ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
「『ゲームをしませんか。坂柳有栖』」
無機質な機械音声が静まり返った部屋に響く。
ベッドの上で荒い息を繰り返していた坂柳の身体がぴくりと震えた。
機械音声ではあるが、久しぶりに投げかけられた人間の言葉。
目隠しをされていながらも、彼女はこちらへゆっくりと顔を向けた。
「…ゲーム……ですか……?」
俺はスマホを弄り、アプリにテキストを入力する。そして再生ボタンを押すと、設定した「女声3」の機械音声が、再び彼女の鼓膜を震わせた。
「『私とあなたで行うゲーム。きちんと勝敗がつく内容です』」
しかし、と続ける。
「『ただのゲームではありません。対価を賭けた勝負です。あなたが勝てば、即刻あなたを解放しましょう』」
その言葉に、坂柳の意識が急速に浮上するのが分かった。
解放。
その、あまりにも甘美な響き。
しかしそれよりも、この一週間ただ一方的に嬲られるだけだった時間の中で、初めて持ちかけられた"駆け引き"に、彼女の凍りついていた知性が、鈍い音を立てて反応し始めた。
「『ですが、もし私が勝った場合。あなたには、私の要求を一つ呑んでもらいます』」
俺からの勝負の持ちかけ。
これに対して坂柳は、息を切らしながらか細く、しかし未だAクラスのリーダーとしての理性を伺わせる声で問い返した。
「……要求、とは、何です」
「『それは勝負が終わってからのお楽しみです』」
「ふざけ、ないで…ください。内容も分からない、要求など…呑めるはずがありません」
まあ当たり前だ。
が、それを答える訳にはいかない。
彼女には、何を要求されるのか不鮮明なまま勝負を受けてもらう。
「要求は、何ですか」
坂柳は少しだけ息を整えながら、再び問い掛けた。
「『答えられません』」
俺は機械音声で返す。
同じようなやりとりが二度ほど続きーーしばらく無意味な平行線が続いたところで、不意に坂柳が呟いた。
「一週間」
独り言のような呟き。
「私があなたに攫われてから、一週間が経過しました。その提案は、あなたにとっても、もう私をここに留めておけなくなったからしているのではありませんか?」
坂柳は、つい先程までよがり狂っていたとは思えない冷静な声を響かせる。
「『何故そう思うのですか』」
「偶然とも思えませんが、私がここに来たのは、丁度学年内で他のクラスに"援助"の提案を投げかけた直後でした。きっと今頃、私の携帯には各所から連絡が来ているはずです。病欠の連絡はどうにか偽装しているのでしょうが、それらへの対応はできていない。いくら病弱で休みがちな私とはいえ、この重要な時期に、私からの返信が一切無ければ確実に怪しまれるでしょう」
坂柳は自身の推測をつらつらと述べる。
「『続けてください』」
機械音声で促すと、坂柳はやや呆れたような、見下すような声色で続けた。
「…分かりませんか? その提案の主導権は、あなたにはない。そう言っているんです。あなたはただ、そろそろ私を解放しなくてはならないだけ。そのついでに何かリターンでも得られれば儲けもの。……そうでしょう?」
うーん。
流石だな。
そもそもこれだけの責苦の中で、"解放"という言葉に即座に飛びつかないだけでとてつもない精神力だ。
そこに加えて、たとえ俺の手で体調は万全にしてあるとはいえ、重い絶頂と快楽で麻痺させられた脳みそで、よくこれだけ短時間にこの回答が出来るものだ。
坂柳の推測は、ほぼ当たっている。
が、少しだけ、タイムリミットに関する認識が異なっている。
それを端的に教えてやることにした。
「『〇〇〇〇〇〇』」
「なっ!?」
機械音声で彼女の端末のパスワードを告げると、坂柳は驚愕に言葉を詰まらせた。
以前、路地裏で上級生を脅して回ったのと同じ手口だ。
警戒心の強い坂柳でも、この段階ならパスワードの択は幾つかにまで絞り込める。
もちろん高性能なAIは状況に応じて対応を変えてしまうので、情報セキュリティに危機感を持たせるような展開となれば、その限りでは無い。
が、今回は問題ない。
一度は外してしまったが、2回目に入力したパスワードが正解となり、ロックを外すことができた。
このタイミングまでに坂柳を確保した理由の一つがこれでもある。
「……あなたは一体、何者ですか…」
今度こそ明確に警戒心を隠せなくなった坂柳が俺へ問い掛ける。
彼女は理解したのだろう。
端末のロックが外されたこと、それは、彼女のこれまでの謀略の多くを丸裸にされたも同然だということに。
とはいえ、言うほど大した内容は無かったが。
