カッカッカ・・・・
ランは地下にある元帝国軍の兵士が捕らえられている牢屋の内のその一角、光がほとんど差さない懲罰房に足を運んだ。
その重い黒の金属の扉に小さい開閉式の窓が有りそこを開け中の人間の様子を覗く。
「ご気分は如何ですか、ドM女帝スズカさん?」
ランは中のその人に話しかける。
「まぁまぁかな・・・拷問係は誰?タッ君じゃないの?」
常人なら何日も真っ暗な場所へ入られれば気分が滅入り悪ければ発狂もするが、スズカも少々体力が落ちているなと思うも、精神的には余り堪えてないとランはその時は判断した。
「たっくん?・・・ああ、彼の事ですか?残念ながらあれから彼は姿を現してはいないですよ」
「もぉ、話が違うじゃない!?最高の痛みをくれるって言うからタツミの言う事聞いたのに!彼を連れて来てよ!」
スズカが身を乗り出し、彼女の手が小さい窓に掛かるのを見た時一瞬ランは驚いたが平静を努めた。
「はぁ・・・スズカさん、少しは自分の立場を考えて下さい、元々貴女がた羅刹四鬼は先の大臣のお抱え暗殺者…だったんですから、私はナジェンダやタツミ君が背後にいるんでお咎め無しになりましたが、貴女はそうはいきません」
「そんな事は良いから、はーやーくぅー!!」
「他の羅刹の方々にも革命軍の追手が掛かっていると聞いてます・・・」
「・・・・・・」
「余り驚かないようですね」
「まぁね・・・私だって今まで何して来たかの自覚は多少あるし、それにあいつらとだってそんなに仲が良かった訳じゃないからねー・・・」
「・・・とにかく、判りました。タツミ君と連絡を取ってみましょう。それまで耐えて下さい」
「耐える?私は全然へーきだよ?」
それを聞いてランはその場を後にしたが・・・『あんな事言っているが、彼女の爪は剥がれていた・・・恐らく自分でやって痛みで多少なりとも自我を保とうと強がっている・・・あのまま何も無い暗い部屋で話もせず、置いておけば、やがては・・・話好きな彼女がいつまでも耐えれるものではないな・・・』
革命軍の間でも捕虜を拷問に掛けるか…或いは見せしめに行うか、それとも何もせず処刑するか、拷問と合わせた公開処刑を行うかもめていた・・・。
ナジェンダは革命軍会議に参加し、先のクロメの八房を提出した。
それを見た幹部達やコウカツは・・・
「ナジェンダ将軍・・・これは例の帝具の・・・かね?」
「はい、部下のタツミがクロメの居場所を突き止め始末してきました・・・。それが証拠です」
袋から取り出され、半分に折れた八房は刃こぼれや血糊が付いている。
「・・・何故クロメの首なり遺体を持ちかえらなかったのかね?」
「クロメは・・・思った以上に手強くバラバラにしなれけば殺せなかったとの事でした・・・」
コウカツもそれを聞き、いぶかしむがどちらにせよクロメは無力化したのだろうと、仮に万に一つ虚言であったとしても、彼女に対し恨みを持つ部下達へ溜飲を下げる材料にはなり、この件はこれでいいかげん終わらせたいのも有りナジェンダの言う事を聞き入れた。
「ナジェンダ将軍、この件は了承した。ご苦労だったな」
「いえ・・・」
「それで礼もしたいのだが、前に触れたナイトレイドの皆はどうした?」
「彼らは・・・あくまで自分達は闇の人間、革命にその身を捧げたものの標的の遺族から多くの恨みも買っているでしょうから、地位も名誉も入らぬと・・・、革命軍の新しい新政府の足は引っ張りたくない・・・そして早晩この国を離れ辺境の地で余生を過ごすと言っております・・・」
一同からどよめきが起き、感嘆する者もいれば苦虫を潰すものや・・・コウカツは一瞬目を光らせるが直ぐに平常を装った。
だがナジェンダはそれを見逃さなかった。
「そうか・・・地位も名誉もいらないか・・・殊勝な事だな、ならばせめてそれ相応の報酬を渡そう・・・餞別だ、彼らに渡してくれ」
「はい、有難う御座います!」
ナジェンダは深々と頭を下げたが顔には冷や汗が流れていた・・・ああ、タツミの言う通り、のこのこ皆で来ていたら今度は自分達が暗殺されていた可能性があると・・・コウカツ・・・良くも悪くも流石革命軍のトップにだけはあるなと。
「ではナジェンダ将軍の件はこれで終わりだ・・・次は最重要事項の一つ皇帝の処分だが・・・」
「コウカツ殿!」
「なんだね将軍?」
「ナジェンダさん、少しは控えられたらどうか?」
他の将軍が窘めるのに対し、
「いや構わない、皇帝の処分で何か妙案でもあるのかね?」
「はい・・・」ナジェンダは胃が痛くなったが言葉を繋げた「僭越ながら、皇帝は生かされた方が宜しいと・・・」
今度は皆が非難の声を上げた!
