ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
放課後。日が暮れ、天井の光源のみとなった学生寮の廊下を歩き、鍵を開けて自分の寮へ入る。そして廊下を渡り、部屋のドアを開けて中に入った。
一歩足を踏み入れ――むわっとした熱気が肌を撫でた。
閉め切った部屋にこもった汗の匂い。
だがそれは、剣道部の部室で嗅ぐ汗臭さや、男子更衣室のそれとは全く異なる。どこか甘く、それでいて倒錯的な、女の匂いだった。
その匂いの源泉となっているのは、俺のベッドに横たわる女、櫛田桔梗だ。
机の近くに荷物を置き、ベッドの脇から櫛田を見下ろす。
櫛田は今、俺が用意した拘束具に身を包んでいた。
一応服は着ている。が、それはもはや服ではなく、拘束具のパーツとして彼女の身体を縛り付けるものだ。
足には膝上まである、身体のラインに吸い付くような黒いラバー製のブーツ。
それは両膝の金具で黒い一本の棒に連結され、彼女の脚を無防備に広げたまま固定している。さらに太もものベルトが胴体部分へと繋がり、全体として、M字開脚と呼ばれる体勢を強制していた。
胴体の服も、ブーツと同じく黒く鈍い光を放つラバー製だ。
形状はスクール水着に近いか。だが首元から股下までを貫く一本のチャックは全開にされ、その意味を成していない。
たわわな双丘が窮屈な衣装を左右に押し広げ、逆に衣装の張力によって谷間へと深く寄せられている。そもそもが櫛田のサイズより小さいものである為、その豊かな膨らみははち切れんばかりに強調されていた。
両腕にも肘まである黒いラバー製の手袋がつけられ、手首の金具で頭上のベッドフレームに固定されている。脇を完全に晒したまま、彼女は腕一本動かせない状態だ。
結果的に、櫛田は俺のベッドの上で、M字開脚のまま、自分では殆ど身動きが取れない状態で固定されていた。
「んぐぅぅぅぅぅ……ぅう゛…あ゛…」
櫛田が喉の奥から、何かを必死に堪えるような長い唸り声を上げる。しかし、その声はくぐもっていて、明瞭な言葉にはなっていない。
それは、更に彼女の顔に取り付けられた物による影響だ。
櫛田の顔は、今ほとんどが同素材の黒いラバー製のマスクで覆われている。
目隠しと、鼻から顎までを包むマスクが一体化したそれは、口元から伸びる管と合わせてさながらスレンダーな酸素マスクのような異様な外観を呈していた。
今はしていないが、これは気体の薬品を継続して投与するための物だ。
「んぅぅぅ…っ、く…ぅ、お゛お゛ぉ、お゛ぉぉぉっ…!」
そんな顔全体を覆う黒いマスクの下部、つまり顎の隙間からは、透明な粘稠性の液体が絶え間なく溢れ出ていた。櫛田の涎だ。
今なお途切れることなく続く嬌声から察するに、口を閉じることができず、垂れ流し続けているのだろう。それは櫛田の顎から首、鎖骨へと流れ落ち、その下の枕に小さな水溜りを作っていた。
更に全身から噴き出た汗と、その他の様々な体液が、ベッドのシーツをぐっしょりと濡らして濃い色のシミを広げている。俺のベッドは、最早濡れていないところを探した方が早い状態だ。
身体を震わせる櫛田を見下ろす。
彼女の局部には、俺が取り付けた様々な器具が装着され、それぞれがくぐもった低い振動音を立てている。
その単調な機械音と、振動と呼応して液体が飛び散る湿った濁音、そして彼女の喉から漏れる押し殺した声が、部屋の中で奇妙なハーモニーを奏でている。
ASMRと言ってもいい。録音して売れば稼げるかな。
俺はおもむろに櫛田の目隠し部分だけを外した。
覆われていた下の肌が外気に晒される。そこは汗でテカテカと光を反射し、僅かに見える頬は熟した果実のように赤く染まっていた。
「元気か?」
俺が声をかけるが、彼女からの返事はない。
ただ、それまで漏れ聞こえていた荒い息遣いが、一瞬だけ、喉の奥から絞り出すような苦しげな呻き声に変わっただけだ。
