ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
ふと気がつくと、俺は知らない街にいた。
手にはコンビニで購入したと思われるおにぎりと飲み物が入ったビニール袋。そして街中の交差点で信号待ちをしながらぼーっと突っ立っていた。
「……ん?」
何が起こった?
あたりを見回す。
普通のごく一般的な日本の街中の光景だ。
時刻は夕方ごろ。俺と同じようにまばらに人が信号待ちをして立っており、近くにいたサラリーマンらしき男性が俺を見て不審そうに眉を顰める。
それだけ。
この街中の景色に見覚えがないという一点を除き、普通の景色である。
俺は視線を下げ、自分の服装を見る。
普段から使っているのか、所々擦り切れた箇所のあるジャージだ。これもまた自分の私服ではなく、見たことの無いもの……いや、なんか見覚えがあるな。
黒い生地に白のストライプ、まあよく見るデザインではあるが、アクセントの緑色のロゴは何故か俺の記憶に引っかかるような。
「あ」
思い出した。
歩行者信号が青へと切り替わり、俺は自身の頭に閃いた突拍子もない考えを確かめる為、信号を渡る事にした。
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俺は自宅に帰っていた。
いや、正確に言うなら、この身体の自宅と思しき場所へと帰っていた。
そして俺の知識通りの場所にこの家があった事で、俺は俺の仮説が正しかった事を知る。
「ここ、ゲームの中だ」
それも、俺が意識を取り戻す直前までプレイしていたもの、「ようこそ実力至上主義の教室へ」のゲームの中だ。
そう考えた理由は、他ならぬ俺自身の現状にある。
俺が今借りている1LDKの自宅、その自室の姿見の前に立つ。
そこに立っているのは中肉中背の黒髪の男だ。顔は悪くはないーーというより、かなり整っていると言っていい。ただ、顔立ちは男らしい訳ではなく中性的で、化粧をして服装を整えれば人目を惹く美人と化すだろう。そして更に、飾り紐で縛った肩までかかる長い黒髪、ゴテゴテとした大きな金属製の両耳のピアスと、見た目は不良気味で割とインパクトがある。事実、俺は素行が悪く、学校にもあまり真面目に通わずに夜は遊び歩くといった生活を送っていた。
そしてこれは、まさに俺自身が自分のプレイヤーキャラクターとしてデザインしたものだった。
加えて言うと、自宅に帰って書類で確認した俺の名前は斉藤 景。これもまた俺が適当につけたプレイヤーネームであり、そしてこの自宅と状況もまた俺の設定した状態のまんまであった。
そうして改めて認識すると、俺の頭の中に漠然と自身の生い立ちや経験が浮かび上がってくる。そこで確認した自分の状態も記憶通りだ。
正真正銘、俺は俺が動かしていたゲーム内主人公そのものらしい。
カレンダーを確認する。
今は俺が中学3年の3月。つまり、もう僅かで俺は高校生となり、あの実力至上主義の教室ーー東京都高度育成高等学校へ入学するという事だ。
俺のキャラ調整がそのままであるなら、一芸枠としてDクラスへ編入される筈だ。
このキャラは、学業成績は良く運動神経も高い。スペックのみなら安定してBクラス行きだが、これまでの素行不良とそこから得たとある特技ーースリを始めとした手癖の悪さから、CクラスのみならずDクラスへと編入される。そのようにキャラクターを調整した。
普通にAクラス目指してプレイする分には特に得にもならない調整だが、そうした事には理由がある。それは、今回のプレイのコンセプトの問題だ。
「うーん、大変問題だ」
俺はツルツルとした顎をさすりながらぼやく。
そう、まさにそこが大変問題であった。
今俺が明らかに現実とは思えない「ゲームの中にいる」という状況、これは俺自身の様子から認めざるを得ないとしてーーその入っているゲームの状態は、一体どういう状態なのか。それが大問題だ。
この「ようこそ実力至上主義の教室へ」のゲーム、非常に作り込みが精妙でキャラクターに搭載された高性能AIによる自由度があまりにも高く、ストーリーの分岐も豊富である。それは、やり込んだゲーマーであっても、大筋のストーリーはともかく、周回のたびにどうしても各キャラとの関係や自分のキャラのステータス等が同じようにはならないという程だ。
そしてそうした作り込みは、有志によるMOD導入にも対応してみせた。
キャラのステータスをバグらせる、本来は選べない出生の設定をするなど、様々な遊び方をMODによって実現させーーそれに対してすらキャラクター達は当然のようにきちんとそれらの変化を認識した上で対応してみせたのである。
それは、学校に存在する各生徒達の出生から高校入学に至るまでの経歴、そしてその間の出来事や性格・心情含めた設定が丹念に設定されていたからこそ成せる技だった。
素晴らしい原作愛。
そしてその愛に応えるかの如く、やがて現れたのが「エロMOD」の波である。
それはもう、様々なパターンのエロMODが出現した。そして、にも関わらず大体のMODに対して、キャラクター達はある程度それらを認識し対応してみせたのである。流石にボイスは無かったが、レイプした際にもキャラ毎に怯えたり刃向かったり脅し返してきたり。また変わり種として、透明人間MODを導入した際に、何度かセクハラやレイプをすると、何故か透明人間がいるんじゃないかとキャラ同士で推測し合い、鍵の管理の徹底や女子生徒は常に複数で行動するなどの対応を始めたのは驚いた。
とにかく、大体なんでも無理なくプレイ出来たのだ。
今回俺は、そんなMOD群の中から厳選したものを複数実装し、プレイしようとしていた。そんな矢先に、俺自身がゲームの中に出現してしまったという訳だ。
さて、このゲームは正規品版なのか、それともーーMOD導入後の状態なのか。
「……ま、入学してみればわかるか」
うん、と頷いた。
どっちにせよ、今の状況が意味不明である以上、取り敢えず場の流れに任せてみるしかない。
なんでゲームの中にいるのかとか、元に戻れるのかとか、それを調べながら適当に過ごしてみよう。