ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
放課後、佐倉は憔悴しきった顔で、それでも一縷の望みを胸に指定された場所へと向かっていた。
俯いて早足で歩くその姿は、誰が見ても普通ではない。
そしてその姿は偶然、けやきモールに来ていたとある少女の目に留まった。
「あれ……佐倉愛里さん、だよね? どうかしたの、顔色がすごく悪いよ」
声をかけてきたのは、Bクラスのリーダー、一之瀬帆波だった。
佐倉はびくりと肩を震わせ、顔を上げる。一之瀬の人を安心させる太陽のような笑顔に少しだけ安堵したが、すぐにまた不安げに視線を落とした。
「い、一之瀬さん……な、なんでもないです…」
「なんでもないって顔じゃないよ。何かあったんだよね?私でよかったら、話聞くよ?」
優しく一之瀬は語りかけるが、佐倉はふるふると首を振ってその場を離れようとする。
だが、その明らかに何かから逃げるような挙動に、一之瀬の勘が警鐘を鳴らした。彼女は佐倉の後を追いすがる。
「待って。本当に大丈夫なの?」
そして路地裏へ入ろうとする佐倉の姿を見て、流石に見過ごせないと判断した一之瀬は、再び声をかける。佐倉は足を止めてオロオロと視線を彷徨わせるがーー顔を上げ、一之瀬が心配そうにしている様子を見て、観念したようにぽつりぽつりと事情を話し始めた。
グラビアアイドルの過去は伏せ、あくまで「家電量販店の店員からのストーカー被害について、責任者を名乗る人から相談がある」とだけ。
話を聞き終えた一之瀬は、憤慨したように眉をひそめる。
「そんな大事な話を、人気のない路地裏でするなんて絶対におかしいよ! 私も一緒に行く!」
「で、でも、大事にしたくないって言われてて…」
「だからって一人で行くのは危険すぎる! 大丈夫、私からもちゃんと説明するから」
一之瀬の言葉に、佐倉は頷く。
だが次に、『何かあった時のために他の誰かを』と、スマホで他の者へ連絡をしようとする一之瀬を見て、佐倉は慌てて彼女のスマホを持つ手を止める。
「わっ!?ど、どうしたの?」
「あっ、ご、ごめんなさい。で、でも、あの……誰にも、言わないで欲しくて…」
いきなり手を掴まれた一之瀬は、戸惑いつつ佐倉へ尋ねる。
そして「大丈夫、念の為の応援だから」と言おうとしたがーー佐倉の必死に首を振る様子を見て、何か隠された事情があることを察した。
「……分かった。それじゃあ、二人で向かおっか」
佐倉は申し訳なさそうに頷く。
一之瀬は、尚のこと一人で行かせられない事態だと認識する。
路地裏の奥へ二人で進む。
歩を進め、おそらく待ち合わせ場所と思われる従業員用の通用口の前に着いたがーー誰もいない。
「あの、まだ17時じゃないので、多分……」
佐倉がそう弁明するように言い、一之瀬もスマホの画面を開いて、まだ予定時刻より5分程度早いことを知る。
納得して一旦待つことにしーー
本来の時間を10分越えたあたりで、流石に遅いと疑問を覚える。
そもそもこんな場所での打ち合わせ自体不自然だし、内容が内容なのに遅れる事もあり得ない。
いぶかしむ一之瀬が「本当にここで合ってるの?」と佐倉に尋ねようとしーーその瞬間だった。
ガチャン、と重い音を立てて真後ろの鉄の扉が開いた。
従業員用の通用口。
目印にしていた扉が開き、そこからーー一人の男が飛び出してくる。
音に反応して一之瀬は振り返ろうとするが、それよりも男が伸ばしてきた腕が彼女を捉える方が早かった。
「きゃっ!」
振り向く間もなく羽交い締めにされ、鼻と口に布を強く押し当てられる。
ーー息ができない!?