何を言っている?ナジェンダ将軍はまさか帝国軍のスパイか!?気でも狂われたか!?、と。
コウカツは彼女をギロリと睨みつけた後
「皆静かに・・・ナジェンダ君何故か、理由を聞こうではないか・・・」
『タツミ・・・恨むぞ・・・』ナジェンダは心の中で愚痴をこぼし、彼に聞いた話を思い出してた・・・皇帝を生かした理由を。
「タツミ、どういう事だ!?皇帝を生かすだと?・・・タツミは奴を生かしたのは皆の前で公開処刑に掛けて、旧体制は終わったと皆に知らしめる為では無かったの
か!?」
ナジェンダも皇帝を生かすのに反対だった。
「・・・この国の皇帝は千年は続いているんだろ?」
「それがどうしたというんだ?」
「どう軽く見積もったって、50代以上は続いている家系だろう?その実績はこれからこの国が世界の国々と渡り合っていく事を考えたら外交面で幾らかプラスになる。それをお前たちの代で終わらせてみろ・・・俺が別の国のトップならひよっこ新政府と侮るか・・・どうせまた権力争いで別の政府が台頭するな・・・と考えるだろうな」
「むっ・・・タツミの言う事にも一理あるが、皇帝を恨んでいる民や民族も居る・・・それに対する配慮はどうすればいい・・・、・・・そうかあのオネストに全てその罪を被せるのか?」
「死人に口無しだからな・・・オネストが色々企んで、それにカライの奴は大体それに従っていたのは知っている。思考停止責任と言う意味では皇帝カライにも罪はあるが…この際、目を瞑った方が何かとおたくらにとって都合が良いと、後々の事を考えたら俺は思うがな」
「だがタツミ・・・それだけで済むと思うか?」
「・・・皇帝をシンボリックな存在にしてしまえば良い・・・政治に一切介入しない・・・まぁこの国の象徴、国民の代表者のような、な・・・」
「しかしそうは言っても・・・」
「それに・・・ナジェンダ、元々誰かを頂点にした政府が千年も持つなんて歴史上でも中々無い事だぞ。あんたら革命軍が千年も腐敗せず体制を維持できるかな?」
「そ、それは・・・先の事は・・・」
「じゃあ千年後か知らんがまた革命を起こすような腐敗の因子を残しておくのか?」
「むっ・・・」
「・・・絶対の体制なんか無いがある程度はその因子は摘んでおきたい。だから皇帝を生かしておけ・・・それと、独裁はその者が良い政治家なら一番良いが悪い時は最悪だ・・・だからある程度入れ札で誰でも政治の頂点に立てる制度も取り入れて欲しい・・・最もそれも謀略やプロパカンダもあるから真に良い奴が選ばれるとは限らないが、それでも暴走の幾らかの歯止めになるだろう・・・」
「タツミ・・・言いたい事は判った・・・仮に政治の長を入れ札制に出来たとして、そいつが自分が失脚しないように制度を変えたり独裁しだしたらどうする・・・」
「一かバチかだが・・・政治に介入させていない皇帝を歯止め役にする!」
「そうか、二重権力構造か!?」
「表向きは皇帝には政治に介入出来ないで良い・・・だが千年以上も続く家系に、そこに神聖や信頼を置く民衆も出てくるだろう・・・その彼らの支持が場合によっては無視出来なくなる筈だ・・・政治に介入せずとも政治の一番傍に居る人物が何を思うか、これは本当に賭けだが醜い権力闘争に嫌気がさして良心的な事を言って諫めてくれる可能性に掛ける・・・とりあえず俺が思いつくのはこれくらいだ、細かい所はナジェンダが決めるなり、もっと良い案があるならあんたに任せる・・・」
ナジェンダは驚嘆し
「タツミ・・・貴方はそこまで考えて皇帝を生かそうと、この国の未来も考えて・・・」
・・・と、その話を聞いた時はナジェンダも心躍ったが・・・現実はそう甘くは無
い。
タツミとの話の概要を語り終えたナジェンダに、そんなのはただ推測だ!民の中から政治の長を決める?馬鹿馬鹿しい!皇帝を生かすのは愚の骨頂だと非難が起き、中には千年後の事まで考えられるか!?という暴言も出た。
そしてコウカツは
「ナジェンダ将軍・・・中々面白い考えだが・・・、君一人の考えかね?」
「いえ・・・部下のタツミの発案です」
