※この作品はR-18です。

ようこそエロMODが導入された教室へ   作:さんかく

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「…ふざけた真似ェ……してくれやがったな、X……ッ!」

 

 龍園は低く唸る。

 

 どう見ても、目の前で寝息を立てている坂柳は、合意の上でそうしているとは思えない。目隠しをして手足を縛られ、キャリーケースの中に詰められる趣味があるなら話は別だが、万に一つもその可能性は無いだろう。

 そこに加えて、この1週間にわたる彼女の不在の期間。

 これらを合算して考えると、彼女は謂わば監禁状態にあった事が推察される。

 

 ただでさえイカれた制度のある学校であったが、これは話が違う。

 明確な犯罪行為。

 しかも理事長の娘という学園最高の爆弾が、唐突にこの手元に渡ってきた。

 龍園は、その危険な状況を即座に理解し――その上で、冷や汗を垂らしながらも、その口元に歪んだ笑みを浮かべた。

 

 舐めやがって。

 爆弾処理の役回りを押し付けたつもりだろうが――確かにこれは、面白い"オモチャ"だ。

 

 彼は坂柳のそばに近寄り、その小さな体躯をまるで荷物のように担ぎ上げる。そして、自身のベッドの上にやや乱暴に置いた。

 その上で、自身の椅子にどかりと腰を下ろす。

 

 彼はそこで、自身の端末に一つの通知が入った事に気がつく。

 画面を見ると、Xからのメールが新たに届いていた。そこに書かれているのは、とあるアプリと、その中の機械音声の指定。そして、『敬語』という端的な追記。

――これを使ってコンタクトを取れってことか。

 説明不足が過ぎるメッセージではあるが、その意図を読み取り、龍園は鼻を鳴らす。

 

 やはりこの"贈り物"は、単なる爆弾ではない。

 それなら犯罪の事実を龍園に知らしめるリスクを負う意味合いは薄い。Xがどんな存在かは知らないが、かなり大柄な龍園と似通った体型の可能性は低く、仮に坂柳に無言でコンタクトを取ったとしても、その体型の差異から違う人物だとバレる――或いは同じである事が、正体の特定に繋がってしまう。

 これは、"龍園とXの双方にとって利に変換出来る"からこそ、渡された贈り物なのだ。

 

 龍園は記載されていたアプリをインストールし、指定された「女声3」の機械音声をセットする。

 Xの目論見通りに動くようで癪だが、この状況をプラスに変えるためには必要な事だ。これはピンチのようで――事実、その分とてつもなく大きな武器でもある。

 龍園は、ベッドの坂柳の肩を、容赦なく揺さぶった。

 

「ん……ぅ…」

 

 寝起きの蕩けたような声が、彼女の唇から漏れる。

 が、起きる気配は無い。

 そもそもここに至るまで、それなりに坂柳の身体には振動が伝わっていた筈だ。なのにここまで起きていないという事は――ほぼ間違いなく、薬の投与がされているのだろう。

 龍園は更に大きく刺激を与えることも考えたが、試しに端末に文字を入力し、再生ボタンを押した。

 

「『目を覚ましなさい、坂柳有栖』」

 

 その無機質な女声が響いた瞬間、坂柳の肩がびくっと大きく跳ねた。

 

 龍園は、坂柳のその反応に目を細める。

 彼女は、明らかにこの声に反応している。Xがこの声を使って坂柳へコンタクトを取っていたのは確定だろう。

 

 数秒程度、坂柳は慌てたように目を覚まして周囲を見回し――そこで何かに気づいたように、その動きを止めた。

 目隠しはされているものの、身じろぎをし、背中や手足が触れるベッドの感触、あるいはこの部屋の匂いを確かめるように、もじもじと身体を動かす。

 そして彼女の表情が、困惑から――険しい"疑念"へと変わった。

 

「……私を、どうするつもりですか」

 

 龍園はその変化を見て、自身の認識を少し修正する。

 この短時間で、ここがこれまでの監禁場所とは違うと悟ったらしい。

 大した女だ。

 そしてそれと同時に、どこで違和感を持ったのか疑問に思う。それを考えながら、龍園は機械音声で語りかける事にした。

 

 

「『交渉です。元の生活に戻りたければ、条件を呑みなさい』」

 