一之瀬はジタバタと暴れ、呼吸をしようと顔を左右に振るが、そこで押さえつけられながらも嗅覚が異常を察知する。
それは、顔に押し当てられている布からの刺激臭。
(ーー薬!?)
だとすると、吸い込むのはまずい。
そう危機を察知し警戒するがーーその我慢は長く続かなかった。
酸素を求める身体は10秒と経たないうちに抗う力を失い、薬を肺へと吸い込んでしまう。
「一之瀬さん!」
佐倉は背後から押さえ付けられている一之瀬を助けようとする。
が、目の前に現れた男の顔――脂ぎった肌、濁った瞳、粘つくような笑み――が、自分を執拗に追いかけていたストーカーだと気づき、全身の血が凍り付くような恐怖で足が縫い付けられたように動かなくなった。
そんな佐倉へ、抵抗する一之瀬を羽交締めにしながら男は話しかける。高圧的に、血走った目で睨め付けながら。
「そこで待っててね、佐倉。もちろん逃げちゃ駄目だよ、そうしたら、君が『雫』だってこと、学校中に教えてあげるからね」
その一言が、辛うじて隙をついて助けを呼びに行こうと考えていた、佐倉の思考を完全に停止させた。
そしてそうしている間にも、一之瀬の身体からは徐々に力が抜けていく。だんだんと抵抗する力は弱まりーーついに、がくりと力が抜け、意識が闇に手放された。
ストーカーはぐったりとした一之瀬を担ぎ上げると、ニヤリと笑い、佐倉に顎で中に入るよう促した。
佐倉は顔を青褪めさせながら、命令された通りに倉庫の中へ入る。男も一之瀬を連れて中に入り、扉を締める。
ガシャン、と鍵が閉められる無慈悲な音が、狭い路地裏に小さくに響いた。
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倉庫の中は埃っぽく、鉄とカビの入り混じった不快な匂いで満ちていた。裸電球が一つだけ天井からぶら下がり、床に乱雑に置かれた機材や段ボールの不気味な影を伸ばしている。
床には様々な種類の物が置かれていたが、その一箇所には明らかに異質な品が置かれていた。手錠、首輪、鎖、目隠し、用途不明の錠剤、その他諸々ーーー。
すぐ近くには本格的なデジタルカメラまであり、この犯行が彼の歪んだ欲望のもとに、どれほど周到に準備されたものであるかを物語っていた。
男はぐったりとした一之瀬の身体を、まるでゴミ袋でも放るかのように無造作に床へ転がした。
そして計画通りに事を進めるため、床に散らばった拘束具の中から手足用の革ベルトを手に取る。
「なんで二人居るんだ……くそっ、邪魔な方から片付けないと…」
男はブツブツと呟きながら、一之瀬の腕を取る。そこまでは不機嫌そうで、意識を失った一之瀬の身体をぞんざいに扱っていたがーーその指先に触れ、改めて一之瀬の顔を見た途端、その動きが止まった。
「……な、なんだよ……めっちゃ可愛いじゃん…」
計画の邪魔者。ただそれだけだった認識が一転する。
自身の目的は、すぐそこにいる佐倉愛里ーー否、"グラビアアイドルの雫"と愛を育む事だというのに、手から伝わるきめ細やかで温かい肌の感触と、目の前に無防備に横たわる豊満な肢体が、彼の理性を狂わせる。
「……あっ、そうだ、縛らないと…」
辛うじてやる事は思い出し、拘束具をガチャガチャと一之瀬に取り付ける。彼女の両腕を後ろ手に固定し、黒いベルトで胴体に密着させる。
胸の下から押し上げるようにベルトを装着しーー再び男の理性が失われる。
「やっ!やわらか!でっ、デカすぎだろこの女!」
男は無意識に一之瀬の胸に両手を伸ばし、無遠慮に揉みしだいていた。半ば無意識に感想を口走り、口元が歪に歪んで気味の悪い笑みを浮かべる。
