「ようこそ・・・と言いたい所だが、お互い胸の内は複雑なものだろう?」
「そりゃ、まぁ色々とな・・・」
ナジェンダは気遣いを装いつつも相手・・・タツミの出方を窺っていた。
彼もまたそんな相手の警戒に何処吹く風と、視線を流した。
此処はナイトレイドアジト、広間には向かい合った2人の他、特選隊の4人とマインが囲んでいた。
「部下達からの報告だと、どうやら間違って狙ってしまったようだ・・・本来このような事は有ってならない、本当に申し訳ない・・・この償いは必ずしよう」
深々と頭を下げ、ナジェンダは誠意を見せた。
「俺は特に気にしていない、ただ下調べが杜撰だな」
「うっ・・・返す言葉も無い」
タツミはそう言いながらも嫌味をシニカルな笑みで話し、足元を見られないよう牽制も兼ねていた。タツミの知るナジェンダと似てはいても別人であり、この世界の彼女とは互いに利害が異なる立場である。そして、それで大人しく引き下がるナジェンダでは無い。
「こちらの不始末は、しっかり行う。その手はもう進めてある。依頼主には当然の報いがな・・・」
「それはちょっと待って貰おうか?頼んだ奴は凡そ見当は付いてるが、何処のどいつだ?このまま大人しく引き下がると思ったら大間違いだ」
「・・・私の配下の命まで取らなかったのは感謝しているが、ここは我々に任せて貰えないか?」
互いに一瞬、他の者達からは判らないよう睨み合う。帝都の暗黒街に置ける影響力を考えた時、タツミもその者達の始末を譲りたくは無かった。ナジェンダもまた、筋を通したい気持ちの他にもナイトレイドを欺けばどうなるかを知らしめる意味もあり、それは革命軍上層部へ仕事の尻拭いもしっかり行っているという今回の失態を取り返し信頼を得る意味も合った。
「・・・なぁタツミさん、あんたも非合法な事もしているだろう?我々がターゲットにした者の中には、社会的に抹殺された奴や行方不明になったのもいた。1人1人名前を挙げていこうか?」
「もしそれが俺達の仕事だったら何か不満か?」
「勿論、許せない悪党を誰が葬ろうと構わない・・・が、あんたらが本当に信用できる同業者なのか、とな?」
ナジェンダはこの世界にエスデスが居なかった為か、怪我はしておらず髪型は将軍時代のおさげを切り、眼帯と義手をしていない以外はタツミの知る彼女そのものだったが、彼にはその事に何か感慨に耽る気は全く無かった。
「もういい・・・言いたくなければ、俺達で勝手に依頼したドブネズミを探す、だが次俺の邪魔したら死ぬ事になっても知らねぇからな・・・これは脅しじゃねぇぞ?」
そう言って互いに視線を静かな火花を散らしぶつけ合う。
「・・・うむ、ただの脅しだな♪」
タツミは・・・能天気な発言をした相手に鋭い視線をぶつけると、そこに居たのは
「アカメ、失礼ですよはっきり言っちゃあ!」
「シェーレもそう思うだろ?私には縄張り等と言った複雑な話は詳しくは無いが、タツミが本音を言っているか嘘を言っているかぐらいは判るぞ、なぁレオーネ?」
「もう駄目だってアカメ、ボスと二人で盛り上がっている所水差しちゃあ・・・あはは、確かこういうのなんて言うんだっけ?」
「ツン・・・あ、うん!ツユダクだ!」
「うんうん、それそれ・・・普段は素っ気なくて、ツユツユしてるけど、仲良くなったらダクるって奴だな♪」
「2人とも物知りですね~うふふ、的を得てますね」
3人の会話に舐めるな!と怒るべきか、無視すべきか迷っていた所に
「ハッハッハ、全く何を難しい事を言っているんだお前達は!タツミ、お前はもう特選隊の一員なんだ、事の張本人を探すのは問題ないだろ!」
流石にナジェンダもそれには呆れ、
「いや、あのな・・・ブラート・・・」
この男は物事は単純に考え過ぎている、タツミが実は帝都政府と裏で繋がっている可能性等を考慮にいれないのか・・・例えそうで無くとも利害関係等の調整が・・・
「ふっ・・・ナジェンダ、熱い心を持った特選隊同志は例え生まれた場所や国や組織が違おうとも・・・常に皆一つだ!」
「「・・・・・」」
