ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
序盤で主人公にやられるモブ悪役みたいなノリで先輩を誑かした次の日。
授業中。
俺は真面目に教師の話を聞き、メモを取り問題を解いていた。
今後の動きの為にも、ゲーム内ではキャラの成長の為にも、成績は上位にキープしておく必要がある。ゲームだと予め存在する問題データを丸暗記しておくだけで済んだのだが、こうして現実の世界に来てしまったからには普通に勉強しないといけない。普通にきつい。
学校が終わってからは割とやる事で時間が取られがちな俺には、授業というのは無為に出来ない貴重な時間だ。
だが、余りにも真面目に勉強する姿を他人に見られるのは俺の不良というキャラ的によろしくない。まあ別にそこまで気にすることでも無いが、今のところは一応やめておきたい。
飾り紐で結んだ長髪、ゴテゴテのピアス――見た目だけならどう見ても不良。 そんな奴が真剣に授業を受けているというのは、少しばかり注目を集めてしまう。
俺を警戒している連中ーー現時点では櫛田などに、今あらぬ警戒心を強める材料は与えたくなかった。
だから、俺の勉強法は別の形を取る。
教科書をスマホで撮影し、スマホで勉強する。見た目上はただスマホを弄っているように見えるが、実際は授業のノートや予習復習を行っている。クラスポイント0が確約されている今だからこそ、ノーリスクで行える偽装勉強だ。
そんなこんなでカリカリと勉強をし、昼休みに入った。
俺が山菜定食でも食いにいこうと席を立ち上がりかけたタイミングで、スマホ画面に通知が表示される。
昨日の先輩からのメッセージだ。
メッセージの内容は簡潔なものだ。
昨日の件について、俺の話を聞く気になったということ。思ったより早い返信だったが、それだけあの先輩が危機感を抱いているということだろう。
「今日の放課後、18:30に自宅からこの電話番号へ電話しろ。必ず一人で」
メッセージを送り、俺は席をたった。
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時が過ぎ約束の時間となった
俺は自室でスマホを構え、着信を待つ。
通話が鳴った。
画面にはゲームない知識で知っている先輩の電話番号が表示されている。
「もしもし」
「……もしもし」
電話の向こうで先輩の気怠げな声が響く。
声色は少し沈んでいる。だがそれに忖度する意味はない。
「一応聞いておく。俺の話に乗る気があるんだな」
まずは確認する。あまり褒められた行為ではないのだ。いざサービスを開始して直ぐに思っていたのと違うからやめました、では信用に関わる。俺のこれからの金策の主軸となるのだ。
俺の質問に、先輩は少し考えた後慎重に言葉を選ぶように答えた。
「……あるのは、あります。……でも、少しは話を聞かないと…」
「それでいい。これからの説明を聞いてから最終決定をしてくれればいいし、ちゃんと仕事をした後でなら希望があればやめてもいい」
俺が肯定し短く返すと、電話越しに少し意外そうな声色で「わかりました」と返ってきた。俺は説明を始める。
「俺がこれから始めるのは、安くて簡便、そして安全に『売り』を行うサービスだ」
「……安全?」
「そうだ。男からすれば安くサービスを受けられ、女側は匿名性を確保したまま提供できる。ポイントも連絡も全て俺を介して行う、互いの情報が伝わる事はない」
先輩は黙って聞いている。
俺は話を理解しようとしていると判断し続けた。
「流れはこうだ。まず、男は俺に申し込みをする。俺は日時を指定し、特定の場所に一人で来るよう指示する」
「…場所っていうのは?」
「事前に俺が確認する。その時監視カメラがなく人通りの無い場所、そしてそこへ出入りする様子を見られても特別問題視されない場所だ」
俺は具体的な例を挙げる。
「監視カメラのないカラオケルーム、特別棟、あとは校内でも階段裏や更衣室裏などは候補に出来る。それぞれの調査や部屋の代金は俺が持つ。あと、同じ場所を短い期間に繰り返し使うことはしない。だから、仮に男が約束を破って女の素顔を特定しようと張り込んでも女側が特定されることはない」
「……わかりました」
少々歯切れは悪いが、先輩は納得したらしい。次の説明に移る。
「次に内容についてだが、ヤるのは女側が手や口を使うだけで男から触るのは原則禁止とする。その上で、女側が誰かは男から可能な限り分からないようにする」
「………どうやってですか?」
「まず服装を俺が用意する。髪は隠し、ウィッグも着用する。そして頭には口元だけ開いた袋を被る。強盗とかが着けるようなのを想像してくれればいい」
「………えっ、あのそれ、だ、ダサくないですか」
「まあそこは妥協だな。大掛かりな変装は荷物になるし、女が怪しまれずに現場に入るためにもコンパクトにする必要があるからな。売れ行きを見て今後修正するしれないが、暫定的にはバレない事を優先する」
先輩は少し考え込み、次の疑問を口にした。
「……それで本当にバレないんですか?」
「絶対とは言えないな。胸はパッドでも使って多少誤魔化せるが、それでも細かい体型や身長、ホクロなどの身体的特徴まで隠すのは不可能だ」
俺は率直に言った。
「だが、髪を誤魔化し、頭の特徴を消して服装を私物でなくするだけでかなり分かりにくくなる。加えて暗めの照明にして雰囲気を作れば、視認性は大幅に落ちる筈だ。」
