その執務室は広大であり、色々な宇宙や星の情景が浮かんでいる。
それを見て判断し、それぞれの部下に統括長と呼ばれた者が指示を出している。
『やれやれ・・・私がこのような事を・・・昔が懐かしい・・・だがこれも全て・・・』
「長(おさ)、この案件はこれで宜しいでしょうか?」
部下の一人に尋ねられ、思考を中断し
「ええ・・・そのようにして下さい・・・ですが、ここの座標内のレベルはまだ途上です。流れが安定するよう再調整し、その後の推移を観察・・・今後に影響をおよぼさないようにして下さい」
「畏まりました」
一礼した後、その彼は姿を消し現場へと向かう。
他の一つ一つの案件も片付け、その場には統括1人となる。その時にこの部屋出入口の扉で何やら口論している声が聞こえてくる。
『来たか!?・・・ふふふ、・・・くぅ~・・・本当は私が目覚めの瞬間に立ち合いたかったああああああ・・・』
「久しぶりだな、ガーディアン・・・まだ居たとはな」
「・・・!?貴方は・・・復活したとは聞いてはおりましたが・・・随分、貧弱・・・ゴホン、耐久性に問題ありそうな風体を・・・何故以前のような姿では無い
ですか?」
タツミは執務室の物々しい扉の前に立ちはだかる自身の3倍はある体躯を誇る鎧の男に話しかけている。
体躯や見かけは本人の技量が有れば余り関係はない・・・とはいえ、並みはずれていれば例外もあり、ガーディアンはその事を言っている。
他の点では外見は個人の好みに因る為、拘らない者で有れば霧状になっており、それではつまらないと思う者は基本生前の姿のままでいる。
「俺もこの格好でいるのは不本意なんだが、統括権限なのかこんななりのままでいる・・・それと、約束反故の疑いで統括殿に会いに来たんだ、そこを退いてくれ」
「はぁ~あ・・・成程・・・」
ガーディアンは見た目に反し、気さくな口調である。彼は顎に手をやり、何か思案をして、
「残念ですが・・・アギト殿、統括様とはお会いになれません」
「アギト・・・か、俺が生を受けての初めの名だったな・・・いや、そんな事はどうでも良い、どういう訳だ?統括には会えないとは?」
「言葉通りの意味です。貴方様がお会いしたいと思っている統括様とは会えないと言う意味です」
「・・・どういう意味だ?」
「さぁ・・・どういう意味でしょうかねぇ・・・」
タツミから怒りが膨れ上がり始める・・・
「ガーディアン・・・誰が右も左も判らんお前に手ほどきしたか覚えているか?」
警護を任されている彼をして、たじろがせるその迫力はかつて誰もが震えがったその存在だと言う事を思い出させるのには十分だった。
「はぁ~・・・判りました、判りました・・・統括様は、アギト先輩が知る統括様はもう既に入滅されています」
「な!?・・・長が、マスターゼノは無くなられたのか・・・」
「はい、先代・長はもうご自分のやるべき事は全て終わったと・・・先輩には申し訳ないが後進に託したと言っておられていました・・・」
「そうか・・・マスターは無くなられたか・・・」
この世界でも寿命・・・というよりも、後継者が見つかった場合等で自身の役割が済んだと判断した場合、それを申請し統括長の許可が下り次第、消滅・・・一切の無に還る事が出来る。統括の場合は重役との協議もあるが、基本は本人自身でそれが決められる。
タツミも彼には恩も感じてはいたものの
「だがそれも致し方ない・・・今は俺自身の問題だ、約束に反故があった。それを招いたのは誰だ?先代か?今の奴か?」
「・・・では、それは先輩ご自身の目で確かめられてください・・・どうぞ」
その重い扉を開け、タツミは中へと入って行く。
中は先程と変わって、静まり返り全体が氷のように青み掛かった景色で、遠くの方は靄で何処までが境になっているか判らなくなっている。
「相変わらず広い場所だな・・・ここは・・・で、あんたが俺の疑問に答えてくれるんだな・・・現、統括長!」
