丁度、朝方となり故郷の隣村付近に降り立つ。
「それでタツミ、一体何をして欲しいんだ…はっ?まさか、先ずは隣村に私の事を紹介し…求婚するのだな!だ、駄目だぞ、私には夫が…」
「はいはい…この村と俺の村との間に山から流れる川がありましてね、その川の水を生活に使っているんですが、その事で前から揉めてたんです」
「んん〜〜〜タツミ、つれないぞ!全く私の夫に少し似てきたぞ!」
「…………、それで俺の村の方が下流にあるんで特に飲み水の事で揉めてます」
「全くタツミは…そういうつれない態度で私の気を引こうとするのだな?その手には乗らないぞ…ぐふふふ」
「それでですね、水の浄水にはかなりお金が掛かってしまって、俺の仕送りでもどうにもならないです。何とか出来ませんか?」
「………、私の心は少し寂しいぞ?」
「お願いします!!」
タツミは頭を下げて頼む。
「………先ずは現状を教えてくれ」
日が上り、村の人達が川の水で洗濯し飲料水として汲み上げたり、生活排水を捨てている。
それぞれの家近く、村の中まで水は引いているが水の量も弱く設備も不十分な為、川まで来て行うも者が多い。
「これでも前よりはマシになったんです。それでも俺達の村に来る水は汚れていて…砂利とかで濾過もしてるんですが、余り上手くいかなくて…病気になる人や寄生虫にも掛かって…だから俺、帝都の水飲んだ時は綺麗で美味いなってびっくりしましたよ」
「う〜む〜……さて、どうするか?一時的に解決するならば簡単だが…真の解決にはならん…かと言って介入し過ぎると後で(夫の)タツミに怒られる…」
「?」
「タツミ、1か月だけなら問題を先送り出来る。」
「…と言いますと?」
「私の魔法でその期間ならば汚れた水を転移出来る。だが、その間に打開策を講じるのだぞ」
「1ヶ月!?その間に…出来るか…俺に」
「臆するなタツミ!先ずは汚れた川の水を転移させてやろう」
然程広くは無い川、確かに汚れが目立つ。
エスエスがステッキを振るい、川を横切った辺りから水が明らかに綺麗になっているのが判る。
「おお!流石!」
「さぁタツミ、時は待ってくれないぞ。今からでも村の者に話し、妙案を出すのだ。下手をすれば隣村の者達が訝しみ、余計な争いの種になるかもしれないぞ!」
「はい!」
一方帝都宮殿のオネスト一室では、
「全く、昨日はとんだ災難…日頃の行いの良い私が何故…?おのれ……」
部屋の中を荒らした氷槍は溶けて無くなり、ダイヤは木炭に変わったままだった。
「馬鹿な!!」
オネストは怒りの余り、それを握り潰す。
「ちっ……一体誰の仕業、見つけ次第惨たらしく殺してやる…喉がかわいた…水なんて不味いが、まぁ良いでしょう…」
帝都の、特に宮殿の水は皇帝もいる為、浄水がしっかりしているので健康にも良く、味も良い。蛇口を捻り、オネストはコップに注いだ水を確認しないまま、飲み干す。
「………ぶっはーーーーまっず!!!」
それは例の汚れた川水だった。
「なんだ、この不味いのは…………ゲホゲホ、だだ誰だ管理責任者は!?殺してやる!」
宮殿内で勤務する者達からも同様の被害が出た。
タツミは、故郷の村にエスエスの協力で綺麗な大量の水を多くの樽につめ、村長に渡した。
