ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
バスがゆっくりと停車し、エンジン音が低く唸る。学校に着いたらしい。
俺は立ち上がり、降車の列に加わった。
バスの外には、東京都高度育成高等学校の広大な敷地が広がっていた。
改めて見るとやはり壮観だ。ゲームで見慣れた景色だが、こうして現実として目の前に存在しているというのは少し感動する。本当にこの世界の住人となったのだ。
降車し、校舎へ向けて歩き出した。
てくてくと、他の学生と混じってゆっくり歩く。そしてその途中、俺は背後からの視線に気づいた。
(……お?)
軽く振り返るとやはり櫛田桔梗の姿があった。俺の行動がよほど気になったのか、それとも単なる偶然か。
数秒の間、視線を感じながらもそのまま歩き続ける。
すると、案の定後ろから声がかかった。
「ねえ、ちょっといい?」
櫛田だ。
亜麻色のショートボブ。赤いブレザーがよく似合う、容姿端麗の美少女。スカートの下に覗く白い太腿は眩しく、たわわに揺れる二つの巨山は数多の男子生徒の視線を惑わすーーって俺が惑わされていた。
「ん?」
俺は足を止めて振り向いた。努めてすました顔を作って櫛田を見る。
櫛田は人好きのする顔でにこやかに俺に話しかけてきた。
「おはよう!さっきバスの中で一緒だったよね?」
「そうだね」
俺は簡単に返す。
櫛田は軽やかに微笑むと、自分の名前を名乗った。
「私は櫛田桔梗!覚えてるかな?」
俺はあえて一拍を置き、曖昧に答えた。
「……うーん、なんとなく?」
「そっかぁ……」
櫛田の表情が微妙に揺れる。
「また同じ学校みたいだし、よろしく」
「……うん!」
櫛田はにこにこと笑みを浮かべながら、俺の言葉を受け取った。
原作、そしてゲームの知識を持つ俺は知っている。この表情はフェイクであり、きっと内心では俺の事を必死に観察しているのだろう。
なんせ、堀北が霞むレベルで俺は彼女の黒歴史のど真ん中に存在している。この斉藤景というキャラが設定としてその頃はグレていてかなり不登校気味だったとは言え、俺が彼女の事を覚えていないなんて有り得ないとは考えている筈だ。俺が彼女の秘密をどう扱おうとしているか、俺の反応から推測しようと必死に違いない。
いい流れだ。今後の為にも、このまま彼女の俺への警戒心、敵意はもう少し育てたい。ここはすげなく無関心を装おう。
俺はつい彼女の胸に吸い込まれそうになる本能を叱咤し、クールなフリをして歩みを進める。
互いにもどかしい時間が過ぎ、掲示板の前に着いた。
「うーん……」
自分の名前を探す。
あった。
同時に隣にいる櫛田の名前も見つける。
「Dクラスか。じゃ、また」
「え、あ、うん……またね!」
どこか引っかかる様子を見せる櫛田を残し、俺は教室へ向かった。
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教室の扉を開けると、すでに何人かの生徒が席に着いていた。
俺も自分の席を探す。
そして気づいた。
机が一つだけ、不自然に列から外れて置かれていた。
原作に俺はいない。なら、俺がDクラスに入ることで誰かが消えるのか?