タツミが中央を通り過ぎて振り返った時に、先程まで誰も居なかったその場所に髪の長い女性を思わせる霧状の青いシルエットが椅子で腰掛け後ろを向けている。
「ふふふ・・・、そうお怒りになられずに・・・どうです?一緒にお茶でも?」
ここの住人達は当然飲食をする必要はない。あくまでその雰囲気を楽しんでいるだけに過ぎず、味は感じても消化されたり等々は無く、体(?)の中に入っても消えるだけである。
彼女は指を鳴らし、
タツミの前に地面からテーブルと紅茶を顕現させる。
「・・・おめぇは誰だ?」
顔も判らないその長がニヤッと笑ったように見えた。
手に取ったその熱い紅茶の中には、一欠けらの氷が浮かんでいる。
「お前・・・まさか・・・」
「くくく・・・うふふふ・・・そうだ・・・ダーリンに愛された私だぞ♪」
そのシルエットが次第に人間の姿形に変わり、衣服を纏ってその姿を現す。
「エスデスか!?」
彼女は、生前のタツミと共に居た時の年齢の姿を現し、衣服は自身がかつて居たパルタス族の民族衣装となっている。
「ば、馬鹿なバカなばかな、・・・俺はまだ夢でも見ているのか?死ぬ前の一瞬の夢でも幻想でも見ているのか?」
「うふ、そんなに私に会えてうれしいのか?私も嬉しいぞ?・・・ふふふ、タツミと会うのにかなりの苦労をしたぞ?」
「くっ・・・誰が嬉しがるか?そうか・・・死んで無になった俺を呼び戻したのはお前か・・・余計な事を・・・だが、統括権限でも無になって時間が経った者を復活させるのは、ほぼ無理な話なはずだ・・・それなのに何故・・・」
「うむ、先代殿から話は聞いているぞ。そして、中々話の判る男だったな、私が亡き夫を追って来たと説明したら二つ返事で許可してくれたぞ♪」
「あんの爺がぁあああ・・・俺との約束をどうしたあああ!!」
「全く・・・そんなに私との再会を喜んでくれるとは、照れてしまうぞ♪」
タツミの怒号を無視してエスデスは普通に話を続ける。
「タツミの精神を紡ぎだすのにかなり難航したが・・・ふっ流石私だな、自分で自分に褒めてやりたい・・・タツミ・・・ダーリンがし・・・死んでしまったあの日を覚えているか?」
「あの時か・・・あの時がどうした?」
「ふふふ、覚えてくれていたか?あの熱く愛しあ」
「そうか、まさか摩訶鉢特摩か!?」
「・・・・・・むぅ~折角私達が愛し合った記憶を共に思いだそうとしたものを・・・ふふふ、過去の事よりこれからの事が大事だと言いたいんだな?」
「うるせぇ!!ちぃ・・・あの技か・・・あれのせいか・・・」
「ふふふ、流石私のタツミ、察しが良い。明察通り、過去の精神を呼び戻す手掛かりを掴むのは容易ではない・・・だが、あの時、時を凍らせたからな♪その時の残滓を辿り・・・結構な昔でも呼び戻せたぞ、ダーリンが死んだ直後の精神を再構築したんだぞ・・・私の愛の力だな!」
タツミは怒りに肩を震わせ
「お前という奴は・・・俺が死んだあとでも・・・余計な事ばっかりしやがってぇ・・・おい、エスデス!!」
「うむ!礼に及ばんぞ!・・・ぐふふ、当然の事をしたまでだからな」
「余計なことの間違いだ、ドアホ!!・・・下らんお喋りは終わりだ、とっとと俺を無に還らせろ!」
タツミとエスデスは睨み合うが、彼女は顔を横にぷいっと背け、
「断る!!」
「お前の統括権限さえ、無くせば俺は消えれる!・・・大体俺がこの(タツミの)格好のままもお前の趣味だろう!」
「全く、私がどれだけ苦労してここまで辿り着いたと思っているんだ?私も大抵の他の者達同様・・・死んで消え去ると聞かされたが・・・タツミに再び会いたい一心で・・・気が付けばこの世界に居た・・・それからが色々有ったな・・・何やら地獄という場所でそこを取り仕切っている者から、酷い目に遭ったぞ・・・タツミの名を出したらやけに驚いていたがな・・・確かタツミの後進の者だったのか?」
