摩 訶 鉢 特 摩!
エスデスは彼女特有の大技を使い、逃げようとする彼を捕まえ、再びベッドに戻し、彼の上に乗っかる。
そして時は動きだす。
「なっ・・・、使う訳無いと思ってたが、まさか本当に使うとは・・・お前こんな事に時間停止使うな!!」
「全く、ふぅ・・・ダーリンが悪いのだぞ?まだ朝の×時間しか愛し合っていないのに、逃げようとするからだぞ?はぁ・・・先が思いやられる」
「いや十分だろうが、どれだけすれば気が済むんだお前は!」
「うむ、今までナイトレイド共と居た時間が帳消しになるくらいだぞ♪」
「とにかく、摩訶鉢特摩は滅多に使うな!」
「逃げなければ使わないぞ?元々はダーリンを逃がさない為に編み出した技だから
な!」
ドヤッ!という顔で見下ろすエスデス。それに対し
「・・・・・・お前なぁ、時間停止は本来時の流れに干渉して、この天体の運行状況や・・・まぁ、その技の今の範囲はせいぜいこの国ぐらいか・・・いやそれでもだ、それに関わる生物の運の流れを狂わす事になるから、その資格がある奴が本来・・・と、説明しても判らんか・・・」
エスデスは顔を近付けて彼の鼻頭にくっつけ、
「ダーリンは時々不思議な事を言うな?・・・だが、そんな事よりも、んーーー」
エスデスはキスしようと顔を更に近付ける。
「お、思いだした!!」
彼はエスデスの肩を掴んで体勢を立てる。
「ん、むぅ・・・まったく・・・これからという時に何を思い出しのだ、ダーリン?余り大事な用で無ければ、私の気が済むまで最低1日は熱い口づけの刑だからな?・・・む?妻である私の口づけが刑とは!?酷い言い草だぞ!!」
ぷんぷん怒るエスデスに、
「・・・お前は1人で何を勝手に盛り上がってるんだ!?確か今日、少し離れた隣村で祭りがあったのを思い出したんだ・・・それに今から行かないか?」
「祭り?そういえば、そんな話があったな・・・祭りか・・・ふ~む・・・」
祭りでの彼と自分との逢瀬を妄想している。
夜、祭りの熱気が冷めやらず、火照った二人は木陰を見つけ
『エスデス・・・今日のお前は一段と綺麗だな・・・』
タツミはエスデスを大木背にさせ、吐息が掛かる距離で話す。彼女も顔を紅くし伏
し目がちに、
『今日はど、どうしたんだ?・・・今までそんな事を言ってくれた事も無いだろ・・・』
『俺だってたまには雰囲気に酔いたくなるさ・・・だから・・・な?』
『う、うむ・・・だが他の者の目が・・・』
『何?気付きはしない、それに声を出さないよう・・・』
「おーい、エスデス・・・おい、何寝ぼけてんだ!起きろ!」
「ん?んん・・・ああ・・・、ふっ・・・私とした事が、つい現実化する未来に想いを馳せてしまっていた、ふふふ」
彼の呼びかけにエスデスは戻って来た。
「・・・お前の妄想が現実化したら世の中大混乱だ」
「くくく・・・そのようなひねた言動も可愛いぞ、そして・・・うふふふ」
「なんだ?気持ち悪い奴だな・・・とにかく行くんだな?」
「うむ、イクぞ!」
「・・・・・・、なんか引っかかるが、まぁ良いか・・・、・・・これで俺の仕事もやっと終わる・・・・・・」
「?こないだの納期はもう済んだのだろ?」
「こっちの話だ・・・」
彼とエスデスは住まいを出て、祭りを催している村へと向かう・・・その数百メートル置いた場に杖を地面に突き刺しながら様子を窺っている、二が動きだした。
陽は南中を過ぎ、村の祭り会場は露店が立ち並び、暑い中でも人がごっがえしてい
る。
エスデスは地元の村でもなるべく顔を出さぬようにしている為、水色の大きいベールを被っている。
「ダーリン・・・このように顔を隠すのは余り良いものではないぞ?まるで私が賊みたいではないか?」
「実際、お前そうだろうが・・・言っとくがな、今の帝国新政府もお前を許してないからな」