 この"オモチャ"の遊び方――そしてXが龍園に期待している役回りは、"交渉役"だ。

 例えば富豪の娘を誘拐し、解放を対価に身代金を要求するように。

 その"交渉"を行える権利を龍園へ渡す事が、Xが龍園に期待し――そして爆弾処理をしてもらう対価として提示した、龍園への報酬だ。

――掌の上で転がされているようで気に食わねえ。

 そう思いつつも、龍園は現状を冷静に把握し、利益に変えるための動きを行う。

 

 そして龍園から機械音声を通じて提示された"交渉"を聞いた坂柳だったが――そこで不自然なほど黙り込んだ。

 何かを考えるように顔を俯かせる。

 やがて、ふっと、どこか自嘲気味な笑みを浮かべて言った。

 

「……ふふ。…あなたは、昨日まで私を捉えていた『彼』ではありませんね」

 

 その言葉に、龍園は内心で舌を巻いた。

 

「『何故そう思うのですか』」

「それに答える義理がありますか」

 

 龍園は眉を顰める。

 どこで気付かれた。

 いや、それよりも気にかかるのは、坂柳の――この状況に不釣り合いな強気な態度。

 何故違う人間だと気付いたのかも謎だが、この彼女の――ある種、余裕と言える様子が不可解だ。

 今彼女は、目隠しをされた上で手足を縛られ、無防備で誰の助けも呼べない状態で此処にいる。それを理解していないとも思えず、だというのにこの様子。

 龍園がXではないと分かった理由、そしてそれ自体が彼女にとって安心に繋がるのか。それは、まるで――。

 龍園はそこで、即座に決断した。

 

「やめだ」

 

 端末を放り投げ、龍園は自身の肉声で声を上げる。

 このまま機械音声で隠れながら交渉を続けるのは、悪手だと判断した。

 現時点で、やはり龍園が持っている情報量はあまりにも不足している。それを押して尚、監禁の主犯として交渉を進める事は困難であり――この女の知性は小細工でどうにかなるレベルではない。

 龍園自身の言葉で当たらなければ、この女の余裕は崩さない。

 

 そして、龍園が主犯ではないと坂柳が悟った事は、それはそれでメリットでもある。

 それはつまり、今自身の正体を開示する事は、逆説的に"龍園がXではない"という証明にもなるということだ。

 そこまでを瞬間的に考え、即実行に移す。

 龍園は椅子にふんぞり返ると、自らの聞き慣れた嘲笑を響かせた。

 

「くくっ…おい。随分な目にあったらしいな、坂柳」

 

 その声を聞いた瞬間、坂柳は流石に驚いたように動きを止めた。

 それから、暗闇の向こうの主を正確に見据えるかのように、ゆっくりと顔を上げた。

 

「その声は……龍園君、でしたか」

 

 龍園は、彼女のその正確な推察に、不敵な笑みを返す。

 

「なあ坂柳、こうして無様な姿を晒してるお前に、いい提案をしてやるよ」

「……なんでしょうか」

 

 窮屈な機械音声をやめ、生き生きと語りかけてくる龍園に、坂柳は目隠しの下で眉を顰めながら返す。

 それに龍園は、不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「悪い話じゃねえ。――お前をこんな目に遭わせた野郎に、復讐したくないか? 」

 

――共同戦線だ。"アイツ"を潰す為のな。

 と、龍園は坂柳に持ちかける。

 

 Aクラスは、当然龍園にとっての敵だ。

 だがそれよりも、Xの方が危険だと判断した。そして同時に、坂柳と――Aクラスと一時的に戦線を張るだけの価値があるとも。

 Xの行動の端々から窺える、倫理観の欠如――それ自体の問題ではない。それよりも、Xの目的が見えない事が問題だ。ただ掻き回して遊んでいるような、行動の裏の人間性の不在。

 これからクラス間の闘争を行うにあたって、明らかな不純物となる。先ず排除すべきだと判断し――且つ、こうして龍園を駒のように使う黒幕気取りの野朗が気に食わないという個人的な欲求も含めて、龍園は限定的な同盟を提示した。

 

――が、おそらく誰よりも被害を受けた筈の坂柳は、少しも逡巡する事なく、誘いを冷たく一蹴した。

 

「お断りします。あなたのような方と手を組む趣味はありません」

 

 それを聞いた龍園は、流石に訝しげに片方の眉を上げる。

 断られる可能性は高いとも思っていた。が、ここまで迷いなく断るのも不自然に思える。

 しかし、やはり即座に龍園は疑念を打ち切る。それは"今"行うべき思考ではない。

 これ見よがしに舌打ちをし――しかしどこか満足そうに、凶悪な笑みを浮かべた。

 

「チッ…可愛くねえ女だ。だが、それなら話は早い」

 

