ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
女が買えるMOD。
今更だが、これはかなり限定的な使い方しか出来ない。
決してどんな女でもポイントさえ支払えば簡単にヤレる魔法の制度ではないし、そもそもその為のポイントすら調達困難。
あまりにも使い勝手が悪く、多くの者は時々こっそりと欲を消化し満足するに留まる事となる。
制度の利用を難しくしている理由は、要素を分ければ幾つもある。
だがそれを、敢えて男目線で端的に言うならーーチャンスが無い、という理由になるか。
ヤリたいと願う女は、当然競合が多い。
誰かは良い目を見れるかもしれないが、どこかでそうなると、それ以降のチャンスはほぼ潰えると思った方がいい。
この制度はーー構造的に、女にポイントが集まりやすいのだ。
ポイントがあれば、そういう女はプロテクトをする。
仮にプロテクトするポイントが切れたとして、ポイント補充の為のチャンスは見ず知らずの男には渡らない。一度身体を開け渡さざるを得なかった、比較的マシな誰かに再度チャンスを渡すだろう。
初動をつかめなかった者は、偶然おこぼれの様にチャンスが降ってくるのを、口を開けて待っているしかない。
が、時間は別に男共の味方ではない。
むしろ、クラスポイントの獲得、および女子へのポイントの流れから、プロテクトで守られる者の割合はより増加していくことだろう。
まあ詳しくは省くが、そもそもプロテクトは防御手段というよりは脅しの手段だ。誰だって無駄金は払いたくはないからな。
さて困った。
制度が利用出来ない。打つ手無し。
ーーな訳がない。
対策は俺が試走で見つけただけでも幾つもある。
要は、初動だ。
そこで均衡を崩し、女子の認識を傾け余裕を無くす。
その為に必要な一手は何か。
俺はそれを知っていた。
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「便秘薬だ」
俺は棚から商品を手に取り、深く頷いた。
良い品だ。
俺に必要なのはこれだ。何とかキレのいいブツを手に入れられてよかったぜ。
ホクホクとしながら商品を幾つかカゴの中に入れる。
現在俺は、学内の薬局に来ていた。
これは元のゲームからの仕様だが、売店や食堂、薬局などーープレイヤー達がアクセスできる商品は、割と時期やタイミングでレパートリーが変わってしまう。
勿論いつ行ってもあるお決まりの商品は存在するのだが、逆にある程度レアなものも存在していた。
ゲームではむしろ当たり前の仕様だが、こうして今の俺がそのサービスを受ける側になると、違和感が拭えない。なんで日によって商品変わるんだよ、面倒過ぎるだろ。
実際、リアルな描写として、商品の搬入なりで大きな荷物を運んでいる職員の姿を見る事は多いーーか、どうかはよく分からないな。比較出来ないし。
何が言いたいかと言うと。
売店や薬局には、定期的に商品チェックに訪れる価値があるという事だ。
意外と面白いものがあるんだよな。
「あ」
「?」
なんて商品棚を物色していたところ、直ぐ近くから聞き覚えのある声が聞こえた。少しぼんやりした印象の、気の抜けるような声。
振り向くと、綾小路が立ってこちらを見ていた。
そして彼の視線は、俺の顔からカゴの中身へと移動しーーあ。
俺は思わずカゴを隠すように動かしたが、当然ながら綾小路の目を逃れるにはあまりにも遅い。綾小路の方も、「あー…」と気まずそうに声を漏らしている。
「斉藤、お前、その若さで……」
「黙れ」
「いや、まだ何も言ってないんだが」
「言わずと知れた口振りだっただろ」
こいつ、間違いなく俺が便秘で悩んでいると思っているな。
それを裏付けるように、綾小路は俺に向かって宥めるように言う。
「まあ、そう言うな。悩みは誰にでもある」
「その憐れむ目をやめろ。腹立つ」
「そんなつもりはないんだが……だが、切実な問題なんだろう。顔にも出てるぞ」
「出てねえよ」
「確かに、出ないから悩んで……おっと」
綾小路は失言しそうになったとばかりに、口を噤む。もう手遅れだぞ。
完全に誤解されているし不名誉ではあるが、わざわざ正す意味も無い。
が、このままこの会話を続けるのも不快だな。そう思って俺はさっさと会計を済ませようとレジに向かう素振りを見せる。
綾小路はそんな俺の意図を汲んでか汲まずか、自然な様子で「そういえば」と話題を変えた。