「おお!タツミ元気だったか?いやいや、これだけの…おお、おお。これは美味い。飲水として使おう。これだけ有ればしばらくは困らんな。腐らんように密閉もしとかんとな……なになに?早めに隣村と協議して、浄水出来るようにだと?難しいのう…あやつらは頑固者だからなぁ」
「頑固者は貴様だ、愚か者!」
「な、な?きゃ、客人、一体誰だあんたはいきなり?」
それまでタツミの後ろで黙っていたエスエスは叱りつけた。
「エスエスさん!?」
「聞いていれば、他人に責任転嫁か?自らの無能を他人の責任とするな!」
「客人…水の提供は感謝するが、いくら何でも失礼だぞ」
「村長すみません、この人は帝都の…将軍なんです」
「なっ……。………、すまないがワシらには金も知恵も無い…どうすれば良いかわからん。どうか教えてほしい……」
「帝都にはその辺りで優秀な技術者がいる。そいつに頼ませよう。後は隣村との話合いはお前がするのだぞ」
「…………」
「そうだな、分かった…ワシらに出来る事はワシらがしよう…ところでタツミ、サヨとイエヤスは元気か?一緒におらんようだが?」
「あ……、あいつらは帝都での仕事で忙しくて…」
「そうかそうか、元気なら良い。いつも3人で村への仕送りありがとうな。将軍、後でせめてものご馳走をさせて頂きたい。それまではタツミ、お前の家は時折清掃しているからな。最低限は大丈夫だろう、お休みさせてやれ」
村長はタツミだけ呼び寄せ、
「何とか将軍に村が納める税金を安くして欲しいと話してくれんか?こないだも1人薬代も無く死んでしまった……」
「……………」
タツミの家は丸木で組まれた決して裕福とは言えないものだった。
「エスエスさん、どうぞ。村長掃除したって言ってますけど、大して綺麗じゃないな…あはは…」
「タツミ、先程の仲間達は……」
「ばれちゃいましたか?ええ、3人で帝都で一旗上げようとしたんですが、悪い奴に捕まって2人共、拷問で殺されました……仇はとりましたがね……」
怒りと悲哀を込めた表情でタツミは窓に手を当て、外を眺めた。
「………そうか、辛かったろうな…その時にナイトレイドと遭遇したのか」
「どうしてそこまで!?さすが…魔女なんですね」
エスエスは至近距離まで顔近づけ、互いの鼻頭がぶつかる。
「タツミ?次そう言ったら、その唇に口付けるぞ、全力で!」
「何が違うのかよく分かりませんが、よ、よくわかりました」
「まぁ、1厘冗談はともかく」「ほぼ本気じゃないですか!」
「タツミの額に付けてこの村の場所が分かった時、過去も見せて貰ったからな」
「すっげ……本当何でも出来るんですね………」
「ナイトレイドの特に、桃色髪のツインテールの悪女には気をつけるんだぞ!」
「ん?ああ、マインの事ですか?あいつは性格悪いですけど、別に悪女という程じゃ……」
「いいや、悪女だ!良いか気を付けるんだぞタツミ!」
「???は、はい……」
「では本題も済んだ事だし、副題へと……」
「ええ?ええ…今の本題ですか?とにかく、俺が1ヶ月以内に決着させなければ…しかしどうやって帝都の技術者を…お金だって相当…」
「大丈夫だぞ?タツミが帝国の体制を期間内に変えれば済む事だぞ?」
「ぐはっ!?1ヶ月?どどどどうやって?ボスに相談、俺に出来る事なんてせいぜい悪い奴を倒すぐらいしか……」
「むっ!ナジェンダ…………」
「ボスがどうしました?」
「何でもない!昔、同じ名前の奴に少しだけ煮湯を飲まされた事があっただけだ」
