♥ でーもぉ残念だけどぉ……吸血鬼って誇りを捨てた裏切り者なんかを、仲間だなんて思う趣味私にはないのよねぇー……? ねーぇ、そこの所どう思う? 薄汚いド・ウ・ゾ・ク・さん?」
「……ボクは、別に吸血鬼を裏切った覚えはないんだけどね。ただ戦うなんて疲れるだけだって気付いちゃったから、彼らに争わない事を条件に協力をしているだけなんだけど……ま、君には理解して貰えなさそうだね」
「んふっ、サン様を理解してくれてアリガト♥ だってそれって人間にぃー……ハンター側に尻尾振ってるだけってことでしょぉ? ふふ、それを誇りを捨てた飼い犬……裏切り者の雌犬って呼んで何が悪いのかしら? ねぇねぇ、尻尾振ってお腹見せて、ご主人様に飲ませて貰う血って美味しいの? ワンワンワーンって鳴いて雌犬っぽい所見せてよ!そういうの得意なんでしょ? あはははっ♥」
「はぁ……やれやれ、耳に痛い事を言うなぁ……。それで、何のようなんだい? 君とは初対面、だよね……血の色をした吸血鬼くん? 一応自己紹介をしておくけれど、ボクは……」
「アンタの名前はさっきのハンターが言ってたから知ってるわ。 フィーユ・リュビエ・バートリー……リュビエ、つまりルビーってことよね? 歴史あるバートリーの名前を騙ってるのも合わせて、なんかすっごい生意気ってかんじー! ……負け犬に、美しい紅い宝石の名前とか、似合わないと思わない?」
「……さて、そこは主観の問題じゃないかな? ボクは自分の名前を気に入っているから、あまり悪く言わないで貰えると嬉しいんだけどね。それで……改めて聞くけど、ボクに何の用だい?」
「あははっ!えっらそー、生意気ィ♥ 聞いた事ない名前だしなー……ふふ、最近生まれたお子ちゃまなのかなぁー? アハハハハハハ! ふぅ……用って程何かあった訳じゃないんだけどぉ、こんな土地で同族に会うなんて珍しいから、ちょっと話をしてみよっかなーって思って。でも……」
「……でも?」
「話してみたらアンタみたいないやしい雑魚が、リュビエなんて綺麗な名前名乗ってるのは、なんかすっごい気に入らないかも! こんな情けない奴が吸血鬼とか、私たちの沽券?に関わるような気もするしぃー……っていうか、ぶっちゃけ」
「随分嫌われてしまったみたいだねぇ……ぶっちゃけ、なんだい?」
「んふ♥ そういうスカした態度も合わせてぇ、気に入らないなぁ……ってねぇっ!!」
血の色の少女、サンが体をまたくるりと捻った。
彼女の背の翼の影から先程ハンターを襲ったのと同じ血の槍が再び現れ、今度はフィー目掛けて襲い掛かる。
あわや串刺しと思われた瞬間、フィーの手が地面を触れ、彼女が触れた影が盛り上がり体を覆うようにして襲いくる血の槍を阻む。
「っ……やっぱり、なっまいきぃ! 300年生きてるこの
「はっはっは……それはすまないね! 当たったら痛そうだったから、申し訳ないが防がせて貰ったよ。……所で、もういいんじゃないかな?これで勘弁して貰えないかい? 言った通りボクは、あまり戦闘は好きじゃないんだよ……」
「ふんっ、いかにも負け犬くさい台詞だことっ! このサン様がぁ……舐められて終わる訳にはいかないでしょうがっ!!」
サンと名乗った少女の紅い髪が血になったようにずるりと長く伸びた。
同時に足を踏み出し頭を振ると、それが鎌のように鋭角を成し、フィーへと襲い掛かる。
「っ……血の気の多い奴だな、君はっ!」
「はんっ、吸血鬼に……《血》の名前を持つ相手に言うには、当然すぎて欠伸が出ちゃう言葉だことっ! そら、そら、そらっ!情けないダメ吸血鬼は、ここで真っ赤に散っちゃいなさいよっ!!」
サンの猛攻に合わせるように、フィーもまた自身の影を鋭くしならせ血の鎌をいなし続ける。
影と血、それぞれ人の理(ことわり)ではあり得ない硬度を示すそれ等が、甲高い音を立てぶつかり激しい音が響かせた。
「……っ! 手数が、多い……っ! これだけの血、随分節操なく吸ったようだな……君っ!」
「あっは、何馬鹿言ってんのぉ?吸える血を吸って何が悪いってのさっ! あんたみたいなみっともない立場になる位より、よっぽど上等ってもんよっ! 証拠に……そらっ! だんだん捌けなくなってるじゃないっ! あっはははは!! ざぁーーーーこぉっっ!!」
「っ……めざとい、奴だな、本当にっ! ……ぐっ!?」
