この国もこのままの体制で良いのだろうかと、正邪を見抜くには前言撤回が無いか、発言が一貫しているか等があると思います。狼少年が格好良い事を言っても信用出来ないかと。
私は不利な方に付く方が面白いと考える性質です。
「えええ、エスデスさまぁあああ、ごごご、ごぶさたしておりましたあああ!!」
所々ほつれた白の上下道着に紅帯を締めた大男がエスデスの前に跪いた。
エスデスも修繕の手を止め、
「ダイダラ・・・お前か、よくここが判ったな・・・」
「おおおおかわりなく・・・ううっ・・・よくご無事で・・・・・・」
ダイダラはエスデスの前で男泣きする。
「ふふっ・・・みっともない奴だな・・・なんだ私の悪い噂でも聞いたか?」
「は・・・はい、風の噂でエスデス様が処刑されると聞きました・・・そんな事ある訳が無いと、俺は帝都に急いで戻ってみたら、・・・なんだか反乱軍共が勝って、あの大臣を倒したと聞きました・・・俺にはもう何が何やら・・・それで、エスデス様が無事かどうか色んな奴から話を聞いたら、最近出来た珍しい氷の彫像があると・・・ひょっとしてこれはと思い・・・やっとやっと・・・」
そして、再びむせび泣く。
「全く変わらん奴だな・・・ふふふ、好い加減見苦しいぞ?」
そう言うエスデスだが微笑を浮かべ、ダイダラの肩に手を置く。
「も、申し訳ありません・・・でも良かった・・・エスデス様ご無事で本当に良かった!!」
「・・・無事・・・か、」
エスデスが切な気に言うに対し、
「・・・?どうかされましたか?」
「・・・ダイダラ、お前は今まで何処に居た?」
ダイダラはすっくと立ち上がり、
「よくぞ聞いて下さいました!己を鍛える為、帝国の辺境を東西南北と周り・・・くっ・・・あの野郎・・・」
「あの野郎・・・?」
「そうです、あのナイトレイドの片割れ・・・ええ、タツミとかいう奴と再戦する
為、俺は・・・」
タツミ・・・心の中で呟くエスデス。
そして、ダイダラは一瞬言葉に詰まったが、次の言葉が出るまでエスデスは待った。
「申し訳御座いません・・・リヴァはナイトレイドの1人と相討ちに・・・ニャウは
そのタツミに殺されました・・・お、俺がもっと強ければ・・・こんな事には・・・」
「そうか・・・」
エスデスは生前のタツミからその経緯は既に聞いているが、敢えて何も言わず寂しげだが労わりの微笑を浮かべた。
「本当はもっと早くお伝えに戻らねばと思っていたのですが・・・何分奴との約束がありました・・・俺があのままエスデス様の所に、エスデス様の軍に戻れば今度こそ奴は俺を殺すと・・・、俺の命はエスデス様に捧げているのでどうなろうと構いませんが、・・・負けて生かされた俺がおめおめ帰るのも・・・笑って下さい、男のつまらん意地ってやつです」
「別に笑わん・・・」
「エスデス様・・・?こういってはなんですが、以前と比べて変わられたような・・・」
「・・・そうか?そんな事よりも、それでその後はどうした?」
「はい、タツミを倒す為徹底的に鍛えました!帝具は無いですが・・・次は必ず奴を倒して見せます・・・エスデス様、・・・ナイトレイドの、タツミの奴の居場所を何かご存知ですか?」
一瞬キョトンとしたエスデスは、
「ふふふ、くくくくっくっくっくっく、・・・あははっはははは」
腹を抑え、大声で笑った。
「え?え?あ、あはははは・・・?」
ダイダラも釣られて判らずも笑ったが、
「お前は・・・ふふふ、数日ぶりに笑ったぞ・・・お前がタツミを・・・?あはははは、余り私を笑わせるな?」
「い、いえ、しかし・・・さすがにエスデス様と言えど・・・俺も」
「ふっ・・・ならば貴様、この私を倒せるか?」
エスデスは胸に手を当て、挑発して来た。
「そ・・・そんな、お、恐れ多い」
「ふっ・・・初めてお前と遊んだ時の威勢はどうした?」
「あ、いや、あの時は・・・まだまだ俺も自分の分が判らず・・・」
「ならば、今のお前もあの時と大して変わらん」
「ど、どういう事ですか?」
「ふっ・・・私でもダ―リ・・・おほん、タツミには敵わなかった・・・」
ダイダラは驚愕で、思わず座り込み
「え・・・?エスデス様が?・・・馬鹿な・・・ありえない・・・」