「んぐぅぅぅぅ…ぅ、ぅう゛…」
櫛田はずっと耐えるように目を瞑っている。
これは多分、目隠しが外れたことすら気付いていないな。
俺はリモコンを操作し、全ての機械の振動を緩める。
ブブブブという電子音が小さくなり、部屋が僅かながら静寂を取り戻した。
俺はベッドに近づき、マスクの金具も外した。それを首元に下ろす形で外し――どろりと大量の唾液が、マスクの内側と開かれた口内からそれぞれ溢れ出す。
櫛田はそこでようやく俺の存在に気がついたのだろう。息も絶え絶えに呼吸をしながら、目を開いてこちらへ朦朧とした視線だけを向けた。
「はぁっ、はぁ、はぁ…っ、ひぅ、ぅ…! さ、斉藤…くん…? も、もどって…きた、の…?」
「ただいま。どんな感じ?」
俺の問いに、櫛田は懇願するように、震える声で訴えかけてきた。
「お゛、おねが…ぃ…、と、め"て…っ、お゛ぉぉぉ…! …こ、の…きか、ぃ…、ずぅぅぅっと、は…んぐ、ぅう゛…! …も、もう…たえ、られな…ぃぃぃ…!」
俺は彼女の訴えを無視し、再びリモコンのスイッチを入れた。振動がさっきよりも少しだけ強く、そして深く、彼女の身体を襲う。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁッ!?んぁああああッ! な、なんで…っ、お゛ぉぉっ…!?…っふぅぅぅぅぅ…! お゛お゛ぉ、お゛ぉぉぉっ…!? や、やだぁっ…!」
悲鳴と嬌声の入り混じった声。
快楽に思考をめちゃくちゃにされながら、彼女は俺の無慈悲な仕打ちに喘ぐ。
俺は、そんな櫛田にもう一度、同じ質問を繰り返した。
「どんな、感じ?」
櫛田は喘ぎながら、必死に言葉を紡ぐ。
「…っ、ず、と…おな、じのが…つづ、ぃて…っ、お゛ぉぉぉっ…! も、もどれ、なくて…っ、ぁぁ…! つ、つぎが…くるから…っ、お゛、ぉおお゛お゛ぉっ…!」
「強さは? 何回くらいイった?」
「わ、わかんな…ぃよぉぉ…! かぞえ、て、らんないぃぃ…っ、お゛ぉっ…!?」
リモコンを見る。今の強さは大体中くらい。
今の櫛田は、この何週間かのブートキャンプで既にほぼ全身の性感帯が半分以上開発され、部位によってはかなり上限近くまでレベルが上げられている。その状態だと、この強さでもひたすらイき続けるらしい。
割と刺激は強いか。最初の頃だと、むしろ痛いくらいかもしれないな。
「おねが、い…どめ、でぇぇ…っ、ふぅ、ぅう゛ぅぅ…」
懇願する櫛田を無視し、俺は机の上のペットボトルの水を一口飲む。
そして彼女に問い掛けた。
「そういえば、聞きたいことがあるんだけど」
喘ぎながら、櫛田は「…な、に…?」と、か細く返す。
「池とのことだけど、そっちは今のどんな感じ?」
「………っ、え?」
櫛田は虚を突かれたように、一瞬だけ喘ぎを忘れた。
「あいつ、教室でもお前に夢中で見てて楽しそうだけど。仲良くやってる感じ?」
「なっ…! あ"、あいつの話なんて…なんで今…っ、お゛、お゛ぉぉぉっ…!」
俺が重ねて問いかけると、櫛田はそれに激しく首を振って噛み付くように反論しようとする。
が、リモコンの強度を上げると、彼女はびくりと身体を震わせ、同じく途切れ途えに、しかし今度は深い濁音の混じった声で報告を始めた。
「う゛ぅ…っ、さ、いあく…だよぉ…っ、お゛お゛ぉっ…! お゛っ…!?」
「最悪。どんな感じに?」
「ま、いにち…ま、いにち…でーと、さそって、きて…っ、はぁ、はぁっ…! でーと、だって…ポイント、かかるし…それ、なのに…『なら、俺の、部屋はどう』とか…! キモ、すぎるし…あ゛ぁぁぁぁ、う"…! なれなれ、しく…『桔梗ちゃん』って…う゛ぅぅぅぅ…!」
ふむ。
なるほど、だいぶプラトニックだな。
「まだヤってないんだ」
その言葉に、櫛田は今までで一番の怒りと侮蔑を込めて、目を剥いて叫んだ。
