元ナイトレイドのメンバー達は自分の生き方を見定め歩き、その後の人生を送った。
帝都も安定していき、いつしか過去の暴政も風化しナイトレイドの存在も人々から忘れさられようとしていた。
そんな革命から幾年月が経った時の事だった。
エスデスはその名を伏せ、大勢の人前には出ず、対渉外関係は初めの頃からの専属出入り商人、ナウド・・・彼に任せた。
そして、エスデスの居る地域も発展していき、水道等のインフラも行き届き人々の生活も向上しつつあり・・・そんなある日その噂を聞き付けたという理由で帝都の大臣が是非面会したいと尋ねてきた。
その事を相談しに、その彼がエスデスの所に来た。
「先生どうするね・・・まさか、帝都のお偉いさんが来ちまったよ・・・俺も先生は人前に出る事を憚る方だと何度も言ったんだが・・・いやぁ参った、“会えば判る”の一点張りでね~先生・・・いや、エスデスさん、まさかあんたの昔の知り合いじゃ・・・」
「・・・その方のお名前は?」
「ああ、それは・・・」
エスデスはその名を聞き、
「判りました・・・その人を連れて来て下さい・・・但し、その方御一人とだけ」
「・・・本当に良いんですかい?まさか、過去のあんたの所業を裁く為に・・・気をつけて下さいよ、俺ももうあんたには死なれちゃ困るんで」
エスデスは微笑みながら、その言葉を受け流し・・・そして、その日が来る。
其の大臣は、屈強な従者数名を引き連れ・・・そして大臣のその直ぐ傍には顔を目以外は隠した男が一人、ぴったりと警護していた。そして彼のその隙間からは僅かに緑色の髪が覗いている。
エスデスの住んでいる家は元のままから増改築し、今ではちょっとした大きな庭園に囲まれた少々洒落た雰囲気の空間を醸し出していた。
ナウドが彼らを迎え、
「お待ちしておりました・・・大臣どうぞ御一人で中へ」
それを聞き、傍の1人が前に出て暗黙の牽制をすると、
「ラ・・・あ~、大事無い。私一人で大丈夫だ、他の者たちもここで待機してくれ」
止められたその警護の男は目で大臣に問うが、改めてそれに頷き返す。
「ささっ、お付きの方々はこちらへ、遠路はるばるこのような所まで・・・冷たいものを用意しておりますので、どうぞおくつろぎくださいませ」
ナウドに先導され、従者達は離れるが、後ろ髪を引かれるように大臣を見るその警護の1人。
その彼に苦笑しつつも、大臣は若干緊張の汗をかき、彼女の所へ向かう。
ここが西の砂漠の地域だと忘れてしまうような・・・庭には川が流れ、小鳥たちも水浴びしに来る。
そんな庭に作られた東屋にエスデスは紅茶を呑みながら、本を読んでいた。
そこから数メートル間を取った所から
「・・・済まないな、先生・・・忙しい所、無理を言って会って頂いて・・・」
「いえ・・・こちらこそ、本来ならば大臣のお呼びでしたら・・・こちらから出向かねばならない所を・・・どうぞ、こちらへ・・・程良く冷えたのがありますので」
そう言った後、二人にしばし沈黙が訪れる。
先に口を開いたのは大臣の方だった。
「ふっ・・・ふふふ、エスデス・・・やはりお前だったか・・・、お前にもそんな言葉が使えたとはな・・・見直した、を通り越して、デモンズエキスを使われずとも背筋が寒くなるぞ」
呑みかけの紅茶を置き、笑いを堪えられず
「くくく・・・、ナジェンダ・・・まさか貴様が大臣とはな・・・やはり老いたな」
「老いた、だと?お前ほどでは無いさ・・・」
「ふっ、私はあの頃からほとんど老いてはいないがな」
「私とて周りの者から20代と勘違いされ」
「それはお前の腰巾着共の世辞だろう?そんな事も見抜けぬほど衰えたか?」
