ようこそエロMODが導入された教室へ 作:さんかく
入学してから早くも一週間が経った。
この一週間は本当に目まぐるしい日々だった。
昼は授業、夜は計画の遂行。やる事は多く考える事も多い。忙しく疲れも溜まるが、今後の為にも俺自身が頑張るほかない。
とは言えそのお陰で順調に集客も徐々に得られてきて、そこに釣られてつい先日2人目の従業員も確保出来た。そして俺の懐もゆっくりとだが潤い始めている。良い流れだ。もう少し軌道に乗れば、次の目標に向けての準備を始めていきたいところである。
まあ、そんなことは一旦置いておいて。
今日は何を隠そう、とある原作イベントが発生する日だった。
それは、朝のDクラスの雰囲気からもはっきりと感じ取れた。
教室に入るなり、男子たちがやたらと浮かれた様子なのが目に入る。いつもは遅刻寸前に来る池や山内がとっくに教室に来ており、そして通称「博士」こと外村の周囲に男子達が集まっていた。
そして、それらを冷ややかな目で見ている女子たちの姿。
(……出た、おっぱいダービー)
そう、今日は水泳授業の日だ。
それだけならイベントでも何でもない。ただ、時期が時期である。普通、4月の初めから水泳をやる高校など存在しない。気温もまだ低く、そもそも泳ぐには寒い時期だ。
だが、この学校ではあえてこの時期に水泳の授業を組み込んでいる。それはつまり、今から泳ぎの練習をしておかないといけない理由があるという事。
そう、これは無人島テストに向けた伏線なのだ。
とはいえ、この時点でそんなことを知る由もない生徒たちにとって、そんな背景は関係ない。
男子たちは、ただ単純に水泳=女子の水着姿が見られるという思考に至り、浮かれているだけだった。
(いやー、俺も楽しみ)
わかるよ。
見たいよな、クラスメイトのおっぱい。
俺は彼らへの共感の気持ちを胸に、そんな素振りは一つも見せず静かに席についた。
そしてスマホを開いて弄り始めーー不意に視線を感じる。
チラリとそちらに視線をやると、おっぱいランキングで盛り上がっている男子達が目に入った。特に俺を見ている奴は見当たらないが、その中の誰かが俺を誘うか悩んだとかかもしれない。
どちらにせよ賭けが成立しない為やらないが。
気を取り直し、俺はスマホを弄る作業を再開する。そしてコソコソと次の授業の予習を始める事にした。
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さて。
水泳の授業の時間だ。
男子たちは完全に浮き足立っている。朝の時点でそうだったが、もはやその浮かれ具合は臨界点を突破していた。
なんなら、櫛田やその他女子を見て、下半身を浮かれさせているやつもいる。
「おいおい、長谷部見学してるのかよ」
「いや、そんな事より櫛田だろ、あの体つき反則じゃね?」
「あー、この学校入ってよかったー!」
欲望に塗れた会話が聞こえてくる。
当然会話は女子にも聞かれている訳で、軽井沢あたりの女子たちから呆れた視線が突き刺さるが、男子たちはそんなことお構いなしといった様子だ。
そんな事だからDクラスに入っているのだろう。哀れ。
クラスの愚かな男子共を馬鹿にしつつ、鍛え上げた視野でしっかりと櫛田を始めとした女子達の肢体を網膜に焼き付ける作業に勤しんでいたところ、ふと視線を感じた。
顔を上げると、高円寺がじっとこちらを見ていた。
ニヤリと口の端を歪め、俺をーー俺の肉体を見て口を開く。
「ふむ、君の体つき……その可愛らしい顔に反して、随分とワイルドだね?」
「…うーん、そうか?」
「当然私のような肉体美はないが、内に秘めた歴史を感じるよ。ふむ……夜の匂いがするね」