「やるわけないでしょ、あのバカとぉっ―――お゛ぉぉお゛お゛お゛お゛ぉぉぉっ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁッッ!!!?」
俺は、彼女の癇癪を黙らせるため、リモコンの出力を最大にした。
彼女の絶叫は、もはや言葉にならない、純粋な快楽の悲鳴へと変わる。
そしてある程度櫛田を責め、彼女がぐったりと喘ぐだけになった後、俺は再び尋ねた。
「じゃあ今のところ、池とやったのはデートだけか」
「…それだけって…っ、はぁ、はぁ…! 他の、皆からの…疑問とか、男子達との…関係の調整とか…う゛ぅぅぅ…! 死ぬ程、大変なんだけど…っ!」
まあ、それはそう。
だが櫛田に求めていた役割はそこではない。
というか今のままなら、櫛田のクラスのアイドルという役回りを翳らせているだけだ。今の立場を活かし、当初の想定通りに彼女をクラスの救世主にする必要がある。
「……っん"!?っちょっ、な"っに、弄って、あっ!?っん、やめ"」
手遊びのように櫛田の胸の突起を指で弄る。
手のひらで膨らみを掴み、指でコリコリと乳首だけを刺激すると、面白いように櫛田が喘いだ。
櫛田はあまり性感帯の特性に偏りは無いが、その中では胸のレベルは上がりやすい方だからな。今となっては、不用意に擦れただけで身体が反応するレベルになっている。
それはさておき、今は櫛田の運用についてだ。
櫛田の乳首をコリコリと弄り続けながら、櫛田の嬌声をBGMに暫し考え込む。
櫛田が池と付き合ってからもう1週間は経っている。更に1週間と少し経てば期末試験、そして7月が始まる。
もともとこの歪な関係を利用する前提で突き合わせたのだ。そのまま嫌々やっているだけではどうにもならないのは、彼女も薄々分かっているだろう。何だったら自分で池を利用する発想に至るかと期待していたが、あまりの嫌悪感にそんな余裕はなかったか。
やっぱり今日、呼んでおいてよかったな。
「じゃあ少し話を変えるが、池とポイントの話とかはしたか?」
俺がそう聞くと、櫛田は何を言われているのかピンときていないような反応をした。
「はぁ……っん、くぅ…! …く、らすの…みんなの、ポイントは…たり、ない…けど…っ、お゛、ぉぉ…! …それを、池くん、と…はなして…ど、どうするの…っん"ぅ…!?」
あんまりピンと来ていないな。
嗜めるように、俺は櫛田の乳首を口に含み、舌でレロレロと舐め弾いた。
「ひゃうっ!? …っ、い、や…! な、なに…して…っん、んぐ…! な、なんで…そこ、ばっか…り…あ゛ぁ…!」
ビクビクと震わせながら櫛田は胸を反らす。その膨らみを手で押さえつけ、舌の先で突起をしごく。
櫛田の喘ぎが言葉にならなくなったあたりで口を離し、俺の唾液に濡れて硬くなったそこを、再び指でこねくり回しながら説明を再開した。
「その話もある意味では正解だけど、まずはそこじゃないね。お前個人へのポイント融資のお願いとか、逆に『俺が払ってやる』みたいな提案とか、そういう話はしてないの、って話」
「はぁ……っう"、ふぅぅ…わ、私のポ、ポイ…んとぉ…? んっ…! な、なんで…い゛、ぅ…」
「いや、お前のプロテクト用のポイントが要るだろ」
「………え……? はっ、ぁ…っ、ひぅ…?」
櫛田は息を弾ませながらも、ギョッとしたようにこちらを見る。
ん、なんだその反応――あ、そういうことか。
「あー、悪い、そうだよな。いや、お前への申請は防ぐよ。全部拒否するから安心しろ」
俺がそう注釈を付けると、櫛田は分かりやすく胸を撫で下ろした。腕は拘束されているから比喩だが、安堵したのが見て取れる。
代わりに俺が彼女の胸をわしわしと撫でておいた。櫛田は喘いだ。
一つ一つ説明を始めた。
「いいか。お前への申請は俺が拒否するが、その事は俺とお前しか知らない。というか、そもそも『交際制度』自体、まだほぼ誰も知らないんじゃないか?」
「…ぅ、ん…たぶん…、はぁ、はぁ…っ…」
