ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
「ではこれより――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
真嶋先生のよく通る声が、白い砂浜に響き渡った。
周囲の学生達が、困惑と不安でざわつきだした。
ただのバカンスだと思っていた彼ら彼女らは、突然の教員達の豹変についていけていないのだろう。中には先程の一之瀬のように薄々勘付いていた者も居るが、殆どの学生はそんなものだ。
そんな学生達を無視して、淡々と試験概要の説明が始める。
期間は一週間。
学校が所有するこの無人島で、クラス対抗のサバイバル生活を行うこと。
その説明によって、これがバカンスなどではなく、ガチのサバイバルを強いられるものだという事実が皆に浸透していき、更に混乱が掻き立てられていく。
しかし、肝心なのはこれからだ。
話はポイントのルールに移る。300ポイントという莫大な支給額の説明により、周囲の空気が絶望から希望へと推移していく。
だがこのルールが、この試験を複雑化――そして各種欲望と策略が混線する一番の要因となっている。その事は、多少でも頭が回る者達は直ぐに気がつく。
こうして皆が、この試験の過酷さとリターンの大きさを肌で感じた事だろう。
まあ俺にとって――というか、このゲームをやり込んだ周回プレイヤーにとっては、流石に取り立てて言う事もない。もう腐るほど聞いた説明だ。なんならそらでも言える。
暇を持て余した俺は、そんな周囲の一喜一憂をを尻目に、早くもスニーカーの中に入り込んだ砂のジャリジャリとした感触に内心で盛大にゲンナリしていた。この世界はゲーム画面で見るより遥かに不快指数が高い。
そうこうしていると説明が終わり、各クラスにマニュアルが配布されていく。
その辺りで、俺はさりげなく視線を巡らせ、周囲の――特にAクラスの様子を確認した。
葛城が率先してマニュアルを受け取り、それを確認する姿が見えた。整列している為実際に中心となっている訳ではないが、葛城をリーダーに据えた集団という在り方が何となく見て取れる。
それはいつも通りの光景に見えるが――イレギュラーが一つ。
最近まで毎日目にしていた、あの銀髪の少女の姿が、ひっそりとではあるが確かに存在する。
坂柳有栖。
彼女は通常であれば無人島試験に――そもそもこのクルーズ船自体に参加しないが、今回は異なる。
無人島試験でどうするのかは、少し気になるところだ。
今の所説明は聞いているようだが、このまま参加するのか、はたまた大事をとって――または別の理由でリタイアするのか。
実際問題、彼女はこの試験に参加したところで完全に体調を崩すと決まった訳ではない。きちんと状態を整えれば、身体に負荷はそこまで掛からず過ごせるだろう。
だからまあ、どちらもあり得るというだけの話だ。
結果を待つしかない。
「――むっ……無理無理!絶対無理だって!」
さて、他クラスのことを見るのはそろそろやめよう。
落ち着いた様子のAクラスやBクラスから視線を外すと、案の定というか、我がDクラスは既に問題が起きているようだった。茶柱先生の元に集まったクラスメイトたちは、早速揉め始めている。
話題の中心は――トイレについて。
一番大きく騒いでいるのは篠原だ。
が、彼女の意見はクラスの女子の殆どの代弁でしかない。篠原だけが拒否しているというより、女子全体が、簡易トイレへの忌避感を示していた。
現に、俺の近くに立っていた女子たちの会話が耳に入る。
「絶対無理だよ、こんな……汚いし、音も……というか、男子も使うのとか……有り得ないって」
「まじで無理。っていうか……こんなとこで、男子と1週間過ごすの?折角そういうのを考えなくて済むと思ってたのに……」
彼女達の様子は、単なる衛生面への抵抗感だけではない。
原作の――通常プレイでの反応よりも、更に強く反発しているように見える。
だが、それは仕方のない事だ。
