※この作品はR-18です。

ようこそエロMODが導入された教室へ   作:さんかく

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 放課後。

 僅かに橙色に染まり始めた空が窓越しに見える時間帯。

 いつもよりも早めに荷物をまとめ、俺は教室を出た。

 目的地は校門前だ。

 

 到着すると、すでに櫛田がいた。

 亜麻色のショートの美少女、クラスのアイドルの櫛田桔梗だ。

 制服のまま、軽く髪を手櫛で整えながら、俺を見つけて小さく手を振る。

 

「お待たせ。行こっか、斉藤くん」

「うい」

 

 待っていたのは櫛田の方なのだが、そんな事を欠片も気にしない様子の俺に、櫛田はにこにこと笑顔を向ける。

 更に、歩き出す櫛田の横を何も言わずについていく。その歩みに迷いはなくーーつまり俺が今日のデートプランなんて微塵も考えていない事は明白だった。

 それを悟ったのか、隣を歩く櫛田は呆れたように小さくため息をついた。

 

「斉藤くん、今日……どこに行こう、とか考えてくれてる?」

「え?なんも」

「もうっ、やっぱり何も考えてないと思ったよ。……予想通りだけどね」

 

 可愛らしく憤慨しつつ、櫛田は歩む足を止めない。

 言葉通り、俺がエスコートしてくれるなんて全く考えていなかったのだろう。既に彼女は行き先を考えているようで、何処に行こうか悩むといった素振りすら見せていない。

 

「今日はよろしく」

「…仕方ないなあ。じゃあ、私が案内してあげる」

 

 そう言って、自然に俺の一歩前へと出る。

 そこから、今日のデートが始まった。

 

 最初に向かったのは校内のショッピングモール。適当に雑貨屋を回っては、あーでもないこーでもないと軽口を交わし、そしてカフェで休憩。コーヒーと軽いデザートを注文し、食べながら合間で会話をする。

 そこからどうしようかと話し、カラオケに行った。1時間程度そこで時間を潰し、外に出てーー丁度空腹を感じる時間帯となった。

 これがデートの流れだ。

 学生らしい、実に"無難"なデートだった。

 

 俺達は互いに、クラスポイントの枯渇した貧困の民。

 使えるポイントは限られ、それは遊びにおいても例外ではない。それを踏まえた上ではむしろ多少贅沢と言ってもいいかもしれない

 だが、このデートを通じて、俺にも分かることがあった。櫛田桔梗が本気で俺とデートを楽もうとしている訳ではない、という事だ。

 目の奥に潜む計算。ルート取りと、立ち回りからそれは容易に読み取れた。

 

 俺達は一般的なデートコースを歩いてきた。当然、周囲には似たようなカップルも沢山見かけることがあった。

 そう、"似たような"。

 それはつまり、俺たちのような、一見仲良さそうで、しかしどこか温度差のある男女のペアの事だ。

 勿論普通に仲の良さそうなカップルはいるものの、しかし一定数ちらほらと目に映る、“形式的”なカップルたち。一部は笑顔を浮かべ、もう一部はどこか気まずそうな距離感を保っている。或いはその両方が、互いに興味なさそうに淡白に過ごしていた。

 その様子を、櫛田もまた観察していた。

 

 そしてーー日が暮れ、校内の噴水広場。

 人通りはまばらで、すれ違うのは帰り支度を終えたカップルか、寮に戻る生徒だけ。

 

 櫛田が、ふっとベンチに腰掛ける。

 

「……デート、楽しかった?」

「そこまで」

 

 隣から覗き込むように聞いてくる櫛田へ正直な感想を述べると、櫛田はクスッと笑って言った。

 

「だよね。あんまり楽しそうじゃなかったもん。……他にも、似たようなカップルいたよね」

「いたね」

 

 つい先程俺も考えていた、どこか歪なカップル達。その不自然さを、櫛田は指摘してきた。

 

「ねぇ、斉藤くんは、どうしてああいう人たちがいるか……知ってるよね?」

 

 その問い掛けに、俺は櫛田へ顔を向ける。

 どこか確信めいた断定口調。やはり真っ直ぐ櫛田は俺を見ていた。

 

「櫛田は?」

「ほんの少し、噂程度しか知らないかな」

 

 櫛田は小さくふるふると首を振る。

 だが、噂程度でも知っているなら大したものだ。

 

