帝都から離れた人気の無い荒れ地、2人を襲うとしたであろう危険種達は一撃で仕留められ、後には骸のみをその周辺に晒していた。
凶暴な女王蜂を想起させる強力な一撃がタツミの後方の岩を粉々に打ち砕く。
たった一針を投擲しそれに因り四散する中、邪悪な笑みを浮かべている。
「大した女だ・・・俺の知っている女と同等以上だな」
「・・・・・・」
「死ぬ前に聞いておくぞ、並みの体でよくここまで鍛えこんだな?」
「へぇ・・・判るんだ、地獄の2つ3つを超えて来たからね・・・ところで遺言はそれで良いの?・・・貴方は本心を隠しているから、何を考えているのかはっきり判らないし、後々脅威になりそうだしね・・・もう一度最後に聞いておくよ、あたしの右腕にならない?暗殺こそ世界を変える手段、どんなに綺麗事を並べた所でそれが世界の裏常識、為政者は皆知っている・・・でも体制維持の防波堤として人殺しはいけないと教えてるだけ・・・でもおかしいよね?戦争で敵兵100人殺せば英雄で、平時で1人殺せば犯罪者なんてね・・・」
「馬鹿野郎、チェルシーお前喋り過ぎなんだ!」
綺麗な細足が空を斬り、右斜め左上下から襲いかかり、寸前でかわし続ける。
『足技か・・・!?』
タツミの胸が裂け、一筋の血が流れる。
「・・・・・・」
彼女の足先にいつの間にか針が突出している。
その時、タツミは何処から取り出したのか巨大な鋼鉄製とおぼしき大筒を右手に構
え、即座に一撃放つ。
「なっ!?!?」
辺り一帯は焦土と化し、死体の危険種達も消え去り地面は隕石が抉ったような跡が残る。
『・・・・な、なんて威力・・・』
「よくかわしたな・・・」
「それが貴方の帝具・・・?中々エグイのね」
「お前ほどじゃないさ?」
「じゃあ・・・あたしも本気出した方が良さそうだね・・・あたし相手にもう一つの帝具使わせるなんて凄いよ?」
手を交差させ、辺りの温度が低下し始める・・・唇に指を当て離して、息を吐くと同時に放つ氷の針が無数に飛んでくる。
タツミはそれをかわしきれず、頬を掠める。
「降参してあたしに忠誠を誓うなら、その傷ペロペロ舐めてあげるよ?」
ニヤリと笑いながら、断ると返す。
「うふふふ・・・じゃあ仕方ないね・・・」
嗜虐な笑みを晒しチェルシーは優雅に右手を斜めに振ると、無数の氷針が幾重にもタツミに降り注ぐ。
それを先の帝具で振りはらい、全て払いのける。
艶美で見下ろす視線をした後、指を弾く。そうすると、振り払った無数の氷針が追尾しタツミの帝具にまとわりつき、中にまで入りこみ覆う。
「これで、もう使えないんじゃないかな?」
「・・・・・・」
その帝具を地面に放り、白外套内から刀を取り出す。
『!?あの中の一体何処に?・・・村雨・・・じゃなく普通のソード?』
刀を外套のベルト腰に差し、ゆっくりとチェルシーの方へ歩いていく。
『・・・馬鹿なの?』
彼女は前に氷針を無数に造り、それが集まり、彼女がいつも咥えている飴の形を為
す。
「冥土の土産に上げるよ!十分に喰らってね?」
その巨大な氷菓子が霧散して行く。
タツミは周りを幾重にも振るい、全てを切り刻む。
『嘘・・・あれだけ砕かれたら追尾攻撃出来ない・・・』
刀をだらんと下げ、距離を徐々に縮めて行く。
「チェルシー、最期に良い残す事は無いのか?」
「ごめんなさ~い~悪いけど、あたしは革命の為に散っていった同志やその中で掟に外れて手に掛けてしまった人達の為にもまだ生きなきゃいけないの・・・だ・か・ら」
「!?」
刀にこびりついた氷針がタツミの首目掛けて襲い、咄嗟に左手で受け止めたが貫通する。
「・・・嘘、良い反応だね・・・でも、もう終わりだよ?」
「ぐっ・・・まさか・・・」
「そう~致命傷にならなくても、あたしのデモンズエキスの氷は傷から体の中にも侵入して凍らせれるの・・・この帝具ってあたし以外全部敵になっちゃった時の為の奥の手で、国家や軍隊を相手にする時用のだよ。この帝具の本質を隠しておこうと思ったけども・・・」
耐えられず膝を付き、苦しむタツミに近寄る。
「あたしが一つの到達点に達してから、ここまで手強かったのは貴方だけだよ・・・生まれ変わったらあたしと組んでね?じゃね、さよなら・・・」
止めを刺さんとした瞬間、タツミの目が見開き体内の氷結を粉砕、片手突きで相手の喉を突く!チェルシーは声にならない声を上げ、驚愕し慄き僅かに喉に刺さった。
“刹那スィートティータイム”
・・・・・・・危なかった・・・本当に一かバチか・・・後少し遅かったら・・・本当殺すのに惜しいなぁ・・・うん、気が変わった。ちょっと休める所行こう♪
