ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
7月2日の一件で、今の1年生のクラス間のパワーバランスが半ば判明した。
Aクラスが殆ど流れを掌握していると言っていい。
余裕の差はあれど、各クラスの動きは二極化した。
即ち自身のクラスを守るか、他のクラスを攻めるかだ。
当然ながらDクラスは守りで、Bクラスも同じく。ただその中身は異なり、Bクラスはポイントの余力からほぼ完全にプロテクトで守り、逆に俺たちはハリボテの虚勢で守っている。
対してCクラスは、他クラスを攻め落とす為の機会とする事を選んだ。
貯めたポイントを、スパイの買収の為の資金としている。これは龍園による圧倒的な統制力にものを言わせて、長期的にクラスとして利益にした形だ。
メンタルの事を考えないなら、そりゃ一番ポイントも情報も手に入る。士気は地に落ちるだろうが、はなからクラスメイトを信頼していない龍園にとっては関係無いのかもな。
ーーまあ、そもそもあんな舐められた行為をされて、龍園が黙っているなんてさらさら思えないが。
あれは謂わばベイトだろうな。
それはさておき、最後にAクラスだが。
どちらも選んだ。
ポイントの余裕にモノを言わせたプロテクト、そこへ橋本が呼びかけた買収作戦だ。
そりゃ、どっちも出来るなら最強だ。今月はまだその手を取るものはいないだろうが、連続でプロテクトし続けられるポイントを持つ女子がどれだけいることか。
どこかで破綻が来るのは確実で、その際に取れる手段は先に提示すればする程いい。単純な既得権益の概念だ。
が、これは明らかにおかしい。
いかにAクラスといえど、そこまでポイントに余裕がある筈がない。
これを実現させたのはーーおそらく坂柳の個人資産だ。
坂柳有栖が葛城と"決闘"とやらを行い、負けた一件。
これがおそらくそのタネの筈だ。
きっと何かしら上手い事やり、ポイントを稼いだのだろう。クラスの派閥争いで一時的に風評を汚すことと引き換えに、それ以上の利益を得た。
その資金力を背景に、彼女は早くもBクラスやCクラスへの介入を始めている。7月のプロテクト問題で喘ぐ下位クラスに「援助」という名の首輪をつけ、学年全体に影響力を行使しようとしているのだ。
葛城派にとっても、油断していたところをブン殴られた気持ちなのではないだろうか。いや、実際に葛城派に聞いたからわかる。
既に坂柳が一歩抜き返した扱いのようだった。
ちなみに俺たちDクラスと比較すると、とても悲しい気持ちになる。
俺達はようやく内紛を収め、男女間の協力体制を築き始めたばかり。しかもそれもかなり脆い結束だ。あまりにもウェイトに差がありすぎる。
「しんどい」
とてもしんどい状況だ。
だから俺はこのタイミングで、心を鬼にして作戦を決行する。
クラスの為に仕方なく。本当に仕方なくやる事だ。
現在俺は、とある女子トイレの一つの便座に座っていた。
このトイレの唯一の洋式便所に、ズボンを履いたまま座っている。
なんと、かれこれ7時間程度。
朝っぱらの始業前から忍び込み、ここを俺の専用個室としていた。
「しんどい」
長時間この硬い便座に座っているせいで、足が痺れて感覚がなくなってきた。
ごわごわとした着慣れない作業着も蒸れて暑いし、顔につけたマスクのせいで呼吸も少し苦しい。酸素ボンベとつなげて流している為酸素は吸えているが、これは櫛田に付けていた物と同じであり、単純に男の俺には若干サイズも合っておらず顔が痛い。付け始めたのは1時間程度前からだが、かなり限界に近かった。
なんでこんな事をしているのか。
それは、とある一人の少女を心待ちにしているからだ。
俺はスマホを取り出し、時計を確認する。
「……流石にそろそろか」
既に5時限目も半分を越えている。
俺は小さく呟きーーそれに応えるかのように、小さな物音を俺の耳が捉えた。
それは、廊下から聞こえる小さな足音。
足音はこちらに近づいてきてーーガチャリ、とトイレの入り口のドアが開く音がした。