「おほん・・・こんな下らん事を言いに来た訳ではないぞ」
「そうか、帝都はどうやら人材不足のようだな。それとも、オネストのように暴利を貪っているのか?」
「・・・私が権力の座に着きたいが為に、革命の言葉を弄んだと思っているのか?」
「ふっ・・・、今更私が関わる話では無かったな・・・」
「答えろエスデス、どういう風の吹き回しだ?戦闘狂だったお前がよく今まで大人しくしていたな・・・」
「・・・帝具はどうやら私一人だけしか持っていないようだからな、お前達に帝具が無ければ、つまらん闘いしか出来ぬ・・・興が削がれただけだ」
「・・・本当にそれだけか?」
「帝具が無い者で少しは私と闘えるのはブドーやランくらいだろう?そんなお前達が束になって掛かって来た所で・・・」
「話を逸らすつもりか・・・、私は本当にそれだけか?と聞いているんだ」
「なんだ?それ程までに自滅願望でもあるのか?ならば望みを叶えてやらんでもないぞ?」
エスデスは人差し指から空中に無数の小さい氷塊を顕現させて、それを回転させる。
「確かにお前にとって大した相手が居ない事も理由だろうが、本当はタツミが影響していたのだろう・・・お前が慈善事業の片棒を担ぐなど似合わない真似だからな」
「ふん、お前らしいな。やはり事前に私らの事を調べてきたか・・・」
「初めはお前が氷の中に何か人々を操る新たな技を仕込んだのか?と冷や冷やしたぞ・・・」
遠くを見つめ、空中で回転させていた氷塊を指を鳴らしたと同時に、霧散させる。
「ダ―・・・タツミを・・・、死んだ者を甦らせる秘術は無いのか・・・ナジェンダ?」
「生憎、そんな話は聞いた事が無いな・・・らしくないな、お前が私に助け舟を求めるとは」
「ふっ・・・私も腑抜けになったか・・・?・・・、・・・良いだろう折角ここまで来たのだ一つ話をしてやろう・・・あれはまだ彼と会って間も無い頃だったか・・・」
「ん?・・・」
ーーーーーーーーーーーーーー
「エスデスお前、自分の事を強いと思ってんだろ?」
「・・・弱くは無いとは思っているが」
「帝国最強と言われてるもんなぁ~」
「タツミ・・・何が言いたいんだ?」
「お前は自分が強いから何をしても良い、のような事をぬかしてるが傍から見たら他の奴より少しだけ強い程度なんだがな」
「私が他の者共よりも・・・少し強い程度・・・だと?・・・タツミは一体どれ程のレベルの者達の中で修業してきたのだ?」
「・・・とにかく、お前はもっと強くなれば・・・そう更なる高みに辿り着けば、今度は逆に自らに枷を掛ける必要が出てくる。」
「ん?・・・強い者であるのに、制限が生じるのか?」
「そうだ、弱い奴よりも強い方が出来る事が大きくなる・・・だがな、強い奴は今度は弱い奴よりも数倍自分を律する必要が出てくるんだ!」
「・・・判らん・・・強い者が弱い者よりも・・・」
「大体お前が強いのは運が良かっただけだぞ?」
「?私なりに研鑽を積み、ここまで腕を磨いたのだ・・・それが運が良いだと?」
「ああ・・・五体満足で生まれた事や心も安定して生まれた事、闘いの才能を持って生まれた事や今まで自分よりも弱い相手としか出会わなかった事とかな・・・もしお前が、この中のどれか一つでも欠けてたらここまで強くはなれなかっただろう?」
「む・・・?」
「運も実力の内、何て言うがな・・・その運のおかげでお前はここまで強くなっただけだ、ってなると運そのものが最強って事になるな・・・そいつの努力でどうにかなったと思ってたって、せいぜい1割くらいなものだ」
「タツミ・・・」
「少しは判ってくれたか?」
「もっと面白い話をしないか?」