 "女を買える"という制度自体、現時点で一年生が知る手段は少ない

 この制度は本来、プロテクトの切れる3ヶ月後から始まるものだ。学校側はそう想定しており、それまでは基本的に、最初の月のポイント制度よろしく上級生には緘口令のようなものが敷かれている。また、スマホ等から申請できる諸々のアプリやそこに内蔵されるフォームも、各自で先生に要求しないとアクセスできないよう制限されている。

 

 だからーー"交際"という制度もまた、一年生は殆ど知らない筈だ

 例えば今Dクラスに存在する平田と軽井沢のカップルなども、その制度自体知ってはいないだろう。あれはただのカップルで、学校側の指定する制度上の"交際"とは異なる。

何が違うか。それはーー

 

「最初に2人で取り決めをして、それを絶対に守る上で、その2人以外からの干渉を弾けるようになる制度、だよね」

 

 櫛田が俺の目を見つめてくる。

 俺はそれに頷いた。

 

 交際した男女は、まずそれぞれの間で契約をする。

 それは曖昧なものでも構わないし、具体的に何をしたら駄目か、などを指定してもいい。だがいずれにしても、その条件をアプリの決められたフォームに記載して、"交際"の申請を学校に送る。そこから"交際"自体は始まるがーー学校から一応後に本人確認され、正式な"交際関係"となる。

 そして見事"交際"した男女ーー特に女子は、相手の男以外からの"奉仕の強制"を受け付けなくなる。いや、正確には、男は相手の女への申請を無制限に却下出来るようになる、と言うべきか。

 つまりはNTR防止だ。

 

「ーーって感じ」

「……そっか」

 

 俺の説明に、櫛田は小さく首肯する。

 やはりある程度知っていたのだろう、既知の情報を確認するような印象を受けた。

 

 この"交際"という制度、一見すると男女が他からの干渉を受けないようになる、カップルへの救済策のように見えるがーー実態は全くの別物だ。

 中には適切に運用するカップルもいるだろうが、この制度をある程度理解した者達からの、この制度への印象はむしろ真逆と言っていい。

 これはーー

 

「これって……学校の中での、合法的な“関係性の固定化”だよね」

「その通り」

 

 ふぅん、と櫛田が目を伏せ、しばらく黙る。

 俺はそのまま待つ。

 

 そしてーー櫛田は小さく呟いた。

 

「私たち……付き合わない?」

 

 来たか。

 

「突然でごめんね。でも、今日斉藤くんがあんまり楽しくなさそうだったの、ちゃんと分かってたよ。……でも、これからちゃんと付き合って、普通のカップルみたいに接していけたら……私たちも"普通のカップル"でいられると思うの」

 

 俺は首を傾げる。

 

「あんまりそういうの興味ないんだけど」

「うん、そうかもね。……でも、それなら私と付き合っても問題ないよね?」

 

 櫛田はそう言いながら、口元は笑っていても、目は笑っていない。

 静かな、けれど確実な圧力。

 

「嫌なら、別に今日みたいなデートもしなくていいよ。放っておいてくれてもいいし、面倒だったら付き合ってるって事自体隠したっていい………それに、ほんの少しだけなら……えっちな事も、してあげてもいいよ」

 

 櫛田は囁くように、俺に語り掛ける。

 俺に都合の良い言葉を、彼女が望むことのように。

 それが罠だと分かっていても、心を掴まれるような甘い言葉。

 だけどーー

 

「言葉が足りてないね」

 

 俺は静かに言った。

 

「例えば、しっかり"俺から要求する性行為を制限する"って記載して、プラトニックな交際を申請するんだろ?それで彼女面したいって言ってんだよな」

「……当然だよ」

 

 口元だけで笑う、いつもの櫛田。

 俺の確認に、間髪入れずに頷く。

 この櫛田の様子自体が、"交際"制度がほぼまともに扱われていない事の証左だった。

 

ーー"交際"している男女は、互いが契約を守る限り、"例の制度"とほぼ無縁でいられる。

 それは裏を返せば、契約に違反しない範囲なら男側は女側になんでも要求出来るし、契約にガチガチに縛られてしまえば男側は女側に何ポイント支払ったところで許可無しでは身体一つ触れられなくなるという事だ。

 

 関係性の固定化とはよく言ったものだ。

 おそらくだが、櫛田はこの"交際"の条件として、「俺から要求する性行為の禁止」、「櫛田の過去および印象を損ねる言動のリークの禁止」など、彼女にとって都合の悪い事を制限した契約を結ぼうとする筈だ。