「だから何もしなければ、お前は来月にはどっさりと申請が届く――と、思われてるだろうな。だから実態はともかく、プロテクトはしたフリをしないと辻褄が合わない」
「…んっ、んぅぅ…!」
「そして、お前は池と『交際』契約を結ぶことはできない。常に維持できるのは一人だけだ、俺が解消しない限りな」
そこまで言って、俺は指の動きを止める。
コリコリと触れる感触は俺自身少しクセになってきていたが、櫛田が喘ぎすぎてちゃんと話を聞き取っているのか疑問だったからだ。
彼女が少し息を落ち着けるのを待って、問い掛ける。
「で、実際、今5万ポイントとか出せるのか?」
胸を弄られながらではあったが、櫛田は内容は聞き取っていたらしい。
俺の質問に、ゆっくりと瞼を開き、俺に視線を向ける。
「…いち、おうは…ある、けど…っ」
息をやや荒げながら、彼女はそう答えた。それに俺は頷く。
「そうか、じゃあお前については大丈夫だな。で、クラスの女子の方は? 策は見つかったか?」
その質問には、櫛田は汗と疲労でぐったりとした顔に、やや呆れと諦めを滲ませて答えた。
「…見つかる、わけないでしょ…」
そうか。
まあ、当たり前か。
Dクラスにはポイントは無い。
いくらポイントの価値が原作より上がったこの環境とはいえ、既に使い切ったものを節約する事は出来ない。
きっと今頃、女子たちの間ではポイントをどうにか借りられないかという相談が蔓延しているだろう。なりふり構わず、プロテクト費用を集めようとしているはずだ。
それでも尚、不可能。
5月の時点で、軽井沢のような遊び呆けていた連中は火の車だったのだ。そこから5万を捻出するなどできるわけがない。
俺はリモコンのスイッチを完全にオフにした。
ビブブブ、と液体を弾きながら響いていた低い機械音が止み、櫛田の荒い息遣いも次第に収まっていく。そして彼女が思考できるだけの猶予を与えてから、口を開いた。
「――解決策はある」
櫛田の目を見てそう告げる。
「え?」
と、櫛田はぽかんとこちらを見上げた。
そんな櫛田に、「いいか」と前置きして話す。
「俺たちクラスの男子に協力を仰ぐんだよ。『私たちを守る為にポイントを協力してください』ってな」
その言葉に、櫛田は途端に失望したように首を振る。
そんなことか、とでも言いたげな顔だ。
「…もう、したよ。でも無理だった。男子達にとっては他人事なんだもん。その為にポイントを寄付なんて、してくれるわけない…」
「でも、例外はいただろ」
俺が口を挟むと、今度こそ櫛田は力なく苦笑して首を振った。
「…平田くんのこと? 平田くんは他の男子とは別だよ。第一、状況も違うし」
確かに平田は別格だ。
俺たちDクラス男子はただでさえバラバラだが、こと協調性という面では彼が明らかに突出している。
が、櫛田の言う"状況"は話が違う。
「でも、平田に近い立場になった奴もいるよな」
「え?」
櫛田が疑問を漏らす。
そこへ、答えを返す。
「池がいるだろ」
「……は?」
櫛田は、馬鹿なことを言うな、とでも言いたげな顔でこちらを見る。
俺は構わず続けた。
「可愛くて可愛くて仕方ない"彼女"が、あと少しで誰かも知らないやつらに好き放題されるかもしれないんだぞ。死ぬ気で守ろうとするだろ。あいつも、根は悪い奴じゃないしな」
俺の言葉に、櫛田は「いやいや…」と首を振る。
「私はプロテクトあるし…それに、あいつそもそも全然気付いてすらないよ。第一あいつがポイント持ってると思う?」
いや、気づいているかは関係無い。
なんなら俺から伝えるし、そうなればアイツは櫛田が他の輩に犯される姿を想像して勝手に発狂するだろう。むしろほとんど念頭に無い状態の方が、俺には都合がいい。
だから問題は、肝心要のーーポイントの話だ。
そう、池はポイントがない。
だから、どれだけそうしたいと思っても、櫛田を自分の力では守れない。
だが、そうしたら池は諦めるのか?