気になったのは保有ポイント数と、"とある人物"との連絡履歴くらいか。後は元々俺が知ってる内容と大差はなかった。
だが、端末の中身を丸裸に――本人も文字通り丸裸だが――されたという事実は、坂柳に強い衝撃を与えた。
「『何者かは関係ありません。大事なのは、認識の修正です』」
機械音声は、無慈悲に坂柳へ告げる。
「『まず一つ目ですが。私はあなたの代わりにあなたの端末を操作し、"ポイント援助によるスパイの確保"を、滞りなく行っています』」
彼女が息を呑むのが分かった。
「『――つまり、タイムリミットは、あなたが思っているよりも遥かに遠い』」
俺は、言葉を失っている坂柳へ訂正するように続ける。
「『現実的にはあと1ヶ月半程度でしょうか。二学期が始まるまでが限度でしょう』」
「いっ……かげつ、はん…」
坂柳は、呆然と鸚鵡返しにする。
先程の彼女の自信に満ちた台詞は、きっとこの責め苦に耐えながら必死に考えていたものでもあったのだろう。
だからこそ、彼女は「あと少し耐えれば解放される」と読んでいたに違いない。
そこへ来ての、無慈悲な情報の更新。
あまりにも長い、拘束期間の延長。
――まあ、全くの出鱈目なんだけどね。
1ヶ月半とか流石に無理。
いくら病欠の連絡自体はあったとしても、単純に長期間休むのが続くと学校側からも確認が入る。原作やゲームでも心身の不調で長期間休む事になったキャラもいたが、そうした確認自体は入っていた筈だ。
というかそもそも代わりに"援助"なんてしてないし、仮にそれがあったとしてもトータルで二週間が限界だろう。
だが、いくら普段は頭脳明晰な坂柳であっても、快楽に脳を焼かれ疲弊しきった今の彼女では、俺のこの言葉を完全な誇張だと跳ね除けるほどの思考力は残っていない。
「『そして当然ですが、端末のパスワードは既に変更させて頂きました。この意味が、分かりますね?』」
そう問い掛けると、ややあって坂柳が冷静さを取り戻す――いや、必死に取り繕って答える。
「……意味、ですか。…いえ、無意味です。学校に伝えれば、直ぐに再設定できます」
「『その通りです。ですが、それまでの間、あなたは端末を触ることができない』」
「……ーーっまさか」
彼女は、俺の言いたい事に気づいたようだ。
学校のシステムと連携された端末は、パスワードが分からなくなった場合でも安易に初期化は出来ない。いや、いずれにせよ学校に一度対処をお願いしなくてはならなくなる。
そしてパスワードの再設定の為に学校へ提出している間は、坂柳は自身のアカウントを操作することが出来ない。
つまり、その間に坂柳の端末へ送られた"買収申請"は、彼女が拒否できない為全て自動的に受理されてしまう。
学校側の対応が得られない週末に合わせて解放すれば、彼女は最大で3日程度、なすすべもなく陵辱を受け入れる他無くなる。そう考えると生きた心地がしないだろう。
それを防ぎたいなら、プロテクト期間内に俺の手によって解放してもらうしかない。
「『あなたの立場は分かりましたか? それでは改めて提案です。ゲームをしませんか、坂柳有栖』」
再度投げかけられる機械音声に、坂柳は顔を青ざめさせ、黙り込んだ。
しかし俺が黙して待っていると、やがて観念したように口を開いた。
「……だとしても、やはりそのゲームは受けられません。その"要求"も、非人道的な行為を要求されるかもしれませんし……」
「『その懸念は当然ですね。では条件をつけましょう。学校内で許可される範囲に留まった要求、とします』」
俺は改まってそう付け加える。
が、こんなのは明言するまでもない条件だった。
いくら勝負の宣誓を録音なりして証拠としても、流石に倫理的に受け入れられないものであれば、学校へ訴えれば普通に棄却されるだろう。
それは坂柳も分かっているのか、ややあって首を振る。
「それだけでは、駄目です。せめて"要求"の際、あなたから私へのものとしてくれませんか」
「『"あなた"とは、こうして坂柳さんを監禁していた"私"のことでしょうか』」
「…ええ」
「『答えは不可です。それは要求の内容が制限される条件です』」
「……では、その"要求"を行う際、"あなた"は実名で、顔を見せて要求してくれませんか。でないと……私は、いつまでも詐称する人から一方的に何でも要求を受けなくてはならなくなる可能性があります」
「『不可です』」
俺の正体をバラすなど、報復してくださいと言っているようなものだ。呑めるはずもない。
だが、その懸念自体は当然のものだ。