「あいつか・・・あいつは元気だったか?いやそれよりも、お前馬鹿だな・・・無理に消えずにいようとするから・・・この世界に来るから、そんな酷い目に遭うんだぞ?大人しく消えてりゃ地獄何ぞに行かずに済んだものを・・・言っとくがな、お前が居た星や物質世界に居る住人は死んであの世に行く場合はほぼ100%地獄に行くからな」
「そうだ・・・何故だ、私は死んで幽霊とやらになれると思っていたのに、死んだタツミと会えると思っていたのに・・・かなり回り道になってしまったぞ・・・何故この私が地獄何ぞに行かねばならなかったんだ?」
「お前な・・・統括の癖に・・・判ってて聞いてるのか?ああいう物資世界の動物達は基本他の生命を殺して喰っていかなきゃ生けていけないだろ?だから、そういう風に生まれた時点で罪が有るんだ、だから、死んで無になりゃ良いものを・・・たまにお前みたいな奴がこの世界に来た時は当然地獄行きになるのは当たり前だろ」
「・・・強さ弱さに関係なく、そう生まれた時点で・・・地獄行きが決定とはな・・・理不尽なものだな・・・」
「生まれた・・・その時点で生まれてこない者よりも強者という・・・見方も出来るかもな・・・理不尽な事をまずは受け入れて、それからどうするかだと思うがな・・・・・・」
「ふふふ、やはりタツミだな、この私相手に気にせず意見するのはこの空域でも数える者しかいないぞ?やはりタツミには私が必要なのだな♪」
「逆だろうが!!この野郎!!」
「ふふふ、そう愛の言葉を囁かれると照れてしまうぞ?」
「お前、本気でぶっとばすぞ!!お前、前より頭のネジが緩みやがったな!」
「私はタツミの本心を読心しただけだぞ?・・・うふふ、とにかく、私はタツミに会いたくて来たんだ!・・・まぁタツミから受けた仕打ちをもう少し酷くした感じだったからな・・・何とか乗り越えられたぞ、それも全てタツミへの愛ゆえだからな!・・・タツミへの愛ゆえだからな!重要事項だから二度言うぞ!」
「知るかボケえ!!・・・、・・・それでその後どうした」
「ああ、地獄を終えた後、タツミの後進の者がここを紹介してくれてな・・・それから長い年月をかけ、修行したぞ・・・そして、先代殿に抜擢され今に至る訳だ・・・」
「お前・・・」
「ふふふ・・・我ながらなんて出来た妻なのだ!自惚れてしまうな?」
タツミは頭痛を感じながらも、深いため息を付いた後、
「ああ・・・とにかく、話は判った・・・さっさと、お前の権限を解除しろ・・・」
「ん?つまり、私と消滅する日まで共に居ようと言う意味だな?全く直球過ぎて悶えてしまうぞ♪」
タツミの周りの空気が刃の如く、禍々しさを帯びる。
「・・・いい加減にしろ・・・俺はもう役目は終えたんだ・・・エスデス・・・お前も腕をかなり上げたかもしれないが・・・そんな事はどうでもいい・・・俺の消滅許可を出さなければ、お前には死んで貰うぞ・・・」
タツミは一歩踏み出し、エスデスとの間合いを詰め始める。
それはエスデスが久しく忘れていた恐怖の感情を思い出すのに十分だった。
「っ・・・!?タツミ・・・タツミが私に罪を、罪の自覚を教えてくれただろう?そして、罪を背負ってでも贖罪に生きる事を・・・この私にそれを教えてくれたのはタツミ、貴方だけだ!!」
それを聞き、一瞬黙考したが
「俺は・・・俺は仕事をしただけだ・・・そこから何を自覚したかはお前の勝手だ・・・俺は教えたつもりもない・・・」
「嘘だ!!」
一瞬タツミも止まったが、しかし再び距離を縮め始める。
「今度は私がタツミに教える番だ!」
「お前が俺に教える?偉くなったもんだな・・・」
「ああ・・・私もタツミの過去を調べたぞ?そして、今は私の方が年が上だぞ!!」
「それがどうした!!」
タツミは右手を振りかざし、空間を切り裂く。
斬・斬・斬!!!
