ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
1日が終わり、夜。
自宅で寛いでいた時、ブー、とスマホに通知がきた。
いつも通り俺の"仕事用"のメールアドレスーーではなく、櫛田に教えた方のメアドだ。
そしてやはり、櫛田からのメールだった。
内容は……なるほど。
色々と言い訳じみたことが書いてあるがーー要約すると、「取引には応じたい。だが現在ポイントが足りていない為、代替手段がないか聞きたい」
という感じ。
うーん。代替手段ね。
あるよ。
ぽちぽち、とメールを作成し返信する。
『ポイントは分割払いでも構わない。ただし、残っている額は次の月は1.5倍にして返してもらう。または、ある簡単な仕事にあなたが参加してくれるなら20万ポイントはチャラでもいい』
こんなもんかな。
じゃ、明日あいつらの様子を見よう。
そして次の日。
の、放課後。
教室を出ようとした俺の肩を、平田が静かに叩いた。
「斉藤くん、ちょっといいかな」
「………また悲報?」
「残念ながら、そうだね。その事で、前みたいにまた相談したいんだ」
「お願い出来ないかな」と、平田が申し訳なさそうな顔で頼んでくる。そんなふうに真っ直ぐな目で言われたら、流石に断るのも可哀想だ。
平田に連れられ、まだ人が残る教室を出てーー着いた先は校舎の空き教室だった。
中にいたのは、堀北と櫛田ーー一之瀬もいた。
前と近い面子だなと思っていたところ、隣の平田が驚いたように一之瀬に声をかける。
「一之瀬さんも来てくれていたんだね」
「うん、どうするのか気になって……他のクラスなのに何度もお邪魔してごめんね」
「いいや、逆だよ。他のクラスなのにこんなに助けてもらって……ありがとう」
平田と一之瀬が友情を育んでいる。
美しい、クラスを超えた友情だ。
適当な机に腰掛けた俺に、櫛田が近寄って話しかけてきた。
「斉藤くん、来てくれてありがとう。実はね……あの取引なんだけど、受けようと思うの」
「ああ、あの20万ポイントのやつ?まじ?」
「うん。……他に、解決策が見当たらなくて…。それに20万ポイントは……払えなくは、ないから」
「あー……来月からの配布ね」
眉を寄せてたどたどしく言う櫛田に、俺はわざとらしく思い出したように言ってみせる。
「でも、先にこっちの期日が来るでしょ。そしたらクラスポイントの方も0だぞ」
俺の指摘に櫛田は頷く。
「そうだね。だから昨日、分割とか出来ないか聞いてみたんだけど……」
櫛田は自分のスマホの画面を俺に向ける。
それはとあるメールが開かれたものでありーー昨日俺自身が送ったものだ。
「ふーん……元からだけど、滅茶苦茶足元見られてるな」
「そうだね……酷いよ……」
流石の櫛田も、このメールには多少苛ついているらしい。いや、素の櫛田は普通にかなりキレていそうだ。
まあ、こっちの事を舐め腐った内容だからな。20万だの残った分は1.5倍だの。そして何より最後の条件。俺の"仕事用"のメアドに辿り着いた事からして、それが碌でもない事は馬鹿でも察せられる。それは、それに参加するのを櫛田と限定している事からも明らかだ。
「この"簡単な仕事"ってなんだろうな」
「っそれは……」
敢えて櫛田に問いかけてみる。
櫛田は思わずというように俺をキッと睨みつける。そして文句でも言おうとしたのか、口を開きかけーー
「2人とも、ちょっといいかな」
「っうん、何かな?」
平田から呼びかけられた事で、"素"の気配を霧散させた。櫛田は平田に向き直りーーしかし次に口を開いたのは堀北だった。
周囲の空気を一旦落ち着かせるように小さく息を吐いた後、顔を上げてハッキリと言う。
「提案があるわ。この取引についてよ」
その一言で、場に再び静かな緊張が走る。平田は既に聞いているのか表情を変えずに静かに続きを待ち、櫛田は不安そうに堀北を見つめた。
「内容は法外で、足元を見られている。だから、最初は受けるのは有り得ないと思っていたわ。ただ……事件の解決が20万ポイント以上の価値がある事が分かった今となっては、合理的に考えれば……他に手がない以上、私は“受けるべき”だと考えるわ」
静かに、けれど芯のある言葉だった。
しかしそこへ、櫛田が静かに疑問を呈する。
「でも、ポイントはどうすればいいのかな?クラスの皆にちょっとずつ貰うのは……」
「それは最終手段ね。確かにそれでポイントは貯まるわ、ただ……このような取引に応じたとクラスに広めるのは、今後の為にはならないもの」
「そうだね。話を聞いた他のクラスが、今後似たような取引を持ち掛けてこないとは言えないし……それに、このタイミングでそんな提案をするのは……難しいね」
そうだな。
来月振り込まれるのは、1人あたり9400プライベートポイント。これをクラス全員分に換算すると、37万6千ポイントになる。仮に全て来月に支払ったとして、35万ポイントで完済だ。
だから払える、払えるがーーそんな強引な徴収をしたら、たとえ暴力事件は須藤の勝訴で終了しても、クラスメイトから須藤への反感はかなり根強いものになるだろうな。
「じゃ、どうすんの?」
「そこよ。昼に須藤君とも話し合ったのだけれど、彼の出せる限界のポイントと、私たちが出せる限界のポイント。全て合わせておよそ10万ポイントになるわ。どうしても……足りないの」
そこで堀北は話を止める。