その周辺は時間が氷結し彼女以外の動きは止まっていた。
タツミの時間が動いた時には、そこは今は誰も居ない廃屋だった。家財道具はまだそこまで古くない。自身の体を確認した時には両手は上に上げられ、手の付け根、両足と首にも鋼鉄の鎖で縛られ、身動きが取れないようにされていた。縛り付けれているその壁も鉄製で、とても逃げ出せるような造りでは無かった。
「くっ・・・」
「あら・・・気が付いた?貴方だけに技を絞ったから動けるようになるまでもっと時間が掛かると思ったのに?ふふふ、耐性でもあるのかな」
チェルシーはいつも咥えている飴は今は無く、黒レースの下着のみで彼に近づいた。タツミは地面に向かって唾を吐き、
「・・・俺を殺そうと思えば、殺せたはずだ・・・何故しなかった?」
「うん、そうしようと思ったんだけど。別の興味が湧いてきちゃって・・・でも、あたしも運が良いよね?貴方を殺さなかったら、返り討ちに遭ったかもだけど、直ぐ近くにこんな風に人を拘束するのに良い場所が有ったなんて・・・此処の人達何処行ったんだろうね?」
「・・・それでどうするつもりだ?」
「あたし達もっと判りあった方が良いと思うんだよね?」
そう言ってタツミの上着のボタンを外し、上半身の体に唇を付ける。
「おぃ・・・ぐっ・・・やめねぇか・・・」
「え?・・・んふぅ・・・ちゅ・・・きこえな~い・・・だいじょうぶ・・・きっとあたしたちわかりあえるからぁ・・・んん・・・ちゅ・・・」
「おぃ・・・いい加減にしろ・・・」
徐々に上へと這っていく
「んぁ・・・んん・・・ん?だぁれ・・・」
「おい・・・いい加減にしろ!」
「んん?・・・だぁれ?今良い所・・・いたたた!!」
「いい加減目を覚ませ!!!」
タツミはチェルシーの頬を抓って引っ張り続けている。
「もう邪魔するとただじゃおかな・・・?あれ・・・?」
とある一室のベッドで彼女は起き上がり、タツミは抓って目を覚まさせた後に椅子に腰かけた。
「ご気分はどうだ?女殺し屋殿」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「鳩が飴玉喰らったような顔してるな」
タツミは手に目玉のような玉を持ち、くるくる回して見せた。
『・・・!?あれは、確か幻覚を見せる帝具・・・でも、いつの間に・・・それにあそこまで手の込んだ事を出来るんなんて・・・』
「判りあうってのは難しいもんだな」
「・・・完敗・・・いつの間にその帝具の術中に嵌まってたんだろ?相手の心の隙を突く・・・暗殺者失格だなぁ・・・」
「並みの帝具使いが使ってたなら、チェルシーなら見破れただろな・・・だが、相手が悪かったな」
タツミのシニカルな笑みに、彼女は白けた視線を送る。
「はっず~・・・・・・・ああ、もう一思いに止め刺して・・・」
「俺の邪魔を二度としなければ、水に流す」
「・・・じゃあ、一つだけ教えて?付き合っている女の人いるの?」
タツミは椅子に深く座り直し、視線を泳がせた。
「・・・質問に応える筋合いは無い」
「じゃあ、あたしの持てる人材全て動員して邪魔するから!」
彼女の鬱陶しい眼差しに根負けし、深い溜息を付いた後に、
「元々色々遭った後に・・・大きな借りを作ってしまった爺さんに最後の仕事を頼まれた・・・そこであいつと知り合った・・・初めは利用するだけのつもりだったんだが・・・・・・変に懐かれてな。俺は一度死んだんだが・・・正確には仮死だったとしとこう、あいつは強引に俺を甦らせた」
「・・・凄いね、その人。・・・一歩間違えれば危ない人だけど」
「・・・・・・(チェルシーの顔を無言で見た後)、話を続けるぞ。俺は元々死ぬつもりだった・・・それをあいつが勝手に生き返らせやがったんだ」
「・・・死にたかったんだなんて、タツミも大変だったんだね」
「とにかく、腹を立ててあいつに怒って喧嘩したが・・・それでも上手く丸め込まれた・・・だが俺がこうして生きているのも悪くは無いと思っている」
「なんでなんで?」
チェルシーが目を輝かせ先を催促するのにタツミは心底鬱陶しいと思った。
「確かにあいつが居る事で、俺も充実した事は知らずに有った・・・いや、あいつという女が居なけりゃ俺という男は生きていけない・・・自分がそんな弱い奴だと言う事を心底思い知らされた・・・だから、あいつが裏切らない限り俺は絶対の忠誠を誓う事に決めた・・・あいつにはそれを絶対に言わないけどな・・・」
しばらく黙った後に、
「その人、今何処に居るの?」