それが無数の見えない刃と化し、エスデスを3つに斬り捨てる。
それは霧となり空間に溶けて消えていく。
そしてタツミは後ろを振り返ると、そこにはエスデスが居る。
「分身でも覚えたか?白旗降るなら今のうちだぞ?」
「ふふふ・・・タツミ、この闘いでは私が勝って今度こそ身も心も屈服・・・支配させて貰うぞ!」
「遺言はそれで良いのか・・・」
タツミは何かを念じ、エスデスの周囲が空中爆発を起こす・・・はずだったが、氷の玉が無数に現れ、地面に落下する。
「・・・大したもんだな・・・爆発の位置を悟って、氷結させるとは・・・」
「ふふふ・・・タツミこそ何故私の体を狙わなかった?」
それには返答せず、
タツミは空間に右手固定させ、スライドすると炎を纏った刀を顕現させる。
エスデスは両手を振り、氷の刀を二刀顕現させる。
「今の私ならば・・・タツミの本気を引き出せると思うぞ?ふふふ」
タツミは何も言わずに、闘う気が有るのかどうか判らない目をしながら、静かに近づいていく。
エスデスは後方へ飛びし去り、上東西南北方向から巨大な氷の槍を5つタツミに向けて飛ばし、その間に無数に分裂しタツミの全方位から襲いかかる。
「!?・・・、・・・ふっ・・・タツミ・・・」
タツミは炎の刃を地面に突き立て、その周囲を灼熱で覆い、全ての氷の槍を防ぎきる。
その間にエスデスは念を込め、次々に氷の天馬とそれを操る氷の騎士を作りだし、空中から自身の10倍以上はゆうにある巨大な氷槍を顕現させ、1000騎以上氷騎士が1000以上の巨大な氷槍をタツミに向けて一斉に放つ。
ドガシャアアアアアアンンン!!!
ザバアアリリリリリンンンン!!!
だがその時、この一帯を覆う巨大な爆音が起き、氷騎士達と氷槍が壊滅する。
「・・・な!?なに?タツミ・・・」
タツミは地面下に帝具の闇よりの巨砲を弐砲顕現させていた。
その為、地は巨大な大穴が生じている。
「ふふふ・・・くくく・・・ははは・・・まさか、こうもあっさりと・・・一騎当千とはよくぞ言ったものだな!タツミ!・・・タツミは私をどれだけ惚れさせれば気が済むんだ?」
エスデスは喜びに頬を紅潮させている。
「・・・・・・」
その帝具をそれ以上顕現させるのは体力を消耗する為に、消し去った。
タツミはモノ言わずにエスデスの間合いに一瞬で詰め寄り、エスデスも応戦しようと身構えるが・・・
斬ッ・・・
氷刀二刀で防いだ所で、一気に斬り倒されるのを予見したエスデスは巨大な氷壁を幾重に重ねて後方へと大きく飛びし去る。
「・・・エスデス腕を上げたな・・・本当に」
タツミはエスデスなら誘いに乗って真っ向勝負に来ると思っていたが・・・
エスデスは手を交差させ、
摩 訶 鉢 特 摩!
その一帯の全ての時空は凍結する・・・
だが・・・
バリン!
空気を切り裂く音と共に、
タツミは凍った時空をその炎の刃で斬り裂いた。
「エスデス・・・昔のように、手加減はしないぞ?」
眼前の氷壁も一気に砕き、砕いた細かい無数の氷粒が織りなす一瞬幻想的な景色の中、エスデスが居ると思っていたタツミは、
「ちっ・・・時間稼ぎだったか・・・」
目の前には氷の城がそびえ立つ。
そして、エスデスはタツミの心に直接話しかける。
“タツミ、私は最上階に居る・・・私の所まで辿りつけるかな?素直に降参するなら優しくするぞ?”