「お前、ぶっとばすぞ!!!・・・とにかくお前だってあの皇帝操ってるオネストだって運が良かったからその立場になれただけだ・・・全て自分の力でやったとなんざ、思って自惚れているから、そうやってふんぞり返っていられるんだ!」
「・・・・・・」
「今は判らなくても良い、その足りない頭の中にでも忘れねぇよう叩きこんどけ!」
そして、しばらく経って所帯を持った時にも彼は似たような話をした。
「うむ・・・ダーリンよ、・・・以前にも同じ話をしていたな♪」
「う・・・お、お前が今一つ飲み込めて無いから、同じ事を言うんだろうーが!!そ、それに、同じ事も時間が経って聞けば別の見方も出来る場合もあるだろ・・・大体お前、闘いの面じゃほっといても勝手に成長してやがるだろ、こういう面でも進歩しろ」
「ふぅ・・・我が夫も理解力が乏しいなぁ、私にそのような話をしても今一つだぞ♪だから真面目に語る夫の顔しか目に入ってないぞ♪」
タツミの堪忍袋が切れる。
そして・・・
「う・・・くっ・・・これはなかなか・・・うっ、ああ・・・・・・!!」
タツミはエスデスの胸を両側から拳で的確な位置に高速回転を加える。
『な、なんだ・・・この痛みと快楽は・・・』「くっ・・・・はぁはぁ・・・」
エスデスは息をしながら膝を着き、タツミそのまま放置して出て行こうとする。
「少しはそこで反省してろ!」
「ふふふ・・・、タ、・・・タツミはしてはならない事を私にしてしまった・・・ふふふ、今朝したばかりだというのに・・・ふふふ、また火が付いてしまったぞ!うふふふふ」
「ん!?何を言っているんだお前は!」
エスデスが顔を紅潮させ肩で息を荒くしながら、タツミに迫る。
「ふふふ、ダーリンはほとんど最後までいかないのだからな・・・私はその間に何度も・・・心地良い事は心地よいのだが・・・それだけでは寂しいぞ?やはりダーリンも一緒に、な?ふふふ」
「お、落ち着くんだエスデス、今朝したばかりだろ?大体俺は子は作りたくないと言っただろ?お前ここ数日は大丈夫な日だ・・・とか言ってたが、本当にそうなんか!?」
「うふふふ、くくくくく、あはははは・・・大丈夫だぞ、出来てしまえば、きっとダーリンも父性とやらが目覚め、そのような瑣末な事は・・・くくく」
エスデスは逃げられないよう、部屋周囲を氷漬けにする。
「いい加減にしろ!!それ以上お前の惚気話なんぞ聞きたくはない!!」
「む!?・・・ふぅ・・・折角の良い所を・・・よくもナジェンダ台無しにしてくれたな・・・」
エスデスが過去の話にトリップして帰って来ない事に業を煮やし、そして頭を抱えながら、
「あ~まったく、何かと思えば途中までは真面目な話だったのに・・・聞いてはいたが、まさか本当にお前と所帯を持ったとはな・・・だが、タツミのそんな話は知りたくは無かった・・・」
「私は貴様らが知らんタツミの色々な面を知っているぞ!!・・・あの時のタツミはもう帝具を持っていなかったからな・・・もう私の勝ちだと思って押し倒したが、ふふふ・・・あんな技を持っていたとはな、見事に返り討ちにされてしまった・・・ますます惚れてしまったぞ・・・ふふふ」
ナジェンダは出された紅茶を何杯も自分で注いだ。
「もう、どうでも良いそんな事は!」
「ふむ・・・しかし、元々は・・・そうだナジェンダ貴様がタツミと私との甘き生活を聞きたいと言い出したのだろうが?・・・ふぅ全く、だから私は嫌嫌ながらだが、特別に語ったのだ、感謝しろ!」
そして、怒りを溜めて・・・
ふ・ざ・け・る・なぁああああああ!!!!!!私がいつ聞きたいといったああああああ!!!!!!!