影を振り回し凌いでいたフィーだが、段々と勢いを増す血の鎌に対処が追いつかなくなっていくようであった。
そしてついに、その細い体を血の鎌が切り裂き、フィーの体に赤い染みが滲む。
顔を顰め裂けた肌を押さえると、フィーが大きく後ろに……あなたに近づくように大きく跳ぶ。
苦しそうなフィーの様子に、あなたは隠れるのも忘れ思わず駆け寄ってしまった。
そして、彼女の身を護ろうとするようにサンとフィーの間に立ちはだかってしまう。
「っ!? ……んぁ、君!? なんでここに?」
「ん?……あれぇ人間? へー、結界があったはずなのに変なのぉー? ……なぁーに、そこの負け犬の知り合い?」
「まずい……えぇい、なんで来たとかはいいからすぐ離れるんだ! あいつは見境ないぞ、君は巻き込まれたら命が危ない……早く!!」
慌ててを引き離そうと、フィーがあなたを突き放そうとする。
……その隙を、赤の少女は見逃さない。
「ふぅーん? 良く分かんないけど、随分親しげ?仲良しィ? へー、さっすがみっともない吸血鬼モドキぃ?! お仲間も人間なんて、お似合いじゃない!あはは!! んー、じゃあさー……一緒にぃ」
ニタリと、サンが歪んだ笑みを浮かべた。
彼女が両手をおもむろに振り上げ、勢いよく振り下ろすと空中に幾つも赤い飛沫が飛び散り……。
「燃えちゃえ……!!」
ぱちん、と指をかき鳴らした瞬間全ての飛沫が赤熱化した火球となり、2人に……。
いや、フィーを庇うように前に出たあなた目掛けて降り注いだ。
「なっ……あれは防ぎきれな……君、いいから逃げろ!!」
フィーの言葉が鋭く響くが、すでに火球は目の前。逃げる時間などない事は、はっきりと分かってしまう。
避けられぬ死が近づいてくるのを感じながら、どうせ逃げられないならばと、あなたはフィーだけは助けようと彼女を抱きしめ、火球に背を向け眼を瞑った。
それがどれだけ効果はあるかは分からなかったが……ほんの少しでもは効果があれと願い、彼女を覆うように強く、強く……。
「馬鹿っ! そんな事しても……っ! 本当に、馬鹿な人間だな君はっ!? あぁもう!! ……どんな結果になっても責任は取ってやるけれど……人でいられるよう祈りたまえよ……っ!! んっ……あむっ、ちゅぅ……っ!」
苦々し気なフィーの呟きが小さくあなたの耳に聞こえた気がした。
そして次の瞬間、かぷり……っとあなたの首元に小さな痛みが走った。
それはつい先日も感じた覚えのある甘く切ない……けれどあの時よりも激しい、燃えるような痛みであった。
どくりと、自身の心臓の鼓動が早鐘のように強く跳ねる。そして急激に体から力が抜けていくと感じた瞬間。
あなたの視界は深く、深く、周囲のような闇の中へと沈んでいった。
「……は? 何それ……なんでサン様の火球を受けて平気でいるわけ? ちょっと、ちょっとちょっとちょっと……なんで三下吸血鬼の分際で、私の攻撃邪魔してんのよっ!!」
サンの放った火球が水に沈みこむかのように、あなたとフィーを包み込んだ闇へと飲み込まれていった。
闇は火球を受け止めると波紋のように小さくさざめき、すぐに何事もなかったかのように静かに凪いでいく。
「腹立つ……そういうの、私……すごく気分悪いんだけどっっ!!」
自分の攻撃が無効化された事がサンの神経を逆撫でしたのか、彼女は髪を乱れさせながら激昂し、再び両腕を持ち上げた。
すると、指先から血の雫が空中に走り集まりだす。それは雫一つ一つが食い合うように段々と大きくなっていき……。
血の球が小さな子供程もある塊に育った所で、サンが再び指を鳴らす。
その瞬間、サイズはそのままに血の塊が再び火球に……先程までよりも遥かに大きく、青白く熱を放つ大火球へと姿を変えていた。
「乾く血もない程、燃え尽きちゃえ……このクズ吸血鬼ィィッ!!」
サンの叫びと共に、大火球が再び2人を覆う闇へと襲い掛かる。
先程は一瞬で火の球を飲み込んだ闇だったが、この大きさになると勝手が違うのか拮抗するように闇と大火球が空中で鬩ぎ合う。
「うそ、これもっ!!??くっそぉ……生意気生意気生意気生意気……っっ!!なら、これでぇ……!!」
「あんまり調子に乗るなよ……ボクは、戦いたくないって言ってるだろうに、まったく」
サンが再び両手を振り上げ、異能の拮抗を崩そうと更に火球を増やそうとしたその時。
闇から、声が響く。