「・・・まだ余裕か・・・ふざけやがって・・・ぶっ殺してやる・・・」
タツミは怒りに燃え、城の扉を蹴倒して中に突入する。
大広間の階段を登ろうとした所で、何かを感じ後ろを振り返ると、
「・・・アカメ・・・」
地面から氷の人形が現れ、それがアカメの姿形となる。
手には村雨を持ち、ヌンチャクのように振り回した後、霞構えで対峙してくる。
“タツミ、そいつはアカメの精神を移して顕現させたぞ。さぁどうするタツミ?”
「ほぉ~お・・・」
そのアカメの目は精神の宿った者の目はしていない。
「・・・そうかい・・・だったら、お前如きに操られた哀れな精神を解放する為に・・・葬る!」
タツミは階段から滑るようにアカメに肉薄し、唐竹斬りを行う。
それを最小限でかわしたアカメは横薙ぎを繰り出す。
それを瞬時にタツミは刀を捨てた後、刀の峰とアカメの握っている間の柄をてこの原理で無刀取りを行う。アカメはタツミが落とした炎の刀を取ろうとする間に袈裟斬りで真っ二つにされる。
斬られたアカメは元の氷塊へと変わり、村雨も崩れ去る。
“流石タツミだな・・・アカメをあっさりと・・・くくく”
「・・・そうでもねぇさ・・・、まごまごしてりゃ、殺られてたのは俺の方だ・・・で、エスデス・・・幾らなんでもアカメはとうの昔に死んでるだろう?よくその精神を今まで保管出来たな?本人の意思がありゃ無理な話だが?」
“・・・・・・”
「・・・返答拒否か・・・、なら後で体に聞くまでだ」
“・・・・・・”
『エスデスの奴め・・・どうせ、偽者を用意して俺を動揺させるつもりだろうが・・・例え本物だろうが向かって来るなら斬り倒すだけだ・・・』
“・・・・・・・・・・・・”
タツミが先へと進むと・・・、
「次はマインとチェルシーか・・・」
氷柱の影から長針をくるくる回転させてチェルシ―現れ、片方からはパンプキンを構えたマインが姿を出す。
「久しぶりね、タツミ・・・」
「あんたあれからどうしたのよ、何あたしの許しも無しにどっか行くのよ?」
その目は精神の宿った者の目をしている・・・。
「お・・・お前ら・・・」
タツミは僅かに動揺し、動きが止まる。
「本当だよ・・・タツミはあたしの気も知らないでさー。心が切り裂かれる位だったよ・・・?」
「ぐっ・・・」
「そうよ・・・あんた・・・あたしがどれだけ・・・うっ・・・くっ・・・」
マインは涙目になり、滴が頬を伝っている。
タツミは持っていた炎の刀を宙の見えぬ鞘に納めるようにし、空中にそれは消える。
マインはパンプキンを置き、チェルシーも針を懐にしまってタツミに駆け寄る。
「どうしてお前らここに・・・?」
「あんたが居なくなってからあたしら・・・え~と・・・何処行ったっけ?」
「もうマイン~、生きてた頃なんて結構昔なんだから覚えてる訳ないよ~気が付いたら、エスデスに捕まってて閉じ込められてたの!それで今解放されて・・・早く逃げよう!」
「・・・逃げる?・・・そうだな、エスデスなんてほおっておいて逃げるか・・・」
「え?本当にあんた逃げ・・・ううん、そうよ、こんな所からさっさと出ましょう!」
マインが先導して前へ進もうとしたが・・・
「・・・タツミ、あんた・・・なんで・・・」
見ると、マインの腹部から心臓まで炎の刀が貫いている。
「・・・俺はエスデス初め、誰も信用しない事にしてんだ・・・」
タツミは右手でそれを持ち、左逆手持ちに
「ひ・・・酷いよ、タツミ・・・」
そのチェルシーは両手で長針をタツミの後ろ首寸前で刺そうにも刺せず、震えていた。その腹部にも別の炎の小刀が貫かれている。
それを瞬時に抜いて、二人から間合いを取ると、
倒れて崩れゆくマイン、そしてチェルシーの口から
