口づけは夜明けの前に~首筋で、吸血鬼はくすりと笑う~ 作:路亜
あなたとフィーはベッドに倒れ込むように横になり、疲れ果てた体がシーツに沈んだ。
延々と交わり続けた二人の体は汗と体液でべとつき、濡れた音が微かに響く。
部屋には淫靡な熱と二人の吐息が漂い、激しい情事の余韻が残っている。
「すぅ、は…………ぁーーーー……。いや、ハハハ……ちょっと、すごい事になっちゃったね、これは……? ギリギリまでボクの血が混ざったからとはいえ……ねぇ?」
フィーは息を整えながら笑い、あなたに視線を向けた。
彼女の声には疲労と満足感が混じり、あなたとの激しい行為を振り返るような響きがある。
フィーが自分の髪に手を伸ばすと、指先に絡みついた体液がべとりと音を立てた。
彼女の白い肌にあなたの精液と彼女自身の愛液が混ざり合い、髪が重く濡れている。
「ほら、見てよこれ? 君の体液なんだか、ボクの体液なんだか分からないけど。髪はべっとりして、肌に張り付いて仕方ないし……」
フィーは自分の髪をあなたに見せつけ、軽く笑いながらその状態を確かめた。
彼女の指が体液で光り、あなたとの交わりの証が彼女の全身に刻まれている。
フィーがあなたに近づき、ベッドの上で体を寄せた。
彼女の冷たい肌があなたの熱に触れ、二人の距離が再び縮まる。
「ほら、お臍の下も見てみてよ? ぷくってしてる。君のをずっと注がれて……子供なんか産んだ事ないのに、なんだか本当に妊婦になったみたいだ。本当に、思いっきりヤってくれたみたいだね……君? ふふ……くすくす♥」
フィーは自分の下腹部を指で軽く押さえ、あなたにその膨らみを見せつけた。
彼女の声に妖しい喜びが滲み、あなたの精液で満たされた感覚を愛おしむように笑う。
「って、あぁ……気にしないでいいんだからね? ボクがこうしてくれって言ったんだし……むしろ、君がこれで落ち着いてスッキリしてくれたなら本望だからさ♥ ははは♥ ……でも、こんなんになっちゃうのは流石に産まれて初めてだよ……ふふふ♥」
フィーはあなたを安心させるように言葉を続け、あなたの肩に軽く触れた。
彼女の笑顔にはあなたへの感謝と、少しの照れが混じっていた。
「はぁー……ともあれ、とりあえずこれで君は安心だ。今は疲れてるだろうけど、明日には……ちゃんと人間として元の社会に戻れるはずだよ。……今回は、巻き込んでしまって本当にごめんね」
フィーの声が少し沈み、あなたへの謝罪を込めて目を伏せた。
彼女の瞳に一瞬の寂しさが浮かび、あなたとの別れを予感させる。
「でも、これで良く分かったろう? 普通の人間は……ボクみたいなのに関わるのは良くないって……。だから、もう……2度とボクと会おうとなんてしちゃダメだよ? ……ボクも、念のため路地裏辺りから別の場所に引っ越すからさ……いいね?」
フィーはあなたに釘を刺すように言い、視線を逸らした。
彼女の言葉にはあなたを守りたいという思いと、自分を遠ざけようとする決意が混在している。
あなたの手がフィーの細い手に伸び、彼女の指をそっと握った。
彼女の冷たい手があなたの熱に温められ、彼女の体が一瞬固まる。
「……この手はなんだい、なんでボクの手を握るかな? ……君、こんな目に合ってもまだ懲りないつもりなのかい?! バカッ! 次はそれこそ吸血鬼になっちゃうか……本当に死ぬかもしれないんだぞ!」
フィーは驚きと怒りを込めてあなたを叱り、あなたの手を振り払おうとした。
だが、彼女の声にはどこか切なさが滲み、あなたへの心配が隠しきれていない。
「人間が生意気を言ってないで、一時の夢に変な拘りを見せてないで、さっさと忘れなさいっ!」