「君のせいだぞ……サン、だったっけ? ボクは、のんびり過ごせれば良かったのに余計なトラブルに巻き込んでくれて……あぁ、迷惑だ、すごく、すごくボクは迷惑しているよ?」
闇の中から響く声は酷く不機嫌そうで。
それゆえに、サンは訳も分からぬ恐怖を感じてしまう。
「この人間だって、ちょっと心がクラってきた所があって好んでたのに、トラブルが起きた時に迷惑かけるって、ダメだって我慢して我慢して……。そうやって諦めようとしてた相手だったってのに……あんなに美味しい血の持ち主でも、我慢してたのに!」
「結局、こんなに吸わせて……ボクの血の影響が出ないか、暫くは様子を見てあげなくちゃいけなくなったじゃないか。あぁ、あぁ、あぁあぁあぁあぁ、迷惑だ。……とてもとても、迷惑だよ、君?」
声が、響く。
ぞぷりと、闇の中から白い腕が伸びて、手では触れられぬはずの大火球を支えるようにして引き剥がしていく。
そしてゆっくり、闇にあってなお映える金色の髪と……爛々と輝く緋色の瞳が、サンを見据えた。
闇が混じりより勢いを増す火球を手に吸い付かせたまま、腕がぐるりと大きく1回転し……。
「確か君、300歳だったけ? はは! ……返すぞ、
「ひっ……きゃ、ぁああああああああっっっっ!!!!」
赤い少女の絶叫が、混沌とした闇色の空間を埋めていく。
燃える炎がナニかを燃やすぱちりぱちりという音が響き、火に巻かれた少女の影が鈍く空間を焼き照らす。
「うぐ、ぐ……ぐぅ……この、このこのこの……雑魚吸血鬼のくせに……! ハンターに尻尾を振った、裏切り者の癖にぃ……っっ!!」
「尻尾を振った裏切り者だろうがなんだろうが、どちらの力が上かはこれでよく分かったろう? ……この人間とハンターの手当てもある、今は見逃してやるからとっとと何処かに消えてくれたまえ。まだやるっていうなら、ボクはもう……一切手加減しないぞ?」
「ぐ……ぅぅぅぅぅっっ!! 私を……サン様を侮ってッッ、馬鹿にしてぇっ!!!! 絶対、絶対絶対後悔させてやるんだから……私は、負けてないんだからぁっ!!」
火に焼かれ、自身を豪華に着飾っていたドレスをボロボロにしながら赤の少女はフィーを睨み、一直線に結界と呼ばれた空間を飛び去っていく。
後には焦げた匂いと、気を失ったあなたとハンター……そして金色の髪をなびかせる緋色の瞳の少女だけが残された。
「……はぁぁ、面倒な事になったなぁ。まぁまずは兎に角、治療をしないとだね……うん。ハンターは平気そうだけど……、人間くんはボクの血がちょっと入り過ぎたかな……、これは発散させてあげなきゃ危ないよなぁ……。まぁ、ボクはこの間のも……うん、色々楽しませて貰えたから構わないけど、さ」
「君にばっかり負担になってたり、迷惑を掛けてる気がするよ、ボクは……。ぅー、治療でお礼って事で許して貰えればいいのだけれど、ダメかなぁ……はぁぁ」
そうして倒れた2人を見下ろし、やれやれと小さく肩をすくめると、フィーは困ったようにため息をつくのであった。
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あなたが軋む体の痛みに目を覚ますと、そこは見知らぬ……いや、見覚えのある空間であった。
以前、フィーと共に肌を重ね、それ故に彼女を忘れられなくなった、あの洋室である。
「あぁ、ようやく目覚めたのかい? おはよう、体の調子は大丈夫かな? ……なんて、2回目だね。この会話も」
「……まったく、ボクは君にもう来ないようにって言ったと思ったのにな。どうして来ちゃったんだろうねぇ、君は?ハンターは軽症で帰れたからいいものの。君はまたそんな、いや……前回の殴られた時なんかよりももっと酷い怪我をしてしまうし……まったく、まったくだよ。少しは反省した方がいいと思うんだけどね、ボクは」
ただこの間と違うのは、フィーは寄り添うようにあなたの眠っているベットに腰掛け、手にはあの時のワインのグラスなどもなく。
悲しむべきか喜ぶべきか迷うような複雑な顔で、ゆっくりと慈しむ様にあなたの頭を撫でている点であろう。
「……前に言っただろう?ボクと……吸血鬼といると面倒な事になるかもしれないって。まぁ、今回はその中でも特別面倒な出来事だったのは間違いないのだけれどね? 静かに暮らしたいと思っていても、どうしてもたまにこういう事が起きるものなんだよ……人じゃない生き物の生活っていう奴はさ。だから、本当に……吸血鬼なんかの近くに人はいない方がいいんだよ、よく……分かったろう?」