それがどれだけ気色悪い姿かなんて、男の頭に客観視する機能は無い。
無心で胸の感触を確かめ、何の配慮もない男の手によって彼女の胸はグニグニと変形する。意識があれば痛みすら感じていただろう。だが、そんな事を気にするような者ならストーカーなんて気の狂った行為はしない。
すぐ背後で、自分の想い人である佐倉愛里が心底ドン引きした目で見ている事も、発想にすら無い筈だ。
数分程度一之瀬の胸に夢中になっていた男は、最後に一之瀬の制服の襟元に顔を埋め、深く、獣のように息を吸い込んだ。
「はぁ…すぅー……女の子の匂い……スゥーッ…」
顔を上げ、恍惚とした表情で気色悪い感想を言いながら、彼は拘束作業を再開した。
だがその手つきは、もはや単なる作業というものではなかった。首輪を取り付けながら、その透き通るように白い肌を、汗ばんだ汚い指でねっとりと撫で上げる。
「邪魔しに来たくせに……いや、もしかして、この子も僕の事が好きで………?」
独り言は、彼の衝動が理性を上回っていく過程そのものだった。計画の主役は佐倉のはずなのに、この予期せぬ獲物への欲望が、彼の思考を鈍らせ濁らせていく。
とは言え、やはり男の中の第一優先は佐倉だった。男は一之瀬の身体に夢中になりながらも、首輪から伸びる鎖を近くの柱に結びつける。そして黒い布製の目隠しを装着させた。
「よし…あとは口だな」
そこまで終わらせて、男は呟く。
近くを見回し、道具が雑然と入った段ボール箱を漁る。だが、見つかったのはガムテープが一巻だけだった。
「くそっ、テープだけかよ……こんなんじゃ声は漏れるよな…」
舌打ちし、彼は一之瀬の顔を覗き込む。目隠しで表情は窺えないが、その整った唇は固く結ばれている。
「寝てるけど、起きて叫ぶかもしれないし……もっと確実に、声を出せないようにしないと…。そうだ、何かを…何かを噛ませれば…」
男はそう呟きながら考えを巡らせる。
しかしその間も、下卑た視線だけは一之瀬の身体を舐め回していた。豊満な胸の膨らみから、くびれた腰、そしてスカートが乱れてあらわになった太ももへと、粘つくように視線が下ろされていく。倉庫の薄暗い照明は、彼女の脚線美を艶めかしく照らし出していた。
そして当然のように、男は剥き出しの太腿に視線が奪われる。そのままスカートへと手を伸ばしーー男の頭にいい考えが浮かんだ。
「噛ませるもの…そうだ、噛ませないといけないもんね、仕方ないんだ……」
彼の濁った瞳に倒錯的な閃きが宿る。
男は獲物を見つけた蛇のように、這うようにして一之瀬の足元ににじり寄った。
「ごめんね、でも汚いものなんて口に入れられても嫌だもんね、君の為だからね…」
そんな囁きと共に、男は一之瀬のスカートを躊躇なく捲り上げた。彼女の、誰にも見せることの無い白い肌が、男の前に露わになる。
そこには真っ白な肌と、肉付きが良いにも関わらずほっそりとした完璧な太ももがあった。そしてその先に、白い下着が見えている。
男はその下着に手をかけた。そして、まるで貴重な宝物を扱うかのようにゆっくりと、しかし力強くそれを引きずり下ろした。
靴に時々引っ掛けながらも、下着を一之瀬の足から抜き取る。そしてまだホカホカと肌の温もりの残る白い布を、両手に握り締めた。
そしておもむろに、下着を自身の顔に押し付けてその匂いを深く息を吸い込む。
「スゥーッ……スゥーッ!」
その時、一之瀬が苦しげに「んぅ…」と呻き声を上げた。
「!?」
男ははっと我に返る。
そして自分が計画から逸脱し、衝動のままに行動していたことに気づき、慌ててその下着をぐしゃりと丸めた。