「変な言い方するな。運動不足解消程度しかしてないよ」
「それならば結構。あまり粗野な男に近くに居られるのは、私の気分に反するからね」
含みのある笑みを残し、高円寺は会話を切り上げた。
流石の洞察力。俺のキャラの不良時代、バイトの都合上時折喧嘩紛いの殴り合いをしていた事を見抜いたらしい。
まあ、こいつにそんな事バレたところで何にもならないからいいけど。
そうこうしている内に授業が始まった。
そして、教師の説明と軽いウォーミングアップの後に競泳がスタートする。ポイントがもらえるというのでクラスが少し湧き立った。まあ、高円寺は期待を裏切ることなくダントツのトップだったが。水の中を滑るように進むその姿は別格だ。
まあ、ゲームでもこの時点で高円寺を抜いて一位を取るのは至難の業だ。水泳特化で育成を進めた上で、生まれつきのステータス補正に恵まれていたらワンチャンという程度。このゲーム屈指のバグみたいな存在だ、気にする必要はなし。
俺はそこそこの記録で泳ぎ、競争はつつがなく終了した。
自由時間へと突入した。
俺は一つのレーンに居座り、1人で勝手に泳ぎ出す。
クラスメイト達は遊んでいる為少し浮いているが、俺のキャラ的に気にするような問題ではない。好き勝手にスイスイと泳ぐ。
水の冷たさも慣れてしまえば悪くない。浮力に身を任せて軽く流す。そうしていると自然と頭が冴えてくる。この時間で、次の目標と具体的な行動を整理しておくのも悪くない。
俺がのんびりと過ごしていると、ふと隣から声がかかった。
「斉藤君、泳ぐの好きなんだね」
振り返ると、平田洋介が隣のレーンにやって来ていた。にこやかに爽やかな笑みを俺へ向けている。向こうの方で女子達と遊んでいたように思うが、どうやら俺に話し掛けに来たようだ。
流石にふよふよと泳ぐのをやめ、プールの床に足をつけて平田に顔を向けた。
「まあ、嫌いじゃないよ」
俺が返答した事に安心したのか、平田は表情を和らげる。
「そっか、僕も泳ぐのは好きなんだ。少し寒いかと思ってたけど、やっぱり泳ぐと気分がいいよね」
「そうだな」
botのように返答をする俺。
そんな俺に対しても、平田は嬉しそうに爽やかに会話を続ける。
「突然話し掛けてごめん。実はずっと斉藤君と話してみたいと思ってたんだ。でもなかなかタイミング掴めなくて」
「あー、悪いね」
「いや、僕が話したかっただけだから。これからクラスメイトとしてよろしくね」
平田はそう言って俺に手を差し出してくる。少し悩んだが、間を置いてから握り返した。
「よろしく」
「うん。そうだ、今度みんなで遊びに行こうって話してるんだけど、斉藤君もどうかな。カラオケとか行こうって話してるんだけど…」
握手したまま流れるように遊びに誘われた。これはやる男のコミュ力だ。流石だぜ。
だが現時点クラスナンバーワンの腫れ物の俺は、そんな美男子の誘いになんて乗らない。毅然と断りの文句を入れる。
「まあ、考えとくわ」
駄目だった。
エロMODとか入れて外道な遊びをしようとしている俺が、なんか申し訳なくなって曖昧に断ってしまった。
手を離しながら己の不甲斐なさを悔やんでいた時――
「えー、それいいね!私も行きたいな!」
明るい声と共に、ザブザブと水の音が近寄って来た。音源へ視線を向けると、茶髪の美少女がこちらへ近づいて来るのが見えた。櫛田桔梗だ。
彼女は俺のレーンに入り、近くに寄って立ち止まる。心なしか少しだけ距離が近い。その豊満な胸と、ぴっちりと浮き出た肉感のある身体のラインがよく見える。自然と視線が合い、彼女は俺に話し掛けて来た。