「取引した要求だぞ」、と言って関係のない奴が坂柳に要求し、その後再び「アイツのは勝手に言っていただけだ、こっちが本当の要求」と別の輩が現れて言うこともできる。俺が正体を隠しているからこそ、そんな不合理な騙し行為も可能となる。
「『ですが、訴えも分かります。ではこうしましょう。"要求"の際は、"私"があなたの目の前で、"宣誓"の録画を流します。そうして示された一度目の"要求"の遂行を以て、完了とするのはどうでしょうか』」
更に条件を詰める。
坂柳の"現在の姿"で、勝負の条件を話す動画を撮る。更にそのデータを、鍵付きのファイルとして坂柳に送る。鍵はアルファベットの大文字と小文字、記号と数字が適当に混ざった十文字の複雑なもので、数打てば当たるというものではない。
それを目の前で解除し、動画を流すことで"要求"の証拠とする。
これで、要求の唯一性は担保される。
が、これはこれで俺にとっての懸念点がある。
目の前で坂柳の端末にパスワードを入力しなくてはならない以上、"俺"の姿は晒される。
「……分かりました、"要求"についてはそうしましょう」
だからこそ、坂柳は俺の提案に頷く。
ーーが、そこで「しかし」と続けた。
「だとしても、そのゲームとやらを受けるわけにはいきません。勝負自体が、あまりにも……あなたに有利過ぎます」
「『当たり前でしょう。優位にいるのは、私なのですから』」
「ですが、せめて……せめて、譲歩を下さい。負けると分かっている勝負は、やる意味がありません」
坂柳は、弱々しく首を振ってそう言う。
それを睥睨しながら、俺は心の中で彼女を評価する。
演技だな。
彼女はこちらの油断を誘っている。
乗ってやるか。
「『では、どのような譲歩をすれば?』」
「そうですね……例えば、勝敗がつくものであれば良いと言うのなら……あなたが用意したゲームではなく、私に、内容を決めさせてください」
「『内容によります。完全な運に委ねる勝負は受け入れません。また、あなたの目隠しを外す気はありません。"言葉だけで勝負ができ、それでいて知略を競えるゲーム"。そんなものが、ありますか?』」
少しだけ、沈黙が漂った。
坂柳は顔を俯かせ、劣勢の中で必死に考えています――とでも言いたげに時間をかけ、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「――チェスは、どうでしょうか」
「『チェス、ですか』」
はは。
チェスね。
「ええ。言葉だけで駒の配置を指示でき、それでいて戦略性は説明するまでもありません。条件は満たしていると思いますが」
「『なるほど、確かにその通りですね。ですがそれなら、将棋などでも可能でしょう。私はあまりチェスに詳しくありませんので』」
「ーーいえ。提案した事からお分かりでしょうが、わたしはチェスを少々嗜んでいます。だからこそ、目隠しでも行えるのです。勿論、勝負として不公平となることは承知しています。ですので――」
彼女は言葉を切り、勿体つけるようにーー"ハンデ"を提示した。
「私だけが頭の中で、そしてあなたは実際に盤面を目で見ながら指しても構わない。ーーその条件で、いかがですか?」
坂柳は提案する。
「実際に物は無くとも、端末でチェスを行えるアプリがあります。それを用いての勝負でなら、どうでしょう。わたしは頭の中で描かなくてはならない分、ルールへの理解度に対して、充分なハンデになるのではないかと思うのですが……」
まるで、自分が不利を背負っているかのような語り口。
そんな訳ないけどな。
坂柳のチェスの実力は、盤面を想像しながらやるかどうかでビハインドがつくような、生易しいものではない。
彼女は俺をチェス初心者だとーー少なくとも自分より実力は劣ると想定し、自分の得意な土俵に引きずり込み、確実に勝利をもぎ取ろうとしているのだ。
だが、だからこそそこに乗る。
俺はスマホを操作し、機械音声が告げた。
「『いいでしょう。それでは、ゲームを始めます』」
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少しの準備時間の後、その場でゲームは始まった。
目隠しをされたままの坂柳の前には、何も置かれていない。
チェス盤も、駒も。
彼女はこの男が読み上げる無機質な盤面の情報だけを頼りに、自らの疲弊しきった頭の中だけで、全ての駒を動かさなければならない。
「e4」
「『c5』」
だが、そんな事は関係無いと、彼女は自信をもって断言出来た。
チェスは彼女が最も得意とするゲーム。