 そうすれば、櫛田が抱える俺への不安材料はたちどころに消失する。

 そして、プロテクトだのなんだのを気にする必要も無くなる。

 一石二鳥、全てが丸く収まるのだ。

 

ーーというふうに。

 この"交際"というのは、片方が一方的に相手に優越している関係性で、理不尽な条件でも契約しないといけない状況に追い込まれて結ぶものとなる。

 そしてそれは、一度結んでしまえば双方の合意がなければ"交際関係"の解除は出来ない。つまり、その一方的に優位な関係性が固定化される。

 

 櫛田はおそらく、自身の身に待ち受ける危険への解決策を必死に調べーー俺の予想より早く、この"交際"という制度に行き着いたのだろう。

 だから今、櫛田は俺にその提案をしてきた。

 俺が彼女をレイプしようとしたという証拠ーー服に付いた指紋が効果を持つ、今に。

 

 だがその笑みは、次の瞬間、音を立てて崩れた。

 

 俺は櫛田へ、徐にスマホの画面を見せる。

 そしてその画面の再生ボタンを押しーー訝しむように、しかし余裕を持って覗き込んでいた櫛田の顔が驚愕に歪んだ。

 

「……なに、これ」

 

 俺が差し出したスマホの画面ーーそこには屋上での、あの時の映像が流れていた。

 

 呆然と、櫛田は画面を凝視する。

 現実を受け入れられないように暫くフリーズしていたがーー映像が終了した事で、現実へ引き戻されたようだ。

 人目も気にせず取り乱し、俺の服を強く掴む。

 

「なんで……っ、こんなの、どうして……っ」

「居たんだってさ。偶然、撮ってくれてた人が」

「っふ、ざけんな!!そんなの、あるわけ……っ!」

 

 怒鳴りかけて、周囲の気配に気付き、声を呑む。

 その時点で、もう櫛田のペースは完全に崩れていた。

 

 俺は更に鞄から、何束かの紙の資料を取り出す。

 

「……なに、それ」

「読めば分かるよ」

 

 俺から手渡されたそれらを、ぶるぶると震える指で捲って読む櫛田。

 それらは過去の判例だ。

 それも、「男が襲ってきた」「ポイントを払う前に行為に及ぼうとしてきた」などを理由に、退学を引き合いにして女子が男子を脅したーーあるいは何かを要求した事例だ。

 その、女子側が敗訴となった事例が3つ。男子側が訴えるも女子側の勝訴となったものが一つ。

 それらは今の俺たちと状況が酷似していることに加えてーー更なる可能性を示唆していた。

 それは。

 

「その三つの例、全部冤罪である事と退学を脅しとした事の証拠が揃ってたから男子側が勝ってんだよ。そしてその結末は2通り。退学かーー"その男子に全権利を委ねる"かだ」

 

 全権利。

 生殺与奪とまではいかないが、実質的にはそれに等しい。その相手に限り、"学校が認める権利"であれば全て許されるのだから。まあ、ほぼ奴隷みたいなものだな。

 

「……う、そ……これって……」

「あー、そうそう。櫛田はどっちがいい?退学? それとも、俺に全権委譲?」

 

 櫛田は唇を噛みしめ、目に涙を浮かべ俺をキッと睨みつけてくる。だがそれは怒りだけではない、悔しさを混じえた表情だ。

 

「そんなの……どっちも無理……!」

 

 それでも俺は続ける。

 

「無理とかないって。だって、お前が退学するか全権移譲するかどうかも、俺次第なんだし。希望聞いてあげてるだけマシでしょ?」

 

「……最低」

 

 俺の優しい語りかけに、櫛田はぽつりと俺を罵倒して喋らなくなった。

 櫛田は賢い。既に数分前までの俺と自身の関係が、全くの真逆へと逆転した事を理解している。そして、現時点でそれを巻き返す手段も存在しない事を。

 これだけ脅し返したのだ、俺がこのまま証拠を持って櫛田を訴えに行くことは分かっているだろう。

 だから黙り込んで、健気にも延命をはかっている。

 

 俯く櫛田に、俺は再度提案する事にした。

 

「どっちも嫌なら……じゃあ、お望み通り付き合うか」

 

