アカメは屋敷への潜入を試みる。
「アカメちゃん!貴女、美人なんだからもっと髪のケアした方が良いよ!」
先日チェルシーにメイドでの仕事の指導の際にアドバイスを受けた事を思い出していた。
「髪の質が良いんだからさ、それにもう少し化粧もした方が良いよ?・・・昔、好きな人が死んで女としての自分を捨てたのかもしれないけどさ」
アカメは髪を彼女に梳かされながら、はっとし、僅かに振り返る。
「あ・・・と、ごめんね。立ち入った事言っちゃって・・・帝国軍時代のそういう話もたまに耳に入って来るんだよね~殺し屋である前に1人の女性として自分らしさをもっと開放しても良いと思うんだよね、・・・と、これはあたしの一意見としてね?」
「・・・・・」
「はい、おわりっと!あ~あと、その綺麗な長い髪・・・闘う時にちょっと邪魔だと思うよ?あたしなら、嫉妬で髪ひっぱちゃうかな~って、あははは。アカメちゃん程腕が立てば、そんな事されないよね?あたしの腕じゃ無理に決まってるか~ふふふ、凄腕の人って羨ましいーそれじゃあね~」
カラカラ笑って仕事場に戻る彼女の背を見やり、改めてアカメは戦慄を覚えた。その情報網と何か隠している油断無さに。
とはいえ、忠告は忠告として聞く柔軟性はアカメには有る。
「ふふふ、アカメ・・・・貴女にはまだ死んで貰っちゃ困るんだ・・・、だってその腕、裏でまだまだ使えるから・・・・って、はぁい♪今日も来てくれたんですか~」
アカメは唇に薄い口紅を差し、水面で映え具合を確認し華柄のマフラーで顔下半分を覆う。髪も頭後ろに束ねて盛り上げる。
「いつ死んでも構わぬように身なりにも心掛けるか・・・、ふっ」
前後からの気配に気づき、アカメは警備の黒服達を村雨の柄頭で彼らの鳩尾に下から上へ付き上げる形で強打し、その周辺の骨がひび割れその痛みで悶絶を打ち、意識を混濁させる。
アカメは周囲の気配の有無を確認した後、窓ガラスを斬る。だが、有刺鉄線が掛けられていて、斬り損ねる。斬り難い場所な為、時間が掛かる。
「・・・・・・・」
近くの複数の窓にはそのようなものは掛けられておらず、そこから侵入する。
『恐らく、ブドー達が来るから見栄えの悪い物は取り払ったな・・・侵入するだけなら問題ないな・・・む?』
アカメは咄嗟に物影に隠れる。
「てめぇ、何処から入りやがった!」
「ただで帰すと思うな!」
黒服達が喚き散らし、ゆっくりと人影がその廊下の中心を事もなげに進んでくる。
「やれやれ、拙者はバック殿がいずこにお出でか・・・それを尋ねているのみで御座るのに、困った方々であるな」
数人の彼らが武器を構え、そのうち1人が銃を構える。
「ふざけやがって!挨拶も無しに土足で踏み込みやがって、舐めてんのか!?死にやがれ!」
発砲するその刹那、その男は腰の太刀を瞬時に抜き付け切っ先で銃口を発砲者に向ける・・・その破裂音の後には信じられないという表情で絶命しその黒服は崩れる・・・その間に彼はゆっくりと縦納刀を行う。
「人に銃口は向けるものでは御座らんな・・・ぬしらも以後気を付けた方が良いで御座るな」
それを挑発と受け止め、鉄棒や刃物等の武器で次々に襲いかかる・・・男は愛用の太刀は使わず、短めの白木拵えで縦横無尽に薙ぎ払い、相手の武器は掠りもせず体捌きで見事にかわし、同時に片手に持ったそれで斬り倒していく。
まだ生きている者達は逃げ出し、直ぐに死にきれ無い者達は彼らにとって身近な宗教の経文を唱え、死への恐怖を和らげようとしていた。
「・・・即死させられずにかたじけない・・・だが、その前にそこの御仁はいつまでかくれんぼしているつもりで御座るかな?」
隠れていたアカメに緊張感が走る。・・・先刻の動きで出来る相手なのは判っていた。このまま逃げるか?いや、どうやらバックの居る方向に進むには、この男を避けて通れない。・・・ひょっとすると、共闘出来るか?脳裏をよぎったが・・・駄目だ、何処の誰とも判らぬ相手だ・・・例え今共闘出来たとしても、後で弱味を握られる可能性もある。そう考えている内に相手は近付いてきた。