「ふ・・・、弱い私が悪いのか、くっ・・・強ければ賊の汚名等握りつぶしてやるものを!」
「お前・・・前に改心したような事言ってたと思うが・・・?」
「それはそれだぞ、ダーリン」
「・・・まぁ・・・確かに強ければ罪もひっくり返して、胡坐かいてふんぞり返ってる奴もいるからな・・・だがな、そのつぇえ奴が逃れた罪は別の誰かに、弱い奴に流れていくもんだ」
「それが世の習いだな・・・私も・・・あのオネストも弱かった、だから私の場合は今こうしてここに居る訳だな・・・」
「オネストは結構強かったぞ・・・あいつ自身の力も面倒だったが、おこぼれに預かろうと群がって来る連中が奴の欲を忖度しやがってたからな、余計事態はややこしかったな・・・」
「ふっ、もっと私も腕を磨かなければな!」
「お前はこれ以上戦闘面で強くなる必要はねぇ!」
「何故だ!」
「お前がもっと磨くべきは・・・まぁ良い、後は自分で考えろ・・・ただ一つ言うならば、本当に強い奴は自分に掟を課しているもんだ・・・」
「掟・・・?」
「強い奴には強い奴が果たさなければならない、曲げちゃならねぇ掟があるんだ・・・それが無い奴はただ、強いだけだ・・・そんなただ強い奴だけしかいなけりゃ、弱い奴がそれを見習うだろ?・・・だから帝国は腐ったから革命が起きたんだが
な」
「判らんな・・・他の者が言うなら、くだらんとしか思わんが・・・」
「今はまだ判らなくても良い・・・今は」
彼とエスデスはあーだこーだ言いながら、露店で射的や果物をつまんだり、冷やかしたりと楽しんでいた。
「・・・・・・」
「どうしたんだ、調子でも悪いのかダーリン?」
ふと物憂げな表情になった彼をエスデスは見逃さなかった。
「・・・驚いたな、まさかそこまで読めるようになったのか?」
「当然だ、私はタツミの妻だぞ?」
「ふっ、タツミか・・・悔いは無い、あいつらも無事だろうしな・・・」
彼が自嘲気味に言ったに対し、その時エスデスは烈火の如く怒り出す。
「ダ―・・・リー・・・、・・・」
「ど、どどどどうした?」
「今、雌豚共の事を考えたな・・・???」
実際、その時の彼の脳裏にはアカメ達の事があった。
「むーーーー!!!許さん、許さんぞ、もう既にダーリンの身も心も私のものだ、今までどれ程寂しき時間に耐えた事か・・・それなのに、ふぅーーーまだ、あの豚共の事が脳裏によぎるのか・・・くくく・・・、仕方が無いな・・・やはり、あの豚共を肉塊に戻さねば・・・まだ、我が夫を誑かすとは万死に値するぞ・・・そうだ、思い出したぞ・・・ふふふ、いつぞや、ダーリンに口づけた雌豚が居たな・・・待っていてくれ、直ぐにダーリンを惑わす肉塊を元の肉塊に戻してくるからな・・・な、ダーリン♪」
エスデスは紅蓮炎の如き嫉妬心と彼への熱すぎる愛情が交互に交差し、異様な雰囲気を醸し出し・・・往来の人達は何事か?痴話喧嘩か?と怪訝そうに見ていた。
「と、とりあえず落ち着けエスデス!!」
もう往来であろうと構っておられず彼はエスデスを抱きしめた。
「!?・・・そそそそ、そんな事をしてもわわわわ私の怒りははははははは・・・む!?」
抱きしめられていたエスデスは、小さいが鋭利な殺気に反応した。
その方向を見たが・・・雑踏の人だかりに消えてしまっている。
「ダーリン・・・」
「エスデス・・・どうかしたのか?」
エスデスは彼に、当然自分が殺気に感づいたのだ、ならばと見たが
「いや・・・殺気が・・・」
「殺気・・・ああ・・・、・・・きっとイチャついてるように見えてる俺達にいらついた誰かだろ?」
「いや、そんな感じでは・・・」
「まぁそんな事より、あっちで派手な踊りをしてるぞ、見に行こうぜ?」
「う・・・うむ、う~む・・・」
エスデスは不審に思いながらも彼に連れられ大広場へ向かった。
罪人(つみびと)を斬る
