「さぁタツミ、あたしの足をその舌で綺麗になさい!」
チェルシーは椅子に座り、跪くタツミに素足を差し出す。
そして・・・
「いたたたたたたったたたったたた!!!痛いタツミ!やめてとめてやめて許してやめてーーー!!!・・・ううう・・・これはこれで・・・ああ、やっぱりいたい!」
タツミは両手でチェルシーの足の裏のツボを的確に圧していく。
「これぐらいで痛がってるようじゃなぁ・・・、たぶん胃の調子が悪いな」
「だ、誰のせいで胃の調子が悪いとおも」
「ところでさっきなんて言った?」
足の指にも圧を掛け、
「あーーいたーい、すみません、調子にのりましたーー!!・・・あ・・・でももっと強く・・・、・・・・・・・」
個室のベッドで目を覚ましたチェルシーは
「なんだ・・・夢か・・・って、いたーーー!」
余りなれない舟修繕仕事で足をつってしまい、自分で揉みほぐして痛みを和らげる。
「ふぅ・・・痛かった、でもあたしにもあんな一面が有る・・・いやいや、そんな事・・・だけどタツミと会えて・・・今度こそ既成事実作って・・・そしたら・・・、うん、きっと夢みたいに逆襲される・・・でもそれも良いかも・・・」
「・・・と言う訳で、西に向かうのよ、判ったわね!?」
「ああ~判ったよ、マインがあたしを超える脳筋だって」
マインの怒号がレオーネに向け、誰も居ない路地裏で鳴り響いた。
「あんた少し頭使いなさいよ!!」
「はぁ!?西!?アバウト過ぎんだよ!この広い世界のどの西探すんだよ!!」
流石にレオーネもキレてしまう。
「良いから聞きなさい!幾ら帝国が安定してきたからって、まだまだ国境付近は不安定よ。今回の革命で協力してくれた民族や西の国があるわ、でもそうでもない地域もあるでしょう?」
マインの説明にとりあえず耳を傾けるレオーネ。
「ふ~ん、それで?」
「ふ~やれやれね~、あんたなんて所詮はただ無駄に大きい二つの脂肪が、やがて死亡になるだけの哀れな運命の女よね~」
マインが大げさに頭が痛いわ~な身振りをすると余計にレオーネの・・・
「あ!?もう一編言ってみな!!これでタツミも喜んでたんだよ!」
今度はマインの堪忍袋を斬れさせ、
あんたのその髪、その黄色前から気に入らなかったのよ!!
お前こそ、ピンク?何?お人形さん?ド―セ可愛いと思って染めてんだろ?あざといんだよ!
あんた前にも言ったでしょうが?記憶力あんの?これは地毛よ!
二人とも一しきり言い合いをした後、
「良い?とにかく、タツミは多かれ少なかれ、革命軍やそれの協力者に多少でも名が知れたわ。そんなタツミは今回の革命にほとんど関わらなかった・・・つまり、自分の事を知らない地域に行った可能性が極めて高いわ!」
「あ~マインにしちゃ良くそこまで考えたな」
「アカメとあいつは舟で忙しいし、ラバ、スーさんは資金集め・・・で、あんたは今までなにやってたのよ!!」
マインが再び怒り出したに対し、
「ふん!あたしだって、舟の手伝いしたり、資金集めしたり、賭場で情報収集したり・・・」
「あんたの場合、大半が博打で金使って遊んでただけでしょうが!!」
「全く、タツミだって子供じゃないんだから、お腹が空けばアジトに帰って来るって!」
「それもそうね・・・って、そのアジトはもう無くなったでしょうが!!それにあいつの腹もちどんなに良いのよ?・・・何それ羨ましすぎるんだけど!!・・・って全部につっこんでたら疲れるのよ!!」
「はいはい、マインどうどう」
レオーネがマインを宥めるのに対して、その手を振り払い、
「あんたタツミが居なくなっても平気なの!!」
抑えていたモノが爆発したのか今までと雰囲気を変え、真面目に質すマイン。
流石にレオーネも神妙になり、ふと以前の事を思い出した。
タツミが帝都郊外の路上で包丁などの研ぎ仕事をしていた時に、レオーネとアカメが一計を案じて(?)タツミの金銭をくすね、大目玉を喰らった・・・
アカメを捕まえた後、タツミは金を入れていた箱の中に用心に忍ばせたその虫に挟まれ、苦しんでいるレオーネを見つけ
「ぬわぁああにやってんだあああおまえはああああ」
タツミは中指の第二関節を立てて、レオーネこめかみの両側から適切な位置に圧を加える。
「はんぎゃああああああ!!」
「どうせお前がアカメにアホな事吹き込んで下らない事させたんだろう!」
その後、復讐を誓ったレオーネはタツミが仕事を終えるまで離れた所で監視し、アジトに戻るとは別方向に行く事に不審を抱き後を尾けた。