彼女たちは、7月に入ってから――いや、"申請"制度を知ったその時から、ずっと男子への警戒を保ち続けてきた。それは6月末に多少協力してもらったとて、簡単に解消されるような生半可なものではない。
そしてこの環境は、それをぶり返すにはうってつけの条件が揃っていた。
監視の目が行き届かない無人島という環境。
そこで男子と寝食を共にするということに対して、生理的な恐怖と拒絶感を抱いているのだ。
だがそんな女子達の絶望は、表面的に察せられはするものの、本質的には男子にとって理解出来ないものだ。
これまでの経過から男子達も女子達へ同情的な姿勢を見せてはいるが、トイレへ明確な拒絶を示す女子達へ、男子達が不用意に言葉を挟んだ。
しかし、それは明らかな藪蛇だ。
「気持ちは分かるけどさ、トイレくらい我慢しようぜ。一週間くらいなんとかなるって」
「はあ?無理に決まってるでしょ! あんた達男子がすぐ近くにいるのに、あんなダンボールと囲いで済ませろっていうの!?」
池の軽口に、篠原が金切り声で噛みつく。
まあ、当たり前の反応だよな。俺でも嫌だし、女子なら尚更だ。
だが内容は兎も角、感情的な反発へ苛立つのも仕方がない事ではある。篠原に対して、山内が不機嫌そうに割り込んだ。
「なんだよそれ。俺らが覗くとでも思ってんのかよ。変態扱いすんじゃねーよ」
「当たり前でしょ?信用できるわけないじゃない!そもそも、こんな無法地帯みたいな場所で、あんた達と一緒に過ごすこと自体あり得ないって言ってるの」
「はあ? ふざけんな、俺らは何もしねーよ!」
そこからは売り言葉に買い言葉。
クラスの男子、特に山内と須藤が、理不尽な――少なくとも現時点では謂れのない警戒を示され憤慨する。
自分たちなりに気を使っているつもりの彼らにとって、頭ごなしの拒絶はプライドを傷つけるものだったのだろう。
そこでふと気になって池の方を見てみると、山内達の近くに立ってはいるものの、やや気まずそうにしていた。原作では一番に反発していたが、今回は思うところがあるのかそうではないようだ。それが成長か退化かは分からないが。
そんな池を置いて、彼の友人と女子達の言い争いは激化する。
そして、一番声を大にして反発していた篠原へ、ついに山内が決定的な一言を放ってしまった。
「何もしないし、つーかそもそも、お前に興味ねーよ!」
その一言に、場が凍り付く。
篠原の顔が、羞恥と怒りで真っ赤に染まった。
「……は?何それ。じゃあ、興味ある子になら、手を出すってこと?」
「えっ、あ、いや、そーいうわけじゃ……」
「最低!やっぱりそういう目で見てるんじゃない!」
「ち、違げーよ!言葉のアヤだろ!」
うわあ、と側から聞いていただけの俺ですら少しヒいてしまう。
こんな状況であるかに関係なく、デリカシーの無い最低の発言だ。
案の定、火に油が注がれてしまった女子達は、男子達に向けて明確な嫌悪を顔に出し、あからさまに距離を取り始めた。
そうした空気の中で、その流れに乗らない事でやや浮く存在も現れる。
それは、今やクラスのまとめ役兼女子の代表のようなポジションの櫛田や、そもそもの協調性の無さから動く気のない堀北だ。
そして櫛田は、困ったように眉を下げながら女子たちの間に入る。
「みんな、やめようよ。山内くんも、きっとそんなつもりで言ったんじゃないと思うし……試験の為にも、協力は必要だと思うの」
「でも……!櫛田ちゃんは良くても、私たちは嫌なの!」
櫛田は必死に取り持とうとするが、女子達の反発は激しい。
そして男子の中では、そんな再び現れ始めた男女の溝に焦り、平田が慌てた様子で声を上げた。
「みんな、落ち着いて!突然の環境で戸惑ってるんだ。少し冷静になろう」
「平田くん……そんな事言ったって…」
「そうだよ、お前はいいけど、俺ら変態扱いされてんだぜ!?」
平田も櫛田も男女での言い争いを収められずに困っている。
他のクラスの様子を見ても、こんなに話し合いにすらなっていないのはここしかない。前途多難だな。
まあ、そんな事言ってる俺自身、別に何もせず傍観してるんだけど。
そんなDクラス然として纏りの無い様子の中、茶柱先生の冷ややかな声が真ん中を通った。