フィーは何度も何度も優しくあなたの頭を撫で続けながら、悪戯をしでかした子供を諭すかのように、あなたに寂しげな笑みを浮かべ言い聞かせる。
それは愛らしい少女の姿が表す態度としては、余りに多くの意味を含んでいるような……何処か長い時を生きたモノの持つ重みを感じさせる言葉であった。
「まぁ、とはいえ……今回はボクも君の力を借りて窮地を抜け出させて貰った訳だからね。こんな年寄り染みた説教をした所で全く説得力がないんだけれどね。まったくダメだね! 吸血鬼も平和ボケをするみたいだよ。ふふ、これだけ生きてまだ学ぶ事があるなんてね、なんだか複雑な気分さ……はは!」
「体に違和感はないかい?ちょっと血を吸いすぎてしまったからね。……ギリギリにしたから大丈夫とは思うけれど、少しでも違和感があれば言っておくれよ? 吸血鬼になったりはしないだろうけど、ボクの血が大分入ったはずだからね……意識が戻ったのなら、多分治癒と一緒にそろそろアッチの効果も出てくると思うんだけど」
申し訳なさそうに瞳を伏せたフィーが、ベッドの這うようにあなたに一歩近づく。
金色の髪がさらりとあなたの頬に触れ、心配そうに見つめる彼女の赤い瞳の中にあなたの顔が薄っすらと映った。
「体は確かに全体的にダルいけれど、痛みとかはないから大丈夫だよ」
あまりに心配する彼女に、あなたは安心させようと笑みを作ろうとして頬を持ち上げようとした……その瞬間。
どくんっ、と。
心臓が早鐘のように……いや、以前のあった時の比ではない程に激しくまるで大砲の弾が止め処なく発射され続けているかのように大きく脈打った。
どくんどくんどくんと、今にも胸を突き破って外に飛び出しそうな鼓動に合わせ全身の血が燃えるように熱く、急速に体を駆け巡り、肺がただ呼吸しているだけでは足りないと、呼吸を起こさんばかりに荒く空気を求めてくる。
「が、ぅ………こ、……れ……っ!?」
「あぁ、やっぱりか……この間みたいにちょっと吸っただけじゃなかったからね。多分……こうなるんじゃないかと思ってたんだよ。ようはこの間の出来事と同じで、君の中に入ったボクの血が君を治すのと同時に……色々と影響を与えているってことなんだけど。命に関わりはないはずだけど、大丈夫……ではないよね、やっぱり」
心配するフィーにあなたは何か言葉を返そうとするが、体に起こり続ける変化の衝撃に、意味のある言葉を返す事も出来ずただ荒い息を繰り返す。
体の至る所に刺激があるものの、特に体の一部……以前も激しく反応してしまっていたあなたの下半身は、ぎちりと血が巡りそれだけで弾けそうな程に痛みすら感じる程硬く反応してしまっていた。
「……前の時は、君の心遣いへのお礼って意味もあったけど。今回は前回以上に君は大変な事になってるし、ボクも……本当に助けて貰って、すごく恩を感じているんだよ?……だから、今日はね。ボク、君の苦しみの責任をちゃんと取ってあげたいな。お礼とか、ボクの楽しみとか……そういうのは関係なく、君が落ち着いてスッキリするまで何度でも、何回だって……ね?」
フィーが言いながら、彼女のドレスの胸元に手を伸ばした。
ぱちりと、胸元の止め具を外すとそれだけで彼女が纏っていた薄くも柔らかそうな布地が白い肌の上を滑り落ちていく。
「……苦しいだろう?ボクから見て、君は優しく……うん、優し過ぎるくらいに見えるからね。だから、変な遠慮とかしないで貰えるように最初に言っておくけど。君の体の苦しさが、熱が……全部無くなるまでボクを貪る事を止めないで欲しいんだ」
「ボクなら大丈夫、前の時で分かったろう? 吸血鬼の体は、人間の君が考えるよりとっても丈夫なんだ……どれだけ激しくしてくれたって、全然構わないし……気持ちよくなれるから、ね?」
あなたの胸の上でまたがるようにしながら、生まれたままの滑らかな白磁の肌と、その上の可愛い小さな胸を見せつけるようにして、フィーは甘く……蕩けるような艶やかな笑みを浮かべて、あなたを優しく見おろした。
「ボクから、君への感謝とお礼だ。吸血鬼であるボクを、人間である君が……容赦なく、強引に、欲情の限りを尽くして……貪って、おくれ?」