コツ、コツ、と床を叩く硬質な音。そしてそれに重なり、とたとた、という慌ただしい足音がトイレに響く。それは躊躇なく一番奥の個室、つまり俺がいる場所の前まで来てーーぴたりと止まった。
「…っ、人……っ!…」
俺の目と鼻の先。
扉を隔てた向こう側から、焦燥と苦痛の滲む小さな声が聞こえた。
それは普段の彼女からは想像もつかない、余裕のない声だ。
声の主は、俺の2つ隣の個室ーー和式便所のドアを開けた。
人がいると分かっている個室から出来るだけ離した形だが、プライドの高い彼女にとっては充分に屈辱的な状況だろう。
やがて衣擦れの音と共に、音姫が聞こえ始める。だがそれでも誤魔化しきれない、彼女が普段隠しているはずの生々しい音が響き始めた。
さらに、ぎゅるるる、と腹が蠕動する音が響く。そして腹痛の波に耐えるかのような、押し殺した呻き声が聞こえてきた。
「ぅ、う゛ぅ…っ…く…」
その声は、やや幼さの残る、聞き覚えのある声。
坂柳有栖。
時間通り、ターゲットが罠にかかった。
俺はスマホを取り出し、一つの連絡先にメッセージを送る。
近くで待機させていた駒――例のストーカー男が、これから押し車と、鍵付きの大型の荷物入れを持ってここまでやって来る。
怪しまれないように倉庫から持ってくる為、到着まで10分程度はかかる筈だ。
俺は足元に置いていた、ガス噴出機のダイヤルを静かに捻った。シュー、という微かな音が増し、ガスが放出濃度を増す。
念の為俺はマスクを着用し、あまり吸い込まないようにしていた為何ともないがーーこれは、割と即効性のある鎮静作用を持つ代物。
それをジワジワトイレの中に充満させていた。
5時限目が始まる少し前から放出させていた為、この部屋に溜まりうる臨界点は達しているだろう。それを更に少しだけ引き上げる。
空気より重いこのガスは、まず床近くに滞留する。
普通にしていればほぼ影響は無いがーー和式便所で深くしゃがみこみ、腹痛で必死に呼吸を繰り返していれば、嫌でも吸い込むことになる。
つまり、今の坂柳はこれをモロに吸ってしまう。
このガスは、作用の強さもあり匂いもそれなりに強い。
が、腹痛、体調の悪さ、羞恥心。更に自身の出したソレによる悪臭ーー様々な不快感が、彼女の感覚を鈍らせた。
荒い息で腹痛に耐えながら用を足すこと5分強。
ようやく彼女が自身の身体に起きている新たな異変に気づいた頃には、既に手遅れとなっている。
「……ぇ…?」
音姫に混じり、困惑したような、呂律の回っていない声が聞こえてきた。
強烈な眠気に襲われているのだろう。
「…なんで、こんなに…ねむ……」
そして呟きは途中で不自然に途絶える。
カラン、と硬い何かが床に落ちる乾いた音。彼女の杖だろう。
そして続いて、ゴトッと何かが壁に寄りかかるような鈍い音がしたかと思うと、完全な沈黙がトイレの中に訪れた。
ーーさて。
ようやく俺の出番がやって来た。
俺は便座から立ち上がり、念の為そろそろと音を立てないように個室から出る。
そして、坂柳の入っている個室に近づいた。
ーーすぅ、すぅ、という寝息が聞こえる。
成功だ。
俺は曲げてクセを付けた厚紙を取り出し、それを扉の隙間から差し込んでグリグリ押し込む。それでどうにか個室の鍵を横に押し込み、ガチャリと鍵が開く。
そして中に入るとーーそこには、和式便器の前のお世辞にも綺麗とは言えない床に、ぐったりと身を横たえる坂柳の姿があった。
汗で湿った銀色の髪が、人形のように白い額に張り付いている。普段の怜悧な表情は消え失せ、苦痛と弛緩が入り混じった無防備な寝顔を晒していた。
「よっしゃ」
思わずガッツポーズをする。
そしていそいそと自分がつけていたマスクを外し、代わりにそれを坂柳の顔に装着させた。更にマスクと接続されているボンベを、酸素から鎮静薬のものへと取り替えた。
当然"その行為"の最中であった彼女であるが、タイツと下着をずり下ろした剥き出しの下半身は、真っ白なままで汚れは見えない。