仮に多少相手がチェスを得意としていたとしても、この程度のハンデを含めた上で問題はない。それだけの自信はあったし、事実としてそれだけの実力を有していた。
が、直ぐに彼女は少しだけ認識を改めた。
「『a6』」
この相手は、明らかにチェスを打ち慣れている。
そうでなくては有り得ない速さで、殆ど澱みなく坂柳に応じてくる。序盤の序盤の為でもあるだろうが、それだけではない。
オープニングの中で、やや特殊で複雑な、攻撃的な形を敢えて選択してきている。
それなり以上には知っていなければ、この展開にはならないだろう。
チェスを選択したのは、自分だ。
相手がそれに備える時間などなかったはず。
いや、仮に事前に想定していたとして、これはソフトによるような理論的で無機質な手ではない。盤面には、この相手のやや歪な攻撃性と思考の癖が現れていた。
だが、だとしても大局は変わらない。
慣れてはいるが、それだけだ。改めて坂柳はそう判断する。問題なくこのまま勝てるだろう。
――その判断に、誤りはなかった。
だが彼女は、このゲームに仕掛けられたもう一つの――そして最大の落とし穴に、まだ気づいていなかった。
ここからどう切り崩していくか。彼女の天才的な頭脳が先の盤面を計算していた、その瞬間。
「ん"っ!?」
突如、背後から彼女の胸が鷲掴みにされた。
わしゃわしゃと、他人の身体だと思わないように粗雑に揉まれ、その表面を無遠慮に撫でられる。当然、そこにある硬く尖った二つの乳首も、乱雑に弾かれた。
それは何の心構えもしていなかった坂柳の身体へ、電撃のように快楽を与える。
「待っ……!? やめ"て、くだ…っ、んぅ…! は、反則、でしょう…!?」
快楽に言葉を途切れさせながらも、彼女は、背後で自分を抱きかえるようにしている男へ、噛み付くように抗議した。
しかしそこへ帰ってきたのは、冷たい機械音声ではなく――録音された、彼女自身の声だった。
『――勝負内容はチェス。私は目隠しをした上で頭の中で、あなたは端末のアプリを操作して勝負を行います。互いに持ち時間は90分、言葉で手を宣言して行います。私が勝った場合は即時解放され、負けた場合は今後あなたの要求に一つ従います――』
『――互いに妨害行為は行わず、仮に行っていると判明した場合、反則として妨害を行った者は敗北とします』
これは、自分が勝負を始める直前に動画を撮られながら行った宣誓だ。
そこでは確かに、「妨害をしたら敗北」と口にしていた。
だったら今、こうして胸を触って乳首を弄ってくるのは明確な反則――即ち、坂柳の勝利となる。
そんな坂柳の思考を読んだかのように、続いて冷たい機械音声が流れた。
「『私は何もしていません』」
――何を言っている?
坂柳は言葉を失う。そして直ぐに我に帰り、咄嗟に反論した。
「そんな訳がないでしょう……!?それなら今、私の胸を弄っているのは何だと――」
そう反論しようとしたその時。
坂柳は、そこで遅れて――漸く、自身の足元に存在していた落とし穴に気がついた。
「……ぁ」
本来の彼女であれば、交渉の段階で最初から気がついていたはずの、初歩的で致命的な欠陥だ。
――彼女は今、目隠しをされている。
つまり今自分に行われているこの行為が、"相手による妨害”なのかを、彼女には確認する術がない。
目で見る事は出来ないし、自身を触ってくる腕が、端末にチェスの駒の入力をする動作を行うところを捉えようにも、彼女の腕は縛られていて動かせない。
そして、そもそもの話。
この勝負の諸々を証拠として残せるのは、この男のみ。
どれだけ彼女が「妨害だ」と叫んだところで、逆にそれを「妨害だ」と言い返すことも出来るし、最悪この男は「勝負は無効だ」と一方的に言い渡すこともできるのだ。
坂柳にできるのは、そんな気まぐれを起こさせないよう、この理不尽なハンデの中で勝つことだけ。
いや、仮に勝ったとしても意味が無いのでは――。
(なぜ私は、もっと早くその事に……!)
坂柳は過去の自分を責めるが、既に罠の中に飛び込んでしまった後だ。
悔やみながらも、今それ以上自身を責めている余裕がない。
彼女は必死に頭を回し、震える声で手を告げる。
「ビショップ、e7…」
「『ナイト、d5』」
だが、既に彼女は気が付いていた。
――そもそも、このように術中に嵌ってしまったのは、彼女の脳が長きにわたる調教で正常な判断力を奪われていたからだ。
そこに加えて、明確に思考の妨げとなる身体への刺激。完全に形勢は逆転していた。
男の手は胸の刺激を止め、今度は彼女の股へと滑り落ち、指が彼女の秘部をなぞった。
「ひっ…! んぅぅ…! ぉ、う"ぅぅ…!」
(まだだ…まだ優勢なはず…!)