「斉藤くん、こんにちは!私も気になってたんだ。私とも仲良くして欲しいなっ」
にこにこと屈託の無い笑みで櫛田が俺を見つめる。だがこのキャラの事をよく知っている俺からすると、どうしても裏を感じざるを得ない。というか俺の経歴を踏まえると裏しかない。
「えー…」
思わず漏れ出た俺の反応に、櫛田は苦笑いを浮かべた。
「あはは、急にごめんね。遊びに行くって話が聞こえちゃって。折角だし、仲良くなれたらと思ったんだけど…」
「うーん、仲良くかあ」
「…うん!ほら、あんまり話した事も無かったし、お互いの事を知る良い機会だと思うんだっ」
「いや、まあいいけどさ」
「本当?よかった!」
眉を顰めて返す俺に、笑顔で距離を詰めて来る櫛田。
そんな俺達の様子を見て、平田が少し驚いたような表情を浮かべた。
「もしかして……二人は元々知り合いだったりするのかな」
平田の言葉に櫛田が一瞬ぴくりと反応し、言葉を探すように口ごもった。
その沈黙を埋めるように、俺が口を開く。
「同じ中学だったし、クラスも一緒だった」
「そうなんだ!じゃあ、結構前からの知り合いなんだね」
「……でも、斉藤くんはほとんど学校来てなかったから、話す機会はあんまりなかったんだよね」
櫛田が笑いながら補足する。少しだけ声色が硬い。しかしその違和感も次の声では払拭され、いつもの明るい声となっていた。
「だからこそ、こうしてちゃんと話せるのが嬉しいんだっ。これを機に、仲良くなれたらいいなって」
櫛田は上目遣いで俺を見る。男を堕とす魔性の視線だ。ついでに彼女の顔を見る視界の中に、スクール水着で輪郭の際立った彼女の胸が入っているというのもポイントが高い。これはまずい。
俺は櫛田から視線を逸らした。
「まあ、遊びの件は考えとくよ」
明らかに話題を逸らした俺に対し、平田は不思議そうに何かを言おうと口を開きかける。
しかしそれは、遠くから飛んできた声によって中断された。
「平田くーん!なにしてるのー!」
軽井沢たちだ。お呼びがかかったらしい。
平田は苦笑しながら俺達に向き直った。
「ごめん、ちょっと行ってくるよ。また後で話そう」
「うん!またね」
平田はそう言い残し、俺と櫛田は去っていく平田を見送る。櫛田と2人で残されてしまった。そろそろ俺もお暇しよう。
俺がその場から離れようかと思ったタイミングで、櫛田が身体を更に俺に寄せて来た。そして顔を近づけ、小さな声で言った。
「……さっきの話だけど、本当に仲良くなりたいって思ってるよ」
「……へぇ」
「みんなで遊ぶのはあんまり好きじゃない、のかな。じゃあさ、私とだけなら……どう?」
ぬっ。
俺は迷った。
これはデートの誘いだ。
100%裏に愉快でない意図が隠されているとはいえ、クラス一の美女からのデートの誘いである。
なんと甘美な誘いか。俺は思わず即座に首を縦に振りそうになった。必死に理性でそれを止める。
そして幸いな事に、俺が何かを返す前にその場の空気は崩れる事になった。
「おーい、櫛田ちゃーん!」
池たちが割って入ってきた。
野郎どもは櫛田に声をかけながら近づき、池などはすぐ近くに密着する俺に殺意の籠った目を向けて来る。
櫛田はさっと身を離す。
「何コソコソやってんだよー!せっかくみんなで遊ぼうって話してんのに!」
「ってか、櫛田ちゃんコイツに近づきすぎじゃない!?危ないって!」
櫛田は「え、えーと……」と明らかに困った様子で笑っている。
チャンス。
俺は無言でその場を離れることにした。
「ちょ、待って――」
櫛田の声が背後で聞こえたが、池たちの騒がしさにかき消された。
こうして、水泳の授業は喧騒の中に幕を閉じた。