抵抗できない一之瀬の顎を掴んでこじ開け、口の中に丸めた彼女自身の下着を指で乱暴に詰め込む。さらにガムテープで口を塞ぎーー「ふぅ」と息をついた。
「忘れてた……でも、もうこれで声が出せないよな……」
男は一息つく。
「さて」
「ーーひっ」
一息つくと、ストーカーはようやく本来の獲物である佐倉に向き直った。
その瞳は、先ほどまでの獣じみた光から一転し、恍惚とした愛を語る信者のように潤んでいる。
「やっと、やっと二人きりになれたね……佐倉。僕からの愛、受け入れてくれたから来たんだよね」
佐倉は青ざめた顔で全身を震わせながら、かろうじて言葉を絞り出した。
「ちがっ……違います!私…」
「嬉しい……やっと愛し合えるんだね」
首をふるふると振るが、男はお構いなく続ける。佐倉はじりじりと後退り、震える声で尋ねた。
「あのっ、あなたが、私の家に手紙とか……」
「そうだよ!」
「ひっ!?…な、なんでそんな事……」
「愛だよ。それにこれは運命なんだ。さあ、僕と付き合って、永遠に幸せになろう」
佐倉は明確に嫌悪を示しているが、男は関係なく佐倉に迫る。
そのあまりの気持ち悪さに、佐倉は胃の腑からせり上がってくる吐き気を堪え、無意識に後ずさって壁に背中を打ち付けながら首を横に振っていた。
「は?なんでそんな反応するんだよ」
その様子を見て、流石に佐倉から拒否された事を理解したのだろう。
拒絶されたと悟ったストーカーの顔が、一瞬、能面のように無表情になり、次の瞬間には激しい怒りに歪んだ。
それを見た佐倉の喉が恐怖で「ひゅっ」と鳴る。
だが、男はすぐに何かを思いついたように、粘液質な笑みを浮かべた。
「そっか…。そうだよね、驚かせちゃったね。僕たちの愛は、これから育んでいけばいいんだ。時間はいくらでもあるんだから」
男はそう言うと、傍らに置いてあった高性能なデジタルカメラを、愛おしそうに手に取った。
「さあ、佐倉ーーいや愛里。僕たちの愛のアルバムを作ろう。この素晴らしい日のための、記念すべき撮影会だ」
パシャリ、と無慈悲なフラッシュが、佐倉の怯えきった顔を白く照らし出した。
「ひっ…!」
突然のことに驚き硬直する佐倉に、男は畳み掛けるようにファインダーを覗き込みながら、粘つく声で語りかける。
「ああ、いいよその驚いた顔! 本当にかわいいね」
パシャリ、パシャリと。
興奮した言葉と共に、男はシャッターを何度も切る。
その度にフラッシュが浴びせられーー佐倉は反射的に両腕で身体を隠し、顔を俯かせた。
「……は?なにそれ」
その無意識の抵抗に、男は急に冷めた顔になった。
思わずゾッとするようなテンションの落差に、佐倉は自分が何かを間違えてしまったことを確信する。
「じゃあいいや。せっかく記念撮影してあげようと思ったのに、そっちがそうなら別にいいよ。まず愛を確かめ合って、それからでも遅くないもんね」
そう言いながら、男は自身のズボンのベルトに手をかけ、バックルを外す金属音がカチャリと響いた。
「え、え…」
佐倉は戸惑うがーー男が何の躊躇もなくズボンのチャックを下ろし、脱ごうとし始めたところで、ようやくその意図を悟った。
「ま、待って!」
「うん? 大丈夫だよ、すぐ準備するから待っててね」
男の優しい言葉とは裏腹に、佐倉の静止を聞き入れる様子は全くない。その事実に焦った佐倉は、必死に頭を回転させた。
何かをしなければ、自分はこのまま犯されてしまう。
そして直前の男の発言を思い出した。
(写真…! 写真を撮らせていれば、酷いことはされない…!)