「知ってるか?最近、クラスであった話なんだが」
他愛のない軽口の応酬から一転、少しだけ真剣みを帯びた声色に、俺も意識を切り替える。
それに応えるように、綾小路は言葉を続けた。
「Cクラスの龍園ってやつが、うちのクラスの女子に接触しているらしい」
「……へえ」
興味をそそられ、俺は綾小路に顔を向ける。
「目的はなに?」
「ポイントをやるから、Dクラスの情報を流せ、とか言ってるらしい。要はスパイの勧誘だな」
「……ふうん」
スパイの勧誘か。"らしい"な。
暴力と恐怖で自クラスを支配し、他クラスへの妨害工作も躊躇なく行う男。その龍園が、最も手懐けやすいであろうDクラスの、それもポイントに困窮しやすい女子に狙いを定めるのは当然の戦略と言える。
「誰が声を掛けられたんだ?」
「割と手当たり次第らしいぞ。あ、でも堀北とか櫛田は、取り巻きじゃなく龍園から直接声を掛けられたと言っていたな」
クラスの中心人物である二人には、直接揺さぶりをかけてきた、か。割と本気で勧誘している面子という事かな。
特に櫛田は交友関係が広い。彼女を切り崩せれば、得られる情報は大きいと判断したのだろう。
というか実際、原作だとスパイしてるしな。
「で、誰かその誘いを受けたか?」
「さあな」
綾小路は肩をすくめる。
「受け入れたとしても、自分から『スパイになりました』なんて言う奴はいないだろう」
「そりゃそうだ」
それはそう。
だが、重要なのはそこじゃない。
龍園のその提案は、Dクラスの女子全員に植え付けられた時限爆弾のようなものだ。
これから先、どこかでポイントに困った時。
クラスの内情をリークしてポイントを貰うという選択肢が、常に彼女たちの頭の片隅にチラつくことになる。
そして一度芽生えたその考えは、事が起こるまで誰にも分かりようがない。実に嫌らしいアプローチだ。
……それで言うと、同時に別のこともチラつくかもしれないが。
もうすぐ7月になる。1学期の終わりが近付き、夏休みが見えてくる頃。同時に、女子生徒たちの危機感が否応なく高まるタイミングだ。
ーーここぞとばかりに、ハイエナのような上級生が動き出す時期になる。
『プロテクトに必要なポイントを渡すから』と、本来のMODの相場より遥かに安い値段で奉仕させようとするのだ。
初期の風紀がまだ緩くなっていないタイミングで、そんな取引が通ることはまず無い。
だが、試走のたびにそういう輩は毎回必ず出現していた。きっと、過去にはそれで上手く言いくるめられ、引っ掛かってしまう女子生徒が少なからず居たのだろう。
そしてこれも龍園の策のように、後々の交渉への布石となる。選択肢が、頭の中に与えられてしまうのだ。
龍園の勧誘、そして上級生からの性交渉。
だんだんと、この制度に適するよう外堀が埋められていくような感覚。
いい流れだな。
「……女子は大変だな」
不意に、隣の綾小路が薬局の外を歩く女子生徒たちを眺めながら、ぽつりと呟いた。
その声には、同情とも単なる感想ともつかない、奇妙な平坦さがある。元々そんな抑揚の無い喋り方ではあるが、これは表現するならーー
「他人事だな」
そう言うと、綾小路は視線を俺に戻した。
「それはお前もだと思うが」
「そう?」
俺は訝しげに返す。綾小路は構わずに続けた。
「前の須藤の時も、クラスポイントが0になった時も、お前は冷静に見えたからな。例の制度について分かってからもそうだった。だから、あまりクラスに興味は無いのかと思っていたんだが、違うのか?」
そう言って、綾小路は俺の目を見てそう問い掛けてくる。
静かな、鋭い観察眼。
普段はぼんやりと、周囲の事を気にしているのか気にしていないのかもよく分からない様子だがーーこう見えて、実質このゲームのラスボスである。
まあ、それくらいは見ているよな。
怪しまれない程度に考え、当たり障りのない答えを返す。
「人並みの関心はあるよ。まあ、あんまり気にしてないのはそうかもな。俺に実害無いし、騒いだってポイント増えないし」
「そういう考え方もあるか」
綾小路は納得したように頷く。
そこで彼は、まるで今思い出したかのように自然な口調で続けた。
「そういえば、お前の言う『人並みの関心』についてなんだが。あの時――須藤の件で、なんでお前はあれだけのポイントを払ったんだ? いや、そもそも…」
綾小路はそこで一度言葉を切り、いまいち感情の見えない瞳で、まっすぐに俺の目を見据えた。
「――どうやって、それだけのポイントを手に入れたんだ?」