「お前は何を修行してきたのだ?・・・タツミなら先程、この私を倒せるか?と聞いた場合、躊躇なく仕掛けてくるか・・・もしくは、そうだな、平然と受け流すかだろうな・・・ふふふ」
「え・・・エスデス様はタツミの奴と・・・会った事があるんで・・?」
「あ・・・ああ、あれは帝具が使える人間を探す為に行った武道大会だった・・・ふっ、懐かしいな」
一瞬エスデスもタツミと会った事を話すか躊躇したが、そのまま話の流れに任せる事にした。
「あの時初めてタツミと会った時、ふふふ、私も油断はあったが・・・自惚れるつもりはないが、この私を一瞬で倒した・・・ふふふ」
「いや、え?はぁ・・・」
ダイダラもエスデスがそう言う以上、そうなのだと納得するしかなかった・・・それと同時に気付いた事は、今までダイダラは見た事が無い、タツミを語った時に見せた元上司の恥らう乙女顔を。
「ああ、はぁ~・・・あいつはそれは・・・確かにちょっとは腕が立ちそうだと思いましたが、そんな馬鹿な・・・」
「今の私でも、タツミの足元くらいだろうと・・・思っているがな」
「足元?そ・・・それは幾らなんでもご謙遜が過ぎるんじゃ・・・」
「ふぅ・・・お前、反乱軍との戦いを何もしらんのか?」
「ええ・・・はい、面目なく・・・」
「まぁ良い・・・知らんのなら、別の言い方で教えてやる。先程の私を倒せるか?の質問だが、タツミは何かに頼ったりはしない・・・」
「頼ったりしない・・・?」
「弱者は、己の欲望やら、正義とやらや、・・・他は宗教や国家か?そのような者に頼るが・・・お前とて・・・私に崇拝とやらをしているから、手を出せぬのだろ
う?」
「そ、それは・・・」
「タツミも頼ったりする事はあったが・・・それは一部のみだ、全てに置いて何かに頼るような・・・そんな男では一切無かった・・・ふふ」
「・・・・・・」
「つまりだ、私を崇拝しそこから脱却出来ぬのなら、お前はそれまでの男だったという訳だ・・・その程度では私のダ―リ・・・」
「エスデス様?」
「ごほ、ごほん・・・ううん、タツミにはまるで敵わんぞ?」
「エ、エスデス様にそこまで言わせるとは・・・、そこまでも見抜けない俺が浅はかでした・・・」
「ふっ・・・本当は私もタツミの身も心もその奥の芯まで、支配したかったのだが・・・叶わなかったな・・・」
物憂げに語るエスデスに、ダイダラは気にせずに聞く。
「・・・エスデス様はタツミと・・・どういうご関係で?」
「タツミは・・・ふふふ、我が夫だぞ♪」
・・・と、以前なら普通に気にせず話しただろうが今は、
「・・・き、気にするな・・・お前には関係ない!」
と答えた。
「ええ・・・?はい、判りましたが・・・タツミの居場所は何処でしょうか?せめ
て、それだけでも教えて頂けましたら・・・」
「・・・あ・・・、うっ・・・タツミは・・・タツミは死んだ・・・」
改めて苦々しい顔になりながら吐く。
「!?死んだ・・・あいつ・・・俺との再戦を受けると言っておきながら・・・、何故です?何故奴は死んだんですか?」
その言葉がエスデスには心を刃で何度も刺されたような気分にさせる。
「・・・や・・・そう、病だ・・・、タツミも病には勝てなかった・・・」
エスデスは久方ぶりに大きな嘘を吐いた。
一瞬呆気に取られたダイダラは、
「病にですか?・・・ははは、自慢じゃありませんがね、俺は生まれてこの方、風邪なんてひいたことがありませんぜ!」
「・・・・・・」
「じゃあ・・・これは俺の不戦勝って奴かな?・・・呆気ねぇ幕引きだったな・・・」
ダイダラがタツミに対し、再戦出来なかったもどかしさと、そんな事で死んだのか?という嘲笑が入り混じった笑みを浮かべると
「この愚か者!!」
エスデスは一喝し、ダイダラも震える。
「ん?ああ・・・、いや、すまん・・・私も少し苛立っていた・・・」
「いえ・・・え、ああ・・・そうですね、エスデス様は・・・そんな不甲斐無い勝ちに拘らず、もっと精進しろと・・・仰りたいんですね?」
「・・・・・・」
「いや、仰る通り、このダイダラ・・・もっと強くなる所存です・・・あの時のタツミの闘い方を思い出してイメージトレーニングもして、俺の勝ちのつもりでした