「……」
先輩は何か言いたそうだったが、ひとまず納得したようだった。
実際、確かにツッコミどころはある。だが完璧を求めるのは無理ーー少なくとも今の俺の予算では無理だ。ある程度の妥協は必要になる。
「最後に、値段は一回1万ポイント、そのうち5千ポイントが俺の仲介料、残り5千ポイントがお前の取り分だ」
「えっ、すくな…く、ないですか」
先輩は露骨に不満げな声を出す。
「しかも仲介料って…」
「じゃあ聞くが、お前にこの運営ができるか?」
俺は冷静に問い返す。
「匿名性の担保、客の選別、適した空間の確保、トラブルの回避――それを全部、お前がやれるのか?」
「……」
沈黙。
そんな事が彼女に出来ないことなんて言われなくても分かっている。俺だって元々のゲームを何度も遊んで知った知識を動員して行うのだ、先輩の能力がどうのこうの以前に、単純に本来なら1人で行える作業量ではない。監視カメラでも大量に用意出来る財力があれば話は別だが。
「お前はただ待っていれば客が来る。それだけでポイントが入る。顔を見られず、自分で探す手間もない。良い話だろ。」
「……」
「加えて言っとくと、順次衣装などのオプションを追加していく。これが軌道に乗れば、そこから単価を上げられる」
1万ポイントで、顔の見えない女学生から一発処理してもらう。そう考えるとむしろ高い値段設定ではあるが、このMOD導入後の閉鎖された学園内では話が違う。この「売り」界隈の中では、破格な値段設定である。
そして、男側からしても匿名というのはとても魅力的に映る筈だ。その学生のイメージ的に女性を無理に購入する事が出来ない、また単純にその勇気がつかない者にとって、このお手頃で匿名性の守られる制度はまさにあつらえ向きと言える。
充分に集客が見込める。
「どうだ。やるか」
電話越しに問い掛ける。
だが、ゲーム内でならこうした説得は既に経験がある。この流れだと返答はーー
「……やります」
短く、だが確かに意思を持った返答が得られた。
「よし」
俺は頷いた。
これで1人目の従業員ゲットだ。
「可能なら明日から始める」
「……早いですね」
「準備はできてる。あとは実行するだけだからな。今後の連絡は、今から送るメールアドレスで行う。場所や時間帯のすり合わせはその都度する。いいな」
「わかりました」
「それじゃ、また連絡する」
通話を切った。
交渉は成立。無事に1人目の従業員を確保した。次は実際の運用を開始する番だ。
今度は客の手配といこう。
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客寄せ。
従業員確保と比べると、これははるかに難易度が低い。
何度も手を変え品を変えゲームを遊んできた俺には、ある必勝法があった。
広告を流す。
それも、掲示板の裏側——どこの学校にも必ずある、誰が管理しているのかも分からない、しかしそういったアングラな情報が流れ着く場所。そこに小さな広告を流す。それだけ。
「新サービス開始。匿名・即対応・即マッチング。手・口のみの基本料金1万ポイント。詳細・連絡はこちら→(メールアドレス)」
早速スマホで掲示板に広告を流した。
簡潔で無駄のない文言。
重要なのは、内容を説明しすぎないことだ。こういう類の広告は、少しでも具体性を出すと一気に胡散臭くなる。逆に、曖昧にしておけば人は勝手に想像し、興味を持つ。特にこういったアングラな情報網に生息している連中ならなおさらだ。
ゲームで試した限り、この程度の仕込みでも次の日には誰かが食いつく。
たいていは三年のどこかのバカだ。深く考えず、ただ「面白そう」と思って連絡してくる。
加えて、このMODを導入したゲームの世界では必ずと言っていいほど存在する情報交換用の掲示板——「誰がヤレる、誰を狙ってる」といった話をするための掲示板、そこに属する誰かが、怖いもの見たさで試しにやってくるのもお約束だった。
彼らの目的は単純で、「どんなものなのか」を知ること。
すぐに金を払うつもりはなくても、興味本位で話を聞きにくる。だがそれで十分だ。そこでしっかりとサービスの利点を伝え、オプションの拡張性を示す。たとえば「客の要望も参考に、今後こんなオプションの追加を検討中だ」と言えば、彼らは自然と興味を持つようになる。情報網の一部にさえ食い込めれば、あとは彼らが勝手に話を広めてくれる。口コミこそ最も強力な広告手段だ。
最初の数人が釣れたら、あとは芋蔓式に客が増えていく。これは経験則から導き出した確かな未来予測である。何度もこのパターンを見たことがあった。
次に必要なのは人員の確保だ。客が増えれば、それに対応できる人間を揃えなければならない。
昨日のように監視カメラの死角エリアを巡回し、適当な奴を引っ張っていくのが手っ取り早い。だが、あれはそれなりにポイントがかかる。そんなことをしなくても、いざサービスが軌道に乗れば、それを材料に説得できるようになる。
実際に働いている様子を動画に撮り、それを例として提示すればいい。最初は警戒されていても、「これなら自分もやってもいい」と思わせればいいのだ。いきなり従業員として引き込めなくても、説明と連絡先を渡しておけば後で考え直すかもしれない。それで十分だ。
その為にも、今日も寝るまでの残り時間は巡回をしよう。
俺はカツラを被ってブカブカのフードを身に纏い、席を立った。
お楽しみまでもうひと頑張りだ。