粘膜を乱暴に擦られ、快楽によって思考が霞みながらも、彼女は必死に盤面を維持する。
ここまでで築いた優位は変わらないと、自身に言い聞かせるように頭の中で確認する。
「…っ、る、ルーク…xd5…っ!」
「『ナイト、f8』」
そこで指での刺激が止まった。
しかし坂柳が安堵の息を漏らす間もなく、今度は冷たい棒状の器具が、その場所へと押し当てられた。
「――ひぃっ…!?」
スイッチが入ると、器具は自動で動き出し、細かく重い振動が彼女の身体の芯を直接貫いた。
同時に、別の何かが彼女の薄い腹部に押し当てられる。それは彼女の身体を外側からぐりっと押し込み、細かい振動が腹の奥底に響き渡った。
「あ゛…っ、んぅぅ…! ぉ、お"ぉぉ…! ビショップ…d3…っ、はぁ、はぁ…」
鈍い快楽が遅れて全身へと拡がり、声が裏返る。
既に、彼女の身体の穴や乳首には様々な器具が取り付けられ、快楽の波状攻撃が仕掛けられていた。
せめて絶頂できれば楽になれる。だが、この男の悪趣味な調整により、それは決して訪れない。脳がただ快楽に犯され、染め上げられていく。
その波の切れ目で、必死に思考の糸を手繰り寄せ、なんとか次の手を宣言する。
しかし、ミドルゲームの序盤にして、彼女の理性は既に限界を迎えていた。
盤面が霞む。
思考が散る。
駒の配置が、ノイズまみれになる。
そこへ、さらに追い打ちがかけられた。
尻に、球体が連結したような冷たい器具が、ゆっくりとねじ込まれていく。
「お"お"ぉぉぉッ!? い、いや、そこ、は…だめ、です…! あ゛、あ゛あ゛っ!」
腸の粘膜を異物が押し広げていく、未知の感覚。
坂柳は目隠しの下で目をかっぴらき、口をパクパクとさせる。
「…っ、く、クイーン…f5…!? お"ぉっ…!」
裏返った声で宣言しながら、坂柳は自身の言葉に耳を疑った。
(違う、f5じゃなくf1だ……!何を言っている、私は…!)
ここにきて、彼女は余裕の無さのあまり手の宣言を誤る。それにより、彼女の記憶は更に混乱していく。
そしてその時、尻の器具がゆっくりと、ぐ、ぐ、と引き抜かれ始めた。
「ひっ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」
粘膜ごと引き抜かれるような強烈な刺激。
排泄という嫌悪すべき感覚が、開発されきった身体によって、おぞましい快感へと変換されていく。
両脚がガクガクと痙攣し、股から、ぴゅっと熱い液体が噴き出すのが分かった。
だが、絶頂はしない。
自分はもう、この男の一存なしには、この苦しみから解放されることすらできないのだ。
(盤面を…盤面を維持しろ…!)
今、自分にできるのは、それだけだ。
男は彼女の崩壊を追い立てーー愉しむかのように、さらに胸と股への刺激を強めた。
それでも必死に坂柳はその類稀な頭脳を以て盤面を読むがーーそのなけなしの理性は、既に気づいていた。
この時点で、自分は何手も誤ってしまっている。
不必要なサクリファイス。危険な射線の見落とし。クイーンの無駄な動き。
「『ビショップ、xd5』」
男の冷たい声が響く。
(……え、ビショップ? どこから…? d5には、何が……何を取られて……?)
そこで、坂柳の思考は完全に停止した。
思い出せない。
盤面も――次の手も。
黒白の駒の配置。相手の動きの読み。それまで必死に記憶していた全てが、手のひらから零れ落ちる砂のように、こぼれ落ちた。
もはや彼女は、ただ相手の手に反射的に反応することしかできなかった。
雪崩のように彼女の陣形が崩されていく。彼女のクイーンが、キングが、容赦なく追い詰められていく。
そして遂に――
「『――チェックメイト』」
無機質な機械音声が、彼女の完全な敗北を告げた。
全ての刺激が、ぴたりと止む。
坂柳はただ呆然と、暗闇の中でその声の響きを聞いていることしかできなかった。