※この作品はR-18です。

ようこそエロMODが導入された教室へ   作:さんかく

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 俺は基本的に、何かをやるなら石橋を何度かは叩いておきたい派だ。そして確証が得られたら、折角なら大きな足音を立てて楽しんで渡りたい。

 例えば、こんなふうに。

 

 

 「あー最悪。ほんっと、最悪最悪最悪。堀北ウザい堀北ウザい、ほんっとウザいっ」

 

 屋上。そこにいる一人の少女。

 明るい茶髪に男好きのする甘い顔立ちが、夕立ちによく映えている。

 言わずと知れたクラスを越えた人気者――櫛田桔梗だ。

 

 そんな彼女が、怒りを剥き出しにして屋上の扉を蹴っていた。

 

 ガンッ――という金属の響きが屋上に広がる。

 少々力が籠ってしまったのか、櫛田はピクリと身を固めた。途絶えた音の中、沈黙が一層濃くなる。

 

 そこで、俺はわざと少しだけ音を立てて右足を踏み鳴らした。

 

 パタ。

 

 ――バッ、と。

 櫛田が勢いよく振り返った。

 視線がぶつかる。

 

 櫛田の目が見開かれ、瞳が僅かに揺れる。何かを言いかけて口を開き、しかしすぐに閉じて舌打ちをした。

 

 「斉藤くん」

 「なに?」

 

 白々しく返す俺に、櫛田は冷ややかに言った。

 

 「……聞いた?」

 「聞けるだけは聞いた」

 

 そう返すと、彼女は目を伏せ、一つ深いため息をついた。

 そしてつかつかと近づいてきて、そのまま俺の身体を壁に押し付けた。

 

 壁ドンだ。

 視線が近い。

 何か言おうとする櫛田に、俺は先に言葉を重ねた。

 

 「まあ、変わりなくて何よりだな。久しぶり、櫛田」

 

 その一言に、櫛田の視線がさらに鋭くなる。

 熱を持った目が俺を射抜く。

 もし視線に温度があるなら、今頃俺の網膜は焼けて穴が開いているだろう。

 

 「黙れ。……話したら容赦しないから」

 「別にいいけど、俺が話さないって信頼できるか? 人の口の軽さは、よく知ってるだろ?」

 

 櫛田の口元が僅かに歪む。

 そして、感情が見えない能面のような表情で言った。

 

 「アンタなんか信頼するわけないでしょ」

 

 そう言って、俺の腕を掴み、自分の胸へ押し付けた。むぎゅ、と胸の柔らかな感触が俺の手のひらに広がる。

 手のひらを擦り付けながら、彼女は吐き捨てるように言う。

 

 「もし誰かに話したら、アンタにレイプされそうになったって言うわ」

 「そんな事してない」

 「分かってないの? 私の服にはアンタの指紋がべったり付いてる。証拠があるの」

 「脅迫か? そんな事言われたら、俺は退学してしまう」

 「脅迫よ。アンタがちょっとでも怪しい動きを見せたら、すぐ警察にこの服と一緒に突き出してやる」

 

 手を服に密着させたまま、櫛田は俺を睨みつける。その目には、容赦も情も感じられない。

 俺は目を伏せ、ため息をついて言う。

 

 「分かった」

 「本当に分かったの? 私は本気よ」

 「本当だよ。退学を盾に脅されたんじゃ抵抗できないだろ。……むしろお前こそ、俺が何も言わなければ誰にも訴えるなよ」

 「アンタ次第よ」

 

 ようやく、櫛田が俺の手を放した。

 俺は腕をゆっくりと離し、わざとらしく手のひらを彼女に向けて無抵抗をアピールする。

 

 じっと俺を見つめていた櫛田は、少し間を置いて口を開いた。

 

 「……何もないの?」

 「は? 黙ってるだけじゃなくてポイントも要求するのか?」

 「違う。ただ……いや、やっぱりいい」

 

 言いかけて止め、踵を返して階段へ向かう。

 数段降りたところで、立ち止まり振り返った。

 

 「どうしたの、斉藤くん。一緒に帰ろっ」

 「うわ」

 

 振り向いた櫛田は、クラスで見せる“いつもの櫛田”だった。

 その変貌ぶりに虚を突かれた俺は、思わず声を漏らしてしまう。

 そんな俺の様子に、櫛田はすっと目を細めた。

 

 「そういう反応、良くないと思うな? 私も傷つくし……斉藤くんにとっても、よくないかも?」

 「あー……はいはい」

 「分かってくれればいいんだよ?」

 

 櫛田は満足げに笑う。

 俺は肩をすくめ、無言で後に続く。

 櫛田は確認するように一度振り返ってから、再び階段を下り始めた。

 

ーーその瞬間、俺は彼女の制服の襟に手を伸ばした。するりと指先が襟の裏に滑り込み、小さな黒い物体――盗聴器を引っ掛けて固定する。

 そして一瞬のうちに腕を戻した。

 

 (よし)

 

 何も気づかぬ櫛田が、上半身だけこちらに向けて話しかけてきた。

 