いや、それはない。
そうなったら、あいつの性格、これまでの行動――そして何より試走での傾向から、取る手はほぼ一択だ。
――他の男子に、助けを求める。
単純に、それしか手段はないからだ。
「お前は"櫛田桔梗"として、自分のプロテクト分のポイントも、他のクラスメイトの女子のために使うと宣言しろ。そうすれば、池はきっと必死に男子達に頼み込むようになる」
俺がそう言うと、櫛田は「え…?」と、呆然と呟いた。その口の端は、やや引き攣った笑みを浮かべている。
そこまで自分の身を犠牲にしてポイントを捧げるなんて、とんでもない、という表情だろうか。
「あ、それと、昨日俺から平田へ話は通しておいたから。改めて男子達に協力を仰げって」
立て続けに言葉を挟むと、櫛田は明らかに困惑した表情になった。俺の意図を測りかねているのだろう。
確かに、その効果は想像しにくいよな。
昨日、平田を呼びつけた。
久しぶりに話した平田は今、目の前に迫る男女間の関係崩壊に、限界が見え隠れしている状態だった。
そんなところへ俺が自発的に協力の姿勢を見せたからだろう、えらく感謝された。平田自身あまり効果があるとは思えていない様子だったが、「改めて呼びかけてみるよ」と確約してくれた。
あとは明日、池に「櫛田の末路」という起爆剤を与えるだけだ。
こういうのは切羽詰まれば切羽詰まるほどいい。平田は迫真の懇願をするだろうし、櫛田の危機を伝えられた直後の池は、死ぬ気で助けを求めるだろう。
これで、女子の危機に対して傍観者であり続けた男子達の心も、流石に多少は動く。ーー高円寺などを除いては、だけど。
ただ、多少心が動いたからといってポイント寄付をしてくれる訳はない。というかそもそも、女子全員のプロテクトなんてDクラス男子の全財産をかき集めても足りない。
だから当然、追加で更なる飛び道具を用意している。
俺はスマホを弄り、自分で纏めた資料データを櫛田のスマホへ送信する。
突然、通知音が連続で鳴り出したことで、櫛田は肩をビクッと震わせて自身のスマホの画面を見た。そこに表示された名前が全て俺からのメッセージだと気がつき、訝しむようにこちらを見る。
そんな櫛田の頭を撫で、伝える。
「平田が開く男子達の話し合いの場に、お前がこのデータを持って参加しろ」
「え…? こ、これ、何のデータなの…?」
俺は答える。
「これは、過去の7月の『性交渉』のデータだ」
俺がコンタクトを取れる先輩達の持つ、7月の性交渉のデータ。
聴取した分も含めてだが、それが正しいかどうかは適当に上の先輩へ聞いてみれば分かることだ。直ぐにこの内容が正しいと分かるだろう。
肝心の内容は何か。
それは――
「お前たちの、来月の末路だよ」
俺は自分のスマホの画面を見せつける。それを見て、櫛田は絶句した。
俺は、淡々と説明を続けた。
「ここ何年か、七月初めには必ず『絨毯爆撃』が起こっている」
例外はない。
なぜなら、その有用性を確認した存在が、上の学年に常に存在するからだ。
「上級生、同級生…特に龍園みたいなのがいる年は更にだな。誰がプロテクトしてないか調べるために、手当たり次第に安い『セクハラ』くらいの申請を送ってくる。そして毎年、これが男女間に致命的な亀裂を入れている」
その言葉の持つ意味を理解したのか、櫛田の顔から血の気が引いていく。
「標的は全クラスだが、被害は圧倒的にDクラスだ。当たり前だよな、ポイントが無いんだから」
黙り込む櫛田を見下ろし、言葉をかける。
「だから対策する」
「――え」
できるの? とでも言いたげに、櫛田は見上げてくる。それに頷き、何となく彼女の頭を撫でながら、一つ一つ説明する。
「爆撃の被害を食い止めるには、まずクラス内の人気上位の女子、つまり標的になりやすい子を絶対にプロテクトする。次に、あぶれた中でどうしても標的にされてしまうやつらを守る為の資金を確保する」
まずは守らなくてはならない人数の目安をつける。
プロテクトが絶対に必要なのは、上位の6-7名程度。これはいちいちポイントで守ると舐められるから――そしてそもそも採算が取れないくらい『爆撃』されるためだ。
あとは、一つ一つの申請は小さな額で行われるから、チマチマと現れる不運な女子を守れば最低限の支出で済む。勿論ポイントで申請を却下すれば、その情報が回り味を占めた輩が再び申請してくる場合も考えられる。だからタイミングはどうであれ複数の申請が来たものは、その瞬間にプロテクトを行う対応は必要となる。