この時、牽制し合うタツミとナジェンダの心は偶然一つになった・・・「唖然」
「そうですよ、ボス?いっつも考え過ぎなんですよ?」
「レェオーネ!!お前らが考え無さ過ぎるから、私がその分考えなきゃならないんだろうが!!」
「ボスも大変ですね・・・」
「私がしっかりしなくては!」
シェーレとアカメの優しさに
「この原因の種共が・・・絶対、理解していないだろう?・・・・ふぐぐぐぐぐ・・・はぁ・・・、もう良い、何だか疲れた・・・タツミ、あんたが特選隊(?)の1人として行動するのなら止める理由も・・・恐らくない?・・・とりあえず、この件はブラート、お前に任せた・・・結果の報告だけは欠かさずにな、・・・タツミ、これは今回の侘び料だ」
投げて寄越した袋にはずっしりと金が入っている。
「あ・・・ああ」
「・・・全くお前達はいつも話をややこしくする!・・・それはそうと今日の当番は・・・アカメぇお前はさっさと風呂の汚れを綺麗にぶっ飛バスてこい!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ん?・・・どうし・・・はっ!?」
その時、特選隊とマインが固まってしまった。
しししっしっししまったぁあああああああ、ついいつものノリで言ってしまったぁあああああ・・・外部の者が居たのにぃいいいいいいい、これも一重に私の才能が豊か過ぎるゆえにぃいいいいい、・・・と心の中で叫ぶ。
「なじぇんだぁあああああ、貴様言って良い事と、悪い事の区別が出来んのかぁあああ!!外部の者がいるのに、そんな禁忌な言葉を!!!!・・・今までそのおかげで、俺の熱いウルトラソウルがどれだけ冷えた事かぁあ!!」
「し、ししし失礼な!!何処が禁忌だ!?ブラートには言われる筋合いは無いぞ!それに、特選隊の一員なら熱い魂がどうのこうの、と長い付き合い同然の仲間じゃ無かったのかああ!」
「それとこれとは話が別だぁああああ!!」
「おんなじだぁああああああああああ!!」
彼らの言いあいをよそに
「あ~あ・・・ボスやっちゃった!」
「日頃の行いのせいですね~」
「ま・・・不味いぞ、2人とも・・・あの男の怒りのオーラが増している・・・」
タツミは震えだしていた。
「くっ・・・確かに凄い・・・気分的に立ってるのがやっとな気がして来た・・・」
「ごめんなさい、って謝るしかないですかね~」
「へ、部屋の空気が震えている・・・」
「本当だ、あたしの胸も揺れている!」
「・・・レオーネ!!」
「も、もう手遅れだ・・・皆衝撃に備えろ!」
アカメが恐れ戦き、戦慄していると・・・
「ぶふっ・・・」
「「「「「・・・・・・???」」」」」
その場の皆が首を傾げた。
タツミは、堪えられず一瞬吹き出してしまった。思えば彼がこの世界に来てからは基本睨みを利かせる態度をとり、荒れくれ共束ねていた。場合によっては寝首をかかれる恐れのある関係に気を緩ませない為にも戯言等は必要ない。そこに相手を挑発する意味や皮肉な笑みは有っても、純粋な笑いは基本無かった。・・・その為以前よりもその沸点が低くなっている。
「な・・・何だ今のは?」
「・・・今のは肺に異物が入りそうだったから、むせただけだ、気、気にしないでくれ」
「そ、そうだな。ナジェンダのギャグで笑った奴なんて今までいないからな・・・ふぅ~驚いたぜ」
「ブラート・・・貴様・・・」
ナジェンダは帝国将軍時代から才覚が有り若くしてそこまで出世した。部下達からも評判も上々だったが、一つだけ迷惑だったのが、
「・・・そ、そっか。むせただけなんだな」
「そうだ、ありえない。ボスのあれについていける者等居る訳がない・・・」
「私も初めは愛想笑いもしてましたが・・・それに乗って頻繁に言ってきますから・・・人間下手な優しさは返ってその人の為になりませんね」
「・・・シェーレも中々言うね」
彼女らの話は聞き流し、
「ふっ・・・今のはどう見ても私の才能への称賛だろう?」
「ナジェンダ、馬鹿も休み休み言え。彼はむせたと言ったんだ?人の話を曲解するな?」