絶望の中で見出した唯一の活路。佐倉はそれに縋り、吃りながら男に話しかける。
「とっ、とって、撮ってもいいです! あ、いやあの、ちが……撮ってください! お願いします!」
その必死の懇願に、男はついに耳を傾けた。
そしてその意味を理解しーー先程まで自分で要求していたにも関わらず、残念そうに「えー、つまんないの」と呟く。
「まあでも、先に撮れって言われてたしな……」
呟きながらズボンを上げ直すと、今度はニタニタと下品な笑みを佐倉に向けた。
「じゃあ、記念撮影しよっか」
佐倉は恐怖に腰が砕けそうになりながらも、なんとか取り繕って「…はい、お願いします」と答えるしかなかった。
ーーパシャ、パシャと。
薄暗い倉庫内に、シャッター音がこだまする。
男はまず、怯えながらも必死に平静を装う佐倉の姿を撮り続けた。
幾枚も角度を変えて撮影し、やがて満足したように頷くと、最初の要求を口にした。
「じゃあまず、その眼鏡、外してくれる? 『雫』はそんなもの付けてないよね。それ、似合ってないよ」
要求に従い、佐倉は震える指で眼鏡を外す。
途端に、彼女の素顔が露わになった。
庇護欲をそそる甘い顔立ち、長い睫毛に縁どられた大きな瞳。
グラビアアイドルの『雫』が、自信なさげに、しかし紛れもなくそこに立っていた。
男は息を呑み、興奮のままにシャッターを切る手が加速する。
「ああ…! そうだ、それだよ! 僕の知ってる雫の顔だ!」
男の要求も加速していく。
「ブレザーを脱いで。そう、ゆっくりだ」
言われるがままにブレザーを脱ぐ。倉庫の冷たい空気が、薄いシャツ越しに肌を刺した。
初夏となり、決して肌寒い季節ではないがーーここで感じる寒さは、別の理由もあるだろう。
「いいね、いいね! その顔! じゃあ次は、リボンを緩めて、シャツのボタンを…上から三つまで外して、襟を広げて!」
佐倉は羞恥に顔を真っ赤に染めながら、震える手でボタンを外していく。
白い襟元が大きく開かれ、華奢な鎖骨と、緊張から滲んだ冷や汗で微かな光沢を放つ首筋が露出した。
ただそれだけの事ではあるがーー絶世の美少女だからこそ、それだけでも扇情的な色気が香り立つ。
男はその姿に恍惚としながら、ポケットから自身のスマホを取り出した。
佐倉はスマホで写真を撮られるのかと身構えたが、男はレンズを構える訳ではなく、画面を操作し始める。そして何かを画面に写し、それを佐倉に向けた。
「これ、覚えてるよね?僕が一番好きな写真ーーだから今ここで、このポーズで撮ろう!」
「……え?」
そこに写っていたのは、体操座りで顎を膝の上に乗せ、潤んだ上目遣いでこちらを見つめる『雫』の写真だった。
小悪魔的な魅力に満ちた、彼女の代表作の一つ。勿論佐倉もその写真の事は覚えていたし、過去のポーズに似せて写真を撮る事自体はどうということはないがーー今それを行う事に問題があった。
「この無防備な感じと、それでいてこっちを誘うような瞳…最高だよね。それを今ここで再現しよう。制服とこの倉庫で、雰囲気もいい感じだし!」
佐倉は必死に首を振る。
体操座り。
それをスカート姿で行うとどうなるか、深く考えずとも分かった。
「い、嫌です……」
「じゃあやっぱり、先に愛を確かめ合おっか?」
佐倉の拒絶に、男はスンと表情を落とす。
そして代替案を即座に提示しーー佐倉は逆にぶんぶんと首を横に振った。
「どっちなんだよ!」
苛立つ男の視線に射抜かれ、彼女は恐怖に全身を震わせる。
数秒の逡巡の後、よろよろとしゃがみ込んだ。
逃げ場はない。犯されない為には、言われた通りに写真を撮らせるしかない。
ゆっくりとお尻を床につけようとし、その床の汚さに一瞬動きを止める。