が・・・、どうやら改めて言われますと・・・本当に勝っていたのかどうか・・・、それと精神面でも鍛えなくては・・・ですが、エスデス様をお慕いからの脱却・・・こいつは・・・確かにかなり難問だ・・・、ふっ・・・認めまさぁ、エスデス様を前にして、あのタツミの野郎、慕わねぇなんざ、そこだけは確かに大したもんでさぁ」
「黙れ!!タツミと私は相思相愛、互いの相性も抜群だったぞ!!」
と大声で怒鳴りたかったが、その発言をエスデスはぐっと堪えた。
「・・・と、いつまでも長居してご迷惑かける訳には参りません・・・突然押し掛け申し訳ありません・・・」
「ん?いや・・・別に構わんが、こっちこそ茶も出していなかったな・・・」
「いえ、失礼ですが何やらこちらの家も傷んで・・・?何かお手伝いしましょうか?」
「いや構わん・・・1人で行う・・・」
エスデスは視線を逸らし、気不味そうな顔をダイダラも見てとり、
「そうですか・・・いや、判りました!エスデス様、どうかお元気で・・・」
「あ、また来るのは構わんぞ?土産話でも聞かせろ」
「・・・へい、その時はでっかい肉も持ってきますぜ!」
「うむ、楽しみにしているぞ」
ダイダラはエスデスと気分良く別れ、家を後にしたが
「エスデス様・・・申し訳ありません・・・俺はもう貴女にお会いする事は・・・あんたは、俺に小さいな嘘を吐いた・・・あんた、タツミと良い仲だったんじゃ・・・だからお互いさまって事で勘弁してくだせぇ・・・思ったより、早くに脱却出来るかなぁ・・・いや、まだ掛かりそうか・・・?エスデス様、あんたから受けた恩は忘れはしやせんが・・・あ~・・・俺も良い嫁さん探すか~・・・」
再び1人になったエスデス、布で隠し、氷漬けにしたタツミの遺体を撫でながら
「ダーリンよ・・・今何処に居るんだ?・・・巷の者が言う、霊とやらになっているのなら、姿を見せて欲しいぞ・・・それとも、無になってしまったのか・・・ならば、悲しいものだな・・・、・・・この感情・・・確かに全て無になって、消えれば・・・このような思いもせずに済む・・・、私も後を追おうか・・・ふっ、私らしからぬ事だな・・・」
今もう一人別の男がそこに向かっていた、タツミが仲介に立って取り次ぎしていた氷の彫像等の販売を手掛けた大店主人であり、生前タツミは自分にもしもの事があった場合、その場所に直接尋ねるよう地図を渡していた。
彼は、未だ打ち合わせにも来ないタツミに不安を覚え、“先生”と称されたエスデスの元へと向かう。
だが、彼は浮かぬ顔で別の意味でも不安だった・・・。何故なら前帝国時代のエスデスの悪行をこの地でも噂で流れ、近隣で被害に遭った話も聞いている。
タツミはそれまでエスデスの事を隠して偽名を伝えていたが、亡くなる数日前に本当の事を打ち明け、その主人に土下座して謝った。
初め、主人は怒り契約を打ち切ると言いだしたが、エスデスはこの仕事を通じて変わっていくはずだと言うタツミの懇願と、一度冷静になると主人もその利益を馬鹿には出来なかったのもあった。
・・・そして、主人が帝国政府にエスデスが居ると密告するのも可能だったが、タツミは死ぬ前に伝書鳩でナジェンダ宛てにエスデスは死んだ事にしてくれと伝えた上で、“まだ奴は帝具を持っている、悪しからず”と、遠回しに彼女の事は放っておいてくれの意味と、
もし、それでもナジェンダが・・・或いは現帝国政府がエスデスを討伐するなら・・・、仮に討ちとれても大半の帝国国民は死滅、最悪全滅の恐れもある。
タツミにとってはどちらでも良かった、互いに争うならエスデスにもナジェンダ達にも失望し滅べば良いと、そうでないなら互いが生き延びる機会も作った。
そして、タツミは信じていた。今のエスデスの戦士としての心を考えれば自分しか帝具を持たぬ状況ならば、余程の強敵で無い限り、1対1・・・1対10万だろうとつまらない闘いにしかならないだろうと、だからエスデスからは帝国には仕掛けないであろうと。
主人はとりあえず密告はしなかった、どうしても不安ならエスデスの所へは行かなければ良いとタツミに言われてもいた。
その彼の心の中はエスデスという恐ろしい者見たさと、そんな犯罪者を更生させる機会をこのまま続けて欲しいというタツミの願いと商売の打算がない混ぜで、足を向かわせた。
「・・・エスデ・・・、先生~・・・いらっしゃいますか~」
後に彼らはその社会に置いてインフラ整備等の資金面で貢献していく事となる。