身体の下の和式便所の中には、残念ながらブツが見えているものの、そこにはトイレットペーパーの塊も見えている。丁度尻を綺麗にした後で意識を失ったのだろう。
ーーぎゅるぎゅる。
だが、意識を失って横たわる坂柳と身体からは、未だに不穏な蠕動運動の音が聞こえている。
その対策をしよう。
さっきまでいた個室から、一つのアイテムを持ってきた。
それは、医療用のシリコンゴムでできた、拳より少し小さい程度のもの。
いわゆるアナルプラグだ。
それにローションをたっぷりと纏わせ、坂柳の小さな尻の入り口にあてがう。
ぬるり、と抵抗は感じつつも中へ押し込むと、眠っている彼女の身体がびくりと跳ねた。
「んぅぅ…」
坂柳は苦しげな呻き声を上げるがーー起きる気配はない。
手を離しても、彼女の小さな尻の穴はプラグをしっかりと咥え込んでいる。乙女の為詳細は伏せるが、これで事故は起きない筈だ。
「よいしょ」
俺は坂柳の小さな身体を抱え、ゆっくりと立ち上がらせる。
軽い。
しかし、この非力な少女一人を確保するために、随分と手間をかけさせられた。
坂柳有栖という小さな非力な女の子は、正面から攻め落とすのは極めて困難だ。
そもそも彼女は神室をはじめとした護衛を侍らせている。更に夜道での奇襲で捕まえようとしたところで、それ自体は簡単であっても、適当にやればその後彼女は犯人が誰かを特定してくる。
だから、多少考えすぎなくらい痕跡を消して対応しないといけない。
護衛が居らず、俺という存在を推理で辿り着くまでに幾重のカモフラージュを作る必要がある。
俺は、少し移動させて意識のない坂柳を慎重に床に降ろした。
スマホを開き、ストーカー男から『指定場所に配置完了しました』とメッセージがあるのを確認する。
トイレのドアを数ミリだけ開け、外の様子を窺った。
しんと静まり返っている。
ここはプール施設に併設されたトイレだ。
授業中のこの時間、当然ながら利用者はほとんどいない。そもそもAクラスの生徒と教員しかこの施設内に存在せず、今は授業の真っ只中の為人が来る可能性は極めて低いと言っていい。
そしてこのトイレの入り口には監視カメラがないことも、俺自身の目で確認済みだ。
いやそんなところにある訳ないだろと思うだろうが、この学園では、トイレによっては入り口にご丁寧にもカメラが設置されていることがある。酷い学校だ。まあ俺みたいなのが悪さするから付けてるんだろうが。
廊下に誰もいないことを確信し、俺は静かに外へ出た。
目の前に、大きな棚くらいなら運べそうな、一人用の押し車が置かれていた。そしてその上には、鍵付きのゴツい金属製のコンテナが乗っている。人間1人くらいはーー坂柳くらいなら、身体を丸めれば入るサイズだ。
ストーカー男がここに置いて離れてくれたのだ。後で彼には"お礼"を提供しておこう。
ギィ、と重いコンテナの蓋を開け、中に緩衝材となるクッションを敷き詰めていく。その単純作業をしながら、俺は数日前の、とある"仕込み"を思い出していた。
今回の作戦の要は、Aクラスの戸塚弥彦ーー葛城派の忠誠心だけが取り柄の男だった。
数日前、俺の"商売"の顧客として、匿名メッセージで彼にコンタクトを取った。
そしてちゃんと釣られた彼へ、しっかり年頃の男子らしい欲望を満たすサービスを提供した後。担当してくれた先輩を先に下がらせ、顔を隠した状態で俺がその場に現れた。
俺は匿名の「葛城派を支持する上級生」として振る舞い、彼に一つの「ビジネス」を提案する事になる。
端的に言えば、それによって坂柳はこうしてこの時間にこの場所へ現れたという訳だ。
「よい……っしょ」
クッションを敷き終えたコンテナに、坂柳の身体を運び入れる。
彼女の細い手足は、だらりと垂れ下がっていた。その四肢を折り曲げ、体操座りのような体勢に整えて、コンテナの中に積み込んだ。
坂柳はされるがままに寝息を立てながら、体操座りですっぽりとコンテナに収まる。
さて、話を戻すと。
まず俺は、彼の敬愛する葛城の堅実なリーダーシップを賞賛し、坂柳の派手なやり方がいかに葛城の正しさを霞ませているか、という歯がゆさを共有するところから始めた。