ナジェンダは息を荒げ、怒りながらそのまま退出して行った。
1人残されたエスデスは遠くを再び見つめ
「ふっ・・・、ダーリンの言う事が今なら・・・幾らかでも判ったのか、私は・・・?」
ナジェンダが外で部下達と合流し、帰る際にその内の1人が聞いてくる。
「大臣、あやつはやはりエスデスでしたか?」
「・・・、ああ・・・、いや、他人の空似だった・・・恐らくエスデスは噂通り、体内の帝具が暴走し、もう、とうの昔に死んでいたのだろう・・・あの女は特に問題は無さそうだ」
傍に控えた警護の男はナジェンダの顔を窺ったが、それに対し、自信のある笑みを返した。傍から見たら判り難いが、互いはそれで通じ、その男もやれやれと安堵したようだ。
そして再び時は過ぎ・・・、年に比べれば若く見えるが老年の域に達したエスデスは自分の死期を感じ取っていた。
「せ・・・先生い、今なんと言われましたか・・・!?」
「ふふふ・・・まだ、耳が遠くなるようなお年ではないでしょうに」
「いやしかし・・・あと3日後にお亡くなりになるなんて・・・そんな御冗談を・・・」
「貴方のお父さんにも・・・随分お世話になったわね・・・、親子二代で今まで有難うね・・・」
「義父・・・先代が一代であそこまでの財を成せたのは貴女のおかげです・・・先生は私にとっても・・・」
ナウドはこれと目を付けた男を養子にして、仕事の後を引き継がせ、その彼も数年前に既に他界している。
「本当、貴方がまだ10歳位だったかしら?元気良かったわね~そんなあの子がまさか今はこんなになるなんてね~くすくす」
彼は昔を話をされ、冷や汗をかきながら
「いやその節はガキの頃のお・・・私を叱ってくれたり、本当に若気の至りだったとはいえ、本当に・・・」
「もう良いのよ・・・でも私の家に盗みに入るなんて・・・可愛い男の子だったわねぇ・・・うふふ」
「どどどどど、どうかもうそれ以上はご勘弁下さい!!」
「あらら、改めて思うとあの頃から本当にお行儀も良くなって・・・うふふ、でも・・・私も人の事言えないわね・・・」
「?先生もお若いこ・・・いえ、以前は今のような振る舞いでは無かったのですか?」
「貴方とおんなじよ・・・昔の私を・・・貴方にはとても見せられないわ・・・これはおこがましいかしらね?私を貴方の中の良いイメージのままで居させて頂戴」
「え?ああ・・・はい・・・」
それから二人は昔話に華を咲かせ、そして・・・
「出来れば今直ぐにでも行いたいのだけれど・・・、貴方にも心の準備が必要よね?」
「え?はい?何の事で」
「ご免なさいね・・・貴方には私があの人の所へ旅立つ立会人になって欲しいの・・・遺体もきっと残らないだろうから・・・」
彼は一瞬杭で打たれたような衝撃が走り・・・微動だに出来なかった。
「ま、待って下さい・・・まさか、何かの爆薬でも使われるおつもりですか?そんな・・・」
「いいえ・・・もうちょっとスマートよ、けども私も今まで殺してきた相手の遺体を骨も粉々にして、バラバラにして来たと思うと・・・今更ながら申し訳なかったわね・・・」
「え?まさか・・・先生が・・・それはきっと止むにやまれずですよね?・・・先生がそんな・・・俺にはとても、虫も殺せなさそうですのに・・・いや、お強いのは確かですが・・・はぁ・・・そんな昔が」
「あら、うふふ、そう見えるんなら私も人を騙す取り繕いが上手になったのね・・・ふふふ」
そして、夜遅く彼がエスデスの元を離れ、あと3日の命などと言うのはきっと本人がそう思い込んでいるだけであり、何とか説得すれば、自殺紛いな事はすまいと押し留める方法を必死で考えていた。