「お前達、一旦その辺りにしておけ。もう一つ、追加ルールの説明がある」
その言葉にクラスが再びざわつく。
が、それは続く茶柱先生の説明により、更に大きくなった。
内容は、スポット――そしてリーダーについて。
生徒達はその説明に戸惑い――しかし、ポイント獲得の機会が提示された事で沸き立った。
それを好機と見たか、茶柱先生の説明が終わると同時に、その空気を締めるように平田が声を出す。
「リーダーを誰にするかは時間もあるし後で考えよう。まずはベースキャンプをどこにするかだね。このまま浜辺に陣取るのか、森の中に入って行くのか……スポットのことはその後で考えるべきじゃないかな」
平田の冷静な提案を境に、クラスはようやく真面目にスポットの事、ひいてはベースキャンプをどうするかについての話し合いを始める。そして俺はそんな彼らの様子を傍観する――つもりだったのだが。
思ったよりその空気は長続きしなかった。
「悪りぃ。俺もう我慢できねえ」
そんな事を言いながら、須藤が学校側が用意した仮設の簡易トイレに駆け込んだ。
「ねえ平田くん。トイレのことも早めに決めた方がいいんじゃない?」
それ自体は毒にも薬にもならないが――折角建設的になりかけていたところで、再びトイレの問題が話題に上がってしまった。
「あ、これ…ポイントを使えば、ちゃんとした仮設トイレを用意してもらえるみたいだ」
「えっ、本当!?平田くん!」
そしてさらに悪いことに、平田がマニュアルの中から「仮設トイレ」という項目を見つけてしまった。
それは平田なりに解決策として発見したのだろうが――その思惑とは反対に、今度はその必要性を巡って男女間での言い争いが再開する。
一番に声を上げたのは篠原で、そこに男女が加わり熱い議論に――と、いうところで俺は視線を切った。
ここまで様子を眺めていたが、流石にこの不毛な言い争いへの興味が完全に失せてしまった。
俺はジャージの胸元をパタパタとさせながら、見苦しいDクラスから視線を外して、再び他クラスの様子へ視線を送る。
特にどこを見るという訳でもなかったが――ぐるりと視線を動かす中で、ふと誰かと視線が合った。
というか、一之瀬がこちらを見ていた。
一之瀬はまさか視線が合うとは思っていなかったのか、パッと顔を別の方向へ向け――その先で視線が合った他のクラスメイトと話し始める。
手でも振ってくるかと思った俺は、そんな一之瀬を遠目で見て少し首を傾げた。
先程も彼女と会ったばかりではあるが、こうして見るとやっぱり――通常のプレイで一之瀬と付き合い始めた際の様子と比べて、まだ他人行儀感が否めない気がする。
これは俺が意図的にデートなどの恋愛イベントを行っていないのもあるだろうが、どうもそれだけではないような。
あえて表現するなら、彼氏彼女という関係に安心感を覚えていない――本来ある筈の"浮かれた"感じが無いと言えばいいか。どことなく遠慮されている気がする。
――まあいいか。
幾つか理由の推測を頭の中で挙げた後、面倒臭くなって考えるのを止めた。
そもそも俺は、元々ゲームで遊んでいた時から一之瀬とのどうこうにそこまで興味が無かった。そんな俺の違和感自体、不確かなものだ。
それに、どちらにせよ俺のやる事は変わらない。
俺はBクラスへ向けていた視線を切り、騒々しくなっていたDクラスをちらりと見る。
いつの間にか、議論の中心に幸村が参戦していた。
幸村は論理的に反論し――しかし、かえって女子たちの感情的な反発をさらに招く結果となってしまっている。
そして他の男子達はと言うと、こちらも明確な反発心が生まれ始めていた。
当然議論は平行線を辿っており、時間は無為に過ぎていく。
俺は再び他のクラスを見る。
そこでは丁度、Aクラス、Bクラスの中から数人ずつが森に向かって移動を始めたところだった。
そしてそれは、俺だけでなく他の者も見ていたらしい。
「あっ!ねえ、AクラスとBクラスが動いてるよ!」
その言葉を皮切りに、今度はスポットとメインキャンプの話が始まった。
こうして見るだけでも、他クラスと比べて何テンポも遅れているのが分かる。こりゃ試験に勝つなんて到底無理な相談だ。