その疑問があったが、そうはならなかった。
もともと俺は、MODで俺というキャラクターをクラスにそのまま追加する設定にしていた。その仕様がそのまま実装され、俺は純粋に“追加枠”として扱われているらしい。
俺はその席に腰を下ろす。
そして周囲を観察した。 特に廊下。
(……おっ、いるね)
廊下には何人かの男子生徒が、こちらの教室を覗いているのが見えた。
そして、その一部は何かをメモしている。
普通の生徒なら気にしないかもしれないが、俺にはゲームの知識がある。
彼らは同級生ではない、上級生だ。
上級生の男子生徒達が、Dクラスのメンバーの情報を集めている。具体的には、このクラスの女子生徒の情報を。
その行為が何を示しているか俺は知っている。
俺は、自分が導入したエロMODがきちんと反映されていることを確信した。
この世界は、元のゲームそのものではない。
俺の介入によって、新たなルールが生まれた世界だ。
「よし!」
思わず歓喜のガッツポーズをする。
近くの席の女子が「何だこいつ」という目を向けてきた。
そうこうしているうちに、教室の扉が開いた。
Dクラス担任――茶柱佐枝が入ってくる。
荒っぽい態度で腕を組み、教壇に立った。
「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段はーー」
彼女の説明が始まる。資料も配られ、学校についての話が始まった。これはもう何度も聞いた。何回プレイしても言葉は同じだ。
俺はもう聞く姿勢を放棄していたが、他の生徒たちはある程度真面目に静かに耳を傾けている。そして10万ポイントの話になり、教室内がざわめいた。 生徒たちは興奮に包まれる。
だが、俺はそんな様子をどうしても冷めた目で見てしまう。俺に限らず、原作を知っている者なら皆そうなってしまうだろう。
明らかな説明不足、このまま俺達は来月から振り込まれる額が0の貧困生活が開始する。
勘弁して欲しい。
俺のやりたい事の為には、金なんていくらあっても足りないのだ。
プレイヤーによっては最初から積極的にクラスに関わってクラスポイントの保全に動く事がよくあるが、かなり難しい立ち回りになる。
クラスメイトたちの素行を正すのが手っ取り早いのだが、それを本格的にやるとクラスの下層男子から嫌われる可能性が高い。そもそもそれはかなり避けたかった。
自分が介入することでのメリットとデメリットを天秤にかけると、今のところは静観になるな。
そうこうしているうちに担任の説明が終わり、教室は少しざわつき始めた。
「皆、少し話を聞いて貰ってもいいかな?」
そんな中スッと手を挙げたのは、如何にも好青年といった雰囲気の生徒ーークラス屈指のイケメン、平田洋介だ。
そして恒例の自己紹介の流れとなる。
何人かの生徒は明らかに面倒くさそうな顔をしており、当然俺もその中の1人なのだが、大多数は賛成しているようだった。
平田の自己紹介から始まり、それに続いてクラスメイトたちが一人ずつ順番に話していく。
俺は自分の番が来るのを静かに待った。途中で櫛田の番となった際、チラリとこちらを見た気がしたが、気のせいか気のせいでないかはーーいやまあどっちでもいいや。
そして、ついに順番が回ってきた。
俺はゆっくりと立ち上がる。
クラスメイトたちの視線が俺に集中した。
俺の特徴的な外見――黒色の長髪を飾り紐で結び、耳には金ピカのゴテゴテしたピアスというチャラい不良の出で立ち。そして平田とはまた異なるタイプの、女性的とも言える整った顔立ち。中身の俺自身は別になんて事ない普通の社会人なのだが、普通の高校生とは一線を画す見た目に、クラスメイトたちは明らかに戸惑いを見せていた。
あえてシラっと簡潔に名乗る。クラスに積極的に関わる事は無さそうなグレ野郎だと思わせるのだ。
「斉藤景」
空気が張り詰める。
「え、えっと……趣味とかは?」
誰かが恐る恐る尋ねる。
俺は少し考える。ガチで答えるならエロMOD入れたこのゲームのプレイなのだが、そんな事口が裂けても言えない。どうしよう。
「……うーん、麻雀?」
微妙な沈黙。
うん。クラスのほとんどが俺のことを腫れ物扱いしているのを感じる。良い感じ。しばらくはそのイメージをキープしていこう。その為にわざわざ自己紹介したのだから、このカスみたいな自己紹介は成功と言って過言ではないだろう。
俺は素知らぬ顔で席に戻った。
クラスには微妙な空気が流れたが、平田が「ありがとう!」とフォローし、次の生徒へと進行する。
俺は特に気にする素振りを見せず、頬杖をついてそのまま残る面子の自己紹介が終わるのを待った。
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自己紹介が終わり、ひとまず解散となった。
俺は特に誰とも話さず静かに教室を後にする。
次は寮へ向かうわけだが――その前に寄り道をすることにした。コンビニだ。
この学校にはポイントを使って買い物ができる施設が整っている。俺はコンビニに入り、まずは無料で手に入るものを物色する。