「ええ?ああそうですか」
その時、村人が歓待の為呼びに来たので一旦話は中断した。
夜寝る為再びタツミの家に戻り、
「そういえば昨日から徹夜でしたね、流石に眠いな…エスエスさんはベッドで寝て下さい。俺は別の部屋で適当に寝ますんで」
「私は寝なくても……いや、眠いな♪タツミそんな寂しい事を、一緒に寝よう、な?」
「いやいやいや、駄目でしょ!」
「むぅ〜タツミは奥ゆかしいな、もっと素直になって良いんだぞ?」
「いや、人の嫁さんと一緒に寝ませんから」
「私の夫は初めの頃、共に部屋で寝た事があったが自分がベッドで寝て、私に床下で寝ろと言ったぞ」
…最も、当然ベッドで共に寝たがな、ふふふふ。と言う大事な事はエスエスは目の前の彼には言わず黙っていた。
「………旦那さんも結構鬼ですね」
「そうだろそうだろ♪だから可哀想な私と一緒に…」
「ではお休みなさい!今日は有難う御座いました」
「タ、タツミ〜〜〜……」
そして、タツミは別の部屋で服を重ねて枕を作って、他の服を布団代わりに寝ていた。そこに、エスエスは気配を消して忍び込む。
「ん?どうしました?トイレはあっちですよ?」
「あ?そ、そうか?うむ、わかった」
く………若くてもさすがタツミ、私の気配に気付くとは……
エスエスは歯噛みし、死んだように深く眠りになるように術をかけ、タツミをベッドに連れ込み抱きしめる。
「タ、タツミ…こ、これは浮気では無いからな…はぁはぁ、ただ、匂いを堪能するだけだからな…クンカクンカ」
翌朝。
「エェすエェすさん!!!なんで俺がベッドに居るんですか??」
「そ、それはタツミが夢遊病だったからだな。それでだな、うむ!」
「エスエスさん?俺の目を見てください」
「そ、そんな見つめられると照れてしまうぞ……」
「やっぱ嘘だ!」
「タ、タツミ!?」
エスエスは床下に正座させられ、タツミは5分程説教した。
エスエスは、若いタツミに怒られる事にも喜びを感じており、全くダメージを受けていない。
「はぁ………全然反省してないですね?」
「そ、そんな事はないぞ?海より深く反省したからな!」
「……なんか旦那さんの気持ちが少し分かった気がする…俺、エスエスさんの事尊敬し始めてたのに、………なんだか……ああ」
私を尊敬していたのに、失望するタツミ……!それも良い!
「何ニヤニヤしてるんですか!?」
その後、タツミとエスエスは村を後にし、他にも解決して欲しい案件…貧富の差、隠れた身分制度、食料問題などタツミは頼んだ。結局それも一時凌ぎにしか過ぎず、数日経ち根本を解決する必要性を彼は改めて感じた。
「俺はなんて無力なんだ……」
「そうだな、今のタツミではまだ無理だな♪」
「笑顔で言わんで下さい」
「落ち込むタツミも可愛いから、仕方ないな♪」
「……本当色んな意味で強い人ですね」
「大丈夫だぞ♪マイダーリ…夫とある程度近い素質はあるからな!その内かなり成長するぞ♪」
「……度々出てくる旦那さん、俺と同じ名前でしたよね?どんな人なんですか?」
「可愛さは良い勝負だぞ♪」
「いや、そんな話どうでも良いですから!」
「むぅ〜……大事な事だと思うのだがな?仕方ない、若いタツミが面白がりそうな話をするか……あれは2人である星に調査に行った時だった」
ホシ?時々聞くけど、あの空の星の事だろうか?