 「そうだ。デートの話、まだだったね」

 「終わってなかったのか、それ」

 「当たり前だよ。だって、斉藤くんとは仲良くしたいもん」

 「今でも?」

 「今でも、だよ」

 

 櫛田は楽しげに笑いながら階段を降りていく。

 やがて二階の踊り場にたどり着き、振り返らずに言葉を続ける。

 

 「言っておくけど、斉藤くんのことなんて大っ嫌いだよ」

 「へぇ」

 「中学の頃は学校のことなんてあれだけ下らなそうにしてたのに、急に様子を変えたりして意味わかんないし」

 

 かん、かん、と軽やかに階段を降りながら、彼女はさらに続けた。

 

 「知ってる? 斉藤くん、クラスの女子から意外と人気なんだよ。顔がかっこいい、寡黙でミステリアスでいいんだって。笑っちゃうよね。ただ社会不適合で根暗なだけでしょ」

 

 その一言に、俺は思わず吹き出しそうになった。

 この世界に自意識が芽生えてから、俺という存在の核心に最も近付いた言葉だ。

 

 (……的確だな)

 

 ニヤニヤしそうになる口元を押さえながら、俺は一階にたどり着いた。

 地面に足がついた瞬間、櫛田がふわりと振り返る。亜麻色のショートカットの髪が夕陽の光にたなびき、その隙間から鋭い眼光がのぞく。

 

 「でも、今は少し斉藤くんのこと好きになれそうかも」

 「嬉しいな」

 「うんっ。だから、また嫌いにならないよう頑張ってね」

 

 櫛田は微笑みながらそう言った。

 

 

---

 

 

 部屋に戻り、まず最初にスマホを手に取る。

 メッセージアプリを開くと、いくつかの通知が並んでいた。

 明日以降のサービス依頼。それ自体は珍しいことではない。だがその中に、一通の個人宛てメールが混じっているのを見つけた。

 

 差出人は、先輩だ。

 開くと、短い文章と一つのファイルが添付されていた。

 

 ――カメラを指示された場所に設置し、一部始終を記録したこと。

 ――そして、その映像データを添付したこと。

 ――距離の関係で音声はほとんど入っていないこと。

 

 そして文末に、少しだけ含みのある一言が添えられていた。

 

 「……一年生だったんですね」

 

 俺は軽く笑ってから、返信を打つ。

 協力への感謝。そして、カメラは次の指示があるまで保持しておくよう伝えた。

 

 その後、添付されたビデオファイルを再生する。

 

 映し出されるのは、学校の屋上。

 初めの十数分は風が吹き抜ける無人の風景が続く。

 そして、扉を押し開いて一人の女子生徒が現れた。

 

 櫛田桔梗。

 

 画面越しでも分かる不機嫌な動き。

 何かを叫びながら、勢いよく扉を蹴る様子がしっかりと映る。

 

 続けて、階段を上がってきた俺が登場し、鉢合わせ。

 

 それからは俺が実際に体験した通りの展開だ。

 壁ドン。

 少し俺の体が櫛田に隠れて見えにくくなったが、体勢をずらしたおかげで内容がしっかり確認できるようになった。

 そして――櫛田が俺の手を取って、自分の胸に押し当てる瞬間が映る。

 

 櫛田の顔は画面には映らないが、その動作は明確だった。こうして見ると、まるで痴女だ。

 

 その後彼女が何かを話し、そして二人で階段を降りる様子が記録される。

 

 ……だが、そこでは終わらなかった。

 

 しばらくして、画面の奥からもう一人の女子生徒が姿を現す。カメラに向かって近づいてきて――そして、映像はそこで途切れた。

 

 全てが映っていた。

 間違いなく、“一部始終”だ。

 

 俺はふっと息を吐いて、上着の内ポケットに手を入れる。

 取り出したのは小型のボイスレコーダー。再生ボタンを押すと、あの屋上での櫛田の声が流れる。

 

 『……アンタにレイプされそうになったって言うわ』

 『脅迫よ。アンタがちょっとでも怪しい動きを見せたら……』

 

 声、言葉、脅しの意図。全てが詰まっている。

 

 完璧だ。

 映像と音声、二重の証拠。

 これがあれば、いつでも櫛田を“制御”できる。

 

 あとは、そのキッカケだ。

 

 俺は新たにメールを一通作成する。

 宛先は龍園だ。

 

 これから起こす暴力事件の為、須藤を怒らせるに至る小さな情報を一つだけ提供する。

 

 引き金となる一言。長々と説明する必要はない。あいつなら、それだけで情報の価値を理解し、即座に動くだろう。

 

 メールを送信し終え、スマホをベッド横の棚に放り投げる。

 

 「……ふう」

 

 深く息を吐き、ベッドに身体を沈める。

 

 今日は色々とあった。

 櫛田との屋上での一件、勉強会での騒ぎ、そして今仕掛けた布石。一つでも割と重いのに、それが全部一日に重なったのだ。過労である。

 

 まぶたを閉じると、すぐに意識が薄れていくのが分かった。

 俺はそのまま、静かに眠りに落ちることにした。

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