そして2日後、
「よく来てくれたわね・・・本当は明日にしようかと思ったけど、万が一理想の死に方をする前に力尽きたら・・・それこそ死んでも死にきれないからね?ふふふ」
「先生・・・」
彼は何処でどう説得しようかとその話の隙間を見つけようとしたが・・・どうにもその隙が中々見出せない。
エスデスは彼を地下室への階段へと誘った。
「せ、先生こんな地下室が・・・」
「ええ・・・今まで誰にも秘密にしてたんだけどね・・・貴方には立ち合って貰うから特別よ・・・」
そして、地下室は広く、家財道具や寝室など普通に暮らせるものが一式揃っている。
「これは・・・誰か住んでいそうな・・・」
「ふふ・・・女の子がおままごとで玩具の家で人形使って遊ぶわよね?それと大差ないわ・・・」
「はぁ・・・先生が女の子ですか?私には大人な方にしか・・・」
「それはね、隠してるだけ・・・正直この場所を教えるのはとっても恥ずかしいんだからね!」
「え?は?・・・ああ、ありがとうございます?・・・」
そう言って片目瞑って、秘密だぞ?との意味で人差し指を唇にあてるエスデスに、年が離れているとはいえ、一瞬彼はドキッとした・・・彼女が一瞬自分と同じ位の年の若い女性に見えたからだ。
「本当・・・等身大のお人形さんよね・・・あなた」
「!!??」
エスデスは昨日一日かけて慎重に作業をし、氷漬けにしていたタツミの遺体を取り出した。そして、その彼をベッドに寝かせていたのを起こし床に下ろす。
「昨日は苦労したわ・・・本当に壊すのは簡単だけど・・・壊さずに行うって、本当大変・・・あなたの言った通りね・・・」
「こ・・・これは先生一体・・・この若い男は・・・??」
彼の中で悪い想像が浮かぶが、
「ち、違うのよ・・・彼は私の夫なの・・・もう私が若い時に亡くなったのだけどね」
「先生貴女は一体・・・?」
「・・・昔ね、帝具っていう今のあなた達から見たら魔法みたいな、そんな道具があったの・・・そして隣のあの帝国には昔、氷の帝具を操った悪い女の将軍がいたの・・・」
「え?いや、御伽話で聞いた事はありますが・・・それはちょっとした噂が大きくなっただけと・・・それと氷を操る女将軍?一体誰ですか?」
「そうね・・・そういう話にしたみたいね・・・大臣が・・・いえ、夫の入れ知恵もあったのかもしれないわね・・・」
そう言ってエスデスは彼に腕章を渡す。
「これは・・・?」
「これは昔、私が帝国で警察の真似事をしてた時に使ってたものなの・・・これを形見にして、皆に私が死んだ証にして・・・」
「な・・・ま、俺の話も」
彼の言葉を無視し、エスデスはタツミの遺体に寄り添い目を閉じる。
「夫はね全ての帝具を無くす事を目的にしていた・・・これでやっと、願いを叶えられる・・・うう・・・今まで私一人でとっても寂しかったぞ・・・今度こそ嫌がらずもう離れて行かずに出迎えてくれるよな・・・タツミ・・・ダーリン」
「せ・・・先生!!」
彼が止める間もなく、
エスデスは一気にタツミと自身も含め、氷漬けにし、
「先生―!!」
跡かたも無く氷塊は砕け散り・・・髪も骨も細かくなり・・・どれがエスデスの遺体なのか判らなくなっている・・・
「ううっ・・・ああ・・・、なんで・・・本当はそんなにおつらかったのですか?・・・い、いいいままでありがとう・・・ございまし・・・」
彼はその場で号泣し続けた・・・
そして・・・
更に月日は流れ・・・、