(……まあ、一通りもらっておこう)
無料のティッシュや紙コップ、使い捨てのカトラリーなど、使えそうなものを適当にカゴへ入れる。 レジへ持っていくと、当然ながら0ポイントで購入できる。さっさと買って店を出る。
今日の目的は買い物だけではない。
監視カメラの場所を把握することだ。
この学校には至る所に監視カメラが設置されている。
生徒の行動を把握するため、ルール違反を監視するため――目的は色々あるが、とにかくこの学校には監視の目が沢山ある。
俺はコンビニを出た後、歩きながら周囲を観察した。
(……あそこに一つ)
(……廊下の天井にも)
(……屋外にも何台かあるな)
一つずつ、慎重に監視カメラの設置場所を記憶していく。
大体の配置はゲームと同じだが、いくつか増えている箇所もありーーそして不自然に監視がない空間もあった。
これは、MODによって加えられた変化だ。
悪さが出来る空間を作るように、意図的に監視カメラの配置に死角をつくるMODを入れていた。その代わりに勝手にAIが皺寄せのようにその他監視カメラの配置をいじり、元々あった死角を潰したりしてしまう為、その確認が必要になるのだ。
学校の施設をぐるりと見て回る。
食堂、購買部、図書室……。カメラの確認がてら見て回るが、どこも立派な設備が整っている。ゲームの画面越しに見るのと、こうして肉眼で歩いて確認するのとでは印象がまるで違う。学校というか、まるで大きなレジャー施設のようだ。金が掛かっている。
そしてそんな空間を歩いているとすれ違う生徒たちーー特に新入生達は、浮かれた雰囲気を隠さずわいわいと話している。その要因として、10万ポイントという金額の大きさは決して無視出来ないだろう。現に、既に買い物袋を持っている者さえいた。
(まあ、あと1か月もすれば認識を改めるんだろうけど)
少し白けた気持ちになりながら、大体を見回った俺はようやく寮へと向かった。
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俺は自分の部屋を確認し、適当に荷物を整理する。
「さて」
俺のこれからの方針を纏める。
まず、今日確認出来た大前提のおさらいをしよう。
この世界は、ようこそ実力至上主義の教室へを題材としたゲームの世界でありーー俺の導入したMODは既に3つほど確認出来た。
その中には、今回遊ぼうとしていた上で最も重要な主軸となるエロMODもまた含まれていた。
そう、「女をポイントで買えるようになるMOD」だ。
効果は名前の通り。
この学校で買えないものはない。そう、同じクラスの女子クラスメイトですらも、ポイントを出せば「買う」ことが出来るのだ。
勿論それにはとてつもないコストがかかる。
例えば軽いセクハラの権利であっても、1時間服は脱がさず触る舐めるの範囲で好き放題するだけで10万ポイント必要だ。本番のセックスなどは更に桁が上がってしまう。
そして更に恐ろしいのは、その値段は「この学校で最も安い女子生徒」でその値段設定という事だ。
そう。
この値段は、人によって費用が異なる。
その人間の肩書き、所属するクラスによって値段は変動する。簡単にいうと、学年が上で、クラス序列が上、そして生徒会役員やクラス委員長などの女子生徒は、どんどん値段が釣り上がっていく。
そしてそれは、逆説的に「最も安く買える女」の存在も示唆している。
ーーそう、入学したてのDクラスの女子だ。
それでも値段は高いが、人によっては道楽で出せる範囲。
そして更に重要なのは、これは男子側が女子にサービスを強制する際の値段設定であり、交渉の末の「買い」なら半分以下の相場で買える可能性がある点だ。
当然皆ポイントは欲しいし、価値の低い生徒ならば言わずもがな。我慢するだけで何万ポイントも貰えるならやる、という女子生徒は当然一定数現れていた。以前何度かこのエロMODで試運転した際は、必ずそうなっていた。
つまりうちのクラスは、性の欲望に塗れた男子達にとってはヤレる女の巣窟と見られているのだ。
それが、廊下でクラスの様子を視察していた上級生達の正体である。
とはいえ、流石に強制的なサービスの購入は制限がある。男子側はスマホで特定のフォームからサービスを指定して送金申請を女子へ送るが、そこで一定時間内に送金予定のポイントと1.5倍のポイントを男側に遅れば申請は無効となる。また女子側が指定される金額を事前に学校へ支払うことで、一定期間はプロテクトするという方法もある。そして、そもそも入学直後はあまりにも立場が弱過ぎるためーー新入生は最初の3ヶ月間は学校側からプロテクトされている。まあ、互いの交渉によるものなら話は別だが。
更に他にも方法はあるがーーまあ、それは今はいい。
さて。
ここまで話したが、俺の目的は当然決まっている。
このエロMODをしゃぶりつつ、学校生活を楽しむことだ。
その為には当然ポイントが要る。俺の当面の方針はポイント稼ぎになるだろう。そして充分貯めたら、厳選した女子相手に欲望をぶつけるのだ。楽しみだぜ。
「がんばるぞい」
俺は間抜けのような声で気合を入れた。