まあほっといても綾小路が何とかしてくれるが。
さて、ようやくと言うか、池達が良い場所を探しに森の中へと駆け出して行った事で、一旦議論は中断となった。
平田と櫛田の号令により、他のクラスメイトもまずは直射日光を避けるために森の中へ移動を始める事になった。
暑さにうんざりしていた俺は、有難くその流れにふらふらとついていくことにした。
重いテントだのトイレだのを運ぶ生徒もいるが、そんな労働に参加するつもりはないので無視――しようと思っていたが、テントの傍で他の生徒へ指示出しをしていた平田と目が合った。
「………ん?」
気のせいかと思ったが、そのまま視線が合い続ける。
というか、向こうから手を振られた。
仕方なくそちらへ足を向ける。近寄ってきた俺に、平田は嬉しそうに声を掛けてきた。
「斉藤君! 催促したみたいでごめん、でも良ければ手伝ってもらえないかな」
「あー、いいよ」
平田は簡易テントのポールの束の片側を持ちながら、しゃがんだまま俺に謝ってくる。
そこには、仕事があるのに暇そうにしやがって、という負の感情は微塵も見受けられない。
ただただ議論にも参加せず手伝いもする気が無かった俺に、サボらず参加しろというお叱りではなかったらしい。
まあ、見つかってしまったものは仕方ない。手伝おう。
俺は頷いて、平田の側に近寄った。
「せーの」
テントの反対側を持ち、掛け声と共に持ち上げる。
簡易テントは幾つかのパーツに分かれているが、2人で持れば簡単に持ち上げられる程度だ。
そして森に向けて歩いていると、平田から話しかけられた。
「…大変な試験だね」
「ん? ああ…」
生返事をしながら平田を見る。
世間話のような雰囲気ではあるが、平田の横顔にはやや切羽詰まったような様子が見て取れる。
これは――相談をしたくて俺を呼んだのか。
ここまでで、俺が平田から多少なりとも相談相手としての価値を認められてきた結果だろうか。俺がぼんやり周りを眺めていて平田と目が合ったのも、偶然ではなかったのかもしれない。
俺は少し周りを見てみる。
森に向けて歩くクラスメイト達。普段は女子達に囲まれている平田だが、今は2人で会話が出来る環境にある。
俺はこの無人島の場において大してクラスに積極的に関わるつもりも無いが――これは良い機会かもしれない。
悩める平田に、こちらから切り込んでみることにした。
「どう大変なんだ?」
「……え? それは……せっかく纏まってきてたのに、また男女で……」
「それは結果だろ。そうなった理由はないの?」
俺からの問い掛けに、平田は少し驚いたようにこちらへ振り向く。
「理由……突然無人島に投げ出されて、不安に感じるから……という事ではないんだよね」
「それだけが理由ならいいけど、平田はそう思うか?」
「いや、僕も違うと思う」
俺からの半ば突然の問い掛けに、平田は真剣に考え込みだした。
そして頭の中を整理するように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「理由……そうだね。それは……多分だけど、男女の意識の差、だと思う」
「意識の差?」
「うん。女子にとって、この環境は……とても怖いものだと思うんだ。ただでさえ今までの4ヶ月間……身の危険を感じざるを得なかったからね。だから、特別この環境と――男子に拒否的になってしまうんだと思う」
「まあ、そうだな。でもそれ自体は、それこそお前みたいに男子も分かってるんじゃないか?」
俺の言葉に、平田は「そうだね」と頷く。だがそれを否定するように言葉を続ける。
「そう思う……けど、多分そうじゃない……なんて言えばいいか分からないけど……」
言いながら、平田は困ったように言葉を濁す。考えている事はあるが、上手く表現できていないようだ。
テントを運ぶ足は緩めずに、俺は平田へ考えを整理させるように口を開く。
「男子達も分かってるけど、女子程は大事だと考えられない……優先順位が違うってことか?」
俺の言葉に、平田はハッとしたように顔を上げた。そして俺の目を見て頷く。