 それを聞いて櫛田は、「は?」と顔を上げる。

 が、直ぐに俺を睨みつけてきた。俺の言う意味が分かったらしい。

 

 つまり先程の櫛田の提案とほぼ似たようなものだ。圧倒的に有利な立ち位置からの要求。そして櫛田と異なるのは、契約の内容だ。

 

「条件は……まあ、無しでもいいんだけど……」

 

 とぼけたように考えるフリをして、焦らした後に言う。

 

「"俺の生活への不干渉"、"指定した事柄の俺以外への口外禁止"、"俺への暴力、性行為、その他社会的・経済的に俺への損害となる行為の禁止"……とかか?」

「なっ……そんなの、いい訳ないでしょ!?」

 

 櫛田は叫ぶ。

 彼女の声が広場に響くがーー既に日は落ち、あたりに人影は見えなくなっていた。

 

「あー、確かに俺に有利過ぎたか。じゃあ……んー………お前への"挿入"はナシにしといてやるよ」

「なっ……はっ………ふざけないで!」

「ふざけてないけどなあ」

 

 櫛田はふーふーと息を荒げ、俺を親の仇のように睨みつけている。

 どうやら俺の提案が受け入れられないらしい。

 でもいいのだろうか。これを受け入れられないならーー

 

「じゃあ、そんな条件全部無視して俺の奴隷になる?」

 

 退学にはしない。

 放っておいても"この学校の生徒"は自主退学という選択肢を選ぶ事なんてないが、それでもだ。

 それを聞いて櫛田は黙った。視線を落とし、俯いて肩を震わせる。

 そして暫く黙りーーポツリと呟いた。

 

「……条件を変えさせて」

「だめ」

「………」

 

 間髪入れずに跳ね除けると、櫛田は再び静かになった。

 しばらく沈黙が流れーーそして5分程経ったか。

 

 櫛田はゆっくりと顔を上げ、無理やり作ったような笑顔で言った。

 

「……仕方ないもんね。じゃあ、申請……しようか」

 

 そう言って、彼女自身のスマホを開いて操作しようとする。その指を、俺は上から掴んで押さえつけた。

 

「えっ」

「違うでしょ」

 

 俺は彼女の手からスマホを奪い取り、申請フォームに勝手に文字を打ち込む。そして画面を櫛田に見せた。

 

ーー全権利を斉藤景に委ねます。

 

「俺は別にどっちでもいいんだけど。櫛田がどうしても付き合いたいって言うなら、まあ考えてあげるけどさ」

 

 必死に取り繕っていた櫛田の顔に、ピシリと亀裂が入る。

 櫛田の顔が一瞬怒気に染まりかけーー何とか、すぐに引き攣った笑みを貼り付けた。

 ゆっくりと彼女は頭を下げ、震える声で俺に言う。

 

「……斉藤くん、私とお付き合いしてください。よろしくお願いします」

 

 俺はその言葉を聞いて、無言でスマホの文章を書き換えていく。そしてその画面を櫛田に見せ、彼女が何も言わない事を確認してーー送信ボタンを押した。

 俺のスマホも同様に、"交際"の申請をする。

 そして申請を終えた俺は、櫛田を見下ろした。

 

「じゃあ……これからよろしくな、櫛田」

 

 櫛田は何も返さず、ただ深く、深く、俯いたままだった。

 

 そんな櫛田のサラサラとした髪を触り、その白い首筋を指でなぞる。ビクリと震える彼女の喉に手を回し、掴んで上に持ち上げた。

 無理矢理顔を上げられた櫛田が、苦しそうに俺を見る。

 喉を持ち上げられて呼吸も苦しそうな櫛田の顔に、俺自身の顔を近付けーー強引にその唇にむしゃぶりついた。

 

「ん、むッ!?」

 

 柔らかな唇を舐め、熱い湿った吐息の漏れる口内に舌を捩じ込む。そして彼女自身の舌、歯茎、頰の裏ーー順番に舐めていき、口から顔を離した。

 びちゃびちゃと櫛田の口から唾液が溢れる。目に涙を溜めて、抗議するよう俺を睨みつける櫛田へ、俺は優しく笑顔で言った。

 

「じゃ、後は俺の部屋でデートの続きしよっか」

 

 櫛田の顔は青褪めた。

 そんな可愛い櫛田の頭を撫で、ベンチから立ち上がった。

 

ーー全く、今日は良いデートだった。

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