楽器を鳴らし、民族衣装を着た男女が踊り、旗を振り、華麗に舞う。その周りを人々が見物している。その中に、ひょっとこの面をした二が、杖を付きながらのらりくらりと歩いていた。
「ほぉ・・・私の知る祭りとは少々異なるな・・・ふっ、だが動きがまだまだだな」
「いや踊りだからな?闘いの動きとは違うからな?」
「私ならばもっと巧みに踊って見せるぞ!・・・まさか、ダーリンよ・・・あの雌共の扇情的な服や踊りを見たさに・・・」
「お前全方位に嫉妬すんな!本当・・・嫉妬深くなったよな」
「・・・私とて自覚はあるが・・・元々は夫の帰りを長く待てる女だったんだぞ・・・だがな、あの・・・あのナイトレイド共と長く居られれば・・・おのれ・・・あの、飴豚が・・・、はっ!?まさかナジェンダとそのような間柄にはなっては勿論いないだろうな・・・ダーリン?」
エスデスが再び怒りの炎を燃やすに対し、
「エスデス・・・終いには俺も本気で怒るぞ?」
「タ・・・タツミが、もっと私を労わらないからだぞ!全くベッドの中だけ優しくされても・・・もう満足しないぞ!」
エスデスは顔を紅潮させ、自分の髪をくるくるいじりながら夫をチラ見し、なじる。
「いや・・・特に優しくなんかした覚えないが?」
「む!?ならば・・・今ここで、私の髪を撫でながら愛する言葉を言ってくれた・・・あの言葉を大声で叫ぶぞ?」
「ぐはっ!?いやあれは・・・愛の言葉とか、そういう意味で無くてだな・・・」
心の吐血をし、滝汗をかくタツミ。
「そうか?そんなに言って欲しいのか?全く困ったダーリンだな、ふふふ、では私も極めて恥ずかしいが大声で叫ぶからな♪」
照れながらニッコリほほ笑むエスデスに、
「おいこら!お前本当Sデスだな!!」
彼が罵声を飛ばしたその時、
突ッ!!
短めの刃がエスデスの背中を突き刺す。
「くっ・・・ふっ・・・」
突かれたエスデスだが、瞬時に氷の刃で薙ぎ払い牽制する。
「ちっ・・・一撃で仕留めそこなったか・・・」
歯噛みするも二は杖の刃に持ち替え片手逆手持ちで身構える。
「貴様・・・中々やるな、念の為、背中に仕込んだ氷の盾が真っ二つとはな・・・。殺気の出所はやはり貴様か?・・・くくく、夫とのデートの邪魔をするとは・・・楽に死ねると思うな!!」
「それはこっちの台詞さね」
エスデスは顔のベールを捨て去り、指を鳴らすと地表を大蛇の如き氷の波が二へと迫る。
「ふん・・・」
それをその刃で細切れにすると今度はエスデスに向けて砕いた氷塊を撃ち返す。
「な?・・・そうではなくてはな・・・面白い少し甘く見たか!?」
突如頭上から巨大な氷塊が出現させ、二を圧殺に掛かる。
「・・・俺が言えた義理じゃないが・・・他の人様を巻き込む気か?」
「ふん・・・私は今、・・・極めて怒っているのだ」
周りの人々は巻き込まれまいと逃げ出し、腕に覚えのある者達も手を出しあぐねていた。仮にエスデスが氷の壁で周りを覆った所で、二は斬撃で突破するであろうし、彼もエスデスに有利な氷壁内で闘うのは拒む。
そして、瞬足でそれをかわし、一気にエスデスへ肉迫する。
「!?」
一度刃を収め次の瞬間居合で真っ二つにエスデスを斬り裂いた・・・が、手応えがなく
「む!?」
二は直ぐ様後ろ手に右片手突きを入れる。
「ほぉ・・・よくぞ見破ったな・・・だがこれで終いだ!」
エスデスは二の刃を持った腕を掴み、彼の首へと押し当てる。
「凍れ!」
その腕は凍り始め、エスデスは彼の懐から短刀を取り出す。二はもう観念したように空いた片手もままならず怯える・・・改めて間近で顔を見た事で、
「貴様、目が見えて無かったのか・・・それでここまで・・・くくく、褒めてやる
ぞ」
エスデスが短刀を二の胸へ突き刺す瞬間、
「なにぃ!?」
二は腕に付いた氷を粉砕し、首へ当てられた刃を両手で奪い返す。そのままエスデスの腹を薙ぎ払い、続けざま背中に一太刀浴びせる。