人里から離れ、生い茂る林の中へと入り、野中の掘っ立て小屋にタツミは入って行った。続いてレオーネも入り地下へと続く扉を見つけ、その階段を下へと進んだ。
「とうとう・・・来ちまったな・・・」
地下はそこそこ広く、蝋燭が無数に灯されタツミは後ろを向き、胡坐の状態で何やら木彫りしながら、レオーネに話しかけた。
「あ~・・・はは、やっぱりばれてた・・・」
バツが悪そうに頬をかくレオーネに対し、
「ああ・・・来るだろうと思って、敢えてここまで誘いこんだ」
「え?タツミ・・・本当はあたしの事を・・・も、もう~しょうがないな~、ちょっとここじゃあ雰囲気ないけどさ~」
タツミはそのまま後ろのまま気配で苦顔している事をレオーネに悟らせた。
「・・・と、そんな雰囲気じゃないか・・・」
「俺はあんたに話しておきたい事がある・・・」
「なぁに?・・・聞くよ」
「この国へ来て、一番長い付き合いはレオーネ、あんただな・・・覚えているか?俺がアカメと初めて会って対峙した時の事を・・・」
「そういえば~、懐かしいな・・・1,2年前だっけ?そんなに前でも無いけど・・・色々有ったからな・・・結構昔な気がしてきた・・・」
頭をかきながら、記憶を辿るレオーネ。
「俺はもし、あの時、アカメが俺を斬ったならば・・・、・・・あんた達全員始末するつもりだった・・・。あんた達だけじゃない・・・この国の奴らも他の国の連中もな全てな・・・」
語りながら木彫りするタツミに、レオーネも「はっ!?」となる。
「え?アカメに斬られたらって・・・?ああ、え?実際に斬られそうになったらって事?いや確かにあの時、アカメは村雨タツミに突けたけど、それ以上は何も出来なかったって言ってたな・・・はぁ~・・・でもタツミ?あたし達だけじゃなく・・・この国の人も?自分の生まれた国も?そりゃ無理でしょう~幾らあんたが強くたって・・・あ~」
レオーネも先の革命で皇帝の帝具の殲滅力をも超えるだけタツミの実力を思い出す
と、あながち全くの絵空事にも聞こえなかった。
「でもなんで、アカメに斬られそうになったからって・・・大量虐殺なんてしようと思ったんだ、タツミ?」
「俺は元々、この星・・・この国に訳あって派遣された・・・だが、俺は正直面倒だった・・・言い方は悪いが、民度の低いこの星の住人を結果として助ける事に繋がる行為はしたくなかった・・・。だから、俺はアカメがもし、俺を斬っていたら、ああやはり、その程度かと・・・呆れ、皆殺しを決定していた・・・」
ごくりと唾を飲み込むレオーネは
「・・・つまり、あたし達はアカメに助けられたって事?はは、でもタツミ、たったそれだけの事であたし達を見捨てるなんて、早過ぎない?」
タツミはそこでレオーネに顔を向け、その問いに対し
「なぁレオーネさん、あんた虫を殺した事あるだろ?」
「あん?そりゃまぁ・・・ねぇ」
「そん時、部屋に入って来て鬱陶しいとか、道歩いててただちょっと目障りだから何となく殺した事もあるよな・・・」
「・・・・・・・まぁ」
「部屋に居る虫を殺さずに外に逃がすなんて、案外難しいもんでな・・・小さく脆い体の虫なら余計に骨が折れるんだよな・・・、だったら殺した方が手間が掛からない・・・、・・・と思う事も・・・あるにはある・・・」
しばらくの間、互いに喋らずレオーネの頭を抱える呻き声が数度有った後、
「つまりタツミは・・・あたし達が虫みたいなもんで、目障りだったり、何となく殺す事にも躊躇はない・・・?革命に手を貸したのも本当は面倒臭かったって事?」
タツミはそれに対してはっきりとは返答せず、別の話をし始めた。
「・・・実はな、俺は元々“先達の不始末”をつける為、本来存在するはずが無かった帝具の破壊を命じられた・・・だが、同時にこの星の生殺与奪の権利も任され
た。・・・もし、このままこの住人をほおっておいたら・・・後々大きな火種が外宇宙に飛び火しかねない危惧もあったからな・・・」
「え・・・と、判らない所あるから、もう一回言って?」
「判らない所は判らなくても良い、確かに俺を怒らせなかったアカメにはこの星の住人全員感謝した方がいいかもな、ふふふ」
「え?あたし、乞食だったタツミに施したじゃん?それ感謝にならないの?」
「あんたのあれは、博打で大勝ちしたからだろ?ま・・・分け与えないよりは良いが」
「ば、ばれてた・・・けどさーお姉さんには話が大きすぎて・・・よく判らないけ
ど、タツミってつまり、神様?・・・聞いた事あるけど、破壊の神様みたいなもの?」