「・・・くくく・・・、この手も通じんとはな・・・、ある程度上手くやった・・・つもりだったが・・・ふふふ・・・タツミの手で、こいつらが始末されるは・・・溜飲が下がる・・・だが私も信用していない・・・だと・・・?」
タツミは見下ろしながら、
「エスデス・・・お前も器用な事をするな・・・あいつらと別れた後は・・・その後の事は・・・、・・・もう俺の知った事じゃないが、・・・本当に、死んだ奴の精神を使って、操っているんだったら・・・その時はエスデス・・・お前どうなるか、判ってんだろうな?」
「タツミはやはり・・・」
言い終える前に、タツミは二人を消滅させた。
「ちっ・・・あいつ心の中まで読めるようになったか・・・」
その後、タツミは他のナイトレイドやかつての敵達を模した氷人形を次々に撃破していき、最上階へと辿り着く。
エスデスはそこで、玉座に座り脚を組んで悠然と構えていた。
「あれだけの敵達を・・・大した傷も負わずに・・・本当に大したものだな・・・強さは生前のあいつらを私なりに再現したのだが・・・ふふふ、そうまでして私に逢いに来てくれて嬉しいぞ」
タツミは何も言わずに静かに近づいてくる・・・その目は微かに怒りが宿っている。
「・・・怒っているのか、タツミ?だがそれを言うなら、私も怒っているんだぞ?・・・さぁ行け、アギト!」
「!!??」
エスデスの背後から、タツミの2倍はある背丈の全身が鱗で覆われた竜が人間の姿をした者が現れた。
「お前・・・」
「ふふふ・・・先代から話には聞いていたが、これがタツミの初めの姿とはな・・・成程、元は竜人・・・そこから転生を3回重ね、私のタツミになった訳か・・・中々妙な話だな・・・だが、タツミが眠っている間に私の方が年が上になったぞ?重要事項だからな再度言」
「そんな事はどうでも良い!!・・・ちっ・・・」
「どうでも良くはないぞ!?・・・まぁ、かつての自分を倒せれば、改めて話をしようタツミ?・・・物凄い力だったからな・・・顕現するのに苦労したぞ?」
タツミは明らかに恐れを抱き、動揺した。
自身の体躯の倍あるのはともかくとして、耐久力も力もスピードも人間姿の自分よりも段違いであり、それはかつての自分であるだけに良く判っていた。
タツミは持っていた二刀の内、小刀を捨て、一刀専念する事にした。
アギトは斧を担いで、一気に間合いを詰め、タツミの居る場所に振り下ろす。
エスデスが作った頑強な城もその一撃で地震の如き揺れを見せ、その場所に大穴が開く。
背後に回ったタツミは背中から断ち斬る・・・が、余り傷も付かず片手でアギトは回転肘撃ちを喰らわす。
辛くも防御は間に合うが、下の階へと打たれる。
そして起き上がるタツミは
「ちぃ・・・、我ながらなんてパワーだ・・・!?」
同じく階下へと降りたアギトは右手から放電し、その溢れ出る電撃を集中させてタツミに向ける。他の強力な破壊力を持つ武器を顕現させる余力は無い・・・あったとしても、アギトには通じない可能性が高い。
今の状態で防御しても殺される。
まばゆい閃光と強力な焦げ跡が残った後には・・・
インクルシオを顕現させ、それを纏った竜人のような姿のタツミが居た。
「全力を出したとしても・・・勝てる相手じゃねぇな、これは・・・」
グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
それは周りの空間を震撼させ、ほぼ全ての者達が恐怖する咆哮だった。聴覚のみならず、その生物が持つ本能的恐怖を抉る業であり、エスデスすらも数秒は動けなくなる、その咆哮をタツミは用い反撃した。
アギトは一瞬止まった。
だが、その一瞬で十分。
特化したその槍を手に心臓目掛け一気に突きいれる。
そして、胸に突きささる、
次の瞬間倒されたのはタツミだった。