そもそもハリボテの虚仮威し、まるで全員が守られているように錯覚させるという戦法だが、要はバレなければいいのだ。
そうした対策を踏まえれば、結果的に全員をカバーした上で充分に守る算段がつく。
とはいえそれは簡単な話ではない。
ここで要求されるのは、的確に予めプロテクトが必要となる人気上位の女子を予測する事だ。それを外せば、逆に無駄なポイント消費が発生してしまう。
じゃあ、その上位だのなんだのはどう探せばいいのか。これは学力順等の分かりやすい序列ではない。
ーーヤリたいかヤリたくないか、だ。
それをある程度正確に把握しないと、最低限の支出は期待できない。
その為に必要なのは――
「男子だろ」
男子に協力してもらって、誰が狙われそうかの『リスクリスト』を作らせればいい。
女子からすればキモいだろうが――これを頼むのは櫛田個人からだ。
具体的な話し合いの内容だのを知らなければ、他の女子からすれば、ただ男子が知恵を絞って自分たちを守る為に考えてくれただけ。感謝こそされど、嫌悪まで抱く者は少ない。
「これが上手くやれれば、要求されるポイントは元々の想定の三分の一程度になる」
どうだ、と俺は櫛田に語りかける。
「――必死に男女で協力すれば、ギリギリで手が届きそうだろ」
櫛田は呆然としていた。
だがそんな状態でも、頭の中で必死にポイントの勘定をしているのだろう。徐々に、その目に力が宿っていくのが分かった。
「この過去の事例と必要ポイントの目安、そして対策については、お前から平田へ、そして男子達へ伝えろ」
最後の仕上げ。
この手柄は、全て櫛田のものとする。
これで櫛田の地位が確立する。
ポイント危機を誰よりも最初に気付いて動き出し、実際に対策法を見つけて男子との橋渡し役となった。
そして、見るものが見れば明らかに分かるほど無理して池と付き合い、その池が必死に櫛田を守る為に男子達へ協力を呼びかける姿を見て、更に要求するポイントが集まらない限り自分のプロテクトはしないと宣言する事で、それすら私心を捨てて自分たちを守る為の行動だったと、クラスメイト達は気がつくだろう。
救世主の完成だ。このDクラスの女王は、軽井沢でも堀北でもなく、櫛田一強となる。
そして櫛田には言わないが、ここから更にテコ入れをする。
池にはもう一仕事してもらう必要がある。
櫛田は、他の女子の分が揃わないとプロテクトしない、と言っている。
クラス用のポイントが集まらず、櫛田が好き放題犯される未来を恐れて、池は必死に他の男子に頭を下げるだろう。その姿と、平田の献身は、きっと他の男子の心に響く。
そして充分に焚き付けた後、池が焦りきったタイミングで、俺が助言をしてやるのだ。
「プロテクトは、男子から勝手にすることもできる」と。
それを聞いた池は、櫛田のための5万ポイントを集めようとするはずだ。
そこへ、俺がポイントを貸してやる。
泣きのポイントだと。でもこれを俺からやるのは間違っているから、彼氏のお前からやってやれと。
池は感謝するだろう。だがその経緯から、俺から貰ったとは誰にも言わないはずだ。
そもそも勝手に櫛田の分をプロテクトしたことすら、櫛田以外には言わないかもしれない。
これで池には貸しが作れ、同時に、足りなかった時に櫛田が交渉を受けていない理由付けも出来る。
さて。
こうして七月の絨毯爆撃を、男女で乗り切ることになる。
こういうのは、きっかけがいる。
人間誰しも少なからず善性は持っている。が、自身を犠牲にしてまで与えられる者は少ないだけだ。
だからこそのきっかけ。
櫛田を守るため。
女子からの信頼を勝ち取るため。
そして、どうせ後1週間耐えれば一万円が支給されるという逃げ道。
これらの"言い訳"が集まる絶好のタイミングが、今からの一週間だ。
櫛田には、女子たちのヒーローに。
池には、櫛田を救うヒーローに。
そして男子達には、女子達を救うヒーローになるための努力をしてもらう。
そうすれば、男女間のわだかまりが、少しは解消されるかもしれない。
まあ、目論見通りポイントが集まれば、の話だが。
それはまあ、頑張ってくれ。
最悪、俺のポケットマネーから櫛田を介して渡すけど。