彼女なりに策はあるのか、何かを言おうとするがーーそれより前に、一之瀬が「ちょっといいかな」と口を挟んだ。
「実はその事で、一つ提案があるんだ」
「……なにかしら」
堀北の問いに、一之瀬は頷いて答える。
「取引については、私も受けるべきだと思う。その後についても同じ意見かな。今ーー私はもう聞いちゃったけど、他のクラスにもこの取引については知らせない方がいいだろうし…」
「だから」と一之瀬は続ける。
「残りの10万ポイントを、私から……Bクラスから貸し出すっていうのはどうかな」
「そんな事、可能なの?」
突然の救いの手。
しかし、堀北はむしろ訝しむように返す。一之瀬はそれに頷いた。
「うん。実は……クラスの為の資金を、一時的に預からせてもらってるんだ。だから、クラスの他の子には言わないまま、10万ポイントを渡す事は出来るよ」
「……それは、大丈夫なのかい?」
平田が少し焦ったように聞く。
一之瀬はそれに苦笑いを浮かべ、うーんと首を僅かに傾けた。
「……正直、クラスに対して不義理な行為だとは思う。でも、Dクラスの状況は放っておけないし……」
そして「ごめんね?」と前置きをして話を続ける。
「実はもう神崎くんには事情を説明して、2人で『それでも貸した方がいい』って結論になったんだ。だから……大丈夫だよ」
「いや駄目でしょ」
一之瀬に被せるように俺が口を挟んだ。
皆の視線が俺に集まる。だがそのまま一之瀬に言う。
「クラスの資金をアンタだけで管理してんの?総額の話とかになったらどうするつもり?まあ、俺が言うのもなんだけど、俺らが10万ポイント返すのなんて何ヶ月先になるか分からないぞ」
「それは……私個人の支出として誤魔化すしかないね」
「10万ポイントが個人の支出?そっちのクラスポイントからしたら無くはないだろうけどさ、ちょっと無理がない?」
「うーん……無理はあるかも」
一之瀬も目を瞑って頷く。
そうだよな、無理がある。だからーー
「だから、残りの10万ポイントは俺が出すよ」
「……え?」
誰かの疑問の声が漏れる。
変な言葉を聞いた、というように場が静まった。ややあって、平田が俺に窺うように聞いてくる。
「斉藤君は……それでいいの?」
「というより……どうしてそんなにポイントを持っているのかしら」
「ん?バイト」
バイトです。
当然堀北はそんな回答はただの誤魔化しだと思ったようで、何も言わずに口を噤む。
堀北はーーというより全員が、俺の発言に困惑しているようだ。
俺は皆の顔を見回し、面倒臭そうに言う。
「何でもいいでしょ。悩む時間ないじゃん、あと2日で裁判だぞ。映像の精査もしないといけないんだし、今日中に貰っとかないと間に合わなくない?」
「それはそうなんだけど……」
「……斉藤くん、大丈夫なの?ポイント……」
「大丈夫。俺山菜好きだし」
「いや、でも……」
俺の適当な発言に、一之瀬は困惑した様子で口籠る。突然の流れにどうすればいいか分からなくなっているようだ。
「櫛田」
「っな、なにかな?」
「スマホ」
ポイントの送信画面を見せ、櫛田にスマホを要求する。櫛田は戸惑いつつ、これでよいのかと迷う様子を見せながら、流されるまま俺にスマホを差し出した。
そこへ、一方的に10万ポイントを送金する。スマホをポケットに仕舞いながら、平田と堀北に顔を向ける。
「じゃ、残りはよろしく」
静まり返る室内。
少しの沈黙の後、先に動いたのは平田だった。
「……わかった。僕も送るよ」
そう言って自分のスマホを取り出す。 続けて櫛田も、少し迷うようにしながらスマホを構えた。
ピッと電子音が鳴る。
少し間を置いて、堀北が冷静な口調で言葉を継いだ。
「……そうね。時間が無いもの。お言葉に甘えさせてもらうわ」
堀北がスマホを構える。これで、既に須藤から貰っていたポイントを加え、櫛田のスマホには――合計20万ポイントが揃ったことになる。
「……集まった、ね」
櫛田がぽつりと呟いた。
「じゃあ、送るね」
櫛田は改めて姿勢を正し、仕事用アドレスへとメールを打ち込む。
「提示された20万ポイントを送金したので、映像を提供してほしい」と。
そして俺のメアドにあるIDへ20万ポイントを送金ーー何度も入力を間違えていないか確認し、送金した。
櫛田が、息を吐きながらスマホを机に置く。
皆がその画面を覗き込み、部屋には再び静寂が訪れた。
映像が来るかどうかーー
まあ、ここに"目撃者"の俺がいるので、今返信なんて来るわけないのだが。
そんな事を知らない彼らは、静かに、僅かに震えるような緊張の中で俺からのメールを待っていた。
およそ5分くらい経っただろうか。
「……これで映像来なかったら、笑いものね」
待ちくたびれたように、堀北が皮肉気味に呟いた。
それを受けてか、平田が静かに声を掛ける。
「……まだ来そうにないし、一度解散しようか」
「そうだね。映像来たら、直ぐグループに送るね」
全員が頷き、立ち上がる。
やるべきことは終えた。彼らに残るのは、結果を待つだけだ。
俺もその流れに乗って、何も言わず席を立った。
帰るか。
廊下に出た俺は、廊下の先を歩いていく平田達から視線を逸らし、窓の外に映る空を見る。微かに夕暮れの気配を感じた。
いい色だ。
……さて。
周りを確認し、俺以外誰もいない事を確認する。
人無し、監視カメラ無し、よし。
「臨時収入、ゲットだぜ」
10万ポイント獲得。
今日は焼肉よ!