「ふっ・・・相手の意思も尊重せずに勝手に仲間に引きこもうともうとする輩に言われたくは無いぞ?」
「俺は相手の未来を見据えて言っているんだ、ふざけているだけのお前には言われる筋は無いぞ?」
「未来だと?ペテンも物は言様だな。その言葉そっくり返すぞ?」
互いに睨み合い・・・
「じょうーとぉおだああああ!!良いだろう、私の真の力を見せてやる!!」
「それだけはやめろおおおおおおお!!周りが気を使いまくって、大惨事だ!!」
「うるさい!!お前達みたいな凡人には私の才能が理解出来ないだけだ!!」
「ナジェンダ、お前もっと自分が何者なのか自覚しろ!!」
タツミはいつ逃げるか考え、少しずつ距離を離した。
「いくぞぉおお!!」「や、やめろおおお」
ブラートの制止を振り切り、
「ふとんがふっとんだああああああああああああああああああああ!!」
その場の空気が三度ほど下がり、皆が一瞬固まった後
「・・・お、終わった・・・」
「・・・あたしは今回はノーコメントで」
「不味いですねこれは・・・帝都の顔役と全面戦争ですかね?」
タツミは片膝を突き、右手で顔を抑えた。
ブラートもナジェンダも緊張して見守る中、
「・・・くっ・・・あんな下らないフレーズだけで・・・勢いで笑わせるなんて・・・さては、元はプロだったのか?」
一堂、彼を異世界の住人でも見るような目で見る中、1人だけ違ったのは
「う、ふふふ、あははは、どうだ見たか・・・?やはり判る奴には判るんだ!やはり世界は広く帝国は狭いんだ!」
他の者達も違う意味で世界の広さを感じた。
ナジェンダは笑いを必死に堪え膝を付いているタツミに近づき、手を取る。
「タツミ・・・相手の見た目や立場で判断するものではないな?志を同じくする者が同じ国に居たとは・・・これも運命だな」
「・・・?・・・?あ、ああ・・・俺にあんまり近付かない方が良いぞ?」
「ふっ・・・照れ隠しか?なるほど、異体同心というからな」
その状況を恐れで慄くブラートは
「い、いいか?ナジェンダ、この男は熱いだけでなく人が良いだけだ、間違ってもお前の同志では無いかなな・・・ぐ・・・おっと忘れていた。け、稽古の時間だ!!」
ブラートはそう言って広間を去ろうと歩きだし、
「隊長!」
アカメの呼びかけにも応じず去っていく。
「アカメ・・・今はそっとしてあげるのが一番ですよ。リーダーにはリーダーなりのつらさがあるのです。ブラートもそれを乗り越える機会が来たんです」
レオーネは何も言わずにアカメの肩に手を乗せ、頷いた。
「ブラート・・・隊長・・・」
その状況を終始蚊帳の外のマインが、生温かくシニカルな目で見守っていた。
逢ゥ魔ヶ刻、人々が大勢いる帝都から外れた墓地、そこにチェルシーは居た。
「間違った相手を仕掛けさせようとするなんて・・・貴方ひょっとして帝国の秘密警察スパイ?」
「ち、違う!調べが甘かったのは謝るが、俺はスパイなんかじゃない!」
「・・・じゃあ、責任取ってここで死んでみせてよ?」
「な・・・、ナジェンダさんも納得済みなのか!?」
チェルシーはそれには答えず、
「自分で死ぬのとあたしの手に掛かるのどっちが良い?あたし、苦しんで殺せるやり方も知ってるよ?」
「ぐ・・・く・・・」
その密偵の男は肩を震わせ、長いとも短いとも言えない時間の中、意を決し
「俺も革命軍の1人だ、・・・必ずこの革命を成し遂げてくれ・・・・・・」
「もちろん・・・全力を尽くすよ?あたしなりのやり方でね・・・」
「嘘だったら、後で呪い殺すぞ?・・・これが依頼した奴の顔と名前だ・・・。じゃあな、カナエ・・・」
チェルシーにその紙を渡した後、男は刃物を取り出し首をかっ捌き、見事に果てた。
「カナエ・・・?サービスで言伝ぐらいはしてあげるよ・・・。でもね革命が成功したって、あたし達みたいな仕事は無くならないと思うよ?うふふふふふ、革命後はあたしがしっかりまとめなきゃね・・・あのラバック達を退けた相手かぁ・・・タツミ、面白そうだね・・・あたしの右腕に・・・もしくは場合によっちゃ・・・たべちゃおうっと♪」
そう言って、飴に仕込んだ針を一舐めした。