唐突な、しかし核心を突く質問だった。
俺はレジに向かう素振りをやめ、彼に向き直る。
「……興味ある?」
「ただの興味だ。単純に方法が分からないからな。もし良い手段があるなら、多分皆知りたいんじゃないか?」
俺の問いに、綾小路は首を振って答える。
だが、そこで会話を終了する事はなく、黙ってこちらを見てくる。俺の返答を待っているらしい。
「その方法を聞いて、お前はどうすんの?」
少し意地悪く綾小路に聞いてみた。
綾小路は、少しだけ驚いたように目を見開く。
この学園におけるポイント、特に今の体制下でのそれの価値は、外の世界のそれと等価ではない。それを手に入れた方法を尋ねるというのは、そいつの手の内を晒せと言っているようなものだ。
そんな質問をしたのだと気がつきーーいや、元々気がついていた上で敢えて踏み込んでみたのだろうが、綾小路は俺の返答に対して、口元に手を当てて考え込む素振りを見せる。
「…いや、確かに探るような質問だったな。悪かったな、変なことを聞いた」
そう言って、綾小路は質問を撤回する。
その様子からは、特に俺の返答を聞いて不信感を強めた印象はない。単純に俺の立場を考慮して、それ以上踏み込むべきではないと考えたのだろう。
それを見て、大丈夫だと判断して口を開いた。
「上級生がくれたんだよ」
「……くれた?」
「そう。親切な先輩がね」
綾小路は、普段の無表情を崩してやや困惑したような表情を見せる。
話の流れを断ち切って打ち明けたのが、まるで意味の無い嘘っぱちとしか思えない内容だったからだろう。
「……それ、本当にくれたのか?」
「そうだけど?」
「脅したとかじゃなく?」
「違うな。同意の上だよ」
なかなか失礼な事を言うな。まあ当然だけど。
綾小路は俺の言葉をそのまま信じた訳ではないだろうが、それでも考慮すべきとは考えたのか、少し考え込む様子を見せる。そして少ししてから口を開いた。
「何か勝負をして勝ったから、ポイントを得たとかか?」
「おー、まあそんな感じ」
間違ってはいない。
俺は綾小路の質問に肯定しーーそれに得心がいったように綾小路が頷く。
が、それはそれとして呆れを招いたみたいだった。彼は俺に、やや呆れたような口調で返してくる。
「リスクが高い事をするんだな。失敗したら、逆にポイントが取られてたんじゃないか?」
「?そりゃそうだろ」
多分綾小路は俺がギャンブルか何かをしたのだと思っているのだろう。
が、最初の先輩の勧誘、その後の売春斡旋の展開など、失敗していたら赤字となっていたのは想像に難くない。
嘘はついていないしーーそもそも、何かを得ようとした時、失敗したら逆に何かを失うのは当たり前の事だ。そんな事綾小路も分かっていると思うが。
その疑問を込めて返答し、視線があった綾小路はやや瞠目してからため息をつく。
「……なるほどな。なんとなく、お前がどういうやつか分かった気がする」
「?そんな変なこと言ったか」
綾小路は「そうだな」と返し、それ以上の質問をしてくる様子はない。が、それは納得したからというよりも、どこかどうしようもないやつを見るような色が自然に含まれているような気がする。
なんでだよ。
そんなこんなで世間話をしていると、まあ店内が狭い事もあり、いつの間にかレジに辿り着いていた。
特別俺に用事があった訳でも無さそうな綾小路はーーそもそもレジまで着いてきてた事自体謎だが、「じゃあな」と言い残し去っていった。
生返事を返し、会計を済ませて薬局を出る。
チラリと見ると、綾小路はまだ店内のどこかで商品を眺めているようだった。
ーーまだ、特別俺を怪しんでるとかではなさそうだ。
現時点でそこまで恐れていたわけではないが、その確認が出来て僅かに安堵する。
実のところ、今後俺がやりたい事をやりたいようにしていくにあたり、一番障害となるのは綾小路だ。
原作主人公であり、ラスボス。
あいつに警戒され、潰さなくてはならない存在だと判断された場合、その時点で対抗出来る術を持っていなければ退学させられる。
特別敵対したり、クラス闘争においてよっぽど悪影響を齎さなければ最悪の事態にはならないがーー常に念頭には置いておかなくてはならないだろう。いや、厳密には綾小路以外にも、同学年なら龍園や坂柳あたりも俺を終わらせる条件を備えているのだが。
まあ、追々どうにかすればいいや。
ひとまずは、次の目標に集中していこう。
とは言え、クラスの男女間の問題が先だが。