案の定、突然の接触に狼狽え警戒していた戸塚の表情は、すぐに悔しさと僅かな共感の色へと変わる。俺が葛城を高く評価していることが明確だった事で、明らかに態度は軟化していた。
単純な男だ。
そしてそこから、坂柳が近々その莫大な個人ポイントを使って他クラスへの影響力を拡大しようとしているという、真実と嘘を織り交ぜた情報を与えた。いや、嘘というよりーーほぼ確信を持った予測か。
これにより、ただでさえ生徒会参加を断られた事で翳りを見せていた葛城の立場が、ますます苦しくなるという危機感を煽る。
ここまでの話で、面白いように戸塚の顔には焦りの色が浮かんでいた。
健気にも葛城の優位を主張する戸塚を宥め、俺は本題を切り出す。
ーー坂柳を一時的に表舞台から退場させる、という作戦について。
簡単なことだよ、と説明する。
彼女は身体が弱い。
少し体調を崩すだけで、しばらくは安静にせざるを得なくなると。
そして、無味無臭の粉末――今回使った即効性の刺激性下剤を彼に差し出した。
戸塚は一度は拒絶した。
彼の忠誠心は、主君である葛城に向いている。彼自身はどうあれ、その正々堂々とした道を踏み外したいとは思わないのだろう。卑怯な策は、最初から受け入れられる事はない。
だがそれは想定通り。
だからこそ、最後の一押しが、彼の純粋な忠誠心とプライドに突き刺さる。
『その通り。葛城くんは、決してこんな策を良しとはしないだろう。彼はとても正しい道を歩む男であり、だから僕も支持しているのだから』と、俺は一度、彼の正義感を肯定した。
そしてこう続ける。
『だが、考えてもみてほしい。清廉潔白な王が、その手を汚す必要がどこにある? 王の覇道のために、泥をかぶり、汚れ役を引き受ける。それこそが、忠臣が果たすべき最大の務めではないのか?』と。
これは、君が葛城くんへの忠誠を示すための試練だ。彼が真のリーダーとしてAクラスを導く未来のために、君がその礎となるんだよ――俺がそう締めくくると、戸塚は、ゴクリと唾を飲んだ。
その瞳には、先ほどまでの恐怖や葛藤よりも、使命感と高揚の色が浮かんでいた。
そして彼は首肯し、便秘薬をその手に受け取る。
俺はそれに感謝をし、お礼として再び"サービス"を提供する事を確約した。彼はそれを形式上断っていたがーー本心はその瞳に現れる。
彼は二重の欲望に呑まれた形となった。
あとは、彼が上手いことやってくれた。
紛いなりにもAクラスの学生だ、的確に投与できるタイミングを考えーー坂柳がプールを常に見学し、その際に水分補給として自身の水筒を持ち込んでいる事を確認していた彼は、水泳の前に水筒へ下剤を投与した。
あとは、それを踏まえて俺が事前に朝からこの場所を陣取り続ければ、この状況が完成する。
あまりにも俺の手のひらの上。
だがその為には、これまでの様々な要素を動員する必要があった。
ストーカー男にも倉庫の中に暫く隠れてもらったし、よっぽど遡って監視カメラのデータを洗わないと、"謎の作業員"の存在にすら辿り着かないだろう。
坂柳の身体がコンテナの中で動かないよう、革製のベルトで優しく、しかし確実に固定していく。その作業は、まるで精密機器を輸送ケースに収めるかのように、慎重さを要した。
マスクで持続投与をしているからあまり問題は無いとはいえ、それでも万が一途中で目を覚まされたら一大事だ。
坂柳の身体を完全に固定し終えると、俺は使っていたガス噴出機などの各種機材も、コンテナの隙間に詰め込んだ。
ガタン、と重い音を立ててコンテナの蓋を閉め、鍵をかける。
最後に、俺は用意していたウィッグと作業用の帽子、そして別のマスクを装着した。これで俺は、ただの"名無しの用務員"だ。
俺は、金属の押し車が立てるガラガラという音を響かせながら、ゆっくりと歩き出した。
今日の俺は病欠扱いだ。学校が終わる夕方まで、たっぷり時間はある。
焦る必要はない。ゆっくりと慎重に、この"荷物"を目的地まで運ぶとしよう。