フィーは強い口調であなたを諭し、目を逸らして感情を抑えようとした。
彼女の言葉にあなたへの思いやりと、別れを決意した覚悟が混じる。
あなたが再びフィーの手を握り、今度は少し強く力を込めた。
彼女の手があなたの熱に包まれ、彼女の抵抗が一瞬弱まる。
「……だから、手を握るなって、言ってるじゃないか。……懲りない、人間だな……君は。…………ダメだぞ、本当にダメだ。人間の命は1つだろう、大事にしなさいっ。……吸血鬼になってしまった後じゃ、それがどれだけ素晴らしいものだったか理解しても遅いんだからね?」
フィーはあなたの手を振りほどこうとしながらも、声が震えた。
彼女の瞳にあなたへの愛おしさと葛藤が浮かび、言葉とは裏腹に心が揺れている。
「……そんな顔してもダメ、ダメったらダメだ! そりゃ、もう大丈夫だとは思うけど念のためしばらくは君の経過を見ておきたいとかはあるけど、……ダメだ、ダメだったら!そんなの、ハンター達が勝手にやってくれるだろうし……別に、ボクが直接する必要のない事なんだし。」
フィーはあなたの表情に動揺しながら、必死に自分を納得させようとした。
彼女の声に迷いとあなたへの未練が混じり、言葉が空回りする。
あなたが一歩近づき、フィーを強く抱きしめた。
彼女の体があなたの腕に包まれ、冷たい肌があなたの熱に触れる。
フィーは抵抗せず、あなたの腕の中で小さく息を吐いた。
「……抱きしめるんじゃない、このバカモノが。……君は、本当にボクの言う事を聞かない奴だなぁ。あんまり、そうやって無防備にボクに近づくと……本気で噛んで、眷属にしちゃうぞ? まったく……まったく、困った……奴だよ、君って人間は」
フィーはあなたの胸に顔を埋めながら、呆れたように呟いた。
彼女の声に怒りと愛情が混じり、あなたへの想いが抑えきれなくなる。
「……ちゅっ……ん、ぅっ。今日は、キスで我慢って言ったからね……頼まれても噛んでなんかあげないよ」
フィーがあなたの唇に軽くキスをし、冷たい唇があなたの熱に触れた。
彼女の舌が一瞬あなたの唇を舐め、あなたとの繋がりを惜しむように離れる。
「……んっ、ちゅぅ……ちゅっ、くちゅ……ちゅぅ……んんぅっ♥ ぷはっ……寂しん坊め♥ これ以上せがんでもダメ! もう寝なさい!」
フィーがあなたの唇を激しく貪り、濡れた音を立ててキスを繰り返した。
彼女の声に甘さと厳しさが混じり、あなたを眠りに誘う決意を示す。
「ボクの目を見て、……そう、そのままじっと見つめる。……そうすれば、ゆっくり……ゆっくり眠くなるから。起きたら君は元の日常に戻る……そうしたら、そうしたら……………」
フィーがあなたの目をじっと見つめ、吸血鬼らしい妖しい力があなたの意識を包んだ。
彼女の声が優しく響き、あなたを眠りへと導く。
とろん……と。
あなたの視界がぼやけ、フィーの声が遠くに聞こえ始めた。
彼女の瞳があなたを包み込み、意識がゆっくりと闇に溶けていく。
「……また、会おう。ボクのために体を張ってくれた、大好きな人間の……くん♥ ちゅ……っ♥」
フィーの最後の囁きがあなたの耳に届き、彼女の唇があなたの額に触れた。
あなたの意識が完全に眠りに落ち、彼女の声と温もりが夢の中へと消えていく。
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フィーの瞳を見て、ゆっくりと意識が遠のかせていったあなたが再び目を覚ますと、
やはりそこはすでにあの洋室ではなく……路地裏の手前で、ぼうっと立っている所であった。
路地裏にまた入れば会えるのではと、それから数日何度か足を向けては見たものの、残念ながらあの金の髪も、赤い瞳にも……その残り香すら感じられぬ薄暗い路地裏が出迎えるのみであった。