「君もそれに賛成しているのか?」
「はい・・・概ねは・・・」
他の幹部達も黙考する者やタツミに助けられた幹部も居る為、判断に悩む者達も出てきた。
そして・・・ナジェンダが今まで一番頭を悩ませる煙草の本数がいつもの10倍になる事案を言わねばならない時が来た・・・対エスデス戦や宮殿突入時よりも頭の痛
い・・・革命の功労者のタツミが彼女にとって最も疫病神になる話を・・・
一同それを聞いた時は・・・皇帝を助命云々より更に非難が挙がった・・・内心はどうであれ今まで大人な対応をしたコウカツも激昂した。
「ナジェンダ、貴様は大馬鹿者だ!!」
流石の彼女もその迫力に震え上がった・・・。
だが・・・その様子に思わず娘を叱った父親の気分となったコウカツも何とか平静を取り戻し、ナジェンダの次の言葉を促した。
「・・・はい・・・、部下のタツミが言うには、帝具は元々…人げ…いえ、必要以上の強大な武器は自らの身を滅ぼすと・・・全ての帝具を壊すべくこの国に来たと言っています・・・ここに居る皆が苦労して手に入れた帝具を手離すのは・・・心痛察しますが・・・どうか革命の一端を担った彼の我儘に付き合って頂きたいと・・・」
タツミ恨むぞ!! ナジェンダは頭を下げ脂汗をかきながら心の中で叫んだ。
「はぁ~・・・」コウカツは軽い頭痛を覚えながら「タツミはこの国の人間では無かったのか・・・ならば、壊すという虚言を用い帝具を国へ持って帰り、我が国を攻めに来る・・・という事は無いのかね?」
「それは有り得ません!私も立ちあいの元、帝具の破壊を見届けます・・・」
そこに別の幹部が
「コウカツ様、私も立ちあいましょう。・・・彼にはブドーとの一戦で借りがあります。先の話も夢物語りのような妄想とはいえ中々面白いではないですか?」
他の者たちもタツミがシコウテイザ―を単騎で抑えた事も知っている・・・そんな人間を敵に回したくない。・・・無論それはナジェンダを余り困らせるとタツミがどう出るか・・・十分警戒の材料にもなった。
「・・・ですので、もし帝具を隠しだてしないようお願いします・・・もし、隠した場合・・・私もタツミを説得できる保証はありませんので・・・」
そう言っておずおずとナジェンダは皆の顔色を伺ったが誰も異論を唱える者はいなかった・・・、
タツミは今まで闇に動いていた・・・彼の実力を考えれば場合によってはブドーを闇討ちしたり皇帝を帝具を使わせる前に生け捕りも可能だったのではないか?だがそれでは革命後自分の意見が通らない可能性を考えた、だからあのように派手に動いて見せたのか・・・?口では大勢の前で顔を晒して不味いと言っておきながらと・・・ナジェンダはそう考えた。
数週間後、結果としてタツミの意見は概ね通り、皇帝は処刑は免れ以後政務は一切行わずシンボリックの存在として、民衆には逆賊オネストによって操られたと広められた。そして捕虜の処分はその罪の度合いで公開せずの処刑されたものや懲役で済む者と分かれた・・・公開処刑の取りやめはタツミが民衆にこれ以上血に慣れさせたくないという理由だった、下手に慣れればそれが殺傷に慣れ、その類の犯罪率が上げるきっかけに繋がりかねないという考えだった・・・。
ブドーの処分は・・・、議論は平行線を辿ったが結果として終身刑となった。
最後にシコウテイザ―の被害を抑えるのに尽力した事と彼を崇拝する者達の数と実力を考えると新政府の味方寄りにするのは利になると判断した為であった…それを告げる役をナジェンダは担った。
「そうか・・・陛下は生かされたのか・・・生きていて下さればそれで良い・・・私もこれで今まで続いてきた我が一族の先代方へ顔向けが出来る」
牢屋の中のブドーは佇みながら満足そうに答えた。
「そしてブドー、貴方の処分が決まった・・・」
「・・・そうか、私も生かされるのか・・・くくく、終身刑ではもう二度と陛下一族にお仕え出来ないな・・・それでは私は死人も同じだ・・・」
自嘲気味答えた彼に