ここは通常の世界では認識されない、不可視な次元。
そこでは物質は存在せず精神体のみなのだが、そこに住まう存在達は任意でその姿を変化させられる・・・ある者は霧状のまま、ある者は然程多くは居ないが・・・生前の姿のままの者も・・・そして、かつて・・・。
殺気を察知し、その男は目覚めた。
寝ていた所から直ぐ様飛びおり、体勢を整える。
一瞬でも遅ければ串刺しになっていた。
「ふん・・・起きおったか・・・変わらず勘の良い奴め・・・」
だが直ぐに横薙ぎに刃風を喰らわせ、男は防御していても壁に叩きつけられる。
相手の体躯は何倍もあり、恐竜のような姿形をしている。
「なんだ?その脆弱な姿は・・・かつての宿敵の堕落した姿など見るに堪えん・・・再び無へと帰り、消え去れ!!!」
男の自身の2倍はあるであろう、その刃をすり抜け、手首に体を入れ無刀取りを行う。
「ぬぅ・・・弱くなったと甘く見たか・・・」
「相変わらずだな・・・貴様に遅れを取るようなら、殺される前に死んでおくさ・・・」
彼はその大剣を肩に担いだ後、その感触を確かめる為に振りまわす。
「そのニンゲンとやらの体でも、伝説の一騎当千と言われた腕は鈍ってはいなかったか・・・挨拶程度で死なれても困るからな・・・」
「挨拶代わりな・・・。あのまま目覚めなければ殺すつもりだったのだろう?ふん、まぁ良いだろう。まさか貴様もこの場に居たとはな・・・あの時死んでそのまま無になったと思ったがな・・・」
かつてのやり取りを思い出していた。
“・・・ぐっ・・・貴様とは長い付き合いだったな・・・お前の手で奴を倒せ・・・だがその前にお前の手で俺を殺せ・・・俺に武人(もののふ)としての最期をよこせ・・・”
「・・・ふん、あの時は世話になったがな・・・だから、先程は手加減したのだ」
「答えろ、ファングロン。大抵の生命体は死した後、無になるだけだ。稀にお前のように、ここに来る者が居る・・・無論、面倒な仕事を押し付けられる事になるがな・・・」
「明察通りだ・・・、俺が何故あのような者に従わねばならんのだ・・・ちっ・・・」
「ふっ・・・貴様にはお似合いだな」
「お前も俺の事が言えるか!!聞いているぞ、あの統括と呼ばれている者に本来は、お前はあの世界で死し後、無に返る事を強く望んだらしいが・・・こうして存在している・・・無様だな・・・くくく」
「そうだ・・・お前との下らん話で失念していたが・・・何故だ、何故俺はここに居る?・・・俺を復活させれるなんぞ本来もう出来ないはずだ・・・あの統括を除いて・・・いや、彼ですら本来難しいはずだ・・・」
「約束反故か?知らんが本当は貴様が目覚めるまで自分が居たかったようだが・・・他用が出来て戻ったぞ・・・俺は貴様の望みを叶えてやろうと思ったから、まだ目覚めぬうちに殺そうと思ったまでだがな・・・」
「ふん・・・余計な気遣い感謝する・・・だが、一度復活したからには統括権限が発動している・・・その内は再度復活させられてしまうはずだ・・・おのれ、俺との約束を破りやがって・・・許せん・・・」
「そんなに文句が言いたければ行ってこい、その扉を右に真っすぐ行った所が奴の執務室だ」
「ああ・・・判っている。もうお前とは会わんとは思っていたがな・・・これで本当にさらばだ・・・」
そう言って、彼は扉を開け出ていく。その界域は全て霊的物質だが、それらの物質や霊体同士だと触れることが基本は可能である。
「もう会わんか・・・くくく、だと良いがな・・・ビッグガバン・・・いや、今はタツミと言うべきか・・・・くくく」