「くはぁ・・・が・・・こ、今度は氷の鎧も斬り裂いただと・・・」
エスデスは服の下に再度防御を忍ばせていたが、それも砕き、腹や背中から血が滴
る。直ぐに距離を取り、氷で止血に当てる。
「おのれ・・・つまらん芝居を・・・弱者は弱者らしくただ怯えていろ!」
「弱者・・・?ああ、確かに俺は弱者さね・・・だが、今からそんな弱者に殺されるお前さんは一体なんだろうねぇ?」
エスデスも二の並みならぬ怒りの波動を感じ取り、
「そうか・・・貴様は・・・まさか以前私の軍に負けた奴らの1人か?成程な、その
時の怨みでも晴らす為にここまで強くなったのか・・・くくく、あははは」
「ああ、お前は覚えちゃいないだろうがな・・・」
二は大切な仲間達がエスデス軍に無惨にも殺され、拷問死していく様を黙って見る事しか出来ず・・・その時にこれ以上そのような惨状見たくないと言った事で、目を縫われ・・・失明した。
「いや・・・思い出したぞ、くくく、まさかここまで強くなるとはな・・・私は嬉しいぞ・・・私はここまで楽しめる闘いをする為に弱いお前のような奴でも生かしたのだ」
「そうかい・・・生憎俺はあんたに娯楽じゃ無く絶望を味わせに来たんだがね・・・それはそうと、お前の旦那は怖くて逃げだしたんじゃないのかい?」
「・・・見くびるなよ?夫は私を信じて高みの見物をしているだけだ」
「だったら、贈り物にあんたの首でも渡したらさぞ喜ぶだろうな・・・」
「・・・お前とは楽しい闘いだが・・・、私と夫とのデートを邪魔した分を差し引けば、マイナスでしかない・・・今度は耳も手足も消してくれる・・・それで今度は何処まで強くなれるか見物だな!」
「エスデス、お前に明日は来させねェ!!」
両者が再び激突し、
周りに被害が出始める。
氷塊群が飛び散るのを、
「はああああああ!!!」
タツミは一軒すら覆う旗を濡らし、それを鞭の如く使いこなし、氷塊を被害の出ない場所へと撃ち返している。
「あいつ、最後の最後まで面倒掛けやがって・・・帝具使うんじゃねぇ!」
人が逃げたりと混乱する中、
「おとーちゃん・・・おかぁちゃーんどこー?サキをおいてかないでよー・・・きゃーーー」
路地裏で迷子になっているサキの頭上に氷の槍の破片が降って来る。
「ふんぬ!!」
その男は斧を使い、一瞬でその破片を霧散霧消させる。
頭を抱え、自分が無事だと知り、助けてくれた相手に気が付くと
「・・・あ・・・ありがとう・・・、え・・・あのときのさんぞくのおじちゃん・・・ケーサツの人につかまったんじゃ・・・どうして・・・」
「ああ・・・サキちゃんか?・・・おじさんはなー、あの目の見えねぇおじさんにお礼を言いたくて来たんだよ・・・だから・・・お前を人質に奴をなぶり殺してやる!!」
左腕でサキの首を圧迫するように抱え上げ、右手で斧を振りまわし二人が闘っている広場へ向かおうとする。
「たすけてーー、にぃおじちゃんにげてーー!」
「うるせぇガキだ、静かにしろ!あんの野郎・・・銃口弾くなんざスカした真似しやがって・・・俺に止めを刺さなかった事後悔させてやるぜ・・・それにエスデス様も、相変わらずの美人だったな・・・加勢すれば何か褒美に・・・くくく」
「・・・そいつは止めた方が良いな?人質とって闘いに水差したらお前逆にエスデスに殺されるかもな、あいつは今気が立ってるんだ」
「な!?」
ぎょっとして振り返るとタツミが立っていた。
「てんめぇ・・・まさか、エスデス様の横に居た・・・?・・・おおかた下男だろ
う?ちっ・・・身の回りの世話を・・・」
有らぬ妄想でもしているのか、嫉妬と羨望で怒りだす元エスデス軍教官で元山賊頭、イブルス。
「馬鹿野郎、何で俺がそんな事しなくちゃならねぇんだ?自分の衣服ぐらい自分で洗わせた・・・最も、あいつ勝手に俺の服洗おうとするんだがな・・・それと、俺のを洗わずに保管してる事があるんだが・・・何故だ?」