「優先順位……うん、良い表現だね。僕達男子にとっては、自分の身の危険じゃないから……どこか他人事になってしまってるんだ。だから、男子にとって今一番重要なのは、ポイントが増える事であって……女子の身の安全の確保や、不安を取り除く事じゃない。だから、こうしてすれ違ってしまうんだ」
「なるほどね」
流石、普段からクラスメイトの事をよく見て考えているだけあって、的確な解釈だ。
平田の説明にうんうんと頷いている俺に、今度は平田から問い掛けられた。
「斉藤君は、どうすれば皆が纏まって仲良く出来ると思う?」
平田の方を向くと、真剣な顔で俺と視線を合わせてきた。
だがそれに俺は返す答えを持たない。それは俺なんかじゃなく、普段から皆の為に行動している平田の方がよく分かる事だ。
「今のが一つの答えかもしれないぞ」
「え? どういう……」
「今のDクラスで、平田より男女両方の視点に立って考えてる奴なんかいないよ。今の考えを言ってやるだけで、多少皆も冷静になる……かもしれない」
「そう……かな?」
「うん」
平田は不思議そうに首を傾げる。
だが、一度冷静に問題の解像度を上げた事で、平田自身も冷静になった面があったのだろう。少しして納得したように頷いた。
「そうかもしれない。少しでも効果があるかもしれないなら、言ってみるよ」
「それがいいね。……ただ、論調としては男子側に譲歩させる形になるから……なんかポイント温存の案が出せればいいけどな」
「それは……そうだけど、あるかな?」
「さあ? でもそれを女子にも考えて貰えば、男子側の溜飲も下がるんじゃない?それと、あとは……詳しいやつに聞くとか」
「詳しい人? 誰かいるのかな?」
「池とかどうだ? アウトドアが好きだの何だの言ってたけど」
「へえ……そうなんだ、知らなかったよ。うん、池君にも知識を分けてもらえないか、帰ってきたら聞いてみるよ!」
平田は嬉しそうに頷いている。実際どの程度効果があるのかは不明だが――少しでも光明が見えた、或いはこうして対策を一緒に考えられている事が嬉しいのだろう。
そうこう話していたら、ある程度森の中の開けた空間に着いた。
木々が鬱蒼と茂り、不気味さもあるが――日陰として暑さは多少凌げる。
他の者達もそう判断したのか、先に歩いていた者も足を止めていた。
「ここにしようか」
「おっけー」
平田もそう判断したようで、俺達は簡易テントのパーツを地面に下ろす。
後ろに続いていた者達もそこへ物を置いていき、一度移動は終了する流れになった。
という事はまた、先程までの話し合いが再開するのだろう。
平田は当然そこへ参加するが――自惚でなければ、先刻までとは打って変わって彼の表情は晴れているように見える。
そんな平田は、爽やかな笑顔を俺に向けてきた。
「ありがとう、君のおかげですっきりしたよ」
「俺は質問に質問を返しただけだぞ」
「ううん。とても考えが整理出来た」
俺の言葉に平田はゆっくりとかぶりを振り――そして、思いついたように「そうだ」という。
「もしよければ、斉藤君も話し合いに――」
「それは嫌だ」
「あはは……そうだよね」
俺の即答に平田は残念そうにしつつも、答え自体は予想していたのか苦笑する。
こうして俺に相談したがっていた事といい、それなりに平田の中の好感度は稼げているらしい。
ただ実際のところ、平田の中での評価基準はクラスを守ってくれるか否かであり――今のDクラスで、この基準をそもそも満たしている者自体が少ない。俺がそれなりの場所に位置するのは当然と言える。
篠原や幸村、櫛田達の方へ歩いていく平田を見送って、俺は息を入れて立ち上がった。
さて――そろそろ、数少ない俺の用事の内の一つを行う時だ。
俺は額に浮かぶ汗をジャージの袖で拭いながら、件の相手を探し――その目立ちやすさから直ぐに見つかった。
高円寺六助。
あいつが飽きて船に戻るまでに、一つ"交渉"をしておかないといけない。
俺は頭の中で、坂柳の監禁の諸々でかなり寂しくなった自分の残高を思い出しながら、一人優雅にストレッチをしている高円寺の方へ歩いて行った。