「いや・・・貴方の部下で比較的罪の軽い者は貴方の命を救う条件にこの国を支える約束をしてくれた・・・それは間接的でも皇帝を支えることにもなる」
「もう二度と外の世界出られんのなら・・・最後に私の願いを聞いてくれんか?」
一方、羅刹四鬼は虚六の教祖とランの嘆願やタツミの圧力も少々あり、大臣の命令による暗殺等の罪状の全てを告げる事と帝国に二度と足を踏み入れない条件で見逃された。甘い処分の理由は諸々の大臣の罪状を民衆に伝える事で新政府の正当性を高めるのに役立つからだった。
帝国地下牢屋へと向かう一つの影。
懲罰房の中に居るスズカは気配に気付き、外を伺う。
「スズカさん・・・まだ生きていたんですか?しぶとい人ですね・・・」
「ランさん・・・ねぇ、好い加減トイレも代えてよ、自分自身の臭いで窒息しそうなんですけど・・・ははは」
この懲罰房のそれは水洗では無い。
「この程度の仕打ちで済んだだけまだマシだと思って下さい・・・貴方がた暗殺者風情が・・・」
「あたし達別にそればっかりじゃなくて、護衛だけの時もあっただけど・・・」
「言い訳は聞きたくないで無いですね、スズカさん貴女も情状で帝国からの追放だけで済ませようと思っていましたが…罰として一生私の元で奴隷同然にタダ働きして貰います」
「え?・・・タッ君は?」
「彼はスズカさんとは面倒臭いから会いたくない・・・貴女の身柄は私に一任するとの事でした・・・いやぁ良かったですね」
え?何?その放置プレイと隷属プレイのバーゲンプレイ(?)は・・・と彼女は思うも「あ、あたしがそ、その程度の事で満足すると思ったら大間違いなんだからね!」
「そういえばエスデスさんの資料を見て知り得た拷問もありますが、これでも私は元教師ですから研究熱心なんですよね・・・エスデスさんは主に肉体への痛みでしたがその他にも精神への痛みや人間としての尊厳を傷つけるものから各種取り添えろえています・・・さてスズカさん、どのジャンルがご希望で?」
ああ、良い上司・・・いえご主人様になりそう、とスズカはときめいた。
そして・・・ランは別室に連れて行き、スズカを早速拷問(?)に掛ける事にした。
「はい、スズカさん口を大きく開けて下さい・・・ふふふ」
「え?何それ・・・そんな、そんな大きい物あたしの口には入らない・・・い、いやぁーー!」
「どうしたんですか?これぐらい入るでしょう・・・無理でも無理矢理入れますがね・・・」
「あーーーーーーん!!!」
ランはそう言って回転式のドリルをスズカの口の中の虫歯に当てる。
スズカはスズカで、言葉に反して喜んでいるようだが・・・
「あんぎゃあああああああああ!!!!」
歯の神経にクリティカルヒットし絶叫している。
「おや?どんな痛みも好きじゃ無かったですか?あ~これは根元までいってますね・・・それではガンガン削りますね」
も、物凄く痛いと暴れるもランは肘鉄を入れて黙らせたりと…中々荒っぽい治療(?)をしている。
彼女は激痛とドSな対応のランに恍惚を覚えると言うややこしい感情を抱き悶えていた。
その後、彼らの行為はこの国の歯科技術や外科の発展に大きく寄与したという・・・。
「ねぇ、あんた?」
「なに?」
ナイトレイドアジトでマインは菓子を食べ、チェルシーは自身のネイルアートに勤しみ、退屈しのぎに会話し始めた。
「いっつも飴舐めてるけど、よく虫歯にならないわね・・・それとも実は飴業者の回し者なの?」
「出来たらそういう人達の宣伝マンになって売り子するのも良いかもね・・・あたしがやったら結構売れて評判になるかも、なんたって可愛いから♪」
「・・・あんた今まで鏡見た事無いのね?幸せねぇ~」
「負け板の遠吠えは心地良い~・・・えっと虫歯?あたしも昔1回か2回だったかな?虫歯になったの」
「ならない方がおかしいわ!で、どうやって治したのよ」
「う~ん、確か自分の針で虫歯を削りとったんだったかな?」
「はっ?自分で?」
「うん、それが中々良い感じの痛さで…癖になりそうだったね・・・マインもやってみたら?」
「いーやーーーー!」
マインは悶絶し転がりながら耳をふさいだ。