「遠い国にだ・・・」
「そう、何だ・・・タツミは別の国から来たんだ・・・判った、これからは遠くから生暖かい目で見守って上げるからね!」
どういう意味だそれは?という顔で見る間もなく、チェルシーはコロコロ笑ってその場を後にした。
その後タツミは一息つこうと食事をしに店に入り、奥の部屋で一人舌鼓を打った。
そんな時、窓の外から視線を感じる。見ると誰かが木陰に隠れた。ヒットマンか誰かか・・・?まぁ良い、どちらにせよ気にする事は無い、と。
だが、徐々に迫って来ている・・・スパイか?それにしては明ら様だ・・・そんな事を考えているいると、もう至近距離、窓枠に来ている事を察し、顔向けた。
互いに視線がかち合い、相手は照れ臭そうに一瞬顔を引っ込めたが・・・再び覗かせた。
「き・・・来ちゃったぞ、タツミ♡」
彼は持っていた食器を落とし、即座に会計を済ませその相手を見つけ首根っこを引きづり近場の空き家へと押し込んだ。
「全く~タツミは強引だな~そんなに私と二人っきりになりたかったのか?ふふ
ふふふ」
「ウェスゥゥデェス!!!お前なんでこんな所居るんだ!!」
怒り心頭の彼はエスデスに怒鳴り散らした。
「一体いつになったら戻って来るんだ?寂しかったぞ!それに、どうだ?この服はタツミと初めて会った時のものだぞ!ふふふ、まだまだ着ても問題無いな?」
かつて彼女特製の白軍服を着こなし、華麗にターンしてみせるが・・・タツミは相手の額に二本指当て
「・・・ん?」
噴ッ!!と気合い声と共に体内で起こした全振動を一点に集め、対象に与える。被っていた帽子は落ち、エスデスは後方へと吹っ飛んだ。
「・・・外見何ぞお前ならどうにでもなるだろ?幾ら若い体でも中身の加齢臭が隠しきれないぞ」
「ふふふ、そんなに闘いたいのか?しょうがないな~我が夫は~」
タツミは即座にエスデスににじり寄り、
「良いか、統括であるお前が勝手に抜けだしたら大問題だぞ。お前の権限は星雲の運命すら簡単に変えれるんだ。そんな奴が勝手に別の管轄に来たら・・・そうだ、此処の統括に許可は得たのか?」
「勿論だぞ!」
タツミはエスデスの瞳を覗きこみ読心を使う、
「そ、そんなまじまじと見られると照れてしまう・・・///」
「お前は!!許可取って無いな!ガーディアンにさては権限を押し付けたな!」
「タ・・・タツミが悪いんだぞ!私というものが有りながら、いつまでもこんな所で油を売り速く片づければ良いものを・・・・あまつさえ、あのような年端もいかぬ小娘に現をぬかしおって・・・」
「やっぱりあの子達の謎の腹痛や症状はお前が原因か・・・段取りがあるんだ時間が掛かっても仕方ないだろうが!」
「全くタツミは!!私とこの星どっちが大事なんだ!!」
「知るカァアアアアアア!!!」
「フッ・・・まぁ良い・・・あの飴女は私の夫の周りにうろちょろと・・・やはりどの世界でもあの雌は本質は変わらぬな・・・タツミに会うついでに私直々に始末してやろうと思ったが・・・」
「・・・む?」
「ダーリンよ?私は今とっても機嫌が良いぞ?」
「・・・??そんな事よりも早く帰れ、此処の統括に気付かれ、む」
エスデスは意味ありげに含み笑いをし、自身の指でタツミの唇を抑える。
「ふふふふふふふ、此処の統括殿は今昼寝中で1時間は大丈夫だ、それまでに戻れば問題無いぞ」
タツミは呆れながらその指を払いのけると、エスデスに抱きつかれる。
「私は今とっても機嫌が良いぞ!」
「な・・・なんでだよ?」
「あの飴女を八つ裂きにする気が失せるくらいな・・・まぁ奴の働きでもあるから、今回特別に許してやる、私はとっても慈悲深いからな!」
「・・・何で先代の爺さんはこいつを後継に選んだんだ?」
そして、彼女は彼の耳元で囁いた。
「あ・の・時・の話・す・べ・て・き・こ・え・た・ぞ♪」
タツミは全身から汗が噴出した。
「な、んのことかな?」
「んむぅ~まったく、普段は私に本音は言わず・・・勿論本心は判っているが~あそこまで赤裸々に語ってくれたのは~とっても嬉しかったぞ!」
「あ・・・~あれは、あいつを納得させる為に適当な嘘を言った・・・うぐ」
エスデスは体の至る所を彼に押し当て、心地よいツボも心得ている。
「さ、タツミ。まだ時間は有るからな?時を遅らせて・・・うふふふふ」
エスデスは甘い吐息を吐きながら、顔を近付けた。
タツミはアジトへ帰って来た。
「おぅ!タツの兄ぃお帰りなせい・・・え?どうしたんだ兄ぃ!」
チャンプは全身包帯だらけになった彼に驚き、うるさい黙れ何でも無い!と静かにさせられた。