 龍園は椅子から立ち上がり、ベッドの彼女を見下ろした。

 

「交渉決裂だ。なら、これは取引じゃねえ。――監禁の続きだ。それが嫌なら対価を寄越すんだな」

 

――従わないなら、ここからは龍園による監禁の日々が始まる。それが嫌なら対価を払え、と。

 『監禁の主犯ではない』という共通認識が得られた後で、それをひっくり返すような再度の脅迫。意味が無くなったと思われた交渉を、改めて自身が監禁を行うと宣言する事で、再び交渉をテーブルの上に置き直した。

 そう脅しつける龍園に、坂柳は僅かに身を固くしながらも、反論する。

 

「…あなたに、私を長期間ここに監禁し続ける事が出来るとは思えません。これは明確な犯罪です。長期の不審な休みが続けば学校が動く。発覚すれば、退学では済まないでしょう。あなたでは、そのリスクは負えません」 

 

 交渉の基本は何か。

 それは"主導権を得る事"だ。

 十人十色の方法でそれを得ようとするだけで、根本は変わらない。そして主導権を得る為の、更に核となる要素がある。

 それは、自身が相手にとっての"脅威"である事。

 

 その点に於いて、龍園は坂柳の"脅威"足り得ていない。彼女は、目隠しをされ、両手足を縛られた圧倒的な弱者の立場でありながら、実際に追い詰められているのは龍園である事を正確に見抜いていた。

 それを彼女は指摘し、この交渉の優位に立つ――と思われた。

 

「だろうな」

 

 坂柳の指摘に対し、龍園は間髪入れずあっさりとそれを認めた。

 それでいて尚、不敵な笑みを浮かべ、ギラギラと歯を剥き出しにして嗤う。

 龍園もまた、この交渉に於ける自身の立場の弱さを知っていた。

――いや、正確に言うなら、坂柳がそう"誤った"認識をしている事に気が付いていた。

 

 主導権を得る。自身を脅威と認めさせる。

 その為に必要なことを、龍園は充分に知っていた。

――冷静さを残したまま、理性のタガを外すことだ。

 

「確かに、これからお前を監禁なんてしてりゃあ、退学、いや……この場合、逮捕は時間の問題だろうな。――だが、それは俺が"やらない"理由になるか?」

 

 やらない理由にならない訳がない。

 坂柳はそう考えたが、だからこそ龍園の狂気に呑まれる。

 

「学校が動く? 関係ねえな。その前に、お前をこの部屋で完全に"壊す"ことだってできる。勘違いしてるようだから教えてやるが――俺は、お前が考えているほど"マトモ"じゃねえんだよ」

 

 そう吐き捨てるように語りかけながら、龍園は坂柳の長髪を鷲掴みにする。そして無理矢理顔を上向きにすると、坂柳の身体がビクリと震えた。

 坂柳はここで、認識を改める。

 この男はこの男で――"例の男"とはベクトルは違えど、イカれた人間である事に変わりはない。大言壮語ではあるが、その意思だけは本気であると認めた。

 通常時の策謀という舞台でならいざ知らず――今この場に於いては、確かな脅威だと認識する。

 

「……対価とは、何です」

 

 その言葉を聞き、龍園は満足げに笑った。

 

「そうだな…」

 

 龍園は、わざと勿体つけるように間を置いた。

 そして――ベッドに横たわる彼女の姿を、品定めでもするかのように、頭の先からつま先までじろりと眺める。

 その視線は美しい銀髪に、小さくも存在する胸の膨らみ、そしてスカートの下に覗く白磁のような肌を追い――龍園は自身の中にしこりのように残っていた違和感の正体に気がつく。

 

「その前に一つ聞くが。――坂柳、お前はずっと、その制服で過ごしてたのか?」

 

 その問いに、坂柳は一瞬言葉に詰まった。

 だが――すぐに何かに気がついたように、はっきりと答えた。

 

「いいえ」

 

 それを聞いて、龍園は納得したように頷く。

 坂柳の服と肌は、長期間監禁されていたにしてはえらく小綺麗で清潔感がある。ついさっき洗って着替えたばかりといった様相で――そこへ作為的なものを感じたのは、その仕掛け人と龍園が"似たような思考"を持っているからだった。

 

 そして、同じく"似た思考回路"を持つ者が、ここにはもう1人いた。

 坂柳は少し身体をもぞもぞと動かし、どこかで目当ての感触を見つけたのか、動きを止めて龍園へ話しかける。

 