疑問に思ったタツミだがとりあえず話を最後まで聞く事にした。
「そこの住人ではどうする事も出来ない相手がいてな、しかもその時は我々が直接手を下してはならない制約もあった……私も悩んだが、夫はその時何やら眼力でも使ったのか…その相手自ら死んでしまったぞ」
「え?それって何かの術?催眠術ですか?…あ!もしかすると遅効性の毒とか?」
「後で……夫に激しく聞いたら、ぐふふふふふ」
「どうして顔紅くなっているんですか?」
「うほん!とにかく、夫は相手の中にある罪悪感を増幅し、その者の中にある良い心…仏心を震わす技…術と言っていたな…」
「……………!?」
「私にも出来るか?と聞いたら、あんたは余りにも罪を重ね過ぎたから駄目だと言われた…全く…夫の方が殺した数は上なのだがな…それでどうしても使いたければ、全て無になり、記憶も無くなり、一から人生をやり直すしかないとな。最も次も人として生まれてくる保証は無いとも言われた…ふふふ……」
「はぁ……………。旦那さん凄い人ですね……」
「ん?タツミももしかしたらこの先、使えるようになるかも知れないぞ!」
「罪を重ねない…か、帝国の軍隊も警察もそれに連なる奴らも腐敗して無実な人間を殺している…ナイトレイドも悪党だけ殺している…でも……、そんな奴らでも殺さずに改心させられたら…そんな殺さずとも良い世の中を作った方が良いのかも……出来るだろうか俺に……」
「うふふふふ、悩むタツミもやはり悩ましいな…ふふふ」
「人が真剣に悩んでるのに…無敵ですか!?貴女は!!」
「うふふふ、いや…それほどでも〜」
「何度も言いますが、褒めてないですからね!」
そう言い合う2人は人の目付かない広い場所に居た。
ふとエスエスは喋っていたタツミの口を人差し指で抑えた。
「むぐ………」
「来たか…………思っていたより遅かったな」
エスデスは飛行出来る危険種を操り、上空に現れた。
「げっ、エスデス!?」
「タツミ…それは私の心にも刺さるから、その……未熟者だが余り邪険にはしないでくれ…」
「え?は、はぁ…」
エスデスは歯噛みしながら
「おのれ……、私のタツミを誑かしたな……」
危険種から飛び降り、2人の前に立ちはだかる。
「ど…どうしてこの場所が!?」
「苦労したぞ♪こうして広い世界で再び巡り会えるとは…私達は運命によりやはり結ばれているのだな♪」
「ふっ、未熟者。大方聞き込みでも重ねたのだろう、つまらない虚言だな」
「………お前、先だっては不覚を取ったが……こないだのようにはいかんぞ。貴様は若く見せているが本当はかなり年老いているはずだ、虚言は貴様の方だろう!」
互いの言う通りである。そこにタツミが割って入る。
「エスデス、もう止めてくれ!俺はあんたが味方になってくれたら嬉しいが、前に言ってた通り弱肉強食の考えを変える気は無いんだろう、だったらもう弱い俺に構う事は無いだろう!」
「確かにな…だが私も本能で動いている。タツミは今はまだ力不十分でも、私が育て上げれば私に負けぬ強さになると確信している!その時にでも私と結ばれて欲しい…ふふふ、最も今のタツミでも私は結ばれるのは一向に構わんぞ」
「くっ…」
「タツミ、ラチがあかんな。私に任せろ…おい、未熟者!貴様がそうして五体満足に生まれて来れたのは誰のおかげだ。母のおかげ、父や周りの助けがあっての事であろう」
「………それがどうした。私は強いからこの体に生まれ、こうして今の強さを手に入れた!」
「愚か者!生まれて間もない頃、非力であったろうにそれも分からず、弱肉強食などと只の他者を殺す言い訳にしか過ぎんぞ。その事も分からぬから、未熟者の貴様は私に叶わんのだ!」
「御託は良い、貴様への対策は考えた。私の力を見くびるな!」
「お前は弱い、弱い事も分からず周りに生かされている事も気付かぬとは、今この場で消し去ってしまいたいぞ!」
「この私が生かされているだと?私の力で生きているのだ、虚言を吐くな!」
エスデスは地面に手を当て、周りを囲うように氷柱を出現させ、それで逃げ場が無くなるように覆う。
「詰まらない小細工だな」
「もうこないだのような逃げ場は無いぞ。全方位から貴様を串刺しにしてやる」