「む・・・?おなごであったか・・・」
アカメは村雨を鞘に納めたままでありつつもいつでも抜刀出来る姿勢で対峙した。
彼女は逡巡していた。仲間にするか、だが下手に引き入れて裏切られた過去が有り、その者を始末せざるを得なかった苦い記憶もある。
「・・・お主、何用で此処に・・・?バック殿の部下で御座るか・・・?」
この男は得体が知れない。バックの敵に見えるが・・・実は、用心棒になりたくて敢えて腕を見せつける為に・・・?判らない。
駄目だ、こんな所でまごまごしている訳にはいかない。
「・・・退いてくれ」
アカメは声色を変えて呟いた。
「む!?その声は・・・そうか、お主はあの店の・・・くくく、これは恐悦。隠しきれぬ殺気、居心地がよく、つい入り浸ってしまったが・・・かような所で会うとは、なるほどなるほど・・・運命で御座るな」
「!?」
アカメも自分が表の仕事で店員をしているその喫茶店に来ていた客だと気が付いた・・・不味い、このまま彼を逃がせば、表の仕事が出来なくなる。それに、仲間にするにもまず、こちらが上である事を知らしめないと、以前のように裏切られる可能性が残る。
「・・・葬らせて貰う・・・」
とはいえ、気迫だけは本気を出した。
「ふむ・・・、心地良い殺気だ・・・アカダ・イゾウ、参る!」
イゾウは太刀である愛刀、江雪を抜き相手にそれが見えないように脇構えにして、左周りに足を進める。アカメはこの時、改めて手加減できる相手でないと知り、全力でぶつかる覚悟で居た。
アカメが左脇から抜刀した刹那、そのままイゾウが脇構えの下からの斬り上げで村雨を弾かれそのまま斬られる・・・
そう近未来の透視が出来、アカメは同じく左に回りながら村雨を静かに抜いた。今度は下段に構えたアカメに対し、イゾウは脇構えで上から斬りかかる。それをアカメは村雨の鎬で回転を加えて弾き、イゾウを斬り倒す・・・
「ふっ・・・」
イゾウはそうなる事を察し、下段に構えそれ以上動かなかった・・・
アカメは功に転じづらくなり、短い・・・が、二人には永遠とも思える時間の感覚にアカメは焦りを感じた。
『いつまでもここで膠着している訳にはいかない・・・』
とはいえ、焦りを振り払うように一度呼吸を整えた。
イゾウがカッと目を見開き攻撃に出ようとした瞬間、アカメは斬り込んだ。
・・・・・・・・
イゾウは愛刀を地面に突き立て、帝具である村雨の呪毒が傷口から心臓へと向かいつつある。
「ふっ・・・敢えて隙を作ろうとこちらから仕掛けて、迎撃するつもりであったが・・・、御見事・・・タツミ殿に生かされ・・・この地でお主のような可憐な武士(もののふ)に出会え・・・悔いは無い・・・」
拙者は人を斬る悦楽から脱し得たか・・・判らぬ・・・本当は何を拙者は斬りたかったのか・・・悔いは御座らぬ・・・御座らぬが・・・願わくばその深奥を極めてから・・・
イゾウの意識は薄れ、片膝をつきながら両手は地面から垂直にした江雪の柄頭に当てていた。
「・・・タツミ?まさかお前はタツミの仲間・・・くっ・・・」
アカメは振り返るが気配でイゾウが絶命したのを悟った・・・。
「もののふ?・・・買い被りだ・・・私はただの暗殺者にしか過ぎない・・・それに・・・村雨で無ければ・・・ぐっ・・・先に倒れたのは私の方・・・」
手にした村雨は地に落ち、彼女の胴体から血飛沫が飛ぶ・・・
傷口を手で抑えるも、もう目が霞み始め立つ事も叶わず・・・仰向けに崩れる。
結っていた髪は解かれ、その周囲を紅く染め上げる。
アカメは一筋の涙を流しながらも微笑みながら瞼が閉じられていった。