埃と黒い砂にまみれたコンクリート。ここに直接肌をつけるのか、と生理的な嫌悪感が全身を駆け巡るが、男からの無言の圧力に屈し、腰を下ろした。
「早くポーズ取って」
「は、はい」
急かされながら、顔を羞恥に真っ赤に染め、きつく目を瞑って堪えながら体操座りをした。
「ーーあっ」
そこで、スルリと重力に従ってスカートが太ももから滑り落ち、白い下着が露わになった。
慌てて佐倉は裾を直そうとしーー「戻すな!」という男の怒声でその手が止まった。
びくりと肩を震わせて顔を青くする佐倉に、男は打って変わって猫撫で声で謝る。
「ごめんごめん、怒鳴っちゃって。でも、そのままで撮ろうよ。その方がエロいし」
謝るが、スカートは直させない。
スカートは足とお腹の間に裾がずり落ち、太ももの付け根あたりからのほとんど全てが剥き出しとなっていた。
その状態で撮影が始まる。
ーーパシャ、パシャ。
雑誌と同じ構図。
より近寄った構図。
そしてローアングルから、彼女の下着を正面に写した構図。
元の写真は笑顔の可愛らしさが印象的だったが、これは汚い床に座り込む、退廃的な美少女の写真。
その対比が、男の歪んだ性欲を際限なく煽っていく。
何枚撮っただろうか。
やがて男は撮れた写真を確認して満足げに頷くと、唐突にカメラをビデオモードに切り替え、近くの机に置いた。自分と佐倉が画角に入るように調整し、得心のいく状態となったのかカメラの位置調査を終了する。
急に何を、と佐倉が不安げにそれを見ているとーー男はまるでスイッチが切り替わったかのように、それまでのねっとりとした演出家のような口調から、甲高く興奮した別人のような声に変わった。
「はぁー、最高だったよ、雫! 撮影会、お疲れ様! じゃあ、ここからはお待ちかねの…ファンとの交流会タイムだ!」
「……え?」
困惑と恐怖に凍り付く佐倉に、男は得意げに説明する。
「僕たちは愛し合う仲だけど、それ以前に、僕は君の熱狂的なファンなんだ。アイドルとファン、この神聖な関係も大事にしないとね?」
理解不能な理屈。
愛し合う関係ーー誰のことを言っているのか。
佐倉には男の発言を殆ど理解出来なかったが、一つだけ理解出来たことがあった。
その濁った瞳は、もはや現実の佐倉ではなく、彼だけに見える幻のアイドル『雫』を映しているのだ。彼の事を愛している、都合の良い存在を。
彼は佐倉に歩み寄ると、アイドルの握手会に臨むファンのように、少しどもりながら言った。
「あ、あのっ、雫ちゃん…! いつも応援してます! 握手してください!」
佐倉は状況がうまく飲み込めていないながらも、差し出された手を無視すればどうなるかーーその恐怖だけは、この短時間で充分刷り込まれていた。
震える手を恐る恐る差し出す。
「ーーッひ」
男はそれを両手で、宝物のように、しかし決して逃がさないように握りしめた。
汗でじっとりと湿った手のひらの感触が、彼女の肌を這い回る。ベタベタと指を絡められ、何度も握り直された。
佐倉はすぐにでも手を振り払いたいという強い嫌悪感に襲われたが、ただ耐えるしかない。
何十秒にも感じる握手ーー最早手の陵辱とも言えるそれを耐え、ようやく手が解放された。
だが、安堵する間もなく、男は次の要求を口にする。
「じゃあ、次は…ファンサービス、お願いできるかな?」
「…ファン、サービス…?」
「そう!」
男は興奮を隠しきれない様子を見せる。
佐倉は、何か嫌な予感がした。
男は唾を飛ばしながら早口に説明する。
「ここは僕と君だけの秘密の楽屋。そして僕は、君をデビューからずっと支えてきた、誰よりも熱狂的なファン。そんなファンに、雫はとっておきの『サービス』をしてあげるんだ」