「………くくく、一つ面白い事を教えてやる!貴様の拷問癖……元は弱かったからだぞ」
「……何を?」
「我々…この場合は人間の遠い先達は危険種達に襲われて喰われるだけの非力なものだった。恐怖だったろう、いつ殺されるか分からぬ日々が…だが知恵を付け、他の者と協力し次第に強者へと変わっていった……だがな、殺され続けた日々の恐怖は今も残っているのだ。だから、幾らかでも危険な者は排除…自分達の生存を脅かされないよう…自分達は強いのだと誇示する為により残酷な方法でより戦い好きになったのだ…それも弱さの裏返しだ!」
「エスエスさん……」
「私が…私の先祖達が元は弱いから…戦いと拷問を好むようになった、だと?……くくくく、ははははは!絵空事にしては少々面白かったぞ?」
「…………、全く我が昔の己の方がこれよりも少しは知性があると思いたい………いや、当時の私も大して変わらぬかな?…………ふふふ、ははは…はぁ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「…心配してくれるのか、タツミ?…ふふふ、タツミが応援してくれるなら、私は破壊神にもなるぞ♪」
「いや、それはならなくて良いですから!」
そして、
「ふっ…タツミ、どうだ?未熟者…エスデスは強く見えるか?」
「え?ああ…こないだより酷く疲れているんじゃ無いですか?寝てないのか?」
「いや、以前より少しだけ腕を上げてるぞ。そう見えるのはタツミが強くなっているからだぞ」
「え?俺この数日何もしてませんよ?」
「まぁまぁ、エスデスと勝負してみるんだ。何かあれば私が援護するからな♪」
「うっ……そうだな。いつかエスデスとは必ずぶつかるんだ。やれるだけやってやる!」
「うむ、タツミその意気だ!後の事は考えるな!全力でいくんだぞ!」
「はい!」
エスエスの前にタツミは立ち、エスデスと対峙する。
「む?どうしたタツミ?私はそこの年詐称の色狂いの老婆に用があるのだぞ?」
「タツミ……やはり、私が未熟者を始末しよう……」
「いや…エスデス…俺が相手だ。此処で差し違えてでもお前を止める!」
「くくく…タツミ?予定が狂ったがまぁ、いいだろう。安心しろ、タツミは私色に染め上げてしっかりと育てるからな?ふふふ」
「余裕ぶるな!!はあああああ、インクルシオ!!」
タツミは刀…帝具のインクルシオを地面に突き立てて、変身する。
「ん?インクルシオ…タツミ……?」
危険種インクルシオをタツミのサイズになるように身に纏い、彼が知っている形態からより進化した状態になっている。
どうしたんだ……周りがゆっくりだ、そして静かだ。何だか力がより漲って、感覚が今までと違う……
「ふふふ、ははは……良いだろうタツミ、タツミも帝具使いだったとはな…以前よりも更に成長しているな、私は嬉しいぞ!さぁ、タツミ!私の実力を見せて、改めて私に惚れさせるぞ…来いタツミ!」
「うおおおおおお!!!!」
「!?」
エスデスは自身が作り出した氷壁を突き破り、その外へと吹っ飛び気絶した。
「ん?あれ?んんん???」
タツミは自身の最速でエスデスの懐に飛び込み、直前で防がれるだろうと思ったが一向に防御する気配が無い。彼はエスデスが甘く見てるからだと思い、渾身の力をぶつけた。
結果、
「エスエスさん!これは一体……エスデスは油断を誘っているんでしょうか?」
「違うぞタツミ、奴はダウンしたぞ。タツミの勝ちだ……くくく、タツミの急激な成長を奴は理解出来ず見誤った…自身より10段程上なのにな。ふっ、強過ぎる相手は理解出来ないものかもな…ふふふ」
氷壁は崩れ去り、エスデスは暫く目を覚さない。仮に覚ました所で痛みで戦闘不能が続くとエスエスはタツミに伝えた。彼もインクルシオを解き、
「し、信じられない…夢でも見てるのか俺は?」
「タァツゥミィ!よくやったな、偉いぞ!」
「ありが、ふがふご」
エスエスはタツミを自身の胸に押し当て、頭を撫でる。
「ぷはっ、どういう事ですかこれは一体…」
「うむ、説明するぞ!私はタツミの額に口付けた時から、タツミが徐々にだが短期間で数十年分成長するようにしたぞ。だから頭の回転も早いはずだ」