クロメ・・・彼と幸せに生きてくれ・・・そして、皆すまない・・・私はここまでのようだ・・・とうとう私の番か・・・先に行った皆に会えるだろうか?・・・苦しかったが・・・皆と出会えて楽しかった・・・ありがとう。後の事は頼んだ・・・
「むっ・・・、二つの強い闘気が消えたか・・・」
ブドーは屋敷に不審者が入らぬか、この屋敷全体の気配に気を配っており・・・不審な気配を感じ取っていた。
バックはそれを怪訝な様子で見ていたが、その時部下がやって来て耳打ちする。
「なに!?侵入者・・・もう何人か殺され・・・くっ・・・役立たずが・・・は?」
ブドーに見られている事に気付き取り繕う。
「いえ・・・大将軍、これは町のゴロツキが金欲しさに難癖を付けて来ただけで、直ぐに追い払いますのでご安心を!」
ブドーは睨みつけ
「・・・この私を怒らせるつもりか?」
「も・・・申し訳御座いません!!不審な輩が屋敷に侵入したらしく、直ぐにでも迎撃に向かいます。大将軍はここでお待ちを!」
ちっ・・・見た目に反し鋭い奴だ。バックは内心舌打ちを鳴らし、自分も出張ろうとした。
・・・陛下は子供達とこの先地下の食堂に居る・・・この大広間を通らなければ例え侵入者といえど通過は出来まい・・・俺はここで待ち構えるか、とブドーは考え、後の事は部下とバック達に任せた。
「・・・待て、バック。貴様今日陛下と我々が来るのを知って、賊共を手引きしたのではないだろうな?」
「え・・・なにをおおせで?」
「・・・もういい、行け・・・」
嘘は付いているようにも見えなかったが、信用ならぬ若造だとブドーは見ている。
なんだ、あのオッサン?と悪態を心で付きながら、バックはまさか侵入者はオネストが自分を陥れる為の刺客じゃないだろうな?と怒りを露わにし始めた。
「バックさん・・・えっと、こっちです」
考え事をしてついうっかり、黒服達の先導方向と間違えたバックは
「てめぇらがもっと役に立たてねぇから、こんな事になるんだぞ、判ってんのか、ああ!?」
1人を片手で締めあげ、地面に叩きつける。
「くっくっく・・・俺様登場、ってか?大した奴らはいねぇな。満月の夜の俺は無敵だぜ・・・へっ」
エンシンはシュラとどっちが先にバックを始末するか、競う為別行動をしていた。
大広間に繋がる扉を勢いよく蹴飛ばして入ると、そこには・・・怒りのオーラが判る者には見える、その凄味を湛えたブドーが悠然と待ち構えていた。
な・・・なんだこいつ、何者だ・・・とんでもない奴だ・・・まぁ、本気の俺の相手じゃない筈だ・・・
「おい、オッサン。誰だか知らねぇが、バックってふざけた野郎しらねぇか?素直に教えりゃ、見逃してやるぜ」
ブドーは一睨みで並みの者なら本能で動きが固まってしまう眼光を放った。
「貴様、少しは出来るようだが、何者だ・・・貴様こそ大人しく引き下がるのならば、見逃してやる・・・と言いたい所だが、今ここに陛下が居られるのを知っての狼藉か?」
「陛下・・・しらねぇな。」
狂言か?ならば・・・
「まさか・・・タツミの仲間か?」
「タツミだァ?・・・あんたなんで知ってんだ・・・知り合いか?あいつも顔広いな」
適当にカマを掛けただけのつもりだったが、まさかその名が引っ掛かるとは思っていなかった・・・タツミは俺に協力する素振りを見せて、その実は陛下もオネストも我々も一網打尽にする腹積もりではないのか?判らん・・・仲間と思しきこ奴を捕らえて吐かせてみるか・・・
「貴様、名は・・・?」
「エンシン様だ!・・・んな事よりバックの居場所言いやがれ」
「タツミの命令か?」
「ああ?うるせぇよ!何でお前に言わなきゃならねぇんだ!」
「口の利き方を知らん若造だ・・・その礼儀を弁えぬ態度も含め、叩き直してやる。取り調べてやるから我々と共に来い」
「ああ?何で俺様がお前と一緒に行かなきゃならねぇんだ?バックの居場所いわねぇなら、先ずはてめぇから締めあげるぞ!」
エンシンはサーベルを構え、ブドーはマントを脱ぎ去った。