胸に傷は付けれたが、アギトは体を半身になった瞬間の後の先で掌底による反撃をタツミに与え、地面へとひれ伏させた。
そして、インクルシオも顕現出来なくなる程のダメージを負い、元の姿にタツミは戻る。
「後の先か・・・俺が得意にしてた・・・な・・・ふふふ・・・」
タツミはそれでも右腕だけは部分的にインクルシオを顕現維持し、その槍で震えながらせめてもの抵抗に構える。
アギトもつまらない抵抗に関心は無く、ゴミを捨てるような感覚でその槍を持つ。
その瞬間、アギトは地面に膝つき、倒れ伏す。
どうにか起き上がったタツミは、止めの一撃に渾身の力を込めて心臓を貫き、アギトは崩れ氷塊となり、消えていく。
満身創痍ながらもタツミは振り返ると、そこにはエスデスが立っていた。
「タツミ・・・い、今の技はなんだ・・・?それに震えていたのは・・・油断を誘う演技だったのか?・・・自分よりも上を行く技量の者を・・・け、経験の勝利か・・・」
タツミは大技で禁忌の技でもある法則転換を行った・・・それを使えば、対象を自分の知る世界の法則が適用出来る・・・つまり例で挙げると、恐竜に地球の重力の数十倍の所に移動させた事になり、自重で潰れる・・・但し、その技は相手に触れないと、もしくは自身の技を込めたモノで触れないと出来ない。
「お前は心が読めるようになったんだ、盗み見したらどうだ?」
「・・・・・・まさか、先の闘いで悟られた上に、もう防御策を打たれているんだ、私ですらもうタツミの心は読めない・・・」
「敵であるお前に言う必要も無ければ・・・俺は最初っからお前を信用しちゃいねぇ・・・」
「タツミ!!」
悲しげに叫び、思わずエスデスは近寄ろうとする。
「・・・もう後に残るのはお前だけだな・・・?早い所勝負付けるぞ」
「・・・かつてのタツミですら今のタツミに敵わなかったのだ・・・もう、私に勝てる道理は無い・・・」
首を振り、降参するエスデス。
「・・・・・だったら、俺に掛けたお前の権限を解除しろ・・・もう二度と俺を起こすな・・・」
自身の完全消滅を示すタツミにエスデスは、
「タツミ、別・・・れる前に一つだけ言わせてくれ・・・」
「もうその名で呼ぶな・・・俺の名は」
「いいや、タツミはタツミだ!!」
切なげに訴えるエスデスにタツミも面倒となり、聞き流す事にした。
「タツミは何故ここに居るんだ・・・?」
「・・・?どういう意味だ?」
「私と会う前に消滅する機会は無かったのか?」
「・・・・・・義理やつまらない情の絡みや罪滅ぼしでここまで居ざるを得なかったんだ・・・やっと終えられる、その機会になったものを、お前のせいで台無しだ・・・・・・」
「・・・私はタツミに逢えて良かったぞ・・・?改めて言うが、タツミは私に罪を自覚する事を教えてくれた・・・」
「・・・・・・」
「だから・・・今度は私がタツミに恩を返したい!!」
エスデスは右手を差し伸べ、左手を自身の胸に伝えてくる。
タツミは怪訝な顔をし、
「恩?だったらさっさと俺を」
「違う!!」
エスデスが一喝し、辺りは一瞬静まり返り
絞り出すような声で、
「タツミは・・・今まで消滅もせず・・・来たのは本当は・・・私の愛が・・・欲しかったからだ・・・」
・・・タツミは・・・物凄く嫌な顔をし、
「・・・お前は・・・ここに来て、何を言ってるんだ・・・?・・・?」
「すまなかったタツミ・・・生前の私は・・・自分が十分タツミに見合う者だと自惚れていた・・・」
タツミも真面目な話になるだろうと黙って耳を傾ける。
「だが本当はタツミは中々年が上だったのだな、三回も転生していれば当然だな。だから、私は・・・タツミの嗜好に沿うように頑張ったんだぞ!」
「んん・・・、・・・!!??」