「そうか、それで…有難う御座います。だからあの時額に…」
「ああ、特にする必要も無かったが…私がしたかったから、したぞ♪」
「………やっぱり俺、貴女にはずっと叶わない気がする…」
「もうタツミ〜求婚しても駄目だぞ♪」
「いや、して無いですから!」
「……だがな、タツミ?この急成長が維持されるのは1ヶ月位だ。その後は元の今のタツミの実力に戻るからな?」
「え!?」
「だからその間に色々な事に決着を付けるんだぞ!」
「そ、そうか…今の俺は…数十年先の俺はエスデスも簡単に倒せたんだ…そうだな、こんな奇跡本来無いんだ…有難う御座います、この機会を無駄にしません!」
深々と頭を下げる。
「ああ、今のタツミならこの世界でならば…どんな相手でも殺さずとも無力化出来るぞ…そして、楽しい時間はそろそろ終わりだな…怒られてしまった…そろそろ帰らねば」
「え?怒られた?……」
「私の方こそ礼を言わなくてはな、ありがとうタツミ。………最後に一つ、あの未熟者…エスデスを気には掛けてくれぬか?奴も本当は寂しがり屋なのだ…今のタツミの言葉なら奴に届く。その……出来たら一緒になって欲しい…」
「え?……ええ〜と、それはエスエスさんの頼みでもちょっと……」
「うううううう」
エスエスは涙を溜めてタツミの手を取り顔で訴える。
「ええ、ああ、い、一応善処します!」
「げ、言質は取ったからな!タツミは建前で言うような男では無いと、信じてるぞ!」
「は、はい…」
次第に彼女の体が透けていく………
「もう少し話をしたかったが、強制送還か………ふふふ、そんなに私に逢いたいのか?困った夫だ」
「エスエスさん!!」
エスエス…此処とは別の世界のエスデスは笑顔のまま、完全に消えていった。
「………今の俺なら何となく分かる、貴女はきっと遠い未来のエスデスさんなんですね…」
再びエスデスは本来自分が居るべき場所へと戻ってきた。
その広大な執務室に彼女1人ではなく、もう1人背を向けて座っていた。
「タツミ…?怒っているのか?」
「………………」
「無断で出掛けたのは悪かったが、途中から覗き見してたのは分かってたぞ♪」
「………俺は知っての通り、元々あんたが好きになる予定だった本来のタツミじゃない…今からでも構わないぞ?そいつに鞍替えしたって」
「………?それはつまり……、嫉妬しているんだな?うふふふふ」
「不気味に微笑むな!」
エスデスは一瞬で消えて、タツミの後ろに現れ抱きしめる。
「確かに、本来はそうだったかも知れないが…もう貴方と出会って幾星霜、今更変わらないぞ?それにタツミだって私と出会わなければ………先に別の女に手を出されていたら、………その女と一緒になっていただろう?」
「……………」
「それみろ!そうだろ、そうだろ。ふふふ、これも一つの縁。それで良いだろう?」
そう言ってエスデスはタツミの頬に口付けたが、彼はそっぽ向く。
「ん?まだ他に怒っているのか?あのタツミと少しだけ良い気持ちになった事か?匂いを心置きなく嗅いだ事か?……うう〜ん…心を強力に閉ざしているから、私でも読心出来ないぞ?」
「………………」
「……?んん〜……ああ、分かったぞ!一番に怒っているのはあのタツミにキスした事を怒っているのか?」
「うるさい!!」
「額だったのだから別にそこまで怒らなくても良いだろ?ん?」
タツミはそこで初めて、エスデスを少し睨む形で見る。
「んんは〜可愛いなぁマイダーリンは〜……くふふふ」
「笑うな!!」
「いつも口付けてると、”止めろ!”などと言って…そこを無理矢理するのが良いのだが、本当は嫌がっているのか?と少しだけ思う所はあったぞ?」
「…………」
「んふふふふふふ、そうかそうか私の口付けは例え手であろうと誰にも渡したくはないか?うふふふ。分かったぞ、改めてマイタツミにしかしないからな♡」
「うるさいんだお前は!年を考えろ!あんな若い奴の匂いや妙な所触らせて……そんな事よりもサボっていた分、やらなければならない事が溜まっているんだ、早くしろ!」
「全く少しは照れるだけでなく、素直になる事も覚えた方がいいぞ?」
そこから、遠くで一段と輝く2つの星が見えていた。