今は癒えてしまったあの日のずっしりとした疲労感の感覚だけが、あの日あった事が現実であったという頼りない縁のようであり……それも日に日に本当だったのかと曖昧になっていってしまっていた。
「……またって、言ってくれたのにな」
意識を失う前、確かに聞いたと思った少女の微かな囁き思い返しながら……あなたは夢から現実に覚める作業とでも言うように、今日も会社へと向かうべく足を進ませる。
それは、これまでのつまらないと感じていた日常が体の中にぶり返していき、あの非日常を塗り直してしまうような……酷く辛く、切なく、胸を掻き毟りたくなる気持ちにさせるものであった。
「夢から覚める時っていうのは、そんなものなのかな……」
未だ収まらない胸の焦燥を吐き出すように、一つ大きなため息をつきあなたは出勤のための駅へと向かうべく、十字路を右に曲がる。
駅までは歩いて徒歩10分程、何時もならば少々憂鬱な気持ちを抱えながら歩いていくその道に……。
朝の風が金色の小さな影をその流れにまとわせて、ふわりと……はためいたのにあなたは気付いた。
「ふわぁ……、朝日は眩しいし、陽の光はチクチクするし……朝はやっぱり苦手だなぁ。……ふふ、人間はやっぱり大変だね? こんな中を毎日毎日、仕事に精を出すなんてのは頭が下がる思いさ、本当にね」
その小さな影は、今は自分の時間ではないとばかりに眠そうに赤い瞳をゴシゴシと擦り、あなたと目が合った事に気付くと、くすりと……小さく悪戯っ気のある笑みを浮かべた。
夢だと思おうとしていた相手が、当たり前の顔をして自分の目の前にいる事に混乱し、驚き、思わず足を止めて固まってしまうあなた。
そんな様子を面白がるようにして、少女はまた……くすりと笑った。
「ハハハ……君の経過観察をしないとって、言ったろ? ハンター達との後処理やらでちょっと時間が掛かっちゃったけど……まぁ、結局。君に血を注いだボクが……責任を持って、ちゃんと観察すべきという事で話がついたから、引越しがてらこの近くに……ね? ふふ、急な引越しで色々やってたら、吸血鬼なのにこんな時間に表へ出る無様を晒してしまっているけど、ご愛嬌って事にしておくれよ?」
何処か楽しそうに、金色の髪を持った少女がはっきりとあなたに笑いかけ続けてくれている。
確かに目の前にいるはずなのに……一瞬でも目を瞑ってしまえば、白昼夢のように跡形もなく消えてしまうような気がして、何も言えなくなってしまったあなたに……少女が赤い瞳を優しく細めながら一歩近づいた。
それから、そっとその小さく白い腕を伸ばし……以前、あなたが彼女に噛まれたはずの首筋を優しく……撫でた。
「……また、って言っちゃったからね。ボクは約束を守る系の吸血鬼なんだよ? そりゃ心配は多いけど、そこは……うん、ボクが頑張ってどうにかすると決めたよ。だから……君が大丈夫と安心出来るまで、ちゃんと近くで様子を見ててあげる」
「引越し先も、君の住んでる所からかなり近所のはずだから……君も頑張って仕事終えたら、今日の夜にでもまた遊びに来たらいいよ。ボクは、何時でも……歓迎するからさ♥」
少女……フィーに慈しむように言葉をかけられ、首筋を撫でられていると。
あなたもようやくこれが現実だと実感が湧いてきて……笑みが浮かび、大きく首を一つ縦に振るのであった。
「ふふ! うん……よろしいっ♥ じゃあこれから、よろしくね? ご近所の……“ボクの人間くん”? ふふふっ♥」
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