「知るかあァァあボケけええええ、死にやがれれえええええ!!!・・・・・・・うわぎゃあああああああ」
タツミはイブルスを挑発し逆上させ、相手が襲いかかって来たその瞬間右腕を切断、タツミの手には斧を握った右腕があった。
「いてぇか?やっぱり素手よりも刀使って斬った方がまだ痛みは少なかったか?」
「ててててててめぇ・・・・・・、こいつがどうなっても構わない・・・・ぎゃあああああああああ」
今度はタツミ、有無も言わずにサキの首を拘束していた左腕を斧で落とす。
「おにいちゃん!」
サキは直ぐに逃げ出し、タツミの後ろに控える。
「早く、別の所に逃げろ」
「で、でも・・・あたしのしりあいのおじちゃんがいま、おっかないおねえちゃんとケンカしてて・・・」
「大丈夫だ・・・おにいさんが何とかするから、さ、早く!」
「う・・・うん、しなないでね!」
サキが足早く逃げた後、タツミは彼女の最後の発言に思わず苦笑した。
「くくくそーーーー、俺はあの・・・エスデス軍の教官だったんだ・・・こんな若造に・・・こんな奴に負けるわけが・・・」
タツミは何か思っても何も言わなかった。
「うおおおおお」
それをひょいとかわし、イブルスは突進の勢いで壁に激突する。
「くっ・・・ちょこまかと・・・俺はまだ闘える!」
「言っとくが早く止血した方が良いぞ?そうだ、お前に選ばせてやろう・・・ここで死ぬか、それとも目を失って生きるか・・・」
「そんなの決まっている・・・貴様を殺して生き延びるだ!」
イブルスは疾走し飛び蹴りを当てに掛かる。
瞬間、その右足を切断と同時に、目を斬り裂かれる。
「ぎゃああてててて・・・てめぇ約束がちが・・・俺の足があああああ」
「お前が変な選択肢を増やしたペナルティだ・・・これから運が悪けりゃ、出血死・・・良けりゃ生きるが、集団から偏見か迫害されるか、僅かな慈悲を受けるか・・・最も法の裁きから逃げ続けるならお尋ね者だがな」
痛がるイブルスを後に、タツミは適当な所で斧を捨て、再び彼らの闘いの二次被害をくい止めに戻った。
「エスデス・・・このまま悪戯に闘っていちゃあ周りに迷惑だ・・・場所を変えねぇか?」
「貴様が私に命令だと?ふざけるな・・・別に私は周りの者共に攻撃する気は無い、それでも怪我し死ぬ奴は弱いだけの事、そこまで面倒見切れるか?・・・それに、今の帝国では賊扱いなどされているが、私の強さを知らしめ、ここで新しい体制を作れば私を賊扱いなどもう出来んだろう?・・・ゆくゆくは今の帝国政府を従えるのも悪くはないな、ふふふ」
「やはり、お前さんは長生きしない方が世の為、人の為になりそうだな・・・」
「ふふふっ・・・貴様とて知らずに地面の虫を踏み潰し、弱い動植物を喰らって生きているだろうが!」
「・・・・・・」
エスデスの言う通りだとも思ったが、お前とは違う・・・だが二も咄嗟に何が違うのか言葉では出なかった。
「久しぶりに楽しめたが・・・夫とのデートがまだ残っているのでな、遊びはもう終わりだ」
「旦那とのデート?お前は今まで何人ものその幸せを奪ってきたと思っているんだ」
「弱者の戯言など聞かん!!」
互いに次の一撃で決めようと精神を集中させる。
先に動いたのはエスデスだった。
氷の剣で脇構えから突進し、上段からの斬りか下段からの斬りか・・・
だが、二にとってはどちらでも同じ事!
彼はその剣線を逸らし、互いが刃を弾いた後、二はその仕込み杖の柄にも刃を忍ばせていたのでエスデスが斬り返してくる前に心臓目掛けて突きに掛かる。
エスデスはニヤリとし、
摩 訶 鉢 特 摩!
・・・だが、
『しまった・・・もう使ってしまっていた・・・ふっ・・・私とした事が愚かな失態を・・・あの世で待っているぞ、ダーリン・・・』
それでも相討ちには持ち込もうとエスデスも抗う。
ドン!!