「サービスって…なにを…」
その問いに、男は「決まってるだろ」と、心底うっとりとした表情で応えた。
「もちろん、『そういうこと』だよ」
その言葉の意味を理解した瞬間、佐倉の顔から血の気が引いた。
「いや…! 嫌です…! それだけは…!」
強く拒絶しながら必死に首を振る佐倉に、男の顔から笑みが消える。
「静かにしてよ」
地を這うような低い声。
先ほどまでの興奮が嘘のように冷え切った瞳が、彼女を射抜く。
「僕たちの愛を、育めなくなるだろ?」
諭すような口調だが、その剣幕は紛れもない脅迫だった。
ただでさえ引っ込み思案な佐倉は、その不気味な圧力を至近距離で受け、恐怖に全身を硬直させる。そして男の言う通りにしようと恐怖に駆られーーそれも出来ないことに気がつき絶望する。
要求通りに応じれば、間違いなく犯されてしまう。だが、拒絶すれば…一体どうなるのだろう。
男はそんな佐倉の葛藤を無視し、一方的に続けた。
「まあまあ、いきなりはね。じゃあまず、僕への感謝のメッセージから言ってもらおうかな」
どうすればいい。どうすればこの場を誤魔化せるーー。
佐倉が必死に思考を巡らせる中、男は台本を読み上げるように、言うべきセリフを告げた。
「『いつも応援ありがとう! 熱狂的なファンのあなたのために、今日は雫の全てを捧げるね』…だ。さあ、言ってごらん」
促されるまま、佐倉は辿々しく、虫の鳴くような声で、その屈辱的な言葉を繰り返そうとする。
「…いつも、ありが…」
「違う!」
それを、男は大声で遮った。
急な怒鳴り声に、佐倉は恐怖のあまり身体を縮こまらせる。
「心がこもってない。もっと、君自身の気持ちで、僕への感謝と愛を込めて言うんだ。僕は君の、たった一人の特別なファンなんだぞ?」
自分の気持ちなら、ここから逃げ出したいというものしかない。
だが、男が求めているのはそういう意味ではないことも明白だった。
演技でもいい。
佐倉愛里という人間の中から、アイドル『雫』を完璧に引きずり出し、男へ感謝し好意を向けているかのようにこのセリフを言えということだ。
佐倉はきつく目を瞑り、数秒間、震えを抑えようと必死に耐えた。
そして次に目を開いた時ーーその顔は引き攣り、血の気を失い、本来の可憐さとは比べ物にならないほど悲惨な有様ではあったが、そこには確かにアイドル『雫』の姿があった。
「いつも応援、本当にありがとう! 世界で一番のファンのあなたのために…雫の全てを捧げるね」
嫌悪感が滲み出た、台詞の読み上げ。
だが、それは確かに雫の台詞になっていた。
男は、「うおおおおおっ!」と歓喜の雄叫びを上げる。
「最高だ! 最高のファンサービスだよ、雫!」
男は興奮しながらカメラを手に取り、それを構えて佐倉に向ける。
そして今度は、佐倉にその場でしゃがむよう要求した。佐倉は『雫』の笑顔を貼り付けたまま、しかしその瞳の奥に宿る嫌悪感と拒否感を全く隠せないまま、ゆっくりと従う。
男は勝ち誇ったように言った。
「じゃあ、ご褒美に…これに『サービス』してね」
そして、男は自らのズボンのチャックに手をかけた。
ジジジジジ
無機質な金属音が、佐倉の耳の中で不吉に響き渡る。
男が何をしようとしているのか。何を、出そうとしているのか。
それを理解しーー佐倉は結局逃れられなかった事を悟り、顔が絶望に染まっていく。
「まずは手でかなぁ、いや、やっぱり最初は口がいいかなぁ……」
男が恍惚として呟き、ついにその穢れた欲望が外気に晒されようとした。
まさにその時。
二人の少し離れた場所で、倉庫の暗がりに横たわる一之瀬の身体が、ぴくりと動いた。