「おそらくブレザーですね。どうも、右の方が少し……重い気がします」

 

 彼女が虚弱で、更に体力を失っているからこそ気付けた重量の偏り。

 それを教えられた龍園は、彼女のその言葉の真偽を確かめるように、無造作に坂柳の赤いブレザーへ手を伸ばした。

 その前面のボタンを外し、その襟元を乱暴に開く。ふわりと、開放された彼女の肌から甘い花の香りが漂う。

 しかし龍園はそんなことには一切目もくれず、鋭い視線でブレザーの内側を探り、やがてその視線が一点で止まった。

 彼は坂柳の胸元に手を伸ばし、その先のブレザーの内ポケットの縫い目を指でなぞる。

 

「…これだな」

 

 呟いて、そこに巧妙に仕込まれていた小さな黒い機器を、指先で摘まんで引き剥がした。

 

「…盗聴器か。どうやら俺達の会話は、聞かれてたようだぜ」

 

 龍園が吐き捨てると、坂柳は冷静に――当然のことのように頷いた。

 

「やはり、そうですか」

 

 坂柳に動揺は見えない。

 それは、この程度の事はしてくるだろうという、負の信頼と言えた。

 龍園はその小さな機械を眺め、無言でそれを握り潰した。

 

 

---

 

 

「――うおっ!?」

 

 バキッ、と。

 それまでノイズ混じりに聞こえていた龍園達の音声が、物が壊れる不快な音と共に完全な沈黙となった。

 

 俺はその不快なノイズに思わず声を出して驚き、耳に挿していたイヤホンを外す。テーブルの上に置かれた端末の画面を見ると、盗聴器と連携させていたアプリの波形モニターが、無意味な直線を描き続けていた。

 

「えー……もうバレたん?」

 

 どこかで気づかれるとは思っていたが、思ったよりも早かったな。

 流石に、あの二人――龍園と坂柳という、学年でもトップクラスに疑り深い連中が揃えば当然の帰結か。

 

 でも、ある程度の様子は分かった。

 重要なのは、龍園と坂柳がこれから"何らかの取引を行う"ということだ。

 

 取引の内容自体は、大した問題ではない。

 色々言ってはいたが、どこまでいっても互いに虚勢を張り合っているだけだ。それぞれが自身が苦境に立たされている事を知りながら、背水の陣で交渉を行なっている。

 大方、坂柳のプライベートポイントが龍園にある程度流れて終わりだろう。半分程度が流れれば儲けものだ。

 他のパターンだとしても、坂柳の武器を多少なり削るという点で、俺への貢献は果たしてくれる。その分龍園が育つが、坂柳を削ぐ方が余程有益だ。

 まあ、ここから逆に彼らが協力し合う可能性もないではないが、それはそれで構わない。これはただの推測にはなるが――きっとあの2人の中の"俺"は、大きく輪郭が異なっている。

 

 そして、そもそも重要なのはそこではない。

 肝心なのは、たとえ建前上だとしても、龍園が『監禁の主犯』としてその取引を持ちかけた――あるいは、その立場を利用しようとしたという事実だ。

 坂柳は龍園が犯人だなんて思っていないだろう。龍園自身それが分かっているからこそ、声を晒してせめてもの利益を獲得しようと動いた。

 互いにあの場で取れる最善を取ったと言えるが――だからこそ俺の予測通りでもあった。

 これ以上の盗聴は行えないが、それが達成されたと分かればそれで充分だ。

 

 俺は端末を机に放り投げ、そのままベッドの上へと身体を投げ出した。

 ボフッ、と白いシーツの上に俺の身体が沈み込む。

 途端、甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 これは、坂柳の残り香だ。

 

 このベッドはこの一週間半の間、常に彼女が占有していた。

 シーツは幾度か替えて洗ったとはいえ、今の敷かれているのは先ほどまで彼女が寝ていた後のもの。その名残がこうして残っていたのだろう。

 そんな単純な事実を、今更になって気がついた。

 それは、俺はこの期間中、自分のベッドなのにこうして寝転がることはできなかった為だ。

 こうして身体の全体重を柔らかい場所に預けるのが、どれだけ久しぶりのことか。

 

 積み重なった疲労は、俺が思っている以上に重くのしかかっていたらしい。

 俺は、まぶたの裏側から湧き上がってくる抗いがたい眠気に身を任せることにした。

 何はともあれ、こうして長いようで短かった坂柳有栖の監禁生活は、ひとまずの終わりを告げた。

 

 次は、無人島試験だ。

 

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