その時、エスデスは後ろへ弾かれ一瞬何が起こったか判らずも前を見ると、
「お・・・お前さん・・・」
二もエスデスとの闘いに気を取られ、彼の介入に直前まで気付いていなかった。
その刃は心臓付近を貫いていた。
「ダー・・・タツミ・・・!!!」
エスデスは悲鳴に近い声を上げ、直ぐ様、二を殺そうと向かうが、
「止めろ、エスデス!!」
びくっ、となり立ち止まるが
「な・・・何故だ、何故止める!」
「そうか・・・エスデスの旦那はお前さんか・・・」
刃を抜こうとするが、彼はそれを手で止める。
『!?・・・俺の力で持ってしても・・・この男出来る・・・』
二の額に冷や汗が落ちる。
「なぁ・・・あんた・・・こいつに相当の怨みがあるんだよな・・・判るぜ・・・俺も(別世界の)こいつを殺した事はある・・・んだ」
「ん?・・・んん・・・」
彼が重症に瀕し、何かの妄言か例え話なのだろうと二は解釈した。
「妻の罪は夫でもある俺の罪だ・・・だから、俺の命で今回は目ぇつぶってくれねぇかな・・・、ぐ・・・」
彼の胸から血が落ち始め、柄まで染まる。
「タ・・・タタタツ・・・」
彼は『動くな!エスデス』と目で牽制する。
「俺はこいつが変わって行く事に掛けてるんだ・・・1年後でもそれでも変わらなき
ゃ・・・後はどうとでもしてくれ・・・それに・・・こいつが愛する俺を失えば少しくれぇは失望し、苦しむ・・・生かしてその苦しみを味あわせてみようと思わわねぇか・・・?」
「お前さん・・・さては・・・わざと・・・」
二から殺気が消えたのを感じ、彼は柄から手を離す。
そして、胸から刃を抜いた二は
「エスデス・・・お前さんには過ぎた旦那だな・・・次もしあんたに会う時が来たらその時は・・・」
そう言って素早く去って行った。
「タツミ・・・くっ・・・奴め逃がさん!!」
地面に膝をついた彼は、
「馬鹿野郎!!・・・がはっ・・・ぐ・・・話を聞いていただろ・・・」
エスデスは駆け寄り、直ぐに手当てをしようと手を彼の胸へ当て、止血の為に凍らせようとするが、
「止めろ・・・しなくていい・・・もう手遅れだ、・・・それにした所で何れはまたこうなる・・・ぐ・・・」
「な・・・何故だ・・・何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ・・・何故
だ、タツミがあの男に何故負けた!?」
「いや十分強かったぜ・・・」
「嘘をつくな!例え怪我を負ってもタツミなら致命傷など受ける相手では無いはず
だ・・・今までずっとタツミを見てきた私ならそれが判るぞ!!」
「・・・・・・、それが判る癖に・・・お前は・・・人の痛みが判らない奴だな・・・がっげほっ・・・」
「くっ・・・死なないでくれ・・・私のせいだ・・・私の油断が・・・」
「・・・どうした・・・お前でも涙目になるんだな・・・見直した・・・」
「タツミが・・・タツミが・・・死ぬわけが無い・・・きっと何か奥の手があるんだろ、な?」
「エスデス・・・だから言っただろ・・・俺と本当に一緒になりたいのか、後悔してもしらないぞ、と・・・」
「・・・!?まさか、初めからこうなる事を見越して・・・」
「あの男の練られた殺気は朝から気付いたぜ・・・もっと言えば数日前から俺達の場所も気付いてただろうな・・・」
「く・・・うっ・・・」
「エスデス・・・これが俺からの最後の試練だ・・・以前よりもマシになったお前でもまだまだ不安定だったからな・・・俺の死んだ後、自分がどう生きるべきかじっくり考えるんだな・・・」
「私の・・・私のせいでタツミは・・・タツミは死んでしまうのか・・・?」
「もう一つ最期に言っておかなきゃな・・・俺だって無実じゃねぇ・・・それに本来死んでた奴をその運命をネジ曲げてまで生かしたからな・・・その反動を誰かが背負わなきゃならねぇんだ・・・この世界がこんな風になったのも“俺達”の責任が零でもねぇ・・・」
「俺達・・・?」
「・・・とにかく、お前自身への俺の罪は俺はお前を今まで騙し続けた事だ・・・すまなかったな・・・」
「騙す?今まで嘘はつかれたが・・・一体なんの事を・・・」
「俺は本当はお前と出会っただろうタツミじゃない・・・」
「タツミがタツミじゃない・・・?」
「それだけは悪かったな・・・もうお前の顔も見えなくなってきた・・・」
「な・・・何を言うんだ?これだけ喋れるんだ?タツミが死ぬ訳が無い!又そうやって私に嘘を」
「・・・これぐらい喋れるようには・・・刺された位置を逸らしたんだ・・・ふふふ、長い間存在し生き恥晒し続けて・・・最後は人族の女を庇ってとはな・・・まぁ良い・・・もうこれで俺もやっと・・・、・・・・・・」
「タツミ・・・、そ・・・その手には乗ら・・・」
だがエスデスが彼の心臓に手を当てても、もう二度と再び動く事は無かった・・・。