「・・・・・・、あんたらから見たらそう言うのかな?」
「ふぅ~・・・でもさータツミの言う事が何処まで本当か判らないけど、とにかく、革命成功してこれでめでたしめでたし、だろ?」
「・・・俺にとっての“本当の目出度し”はこれからだ」
「・・・?・・・ところで、タツミさっきから何彫ってんのさ?神様かなんかの像?」
「まぁそんな所だ・・・、俺は今までに、上の命令で・・・殺さなくても良かった奴や時には間違って殺してしまった奴も居た・・・この星ではそんなヘマな事したつもりはなかったんだが・・・俺もしくじっちまった・・・あの馬鹿な皇帝カライの奴と闘った時、後で調べて判ったんだが・・・、俺のせいで巻き添え食って死んだ奴も居たようだ・・・」
「そりゃ・・・あれだけ大規模なら・・・けど、悪いのはタツミじゃないって」
「慰めてくれるのは嬉しいが・・・、俺はそんなヘマをした自分にうんざりだ・・・」
「でもタツミ?そう言うけど、さっきアカメに斬られたら皆殺しだって・・・」
タツミはそれに対してはきっぱりと言った。
「俺は自分で判断してやった事は、例え悪事でも気にしないが、意図せずにやった事は・・・、・・・」
最後の台詞は苦虫を潰しながら吐いた。
レオーネもそれを聞き溜息をつきながら
「あたしもさ、この仕事する前とか、入ってからも初めの頃・・・標的以外の奴も殺しちゃった事もあったんだよね~・・・あたしも根はロクデナシだから・・・ま、しゃーないと思ったけど・・・」
あの時の事をレオーネは思いだした、その事でやけ酒を呑んだ日々を。
タツミと視線が絡み、気まずそうにレオーネは視線を反らす。
「殺人を生業にしている奴らは、誰だって多かれ少なかれ、そうだろうな・・・あんな標的だけ始末出来るような運の良い奴は絵空事の中だけだ」
タツミの言葉にレオーネも沈黙で肯定する。
「そうだレオーネ、あんたにはもう一つ伝えておこうと思った事が有った」
「他にまだ・・・あたしに?」
「ランからも頼まれているんだが・・・あんた方にはもう二度とこの仕事はして欲しくない・・・その辺はナジェンダも判ってくれただろう、俺も最低限の事はした・・・殺す事やその仕事そのものから心のどこかで、もう抜け出せないと思っている奴も居るだろうが、そうならないようナイトレイドの生き残った者達の事を・・・レオーネ、あなたに頼みたい・・・」
タツミが静かながらも凄味がある言い方で話し、レオーネも一瞬ここに居るタツミは誰か別人ではないかと疑った。
「よ・・・よりによってあたしに・・・?」
その後、タツミは何も話さずに彫り終えた一体を陳列されている棚に置いた。
そして・・・、
「・・・っと、あんた聞いてんの?」
「ん?ああ、ああ~・・・もう酒は良いって?〆はビールで!」
「昼間っからボケてんじゃないわよ!!良い?今、手空いてんのはあんたなんだか
ら、とっととタツミを探しに行きなさい!!」
「へーへい、わーったよ、ほんとおねーさん使い荒いなぁー、マインこそ、タツミ連れて帰って来たら、告白する準備しときなよ?」
「にゃ?にゃにゃにゃに、馬鹿にゃ事言ってんのよ!!あたしはあいつの事」
マインの罵声(?)を尻目にレオーネは背を向け歩きだす。
『そうだよな・・・もうそろそろ、あいつ等3人も心の準備は出来ているよなぁ・・・もう頃合いかぁ・・・。あたしがもしタツミだったら、死ぬ時が来たら・・・皆に笑顔で別れて・・・その後は1人で・・・ふふふ、あたしもタツミも案外ちょっと似てるのかな・・・けど、もしエスデスの奴なんかと寝てる所だったら・・・うん、殺そう!』
レオーネはアカメ、マイン、チェルシーの3人が羨ましかった・・・本当はタツミの事を異性として見ていたが、彼女らが積極的に行く為、実はそこまで積極的になれない本人は戸惑い、日頃は笑ってごまかし、中々本当の意味での行動に出られなかった。
その為その3人よりもタツミに対し、多少冷静に見る事が出来た。タツミが失踪して間もない頃も、彼の頼みを聞いていた事もある為最悪のケースも想定していた。
レオーネはタツミを本格的に探すのは彼女らにそれを受け入れる準備が出来るのを待っていたからだった。
「あ~あ・・・おねえさんはつらいねぇ~~~」
独り言をぼやきながら、
レオーネは時には小銭を掴ませて聞き込んだり、胸を揉ませてくれたら教えるというスケベには張り倒して聞いたり・・・と、数日後とうとう、タツミが居ると聞いた住まいに辿りついた。