「タツミは、生前心の底からは私に気を許していなかった・・・それは、私が年上の女では無かったからだな!!」
「んんななぁあああ???」
思わず変な声を出している。
「皆まで言わずとも判っているぞ、マイダーリンよ?本当に済まなかったな・・・私はタツミの嗜好が判っておらず・・・、だが私はタツミより年上になったぞ、だから私はタツミを復活させたんだ・・・本当はもっと早くに復活させられる方法は確立出来ていたのだが・・・とっても我慢したんだぞ、タツミ?」
タツミは余りの事に目眩を覚え、その間にエスデスは至近距離もまで近づいてくる。
「じゃ、じゃあお前の年は少なくとも・・・!?」
エスデスの唇でタツミの次の言葉は塞がれる。
そして離した後、
「ふふふ・・・ダーリン?幾ら私と言えど、年齢を言われるのは少々恥ずかしいぞ?」
タツミは後方へ大きく飛びし去り、
「お・・・お前まさか、俺は相手が年上の女じゃないから心を許して無かった・・・などと意味不明な事を本気で思っているんじゃないだろうな・・・?」
「ん?違うのか?・・・それに、もう結構過去だが・・・懐かしいな・・・タツミの部屋の整理をしていた時に・・・何やらその手の本が隠してあったな!!全く・・・タツミも男だからな、構わんが、もう私が居たからな、必要無いと思って処分しといたぞ!」
どうりで・・・あの時幾ら探しても見つからなかったのは、お前のせいだったのか!!と怒鳴りたかったその声を喉元でぐっと堪えるタツミ。
「だ・・・大体だな、俺はこの体になってから・・・そういう嗜好になっただけでだな・・・元は、ち、違うからな?」
「本当にそうなのか?」
エスデスは再び距離を縮めてくる、かなり。
「ほ・・・本当だとも!!」
「では今は認めるんだな?」
「いや・・・ああ、くっ・・・」
「もう、その話はどうでも良いだろう!!さっさと俺の要求を呑め!!」
エスデスはニンマリしながら、悪戯っぽく
「タツミ♪一つ条件が有るぞ♪」
「とてつもなく嫌な予感がするが・・・なんだ?」
「うむ♪そんなに難しい事では無い!タツミを消滅許可を出す前に、皆にタツミは年上女好きだと振れ回りたいのだ!それに、さっきの話だが、証拠として私が処分した本を顕現させて、回覧させたい、それが済んだ後なら良いぞ♪」
「お・・・おのれぇえええ!!!こんのドアホのどえすがぁあああ!!」
「ふふふ・・・そう褒められると照れてしまうぞ?・・・さぁどうするマイダーリン?ふふふふふ」
タツミは想像した。
“ククク・・・貴様がなぁ・・・ククク、ハハハ、愉快愉快”
“先輩・・・いやぁ・・・、今度良い娘居たら紹介しますか?”
彼らの嘲笑や生温かい対応に寒気を覚えた。
しばらく…かなり悩んだ・・・消滅を取るか名誉を取るか・・・、その気になればエスデスを始末し・・・つまり統括長を消せば、その権限も消滅する。その後自刃すれば消滅出来る・・・そして、タツミは・・・
「エスデス・・・俺の負けだ・・・」
「ん?良く聞こえなかったぞ♪」
「うるせぇんだよ、お前は!」
「ふっ、やはり私のタツミはこうではなくてな・・・」
エスデスはタツミに近づき、頬摺りをする。
「おい・・・せめて、俺の体の顕現を自由にさせろ・・・かつての姿に戻りたい」
「駄目だぞ♪もうタツミは私のダーリンに戻ったんだからな♪かつての姿も良いが、やはり馴染深いこの体で居て貰いたいぞ♪」
「はぁ~・・・」
タツミは深いため息をつき、自分の行く末に思いを馳せていた。
「安心しろダーリン?いずれ私も役目を終え消滅する、その時に共に無くなる日までの我慢だからな♪」
今まで読んで下さった方々有難う御座いました。これにて完結です・・・。ただ、番外編として何らかの話を書く事もあるかもしれませんが、とりあえずは、これにて。